「広告すれば客はすぐ増やせる」そう誤解していた新米コンサル会社のその後
プレジデントオンライン / 2020年8月24日 11時15分
※本稿は、坂口孝則『1年仕事がなくても倒産しない経営術』(ハガツサブックス)の一部を再編集したものです。
■「ついでにこちらもどうですか」を徹底する
私は中小企業こそ、真剣にアップセルとクロスセルを徹底しなければならないと考えている。アップセルは、上位商品を勧めること。クロスセルは他商品のついで買いを勧めること。いわゆる、ファストフード店における「ついでにポテトもいかがですか」だ。
アップセルも、クロスセルも、多くのお客は「不要です」という。それでいい。もしかすると、声をかけた1割しか反応してくれないかもしれないが、逆に言えば1割もの顧客が客単価を上げてくれる。これは恐ろしい変化だ。
どんなビジネスであっても、アップセルとクロスセルを試行錯誤しなければならない。私は飲食店でも小売店でも、店員がなぜもっと売ってこないのか観察している。もちろん、強引に売れというわけではなく、自然な形で「もう一品、これはどうですか?」「+100円で大盛りにできます」「さらにこの商品が合います」と提案すること。
さらに意外と大切なのが「ほかに気になるものありますか?」ではなく、具体的に勧めることだ。たとえば衣類店で「ほかにご覧になりたいものありますか?」と聞かれても特にない。具体的に「これがいいですよ」と見せてほしい。
■請求書は最高の宣伝媒体
私たちの会社では、商品を買ってくれた顧客には、商品のお買い上げのお礼として、他商品の割引クーポンを自動的にメールで送付する。そうすると、意外に高い確率で「それならついでにこの商品も買います」と返信してくれる。
さらに商品を送付するときも、請求書とともに、割引クーポンをさらに印刷して送る。私が思うに、請求書は必ず開いてもらえる宣伝媒体だ。ここを逃すなんてもったないからだ。継続のためには売上が要る。それと、中小企業は次に紹介するとおり、見込み客や新規顧客の獲得に極めてコストと時間がかかる。もちろん顧客の拡大もしなければならない。同時に、すでに来てくれている顧客にできるだけのサービスを提供できるよう努めるべきだ。
そのために、アップセルとクロスセルを常に意識しておこう。
■どうしたら見込み客を増やせるか
では、既存顧客に最大限のサービスを提供するいっぽうで、どうすれば見込み客を増やし続けることができるだろうか。それは結局、地道な作業を繰り返すしかない。良質なコンテンツを増やして、アクセス数を増やすことだ。それ以上はない。
ただ、もう一つは宣伝広告が有効だ。誰でも、ウェブや雑誌や、新聞などで良さそうな商品の宣伝を見て、買ってみた経験があるに違いない。たとえばFacebookなどでのターゲティング広告は有効だ。うまくいけば、一人の個人情報を数百円で入手できる。これはあなたのビジネスに興味のある個人から、数百円でメールアドレスを入手できるということだ。
むやみやたらにFacebook広告を出してもうまくいかない。見込み客を集める際に、その見込み客が集まる場所はどこか探し続けねばならない。これは本当に重要で、強調しすぎることがない。あなたのビジネスの潜在顧客はどこに集まっているだろうか。重要なのは、溜まり場を見つけて、個人情報を得て、それをその後の宣伝広告に活かすことだ。これ以上の法則はない。
この溜まり場の意味は、リアルな場所かもしれないし、紙媒体かもしれないし、あるいはネットなのかもしれない。
■顧客名簿を得るための試行錯誤
ちょっと個人的な話をしたい。私が知人と会社を作った際に、どうやったら、私たちのサービスの対象となる顧客名簿を得られるか真剣に考えた。読者が自分自身だったらどうするだろうか。
私の会社は経営コンサルティング会社でサプライチェーン分野を対象としている。サプライチェーンの意味が不明でもかまわない。何かの専門領域があって、そのコンサルティングサービスや商材を販売したい場合だ。
普通に考えれば、アプローチすべきは企業のなかにいる、サプライチェーン部長とか、サプライチェーン本部長とか、サプライチェーン担当役員とかだ。まず名簿屋に行ったら、あまりに高くて驚いた。とても生まれたての弱小企業が買えそうにない。次に、某有名経済誌のメールマガジンのヘッダー広告枠を買った。たしか20万円だったと記憶する。小冊子を提供する代わりに、住所や名前を聞く方式にしていたが、反応はほぼなかった。
■30万円かけて7クリックしかなかった
次に某有名業界紙に1週間連続で広告を載せた。これも笑えるほど反応がなかった。本当に笑ってしまったほどだ。さらに某氏から勧められて、有名人のメールマガジンに出稿した。たしか30万円くらいかかった。結果は、クリック数は7だった。これも悲惨すぎて、みんなで笑った記憶がある。
つまり媒体を間違えると、こういう悲劇が起きる。喜劇ともいえるかもしれない。対象とする人たちがそこに集まっていなければ無意味なのだ。さらに、実際の展示会に出展したり、展示会でチラシを置いたりしたが、効果がなかった。
■入場無料の“資料室”で大量の名簿を入手
しかし、試行錯誤を重ねたことで、思いもしなかった溜まり場を見つけることができた。何度も失敗したのは、私たちがバカだったからかもしれないが、ビジネスの対象者はさまざまなので、やはり手当たり次第やってみるしかない。私たちの場合は、意外な二つが突破口になった。
それは、JETROだった。今はもう存在しないが、東京の六本木一丁目駅近くに、JETROのビジネスライブラリーがあった。現在は規模が縮小している。当時、ふらっと立ち寄って驚いた。入場は無料。それなのに、ありとあらゆる名簿が完備されていたのだ。さまざまな業界名簿があふれていた。それらを無料で閲覧できるのだ。驚愕した。
コピーは有料だったが、必死に見込み客名簿をコピーした。そして、そのあとに、クラウドソーシングでエクセルに転記した。あとは、それをダイレクトメールの宛名にして送るだけだった。私たちは、なんとかそのダイレクトメールで商材を売り、糊口をしのぐことができた。
■“溜まり場”を見つけようと思惟を重ねる重要性
そして、もう一つ。それは意外なことに、ネットの求人サイトだった。つまり、求人しているということは、その分野が忙しいに決まっている! これはコロンブスの卵だった。なぜならば、どうしても知りたい相手の社名や組織名、さらには住所まで、公開してくれているのだ。求人を出すほど急拡大しているので、コンサルティングや教育が不要なはずはない。
私たちはすぐさま、同じくクラウドソーシングで、求人サイトで求人している社名や住所などをリスト化してもらった。私たちはバカ者だから、考え続けないと気づかなかった。それでも、溜まり場を見つけたことで私たちはなんとか、以降、事業を発展させるリストを見つけたのだった。
この求人サイトというのは、一つのたとえにすぎない。重要なのは、溜まり場を見つけるように思惟(しい)を重ねることだ。
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経営コンサルタント
未来調達研究所株式会社取締役。大学卒業後、メーカーの調達部門に配属され、調達・購買、原価企画を担当してきたコスト削減、仕入れ等の専門家。日本テレビ「スッキリ」、TBS「篠田麻里子GOOD LIFE LAB」のコメンテーター、ラジオ「オールビジネスニッポン」のMCなどとしても活躍中。
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(経営コンサルタント 坂口 孝則)
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