別所哲也「海外経験ゼロでもいきなりハリウッドデビューできた理由」
プレジデントオンライン / 2020年9月2日 15時15分
■生放送を長く続けるコツは「シャワーの中で大声で歌うこと」
【三宅義和(イーオン社長)】別所さんといえば、ラジオ番組(『J-WAVE TOKYO MORNING RADIO』)のパーソナリティの印象が強い方も多いでしょう。当社にもヘビーリスナーがおります。
【別所哲也(俳優)】光栄です。早いもので今年の10月から15年目に入ります。俳優以外の仕事としては、「ショートショートフィルムフェスティバル」と並んで、もはやライフワークになっています。毎日3時間、朝6時から9時までやらせていただいています。
【三宅】生放送のプレッシャーも相当あるかと思いますが、長く続けるコツはありますか。
【別所】ストレスを溜めないことですね。食べたいときに食べたいものを食べ、シャワーの中では大声で歌う。睡眠に関してはもともとショートスリーパーなので4~5時間寝れば十分です。
■海外経験ゼロでハリウッド映画の撮影に
【三宅】そんな別所さんは英語が非常に御達者ですが、いわゆる帰国子女ではないですよね?
【別所】違います。20代前半で映画デビューとなったハリウッド映画の撮影でアメリカに渡ったのが、初めての海外です(笑)。
【三宅】そこがすごいと思うのですが、英語との出会いはいつ、どんな形でしたか?
【別所】英語を含め世界への入り口を開いてくれたのは、同居していた祖母です。僕の両親は共働きで、小学校から帰るといつも祖母がおやつを用意してくれていました。その祖母は世界地図を見るのが好きで、私がおやつを食べているときに「この国にはこういうものがあってね」といった話をたくさんしてくれました。
【三宅】ということは、お祖母様は海外によく行かれていたのですか。
【別所】いえ。祖母は長年、中学校で音楽の先生をしていたので、退職後にアジア諸国を旅行した程度です。両親も仕事が忙しかったので、もっぱら国内旅行でした。ただ、祖母の影響で、海外に対する思いは周囲の子供より強かったと思います。
■英検1級のテープを呪文のように聞いた
【三宅】実際に英語の勉強をはじめられたのはいつ頃からですか?
【別所】真面目に勉強しだしたのは、中学に入ってからです。ただ、小学校6年生になる手前で、叔父から英検1級の教材テープをもらい、それをウォークマンで聴いていました。
【三宅】いきなり英検1級ですか?
【別所】もちろん内容は理解できません。でも、当時はまるで呪文のような異国の地の言葉を聴いていること自体が心地よかったのです。「秘密基地に行くための言葉を聞いているんだ」という感覚です。
【三宅】そうでしたか。中学ではどんな勉強をされましたか?
【別所】教科書の内容はもちろんこなすのですが、僕の場合、音楽を通して学んだ影響が大きかったですね。これもまたきっかけは祖母でして、小学生のときから祖母にピアノを教わるようになり、少しずつ英語の歌を聴くようになりました。中学に入ると音楽熱はさらに高まり、放送委員になって登下校の時間にビリー・ジョエルの楽曲をかけるようなことをしていたのです。
【三宅】当時からラジオパーソナリティの素養があったのですね(笑)。
【別所】ええ(笑)。好きな歌に出会えたら歌詞の意味を知りたくなるので調べますし、弾き語りをしたくなるので、発音にも意識を向けますよね。いま振り返っても、洋楽との出会いが英語力の土台を作ってくれたと思います。
■英語学習は「演技」と同じ
【三宅】高校時代はどのような英語の勉強法をされましたか? 慶應義塾大学法学部に合格されたということで、相当勉強されたかと思います。
【別所】とにかく口に出すことを意識していました。単語の暗記をするときは、普通に単語帳を使いつつも、必ず口に出すようにしました。その理由もやはり、洋楽をきれいな発音で歌いたいというモチベーションがあったからです。
【三宅】素晴らしいですね。近年、「英語はコミュニケーションの手段なのだから、単語は文章の中で覚えていくべきだ」と言われがちなのですが、基礎的な単語はやはり単語帳でコツコツ覚えるしかないと私は思っているので、ありがたいご指摘です。ほかにどんなことを?
【別所】スポーツの世界では常識となっているイメージトレーニングです。たとえば、あるフレーズが出てきたとき、「どういうシチュエーションなら、このフレーズを使うだろうか?」と考えて、そのシチュエーションになりきって実際にしゃべるようにしていました。
【三宅】そこは演技に通じるお話ですね。
【別所】そうですね。このようなトレーニングをしていたからこそ、実際の会話の場面でもフレーズが出てきやすかった、ということはあったかと思います。
【三宅】それは間違いないでしょう。お話を聞く限り、「アウトプットを前提にインプットをされてきた」という印象を受けます。
【別所】それは意識していました。
■「心の中で起きている動きと言葉は一体である」
【三宅】大学では英語会の活動に力を入れて、四大学英語劇大会において3年連続で賞を取られています。英語劇に進まれた動機は?
【別所】大学では好きな英語をもっと極めたいと思っていました。それと同時に、中高時代はずっとバレーボールに打ち込んでいたものですから、「大学でも体を動かしたい」と思っていたのです。その両方を実現できそうだったのが英語会の「ドラマ」セクションだったのです。キャラクターを演じるなかで、リアルなコミュニケーション手段としての英語、そしてト書きのなかにある異国の生活様式やカルチャーを読み解くことにも魅力を感じました。
【三宅】いざ演劇をやってみてどのような印象を受けましたか?
【別所】メンバーがそれぞれの役割を全力でこなしながら立体的な舞台をつくりあげていく過程は、まるで魔法のように感じました。僕の場合、それが俳優になったきっかけです。
【三宅】実際、カリキュラムに演劇を取り入れている語学教育機関もあります。私の理解では、役になりきって英語を話すため、英語の回路が脳内にできて、英語のリズムが自分のものになるというメリットがあると思っているのですが。
【別所】僕もそう思います。言葉というものは、まるで生き物のようにその人の心や感情とつながっています。もちろん単純に状況説明をするための英語もありますが、「心の中で起きている動きと言葉は一体である」ということは、舞台をやりながらずっと感じていたことです。
たとえばshrug(肩をすくめる)というジェスチャーは、日本人はしません。あるいはガッチリ握手したり、ハグしたりする文化もありません。だから、そのシーンを日本語で演じると少し違和感が出てしまうのですが、英語だと行動と言葉が連動していることがよくわかります。
【三宅】英語劇の体験は、別所さんにとって非常に大きなものだったということですね。
【別所】本当に大きかったですね。法学部で法律を学んだことも世の中の仕組みを理解するという意味で大きな学びでしたが、英語劇がきっかけで「俳優になりたい」と思ったわけですし、そのとき英語力を磨いたことが、後でハリウッド映画に出るチャンスもいただくことにつながっていきました。
■海外初渡航で英語力を実践
【三宅】別所さんは1990年に日米合作映画『クライシス2050』でハリウッドデビューされました。自分で売り込みに行かれたのですか。
【別所】はい。大学を卒業して1年目、俳優としての道を模索していたとき、新聞に公募が出ていたのです。それを見つけてくれたのは父親で、私のキャリアについて意見を言うことのなかった父親が、ある日、「お前、英語劇から俳優の道に進んだのなら、こういうことにチャレンジしてみろよ」と言ってくれたのです。そこでオーディションを受けてみたら、幸運にも合格することができました。
【三宅】それが海外初渡航だったと。
【別所】はい。初めて英語力を実践する場でもありました。
■「ゆっくり喋ってくれ」と言えるか
【三宅】いざアメリカに行かれてみて、印象的だったことはありますか?
【別所】一番強烈だったのは、それまで自分が一生懸命勉強してきて、英語劇の中でさんざん疑似体験をしてきた英語が、思うほど通じなかったことです。オーディションに合格したわけですから英語についてはある程度自信を持って行ったのですが、現地の人たちが話す英語のスピードについて行けませんでした。
【三宅】どうやって克服されたのですか?
【別所】開き直りです。最初の2カ月ぐらいは悶々としながら過ごしましたが、「僕は日本人なんだから、英語で間違っても恥ずかしくはない。今の自分にできる英語で表現していこう」と開き直るようにしました。どれだけ間違っていても、どれだけたどたどしくても、自分からコミュニケーションを積極的にとる。相手の言葉が速すぎてわからなければ、「ゆっくり喋ってくれ」と伝える。このように英語に対する態度を変えたことで、急にコミュニケーションが楽になりました。
【三宅】日本人は、わからなくてもわかったフリをしがちですからね。
【別所】ええ。日本人は自分の意見を言わなかったり、相手の言うことを聴き取れなくても黙っていることが多いのですが、意思疎通が図れないなら、それはコミュニケーションではありません。だから僕も開き直ったあとは、早口でしゃべる人がいたら、「なんでそんなに速くしゃべるんだ。君だって日本語をしゃべれないでしょ」とはっきり言うようになりました。
【三宅】腹を括ったわけですね。
■英語を使うときはファイティングポーズを
【別所】僕たち日本人のメンタリティで言うと、「英語を使うときはファイティングポーズをとるくらいがちょうど良い」と思うときがあります。結論から言うとか、自分の意見を明示するとか、イエスかノーかをはっきりさせるといった部分は、日本人からすると少しトゲがありますが、向こうではそれが普通ですから。
【三宅】たしかにそうです。
【別所】そもそも英語はとてもフランクな言語です。もちろん英語にも相手を敬う表現方法はたくさんありますが、日本語のような複雑な決まりごとがありません。相手とフラットな立場でコミュニケーションをとりやすいのです。
いま英語を学んでいる人が、海外の人とコミュニケーションをとりたいと思っているなら、慣れるべきはまずはそのメンタリティではないかと思います。
【三宅】フラットだからこそ、自分に自信を持つべきだし、相手も敬う必要がある。お互い自立した人間であることを認め合うべきだと。
【別所】おっしゃるとおりです。初めてハリウッドに行って痛感したのは、多民族のあの国では、自分が何者で、こういうことが好きで、こういうことは嫌いということを、はっきり周囲に伝えないと存在が認められないということです。
僕も最初のうちは日本人的な感覚で「はっきり伝えたら衝突が起きるのではないか」という戸惑いがありましたが、慣れると実はそれが一番シンプルに自分のことを相手にわかってもらえるコミュニケーションのとり方であると思えるようになりました。
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イーオン社長
1951年、岡山県生まれ。大阪大学法学部卒業。1985年イーオン入社。人事、社員研修、企業研修などに携わる。その後、教育企画部長、総務部長、イーオン・イースト・ジャパン社長を経て、2014年イーオン社長就任。一般社団法人全国外国語教育振興協会元理事、NPO法人小学校英語指導者認定協議会理事。趣味は、読書、英語音読、ピアノ、合氣道。
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俳優
1965年、静岡県島田市出身。藤枝高校、慶應義塾大学法学部を卒業。1990年、日米合作映画『クライシス2050』でハリウッドデビュー。その後、映画・TV・舞台・ラジオなどで幅広く活躍。1999年より、日本発の国際短編映画祭「ショートショート フィルムフェスティバル』を主宰し、文化庁文化発信部門長官表彰を受賞。観光庁「VISIT JAPAN大使」、外務省「ジャパン・ハウス」有識者諮問会議メンバーに就任。内閣府「世界で活躍し『日本』を発信する日本人」の一人に選出。
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(イーオン社長 三宅 義和、俳優 別所 哲也 構成=郷 和貴)
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