大喜劇! 韓国、漢字撤廃政策のせいで"過去にこだわる民族"が歴史を知らない説
プレジデントオンライン / 2020年8月20日 9時15分
■「日本と戦って独立を勝ち取った」説
慰安婦問題、元徴用工問題等々、歴史問題は日本と韓国との間の消えない火種であり続けている。韓国・文在寅大統領は8月15日、75回目の光復節の記念式典では日本に対する直接の批判は避けた模様だが、3年前の2017年には、「韓国の建国は1945年ではなく1919年」「日本と戦って独立を勝ち取った」という奇天烈な説を展開している。
こうした韓国の奇妙なロジックを、かつては強引に正当化する左派の言説が日本国内ではびこった。一般市民も突っ込みを入れられるネット上では、さすがに昔ほど幅を利かせることはなくなってきている。日本に非がまったくないとは言い難いが、韓国側の根深い歴史的被害者意識と捻じれたナショナリズムは、両国を離間させたい勢力の介入と相まって、しばしば日韓関係を歪めてきた。
各国の歴史の教科書を比べてみても、それが際立つ。すでに知られている例でいえば、2011年、スタンフォード大学アジア太平洋研究センターが行った日本、韓国、中国、台湾、米国の高校の自国史・世界史の教科書を比較した研究「History Textbooks and the Wars in Asia」では、まず日本のそれについてはアジアや米国メディアが持つ“愛国的で問題がある”とのイメージとは裏腹に、「道徳的な判断を避け、事実重視で愛国的傾向があまりない、無味乾燥」とする半面、韓国のそれについては「民族の誇りを強調することが奇妙な歪みを生む顕著な例」とされ、「戦時中の叙述がもっぱら日本の植民地統治下の人々の過酷な体験と抵抗運動」であり、日中戦争勃発や真珠湾攻撃にすら触れていないし、「主要な教科書に広島・長崎の原爆投下の記述もない」としている。
■50年前に行っていた「漢字廃止宣言」の弊害
こうした国民感情優先、事実関係は二の次という歴史観は、たとえば自国の言葉、ハングルと漢字の扱いにそれが如実に表れている。
日本や韓国のような同質性の高い国家・民族の場合、言葉はその固有の文化・アイデンティティとほぼ同一視される。ハングルを「世界一」と自賛する韓国人のように、自国の言葉にプライドを持つことじたいに何ら問題はないが、ハングルにまつわる韓国人のそれは排他性が過ぎる感がある。実際、韓国語のボキャブラリーの6~7割を漢字語が占めているにも関わらず、1970年になんと「漢字廃止宣言」を行い、それは50年経った今も基本的に続いているのだ。
ハングルは正確には文字・言語というより言語体系の呼び名だが、一般にはもっぱら「朝鮮語を表記するための表音文字」とされ、10の母音と14の子音の組み合わせで表記する。その起源は、李氏朝鮮時代の1440年代に登場した「訓民正音」。4代王の世宗が自らの民族の言葉である朝鮮語に固有の文字を創るべく推し進めたもので、「民を教える(訓える)正しい音」という意味だ。もっぱら漢字を使う支配層・知識層に対し、民間で広まったという。
■「これからは漢字を覚えなくてよろしい」
1876年の李朝開国以降、いわゆる「開化期」にハングルの使用が拡大。1948年8月15日の建国直後の10月9日、韓国はハングル専用法を制定し、公文書はハングルで記すことを正式に決めた。1970年には、前述の通り朴正煕政権が漢字廃止宣言を行っている。
その主たる動機は、中国や漢字そのものへのアレルギーではなく、1910年から第2次大戦終了に至るまでの日本の統治時代を思い出す痕跡を消したいという気持ちである。今年、ソウル市内で日本や日本企業所有の当時の土地・建物を次々と整理しているが、その心持ちと同じであろう。
『「漢字廃止」で何が起こったか』(2008年刊、その後加筆)著者の呉善花氏は、同書の中で「(小学)六年生になると、教師から『これからは漢字を勉強しなくてもよろしい』と言い渡され、教室中が私たち生徒の歓声でどよめいたのをよく覚えている」「そして中学に入り、1970年の春からはすべての教科書から漢字が消えていった」と振り返っている。
その後も漢字必要論を唱える勢力とせめぎ合いつつ、鉄道用語のハングル化や、法律用語の漢字表記廃止といった施策が続き、一部の新聞を除いた公の場から漢字がほぼ姿を消していった。
■同音異義語が大量に発生、区別が困難に
自国語すべてがハングルという表音文字。その状況は、漢字とひらがな、カタカナを併用する日本人にしてみれば、文字という文字すべてがカナ文字に変わったら……と想像してみれば、少しは理解できるのかもしれない。ことごとく幼児か外国人のカタコト語にみえるという偏見を排しても、なんて不便なんだとイライラを覚えるのが自然であろう。
ただ、過去の蓄積から同じ読みの漢字・熟語を想像し、あてはめて意味を類推していけるし、ハングルにはない「訓読み」という発明から、漢字を漢字語ではなく日本の言葉としてごく自然に自分のものとしているから、ほぼ問題なく意味をくみ取れる。しかし韓国の場合、すでに50年間の漢字教育の欠如のため、そのベースとなる漢字の知識そのものが消えてしまい、音から意味を類推するのが難しくなっているのだという。
実際、夥しい数の同音異義語が生まれている。韓国日報(2014年2月2日付)でも、伊藤博文を暗殺した「安重根義士」の“義士”と“医師”の区別がつかず、「その人は何科を診療していたのか」ときいてきたり、靖国神社の“神社”を“紳士”と誤って解釈するというビックリな事例を挙げ、「44年にわたり続いたハングルだけの教育が産んだ、漢字知識の欠落現象。これが最近は社会のコミュニケーションの食い違いを引き起こし、憂慮の声が高まりつつある」「特に若い人ほど漢字知識の欠落は深刻で、時には世代間のコミュニケーション上の混乱あるいは断絶まで引き起こしている」と危機感をあらわにしている。
■「陣痛」と「鎮痛」が区別できない若手医師
ことは歴史の分野に限らない。「体罰」という言葉の解釈が政府、教育庁、学校それぞれの間で解釈が異なり、「体罰禁止」の範囲をめぐる問題がなかなか進行しなかったり、高齢の医師が妊婦の「陣痛(チントン)」と痛みを和らげる「鎮痛(チントン)」という正反対の語彙の区別がつかない若い医師が多い、という年配医師の嘆きも聞かれるという。韓国人どうしの韓国語による意思疎通に支障が生まれているというのだから、穏やかではない。
前出の呉氏によれば、それ以上に韓国人が失いつつある大きなものは、「抽象度の高い思考を展開すること」と、今も昔も漢字圏にある韓国の伝統文化の消失だ。ソウル大学の約63万冊の蔵書のうち活用されているのが2%というアンケート結果に、ソウル大学教授が「勉強したくないからではなく、漢字時代の文献が読めない」「抽象度の高い漢字語の概念後を知らないから、外国語の専門書などはほとんど理解できていない」として、「漢字を廃止することによって、数千年続いていた固有文化は、その伝統が断絶するだろう」という嘆きを紹介している(1999年、前述書より)。
■小学教科書の「漢字併記政策」を棄てた文政権
さすがに韓国国内でも危機感を覚えた知識人は多く、主要紙が「漢字は国際競争力」という論陣を張ったり、子どもに漢字を学ばせるマンガ教材が大ヒットしたり、2012年には歴代首相が全国漢字教育推進総連合会の推進のもとで、李明博大統領(当時)に「小学校の正規教育課程で漢字教育を実施することを促す建白書」を提出した。
しかし、学びについて一度ラクをすることを覚えたら、なかなか元に戻すことは難しい。小学校の教科書に漢字を併記する政策を推進していた韓国教育部が、2017年の文政権発足後にそれを廃棄していたことがわかったという(レコードチャイナ2018年1月13日付)。「小学生の負担が増える」といった理由が主だった。昔はやっていたのに……という批判は通用しないらしい。一度失ったものはあまりに大きい。
こうした漢字廃止が韓国人の歴史の学習に支障をきたし、ひいては日韓の間の歴史問題の軋轢の元凶となっている……という見立てについて、確たる証拠は今のところない。日本側も、歴史教育についていまだ腰の定まらぬ状況にある。一国の歴史の断絶は悲劇しか呼ばないし、それは他国にまで累が及ぶこともある。しかし、隣国がそちらに突っ走っていっても、第三者がそれを阻止することはできない。
せめてこの漢字廃止の事例を他山の石として、自国の言語・文字について安易な廃止論・簡略化論に流されるな、という教訓としておくべきであろう。
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プレジデント編集部
1966年、神奈川県生まれ。中央大学法学部卒業。生命保険会社勤務、週刊誌・業界紙記者を経てプレジデント編集部に。
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(プレジデント編集部 西川 修一)
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