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500円の定食を1万円で買ってもらうには、なにを足せばいいか

プレジデントオンライン / 2020年8月27日 11時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kazuhide isoe

コロナ禍で飲食店が苦しんでいる。どうすればいいのか。経営コンサルタントの坂口孝則氏は、「提供できる“価値”の定義を変えていく必要がある。そうすれば500円の定食を1万円で買ってもらう方法も見つかるはずだ」という——。

※本稿は、坂口孝則『1年仕事がなくても倒産しない経営術』(ハガツサブックス)の一部を再編集したものです。

■これまでの“馴れ合い”商習慣を捨てるチャンス

これまでの事業を捨てる覚悟でゼロから見直そう。

それが、ポスト・コロナの、人が集まらない時代を生き残っていくための大前提だ。これまでなんとなく成り立ってきた商習慣は、これからは通用しなくなる。いや、今がその馴れ合いの習慣を覆す絶好のチャンスともいえるだろう。

飲食店は悲惨な状況にある。というのも、飲食店とは定義上、不要不急かつ3密が前提にある。それが否定されているのだから、経営が大変なのは当たり前だ。

さらに、デリバリーやテイクアウトが生き残り策だとされている。それは間違いない。店舗に誰も来てくれないのだからしかたない。だから現在、ゴーストキッチン、ゴーストレストランなる言葉が登場している。これは客席をもたずに、調理場だけがある形態だ。飲食店では家賃がコストの多くを占めるので、できるだけ小さな厨房だけのスペースで切り盛りする仕組みだ。

■「4割減」を前提に経営の健全化を考える

ただ、テイクアウトはまだしも、デリバリーは儲からない。というのも、それを運ぶ業者たちもマージンが必要だ。だから、1000円の弁当を販売しても、30〜40%がデリバリー業者に持っていかれてしまう。材料費を引くと、飲食店にはほとんど儲けが残らない。

坂口孝則『1年仕事がなくても倒産しない経営術』(ハガツサブックス)
坂口孝則『1年仕事がなくても倒産しない経営術』(ハガツサブックス)

やらねばならない、でも、儲からない、というジレンマがある。さらに、せっかくデリバリーをしても、客単価が低いと自転車操業のなかで売上を補填することしかできない。

では、何ができるのか。飲食業ができるのは次のとおりだ。

【1‐1】意識を変える

こう考えてみよう。この2年間は、従来の6割しかお客が来ないと。この4割減とは現実的な数字だと私は思う。客席を空けて座ってもらうのであれば、半分でも現実に近いだろう。

これは20席のテーブルが、10席しか稼働しないことを意味する。別に、4割減の席でもいい。肝要は、その状況で利益を上げる方法を考えることだ。夢想でもいい。回転率の考え方も変わってくるだろう。満席になることはない。半分程度しか埋まらないなかで経営の健全化を考えるのだ。

■常識はずれでも「客単価4割上昇」を目指す

そうすると、これまで避けてきた経営課題と向き合わざるを得ない。つまり、客単価を上げるための方策だ。極論を言えば、客数が4割減っても、客単価が4割ほど上昇すれば問題がない。そんなことは現実的ではない、と思うだろう。しかしやらねばならない。バカげていても、常識はずれでも、客単価を4割ほど上げないといけない。

飲食店は、私が思うところ「効率と安さだけを求めるお客のために、低価格を提供するもの」と「豪華な雰囲気や快楽を求めるお客のために、高価格を提供するもの」にわかれている。これはどちらが究極的に素晴らしい、という議論ではない。安さという意味での快楽と、心地よいという快楽にわかれているのだ。

そのときに、前者を選ぶのは大資本しかあり得ない。というよりは、少資本であれば後者を選択するしかない。

■食事がおいしいかどうかは重要ではない

よく多様性などという言葉が叫ばれる。しかし、事実は逆だ。飲食店は脱・多様性を求めねばならない。あなたという個人を売り物にするしかない。多様性ではなく、単独であなたを売りにするのだ。

つまり飲食店はファンビジネスだ。食事を提供する、という価値定義から、食事を渡す時間を通じてあなたのファンを増やす、と再定義せねばならない。個人しか売り物になる商品はない。

また、安心してほしい。これも極論を言うと、食事がおいしいかどうかは問題にならない。それよりも、人々が求めているのは、リラックスできる感覚や安堵、誰かとの会話だ。しかも、それこそが大資本に勝てる武器になる。500円の定食を、ビールつきで1万円でも払ってくれるように考える必要がある。

スナックは、3密の象徴で集客に苦労していた。しかし、スナックの本質価値は、酒のおいしさではなく、悩みを聞いてもらったり、愚痴を吐露したりできるところだ。だから、スナックはオンライン上でも問題なく開店できた。さらに、コロナ禍でバーチャル・スナックを運営していたところ、これまでならば絶対に触れ合うことのなかったお客と出会うことができ、さらにリアル店舗への誘導が可能となっている。これも本質価値を検討する熟考ゆえだ。儲かるかは別にしても、オンライン・キャバクラなどのサービスも出てきている。デジタル上でも、自社の価値が提供できるかが問われている。

■イタリア人シェフが秘伝レシピを送ってきたワケ

【1‐2】情報の発信

先日、イタリアのホテルからメールが届いた。さすがに「今は観光できないだろう」と思った。そうすると、メールはホテルのシェフからのもので、秘伝の料理レシピを教えてくれた。私はかつて、バイオリンの工房を見学するために日ほどイタリアを巡った。その際に、レストランの食事がとびきりおいしかったホテルだ。

そのメールには、新型コロナウイルスを憂い、そして巣ごもり時期に料理を作って楽しんでほしいと、レシピが公開されていた。秘伝のレシピを公開するわけだから、売上が下がるのではないかと心配するかもしれない。しかし、事実はきっと逆だ。情報を公開して売上が下がることはほぼない。

■本当に「秘密」にするほど価値がある情報か

もっと言えば、情報なんてどんどん公開するべきだ。情報を公開して、それで有名になれば、リアルな売上はさらに上がる。どうせ、レシピを公開しても、そのとおりの味には絶対ならない。むしろ、その味になるのであれば、シェフの価値がないはずだ。レシピを受け取った客は、新型コロナウイルスが収まったころに、本当の味を求めてやってくるに違いない。

次は単純な方程式だ。

情報公開によるデメリット<情報公開によるメリット

これは近年では特に正しい。よく考えてほしい。あなたが「秘密」と考えている情報は、そんなに価値があるだろうか。誰でもわかっている情報ではないだろうか。それを隠蔽しても、周りはありがたがってくれない。それならば、捨て身でもすべてを公開して、そのぶん集客したほうがいい。

私も個人的な経験から、変に情報を隠さないほうがいいと思っている。それよりも、情報を出すことによって集まってくれる方々が、のちにお客になってくれる。重要なのは情報価値ではないのだ。あなたの時間価値を最大化したほうがいい。情報はダタでも、それを見て集まった方々に、有料で時間を割いたほうがはるかに収益は上がる。極端に言えば、情報は出しまくったほうが良く、人数を集めたらこっちのものなのだ。

■儲からなかったらすぐさま撤退する勇気

【2‐1】早めの撤退

飲食店は通常、FLコストといって、Food(材料費)、Labor(人件費)が大半の原価を占める。単価の半分は、FLコストだ。しかも、家賃や光熱費を加算していくと、結局は売上の5%くらいしか残らない。売上の10%が残れば上出来だろう。

さらに、オープンして数カ月は客足が途絶えなかったとしても、そこからは苦戦をする。次々に飲食店は開業しているのだ。ある特定の店に足繁く通うには相当な理由が必要だ。

だからこの先は、早めの撤退が重要だ。何をやって当たるかは神のみぞ知る。私たちにできるのは、事業に思い込みを持ち続けるのではなく、冷静な視点だ。やってみて、儲からなかったらすぐさま撤退する思考を持つべきだ。

コロナ禍でもそれなりに生き残っていた飲食業は、取り急ぎ、儲かっていない店舗を閉めた。繁盛店のみ、継続して営業を続けた。そして、バイトには休んでもらい、本社で時間のできた社員を現場に投入して稼働率を上げた。雇用助成金でなんとか嵐が過ぎるのを待ちながら、同時に家賃を減額交渉するなど、固定費の削減に努めた。

■キャバクラに必要なのはドレスと酒ではない

さらに閉めた店舗で働く社員は、同じく稼働店に行くか、あるいは新規メニュー開発などに従業させていた。馴染みの客には、稼働店への誘導を促し、なんとか事業を継続させた。日本人は、どうしても、開店させた店を挽回しようと頑張る傾向にある。しかし、多くは下りのエスカレーターを登るような徒労に襲われる。

早めに撤退する勇気を持ち、サンクコストを最小限に抑える覚悟もときに必要だ。

【2‐2】価値の再定義

同時に、自分たちが提供しているものの価値がどこにあるのか、再定義が必要だろう。

たとえば、スナックの例を挙げた。もしスナックがお客の悩みを聞く場所だとすると、極端な話、おつまみや酒の種類はこだわる必要がない。それよりも、ママがコーチングやヒアリングのスキルを上げたほうがお客のニーズには合致することになる。極論とはいえ、冗談ではない。

キャバクラなどはどうだろうか。同じく酒の種類も大切だろうが、もっと重要視するべきは接待により、お客に楽しんでもらうことだろう。あえてそのように解釈できれば、女性がドレスを着て、3密の空間で隣に座ることはない。

たとえば、「海の家」のように海岸や川沿いでバーベキューをやってもいい。土日に昼間からお客と肉を焼く。そうすると、普段では見られない女性の容貌をお客に見せることになるし、魅せられるだろう。非日常の環境がゆえに、お客は高級ワインを何本も空けてくれるかもしれない。

■ライブハウスはVR配信も選択肢に入れるべき

また、あまり一般的には知られていないものの、ライブハウスは飲食店としても営業している。コロナ禍の際にメディアで「飲食店やライブハウスは大変ですね」と語られていたが、そもそも飲食店という大集合のなかに、中カテゴリであるライブハウスが存在する。ライブハウスの本質は、アーティストのリアルな演奏を聴くことにある。そして場を共有することに価値がある。なぜだかわからないが、目の前で必死に演奏する人間を見て、私たちは感動するのだ。

演奏の動画やDVDを観ても感動するけれども、やはり生の迫力にはかなわない。ならばVR(仮想空間)でのライブを提供すればいい。ライブハウスでは、残念ながら、定員の数分の1しか動員できないかもしれない。しかし、その一つの席からVRでの配信を行う。お客には遠隔で、VRヘッドセットで生の演奏を感じてもらう。そうすれば、全国から参加できるはずで、これまでお客にならなかった地域をすくい上げられる。

また3密を避け、ライブをリアルで楽しんでくれるお客には倍の価格でチケットを売るといった検討も進んでいる。これを機会に、リアルとネットを差別化するのだ。

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坂口 孝則(さかぐち・たかのり)
経営コンサルタント
未来調達研究所株式会社取締役。大学卒業後、メーカーの調達部門に配属され、調達・購買、原価企画を担当してきたコスト削減、仕入れ等の専門家。日本テレビ「スッキリ」、TBS「篠田麻里子GOOD LIFE LAB」のコメンテーター、ラジオ「オールビジネスニッポン」のMCなどとしても活躍中。

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(経営コンサルタント 坂口 孝則)

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