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なぜ「平成のさとり世代は欲がない」という大誤解が生まれたのか

プレジデントオンライン / 2020年8月24日 9時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/itsskin

現代はモノがあふれている。だから平成生まれの「さとり世代」は無欲だともいわれる。それは本当なのだろうか。カルチャースタディーズ研究所代表の三浦展氏は、「実はさとり世代のほうが、氷河期世代やバブル世代に比べて高級品を持ちたいと思っている人が多い」という——。

※本稿は三浦展『コロナが加速する格差消費 分断される階層の真実』(朝日新書)の一部を再編集したものです。

■高級車には乗らないものの…

平成生まれは「ゆとり世代」や「さとり世代」と言われる。

ゆとり世代は、ゆとり教育を受けたので、個性重視で、できないことがあっても平気という価値観ということ。たとえば誰でも鉄棒で逆上がりくらいはできないとねえ、という考えはない。最低これくらいは誰でもできるでしょ、とは思わないのである。

さとり世代は、バブル世代である親から見ると無欲でさとりを開いているみたいに見えるから。バブル世代が20代のころは、高級車を買うとか、みんなでテニスやスキーに行くとか、クリスマスイブに湾岸のホテルを予約して、レストランでフランス料理を食べるとかの派手な消費生活を送っていた人も多いので、自分の子どもを見て驚くらしいのだ。

たしかにバブル世代とくらべれば、さとっているとも言えるだろう。

だが、三菱総合研究所「生活者市場予測システム」(以下「mif」)によると、平成世代が特に意欲がないとか、消費をしないと言い切れるデータはあまりない。

たとえば「金持ちになり、高級品を持ちたい」人は「とてもそう思う」「そう思う」の合計で平成世代は39%おり(男女計)、氷河期世代の34%より多いし、バブル世代の28%よりかなり多い(図表1)。

3世代別・上昇志向型の価値観の比較

「人生の勝ち組になりたい」も平成世代は51%であり、氷河期世代の41%やバブル世代の34%よりかなり多い。

■年齢の上昇と共に社会経済的地位の上昇意欲は減る

世代ではなく年齢の問題かもしれないと考えて、mifで2011年から19年の20代の意識の変化を見ると、「人生の勝ち組になりたい」「金持ちになり、高級品を持ちたい」人はほぼ横ばいであり、減少はしていない。平成世代に社会経済的地位の上昇意欲がないとは言えないのだ。

むしろ年齢が上昇するにつれて、そうした社会経済的地位の上昇意欲が減退するのである。氷河期世代について11年から19年までの変化を見ると、「人生の勝ち組になりたい」「金持ちになり、高級品を持ちたい」人は、「とてもそう思う」「そう思う」ともに減少している。特に「人生の勝ち組になりたい」人は、27~38歳だった11年は52%で、19年に20~30歳である平成世代と同じだ。しかし氷河期の2019年は41%と大きく減少している。つまり氷河期世代は年齢の上昇と共に社会経済的地位の上昇意欲を失ってきたと言えるのである。

このように社会経済的地位の上昇意欲は、若いときは高いが年をとるにつれて低下すると考えるべきであり、特に平成世代が上昇意欲が低いとは言えないようである。

また「欲しいモノがすぐに思い浮かぶ」かという問いに対して「とてもそう思う」人は平成世代(男女計)では17%、氷河期世代では13%、バブル世代では9%であり、若い人ほど欲しいモノが思い浮かぶ傾向がある(図表2)。

3世代別・消費意欲の比較

若いから欲しいモノをまだ買えておらず、だから欲しいモノが思い浮かぶのは当然なのだが、とにかく平成世代に物欲がないとは言えないのである。

■行きたい旅行先がすぐに思い浮かぶ

モノ消費ではなくコト消費の時代だとも言われるが、コト消費の典型である観光について、「行きたい『旅行先』がすぐに思い浮かぶ」かを聞いた質問では、「とてもそう思う」人は平成世代では20%であり、氷河期世代やバブル世代より多い。

特に平成女性では25%とそれが顕著であり、氷河期女性の20%、バブル女性の19%より多い。結婚、出産で旅行に行きにくくなるという思いがある女性は、若いときに行きたい旅行先が浮かびやすいのであろう。

このようにモノ消費についてもコト消費についても平成世代に欲がないとは言い切れない。

データは古いが17歳の高校生を2001年から13年まで調査したところ、「高い地位につく」「高い収入を得る」「競争に勝利する」という回答は増えているという研究もある(多田隈翔一「物の豊かさを求める高校生」、友枝敏雄編『リスク社会を生きる若者たち』大阪大学出版会、2015)。01年の17歳は1984年生まれであり13年の17歳は96年生まれだから、氷河期世代の最後と平成世代の後半という年齢差がある。その過程で社会経済的地位の上昇志向が高まったらしいのである。

■欲しいモノはあるが中古でもよい

三浦展『コロナが加速する格差消費 分断される階層の真実』(朝日新書)
三浦展『コロナが加速する格差消費 分断される階層の真実』(朝日新書)

ただし、平成世代が何が欲しいか、どんなことがしたいかは、産業界の人々の思惑と異なっている可能性は十分ある。産業界としてはマイカー、マイホーム、ファッションなどを買ってほしいが、平成世代はゲームを買いたいだけかもしれないからである。

それから、欲しいモノはあっても、中古品を買う人が増えたり、ネットで買う人が増えたりしたので、新品を既存の業態の店舗で買う人が減ったことは言うまでもない。また古着も中古車も中古住宅も人気が増大している。

旅行会社は、パリやローマに旅行してほしいが、平成世代が行きたいのはウズベキスタンかもしれないのである。

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三浦 展(みうら・あつし)
社会デザイン研究者/カルチャースタディーズ研究所代表
1958年生まれ。82年、パルコ入社。86年からマーケティング誌『アクロス』編集長。三菱総合研究所を経て99年、カルチャースタディーズ研究所設立。消費社会研究家として消費・都市・社会を予測、大手企業や都市・住宅政策などへの助言を行う。

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(社会デザイン研究者/カルチャースタディーズ研究所代表 三浦 展)

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