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「金は買わない」が持論だった"投資の神様"も、ついに金を買い始めた

プレジデントオンライン / 2020年8月20日 15時15分

好物はコーラ、ハンバーガー、アイスキャンディーという庶民派のカリスマ。世界が驚いたその「変節」とは? - 写真=ロイター/アフロ

■「金」を否定してきたバフェット氏

さすがの「懐疑論者」ももう認めざるを得ない展開だ。

金価格が8月7日に1トロイオンス=2072.50ドルの史上最高値を付け、国内税込小売価格も1グラム=7769円の史上最高値を付けた。そこをピークにいったんは1トロイオンス=1912ドル台まで急落したが、再び力強く上昇し、8月18日には再度2000ドルを突破してきた。

しかし、金の可能性を否定し続けてきた人物がいる。世界的な著名投資家であるウォーレン・バフェット氏、その人である。

バフェット氏の動向は1990年代後半からウオッチしているが、当時から金に対するバフェット氏のスタンスは一貫していた。

「金には金利もつかず、配当もないため、投資する意味はない」

バフェット氏は言わずと知れた株式投資のプロ中のプロであり、誰もまねできない実績を上げている。しかし、コモディティ市場のプロである私にとって、当時バフェット氏の発言にはまったく共感できなかったのを鮮明に覚えている。

以来こんにちに至るまで、バフェット氏が金や金鉱株を買うことはなかった。その投資判断のスタンスは一貫していてブレることはなかった。

■「投資の神様」に何が起こったのか?

ところが、である。

そのバフェット氏が率いる米投資会社バークシャー・ハサウェイが、カナダの産金大手バリック・ゴールド株を約2090万株、56億ドル相当を新たに取得したことが8月14日、米証券取引委員会(SEC)に提出した6月末の保有状況報告で判明した。

これには世界中が驚いた。「金利も配当もつかない金への投資は無駄」と公言し、実行してきたバフェット氏が……。なぜ今回、バフェット氏はいきなり金鉱株に投資することにしたのだろうか。

真相は本人に聞いてみないとわからないが、SECに提出した先述の保有状況報告で「何をしたか」はわかる。

米銀行株の保有を大幅に削減し、ゴールドマン・サックスの株式はすべて売却。ウェルズ・ファーゴやJPモルガン・チェース、バンク・オブ・ニューヨーク・メロンなどの大手金融機関の保有株式を減らしているのである。これは、バフェット氏が米経済や米銀の先行きを悲観したことが背景にあると考えられる

■「大好きだった銀行株」を手放した意味

バークシャーは、2008年に発生した金融危機時に、ゴールドマンの優先株を取得した。その後、同社の大株主となっていた。しかし、1~3月に保有株の約8割を売却。4~6月に残りも手放した。JPモルガン株も約62%削減した。さらに、ウェルズ・ファーゴ株も約26%減らした。保有比率が低下し、筆頭株主から外れたとみられる。

バークシャーは1989年にウェルズ・ファーゴ株を初めて取得。2016年に不正営業が発覚した際も、経営陣の対応の遅さを批判しつつも株式保有を継続していた。バフェット氏は今年5月の株主総会で、米経済の先行きについて長期的には強気の見方を示していたことから、6月にかけて判断を一変させたことがわかる

銀行株は、経済成長の恩恵を受けやすく、同氏が好むことで知られる。ただし、米銀は新型コロナウイルスの感染拡大による景気悪化で、貸し倒れに備えた引当金を大幅に積み増し、業績は悪化していた。FRBによる低金利政策で利ざやが縮小し、中長期的な収益力の低下も懸念されているため、これを嫌気して銀行株の大半を売却したものと思われる。

■「配当好き」バフェット氏の変節

その一方で、バリック・ゴールド株を取得したのは、バフェット氏の金に対する考え方が変わった可能性がある。

これまで金投資を明確に否定していたので、さすがに金に直接投資することは避けたものとみられる。そこで、株式を経由して金のエクスポージャーを取得する、すなわち、金への投資をすることで、金価格の変動を収益に結び付けようとする意図があったといえそうだ。これは非常に興味深い。

産金会社は金価格が上昇しなければ収益が上がらない。つまり、間接的に金に投資しているのに等しい。また、金鉱株への投資には、それ以外にもさまざまな事業リスクがあるため、金価格の上昇を直接的に享受できるわけでない。

配当が好きなバフェット氏のことだから、バリック株の配当に興味があったのだろうと調べてみると、たしかにバリックの普通株は配当を支払っているのだが、その配当利回りはわずか1.2%。配当を狙っての投資とはいえず、金相場の上昇の恩恵を受けやすいバリック株を取得し、やはり「間接的に金に投資した」と考えるのが妥当といえそうだ

■2000年ハイテクバブルでの成功は「結果オーライ」

過去のバフェット氏の投資で私が注目した点を2つ挙げておこう。

2000年のハイテクバブルの際には、「理解できないものには投資しない」として、ハイテク株への投資を回避する、と宣言したことを鮮明に覚えている。その後、ハイテク株は棒上げ状態となり、「バフェットの目が曇り始めた」といわれた。しかし、最終的にハイテク株は暴落し、バフェット氏の見方が正しかったと称賛された。

だが、よく考えると、ハイテク株はいったん上昇している。それもものすごい上げである。この相場に参加していなかったのは、投資家としてはどうかと思われる。

結果は正しかったが、その途中の相当の利益を捨てている。この点は明確にしておく必要があるだろう。

■コロナですべてが狂った

また、今回のコロナ禍での投資判断にも注目しておくべきだろう。バフェット氏は、それまでに投資していたデルタ航空、アメリカン航空、ユナイテッド航空、サウスウエスト航空の株式を「戦略的撤退」として大きく損切りしたことは記憶に新しい。

航空産業における経済危機の概念
写真=iStock.com/baranozdemir
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/baranozdemir

コロナ禍以前の状態であれば、豊かになった人々が海外旅行に出かけるなど、航空業界の未来は明るく見えていたことも事実である。また、グローバル化の進展で人々の移動はますます増えるようにみえた。そのため、航空株は安定的な収入をもたらすとの予測はあながち間違いとはいえない。

ところが、コロナによりバフェット氏の判断は完全に覆された

■航空株「投げ売り」で大損失

バフェット氏は今年2月の段階ではデルタ株を買い増している。当時、テレビ番組のキャスターからの「航空株は売らないのか?」という質問には「航空株には未来がある」「航空株は売らない」と答えていた。しかし、3月以後もコロナ危機が悪化する中、バフェット氏は結局4社の航空株を「投げ売り」したのである。

バフェット氏は航空株に80億ドル程度を投資していたが、これらの株式を売却して戻ってきた資金はその半分以下。まさに投げ売りだった

この判断により、バフェット氏の評判には大きな傷がついた。「バフェット氏でも間違う」ことがこれだけ明確になった例はほかにないだろう。

バフェット氏としては、名声よりも実をとったのだろう。航空株を保有し、さらに損失が膨らむリスクを回避することを決めた。だがこの「戦略的撤退」は、結果をみれば底値売りになっており、いまとなっては正しかったとは判断できない

■バフェット式投資法の落日

バフェット氏の今回の金鉱株への投資についてももう一度考えてみたい。

バフェット氏はこれまで、金投資の効用について完全否定していたことはすでに述べたとおりである。しかし、バフェット氏がそのようは発言をしていた2001年以降の金価格とS&P500を比較すると、驚くべき結果が出ている。

S&P500は米国の主要500社の株価指数であり、バフェット氏は「どの銘柄に投資すればわからなければ、S&P500に投資すればよい」と公言するほど、米国の主要企業が含まれていることはご存じの通りである。

さて、そのS&P500の株価指数は2001年から現時点で約2.5倍に上昇しているが、金価格は同期間でなんと7.5倍になっている。つまり、バフェット氏が最も好む配当と金利収入を捨てて、金に投資していれば、S&P500への投資の3倍ものリターンが出ているのである。これが「事実」なのである。

■「バフェット・ショック」で投資の常識が変わった

結果として、この点については、かねて「金価格は上がらざるを得ず、投資対象に組み入れるべきだ」と主張してきたコモディティのプロである私の考え方が、株式のプロであるバフェット氏よりも正しかったことになる。

私は投資家としてバフェット氏を誰よりも尊敬している。しかし、世界でも有数の投資家であるバフェット氏でさえも判断を間違えるのがいまのコロナ禍である。それだけ難しい時代にあるといえるが、そのような時代だからこそ、金という唯一無二の安全資産が身を守ってくれるはずである。

江守哲『金を買え 米国株バブル経済終わりの始まり』(プレジデント社)
江守哲『金を買え 米国株バブル経済終わりの始まり』(プレジデント社)

バフェット氏が宗旨替えをしてまで間接的に金を購入したという事実は、ある意味かなり重い。この判断が正しい結果につながれば、私がこれまで言い続けてきた金投資の重要性がバフェット氏の投資行動により、より明確に証明されることになる。

金に投資していない人は、バフェット氏とともに「いますぐ」行動に移してみるとよいだろう。むろん金への投資は、金鉱株ではなく、金に直接行ったほうがいいことは言うまでもない。

金投資や金に関する詳しい解説を知りたい方は、拙著『金を買え 米国株バブル経済終わりの始まり』(プレジデント社)をぜひお読みいただければと思う。今後の世界情勢や米ドルの動向、さらには米中対立の結末や金価格の将来見通しなどを知ることができる。

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江守 哲(えもり・てつ)
エモリキャピタルマネジメント株式会社代表取締役
慶應義塾大学商学部卒業後、住友商事に入社し、非鉄金属取引に従事。1996年に英国住友商事(現欧州住友商事)に出向しロンドンに駐在。その後、Metallgesellschaft Ltd.、三井物産フューチャーズを経て、2007年7月にアストマックス入社。同社でファンドマネージャーに就任。アストマックス退社後、2015年4月にエモリキャピタルマネジメントを設立。ヘッジファンドを中心とした資産運用や株式・為替・債券・コモディティ市場の情報提供などを事業として展開。

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(エモリキャピタルマネジメント株式会社代表取締役 江守 哲)

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