野村HD・CEO「テレワークで見えた、コロナ時代の営業の課題」
プレジデントオンライン / 2020年9月24日 9時15分
■新規開拓できない営業マンの苦悩
政府の緊急事態宣言を受けて、われわれのビジネスにおけるコミュニケーションも、対面から非対面への切り替えが進みました。グループ傘下の野村證券でも、約1カ月間にわたり、国内の全支店で店頭業務を休止するなどの影響が出ました。
ただ実際にやってみると、思ったよりもスムーズに非対面へ移行できたというのが率直な感想です。もともと証券会社は株式の注文を電話やオンラインで受けることも多く、既存のお客様とのコミュニケーションはこれまでもデジタルを活用した非対面を取り入れていました。実は支店窓口への来客数も銀行に比べてそれほど多くありません。ですので、お客様への影響は限定的だったと思います。
むしろコロナショックによってマーケットがかなり動いたので、お客様からの非対面でのお問い合わせや注文、口座開設の申し込みなどは、想定より多かったほどです。
とはいえ、非対面の課題も見えてきました。法人や機関投資家への営業はテレビ会議システムで以前と変わらず商談ができますが、個人のお客様はこうした環境が整っていないケースも少なくありません。また、オンラインにおける情報管理は課題として残っています。
さらに難しいのが、新規のお客様の開拓です。既存のお客様なら電話番号やメールアドレスがわかりますが、非対面の営業で新しいお客様との接点をつくるのはそう簡単ではありません。紹介などで連絡先は入手できても、初めての会話が電話やオンラインの場合、すぐに打ち解けて話が弾むといった状況にはなりにくいでしょう。新規開拓の戦略についても、これから考えていく必要があります。
■欧米は現在もほぼ100%が在宅勤務
新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、社員の働き方も変わりました。在宅勤務の範囲を拡大し、その割合は緊急事態宣言下で本社勤務の7~8割、部署によっては9割に達しました。現在も約5割が在宅勤務を継続しています。海外は、ニューヨークやロンドンを含め、欧米は現在もほぼ100%が在宅勤務です(注:取材は2020年7月初め)。
野村HDでは、コロナ以前からオンライン業務を円滑に実施するためのデジタルプラットフォームを準備してきたので、在宅勤務への移行も速やかに実施できました。例えばトレーダーには、会社で使用するのと同じハイスペックなパソコンを自宅に届けて、本社のトレーディングルームと変わらないシステム環境を提供しています。どうしても在宅では難しい業務を担当する社員のみ出社とし、その場合もBCP(業務継続計画)サイトとして設けた別のオフィスに人員を分散しました。これらの対応は、感染防止策として現在も継続中です。
対面から非対面へ、出社からリモートワークへといった流れは、もはや不可逆的です。私はこれをポジティブに捉え、今回の変化を利用してわれわれの組織をさらに進化させたいと考えています。すでに営業部門、ホールセール部門やコーポレート部門などの各ラインを巻き込んだプロジェクトチームを立ち上げ、新しいビジネスのあり方や仕事の進め方を議論しています。
先日も各部門のヘッドとオンラインで話し合いましたが、「承認プロセスを見直してハンコが必要な書類を極力減らすべきだ」「定期券代の支給を廃止して出社ごとに交通費を精算する制度にし、その代わり新幹線の利用や遠方への移住を認めてはどうか」といったさまざまな意見が出されました。
また、国内の営業店舗のスペースの縮小も視野に入れています。これまでは大きなホールを備えた支店を持ち、そこにお客様を招いて株式などのセミナーを開催していましたが、新しい生活様式にシフトしていく中で大勢を一カ所に集めることは避けなくてはいけない。そこで、セミナーをオンライン中心に切り替え、店舗の効率化を進めることも選択肢に入ってきます。
■ロックダウンで独身社員に異変が
仕事のやり方や働き方が変われば、コミュニケーションも変わります。緊急事態宣言が出された直後、私は社員たちにメールを送り、「これまで以上に丁寧なコミュニケーションが大事になる」とメッセージを発信しました。これはお客様に対してはもちろん、社内に対しても同様です。お互いに直接顔を合わせる機会が減るからこそ、相手のことを考え、優しさを持って接することが重要になります。
私がそれを痛感したのは、日本より先に米国と欧州で新型コロナウイルスの感染が拡大し、海外の主要都市でロックダウンが始まったときです。そこで何が起こったかというと、現地で働く一部の社員たちが孤独な状態に置かれてしまった。特に独身の社員の場合は、たった1人で何週間も自宅に閉じこもり、人と話すのは電話やオンラインだけという状況が続いたため、精神状態がネガティブなほうに向かうことが多く、仕事のパフォーマンスが落ちる懸念がありました。
そこで私はグローバルの社長に対して、コミュニケーションの頻度を上げるように伝えました。例えばイタリアのチームでは、毎日9時や11時など奇数の時間が来るごとに電話かオンラインでメンバー同士がコミュニケーションを取るようにしました。それくらい頻繁に会話し、自分が誰かとつながっていると確認できれば、孤独感を深めるのを回避できます。
私自身が非対面の会話で心がけているのは、相手の理解度を確認しながら話を進めることです。オンラインになると対面のときは目線などで感じる相手の「OK」もしくは「わからない」のサインに気づけないことが多い。だからこそ画面越しに「OKですか?」「大丈夫ですか?」と、頻度を高く、1分の間でも何度も確認を取りながら話を進めることを意識してやっています。こちらが話したことが正しく伝わっているかを一つ一つ確認しないと、お互いの認識にズレが生じるリスクがあるからです。
社員たちも大きな変化の中で、新たなコミュニケーションを模索しています。海外の社員はお客様のご自宅にワインをお送りし、それを飲んでいただきながらのオンライン飲み会で親睦を深めたりと、それぞれに工夫しているようです。
これからも組織全体がスピード感を持って新しい時代に対応していけるよう、経営トップとして改革をリードするのが私の使命です。
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1963年、埼玉県出身。87年、慶應義塾大学経済学部卒業後、野村證券へ入社。2007年野村HD経営企画部長。10年野村證券執行役員、18年野村HDグループCo-COO、19年執行役副社長、20年4月より現職。
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(野村HD グループCEO 奥田 健太郎 構成=塚田有香 撮影=門間新弥)
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