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日米「脱・中国工場」で瀕死の習近平…トランプがTikTok、WeChat禁止令でとどめ刺す

プレジデントオンライン / 2020年8月25日 9時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Igor Ilnitckii

■ホンハイ劉会長「中国が世界の工場だった時代は終わった」

コロナ以前では中国が「世界の工場」として大量生産を担い、世界の工業製品の価格を下落させました。それによって、アップルなどの企業は開発研究という「付加価値を高めることに集中」することができたわけです。ある意味、米中(台湾)の企業は互いに支え合ってきたとも言えるでしょう。現在、コロナにより多くのテクノロジー企業がサプライチェーンの見直しを迫られています。

「中国が世界の工場だった時代は終わった」と鴻海(ホンハイ)の劉会長は発言していますが、事態はそう、シンプルではないのです。「脱・中国工場」を急いでいるのはホンハイだけでなく、台湾のライバル企業・中国の新興企業も同じ。ホンハイ傘下の女性工員が創業した中国の立訊精密工業(ラックスシェア)が台湾EMS(受託製造)の工場を買収し、本家・ホンハイを脅かすまでに成長しており、「世界の工場」の勢力図が変わる可能性が出てきています。

新型コロナウイルスの蔓延をきっかけに中国一極集中のリスクを再認識し、各国はサプライチェーンの切り離しを検討しています。中国から外資が撤退する、いわゆる「デカップリング」が進めば中国経済には大打撃、その失速に歯止めがかからないとの議論が巻き起こっています。しかし本当にそうでしょうか。

実は、この「デカップリング」が進む中でiPhoneの生産を担う台湾企業が、中国企業に一部買収され、中国の手に落ちたのです。これに対してホンハイ精密工業の焦りは隠せない。

■iPhone生産の台湾勢が中国企業と手を組んだ

米アップルのEMS(受託製造)は今まで、台湾企業である、ホンハイ、ペガトロン、ウィストロンの3社がほぼ独占的に生産を担ってきました。iPhoneの生産シェアの概算は日経新聞の報道によれば、ホンハイ(64%)、ペガトロン(31%)、ウィストロン(5%)とホンハイが圧倒的な地位を誇っています。

しかし、7月に入り地殻変動が大きく動き出し、中国EMSであるラックスシェアが台湾企業であるペガトロンとウィストロンと資本提携。さらに、ウィストロンは中国工場の一部をラックスシェアに売却を決め、ペガトロンも傘下企業をラックスシェアに売却するとの観測報道に激震が走っています。

今まで、iPhone生産の圧倒的なシェアを誇っていた「ホンハイ」と「中国+台湾連合」の新しい対立構造が誕生したわけです。

実は、ラックスシェアは中国にある鴻海傘下の工場の女性工員の王来春氏が独立して創業した企業です。ホンハイのモデルを徹底的に学び、今年の2月にはラックスシェアがホンハイの時価総額を追い抜くまで成長しています。

ラックスシェアのiPhone本体の生産参入は悲願であり、ホンハイのライバル企業であるペガトロン、ウィストロンとの資本業務提携によってかなえたのです。特に、ウィストロンは廉価版iPhone組み立てやサプライチェーン管理の経験や技術を持っています。これらのノウハウを、ラックスシェアと共有するわけです。ウィストロンの工場の買収は年末までに完了し、来年からiPhoneの組み立て生産が始まる見通しです。

ホンハイの傘下の女性工員であった王来春氏は、広東省の農村出身で学歴は中卒。まさに、「チャイニーズ・ドリーム」を体現した人物。弟子が師匠を脅かすまでに成長し、iPhone生産のシェアを奪い取り、ホンハイの未来すら脅かすまでに成長したのです。

■中国企業のEMS参入をアップルが後押し

しかも、このラックスシェアの成長の背景には、「アップルの後押し」があったとも言われています。

iPhoneは廉価版が好調であり、今後、コストをできるだけ抑えることが必要になってきます。そのためには、従来のような、台湾EMSによる独占状態では競争に限界もあり、コストを下げることができないのです。

中国企業のEMSに参入により、調達先を多様化させ、コストを下げるのがアップルの狙いなのです。日経新聞によれば、「世界販売約2億台のうち、中国で売る約3000万台は中国メーカーを中心に作らせる」とし、その担い手がラックスシェアと台湾勢ということになり、ホンハイの中国での優位が崩れることになります。

そして、今回の台湾EMS工場の買収は中国が国を挙げて推進してきたことの体現でもあるのです。習近平が2015年に「中国製造2025」を発表し、半導体や通信、自動車といったハイテク関連産業に対する産業補助金を出しています。ラックスシェアをはじめとして中国の上場企業に年間2兆円以上もの補助金が出ており、多額の資金力を持つ企業に、台湾EMS企業はなびくことを選んだのです。中国の補助金政策は、中国が海外企業や技術を買収する資金になっている側面があります。

■ホンハイを叩き落とすラックスシェア

米中貿易戦争が長引くなかで、アップルがラックスシェアなどの中国企業への生産委託に依存するのはリスクを孕みます。

アップルは米中貿易摩擦のリスクに備えて、昨年6月時点で大手サプライヤーに生産拠点を多様化させ、東南アジアに移す可能性を検討するよう求めたと報じられています。ホンハイ含めて、サプライヤーはiPhoneのような最終メーカーから望まれるもの・望まれるやり方でサービスを提供しない限り生き残ることができないのです。

このアップルからの要望に対してもラックスシェアの動きは速く、19年にベトナムの生産拠点拡充に2億50000万ドルを投じることを決めて動いています。ホンハイも各国に工場を持っていますが、アップル向けなどの主力製品の大半を中国で作っている体制です。

■アップル、iPhoneのインド生産を本格開始か

中国ではスマホの市場は飽和状態となっており、アップルにとって、次なるマーケットはインド。

カウンターポイント・テクノロジー・マーケットリサーチの調査によると、インドにおけるメーカー別出荷台数は、1位シャオミ(中国)、2位サムスン電子(韓国)、3位vivo(中国)、4位リアルミー(中国)、5位OPPOオッポ(中国)となっており、アップルのシェアはまだ、1%です。インドにおける、スマートフォンの普及率は低く、今後の急成長が見込めるマーケットであり、アップルは当然、ここでのシェア獲得を狙っています。

報道によれば、ホンハイ、ウィストロン、ペガトロンはインドでの生産確保に動いています。中国でのマーケットを確保しながらも、潜在市場が大きいインドへと舞台は移りつつあります。

■中国が狙う次の一手とは

サプライヤーの運命も背負うiPhoneの中国での地位が危なくなるかもしれない「大統領令」が発令されました。トランプ大統領が8月6日に「WeChat」などの中国企業と関わる取引を、米国企業が行うことを禁止する大統領令に署名しています。

禁止令が実行された場合、中国企業のアプリであるTikTok、WeChatなどがアップルのアップストアからダウンロードできなくなります。特に、WeChatの利用者数は中国で約10億人、世界では12億人であり、この禁止令はアップルに多大な影響を与える可能性があります。

もし、中国のマーケットで全面的にiPhoneから中国製の携帯への乗り換えが起きたら、どうでしょうか。今や第二のホンハイとも言われているラックスシェアは、台湾EMSのノウハウのある工場を手にいれ、全面的に中国スマホの生産を請け負うかもしれない。企業は米中貿易摩擦の狭間のなかで、いかに生き残るかで戦々恐々としています。

「脱・中国工場」により中国経済への打撃が大きいのか、または、中国に残された工場を手にし、米国が作り上げた西側諸国の世界の覇権を取りに行くのか。決着はそう簡単には付かないようです。

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馬渕 磨理子(まぶち・まりこ)
テクニカルアナリスト
京都大学公共政策大学院を卒業後、法人の資産運用を自らトレーダーとして行う。その後、フィスコで、上場企業の社長インタビュー、財務分析を行う。

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(テクニカルアナリスト 馬渕 磨理子)

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