堀江貴文「スペースXに負けない、宇宙ビジネスの戦略を語ります」
プレジデントオンライン / 2020年9月25日 15時15分
■僕らのロケットはスペースXと違う
【三戸】宇宙ビジネスのビッグニュースといえば、2020年5月にアメリカの宇宙開発企業・スペースⅩの宇宙船「クルードラゴン」が2人の宇宙飛行士を乗せて、ファルコン9ロケットによって打ち上げられました。民間企業初の宇宙ステーションへの有人宇宙飛行でしたね。
【堀江】有人宇宙飛行の話をするには、まずスペースシャトルから話さないとね。スペースシャトルはNASAが2011年まで打ち上げていた有人宇宙船で、世間ではスペースシャトルは夢のロケットみたいなイメージがあると思うけど、あれは間違いなく失敗。スペースシャトルは政治的な妥協の産物です。
【三戸】どういうことですか。
【堀江】人類を月面着陸させる「アポロ計画」ってあったでしょ。ICBM(大陸間弾道ミサイル)とロケットは、構造がほとんど同じで、まずソ連が開発してシベリアに落として、アメリカを核ミサイル攻撃できることを示した。衝撃を受けたアメリカもアポロ計画を打ち出して宇宙開発をした。安定的にロケットの打ち上げができることが、軍事力を測るバロメーターになるからです。本当は月に行っても意味がないんだけど、政治的にそうなった。
【稲川】ロケット開発は、象徴というか、わかりやすさが大事ですからね。
■急速に宇宙開発への興味を失います
【堀江】そうそう。それで1969年に、アポロ11号で月に初めて人間が行って、アメリカが勝った。ただ、アメリカ国民はその後、急速に宇宙開発への興味を失います。それで困るのは雇用。アポロ計画は正義の公共事業で、開発拠点のテキサス州ヒューストンとか、打ち上げ基地のあるフロリダ州で、関連も含めて20万~30万人くらいの雇用があった。計画が終わって、これがなくなると大変なことになる。
【稲川】実際、アポロは17号で終わっていますね。20号まで計画されていたけど、キャンセルされた。
【堀江】そこで、テキサス州やフロリダ州の議員たちが雇用を守るためにひねり出した案が、スペースシャトルだった。もちろん新しい計画は、国民の支持がなければ始められない。だから、翼をつけて飛行機型にした。アポロみたいな古臭い宇宙船じゃなくて、今度は飛行機型で、離陸・着陸ができます、かっこいいでしょ、というわけです。でも、飛行機型では、なかなか宇宙に行けない。おそらく今の技術だって難しいですよ。
【三戸】どうしてですか?
【堀江】ロケットは重くて、ロケットが1段しかない単段式では打ち上げが非常に難しいんです。ツィオルコフスキーの公式で計算すると、ロケットを2段式とか3段式の複数段にして、途中で燃料タンクを捨てて軽くしないと宇宙まで行けない。スペースシャトルはかっこつけて飛行機型の単段式にしたから当然、無理です。
それでどうしたかというと、大きな外部燃料タンクを追加(増槽)したわけです。ただ、増槽するとまた重くなるから、もともとのメインエンジンだけでは打ち上がらない。だから、ロケットブースター(補助推進装置)をさらに2本つけた。
【三戸】スペースシャトルの打ち上げの映像を見てみると、ゴチャゴチャついていますよね。
【稲川】荷物と人間を一緒に飛ばす設計もよくありませんでしたね。ただでさえ人間を飛ばすときの安全基準は、非常に厳しい。ところが、スペースシャトルは荷物と人間が一緒になっていて、十分な脱出装置もついていない。全部の安全基準を人間に寄せなくてはいけないから、とにかくお金がかかる。
【堀江】再利用型だから安く済みますというのも間違い。飛ばせば毎回エンジンのオーバーホール(分解、部品交換、洗浄)が必要だし、再利用のために全部耐熱タイルで覆いましたが、割れやすいから点検も必要になる。でも、コロンビア号は耐熱タイルが剥がれていたことが原因で空中分解して、乗員7人が亡くなりましたね。政治的な妥協の産物であることが、すべて悪く影響しちゃった。話が長くなったけど、これがスペースシャトルの失敗です。
【三戸】それと比べると、同じ有人でもスペースXはうまくやっている?
【堀江】スペースXは民間企業だから人気取りをする必要はないよね。
【三戸】でも、スペースXのファルコン9ロケットも、第1段ロケットは打ち上げたらエンジンを逆噴射して地上に帰還させて、再利用していますよね?
【堀江】再利用すると、帰ってくるときも燃料が必要で、1~2割は余計に積まないといけない。エンジンの再整備も必要。僕らの計算だと、いくら再利用しても、コストは大して安くならないね。
【稲川】はい、スペースXは、第1段ロケット再利用の実用化以前から、安くて利益率の高いロケットを開発していました。だから再利用しようがしまいが、コスト削減効果はあまりない。
【三戸】じゃあ、どうして再利用するんでしょうか。
【堀江】宇宙開発関係者たちは、火星に着陸するときに必要な技術を磨くためだって言っているね。火星は地球の100分の1くらいしか大気密度がないから、着陸が難しいんです。地球ならパラシュートを開いて、空気抵抗で速度を落とせるけど、火星は大気が薄いから、最後は逆噴射して制御するしかない。再利用と言っているけど、それはただの方便で、目的は別にある。
【三戸】インターステラテクノロジズ(以下IST)のロケットは、再利用は考えてないんですよね?
【堀江】再利用するとよくないことがいっぱい起こる。ロケットの部品はめちゃくちゃ繊細で、ギリギリの安全率で作られているから、再利用なんて怖くてできないよ。
【稲川】何回も使えるようにしようと思うと、それだけ重くなりますしね。
【堀江】それに再利用すると、旧式のものを使い続けることになるから、バージョンアップがしづらいんですよ。逆に、使い捨ては新しいバージョンを試しやすいし、一回使えればいいから軽くできるし、何度も作るから量産効果が出てきてコストも下がる。おそらく再利用型よりも使い捨て型のほうが強くなる。だからISTは使い捨てです。
■世界に勝負できる戦略がある
【三戸】20年3月に米国破産法第11章を申請したワンウェブのことはどう見ていますか。衛星コンステレーション(多数の衛星を統合して運用するシステム)を使った衛星通信計画で注目されていましたが……。
【堀江】ワンウェブは、勝ち目ないよなあ。スペースXのスターリンクが出てきた時点で負け。スターリンクは、スペースXの衛星コンステレーション計画のことだけど、現時点でスペースXに勝てる会社はありません。ワンウェブは自前のロケットを持っていないけど、スペースXは自前のロケットがあるから他社より安く衛星を打ち上げられる。
【三戸】ISTは、衛星コンステレーションを狙わないんですか。
【堀江】狙います。僕らのロケットの構想を進めてくれたJAXAの野田篤司さんという人がいてね。野田さんは本当に先進的な考えを持っていて、何年も前から超々小型衛星のフォーメーションフライトというコンセプトに取り組んでいます。それを一緒にできたらいいなと。JAXAは日本の税金でつくられているから、日本企業に対して優先的に供与するはずです。
【三戸】フォーメーションフライトって何ですか。
■超々小型衛星を何百基って一緒に宇宙に打ち上げる
【堀江】カプセル玩具ってあるじゃん。カプセルに小さなおもちゃが入っている。あのサイズぐらいの超々小型衛星を何百基って一緒に宇宙に打ち上げるんです。小さな一基には、それぞれアンテナ装置と電磁石が入っていて、宇宙に行くと電磁石で自律的に距離を取って、アンテナのような形に広がっていく。
【三戸】傘みたいな感じ?
【堀江】傘は面が埋まっていますけど、これは点で広がります。電波は、その電波の波長の半分以下の距離ならキャッチできます。たとえば波長1メートルの電波をキャッチしようと思ったら、50センチ以下の距離を取りながら1000基の衛星を並べたら、超巨大なアンテナを作れるわけ。
【三戸】これができると、何ができるようになるんですか。
【堀江】ブロードバンド通信の容量は、「電力×地上局の大きさ×宇宙局の大きさ」で決まるんですよ。宇宙局が超巨大な半径1キロのアンテナだったとしたら、結構な容量のブロードバンド通信ができる。その研究開発を、今JAXAの野田さんがやっています。
【稲川】いろいろ課題はあって、もちろん簡単にはできないのですが、技術的に不可能ではない。ISTとしても、ぜひ組みたい。
【堀江】超々小型衛星1000基ならおそらく100キロくらいで、それなら、うちのロケットで打ち上げられます。それをいくつも打ち上げていけば、世界中でブロードバンド通信ができる。しかも、スペースXのスターリンクより、ぜんぜん安くできる。安くて大容量のデータ通信ができたら、スペースXにも勝てますよ。
さらに、それで終わりじゃないんです。アンテナを地上に向けたら通信ビジネスの話になりますが、最後はこれを宇宙に向けますから。同じ仕組みで、半径数キロの超巨大望遠鏡を宇宙に送って、隣の恒星系に向けるとどうなるか。
【三戸】ひょっとしたら宇宙人が見えるかもしれない?
■それって夢があるでしょ
【堀江】それはわからないけれども、隣の恒星系にある地球型の惑星を直接観測して、海と陸地があるかどうかぐらいはわかりますよ。それって夢があるでしょ。
【三戸】夢を実現するために、ISTもパワーアップしなくちゃいけませんね。何が必要ですか。
【稲川】まず人材ですね。エンジニアはもっとほしい。ロケットにはターボポンプとかエンジンとか難しい部品があって、それらを軽量化する構造を作れるエンジニアがほしいです。実は、それは宇宙をやっているエンジニアに限らなくていいんです。たとえば、ターボポンプは自動車のターボチャージャーという機械にすごく近いし、ロケットエンジンは飛行機のジェットエンジンに近い。だから、自動車や飛行機とか、宇宙以外の業界から来てもらっても即戦力です。
【堀江】今来たら、まずロケットエンジンの新規製作に関われますよ。さらに、さっきの超巨大アンテナみたいな世界初のことに関われる可能性が高い。そういう職場は、なかなかないと思う。
【三戸】資金はどうですか。
【稲川】エクイティ(株式資本)は当然募集しています。それ以外にも、個人でも企業でも、IST本社がある北海道の大樹町にふるさと納税すると、それがロケットの発射場の整備に使われる枠組みを大樹町につくってもらいました。これは画期的だと思います。
さらに企業が自分のペイロード(荷物)を、リーズナブルな価格で宇宙に運べる広告の仕組みもあります。最初に利用していただいたのはレストラン。ハンバーグを運んで、お店では「宇宙に行ったハンバーグ」と銘打って提供しているそうです。あとはロケットの火でお菓子を焼いたり、日本酒を燃料にしたり。いろいろ利用していただいています。
【三戸】クラウドファンディングもやっていますよね。
【稲川】最近の5号機はゴールデンウィークの延期のときに募集しましたが、2400人の方から4000万円集まりました。すごくありがたい。
【堀江】一回見にきてほしいですよね。今は人や機械が増えて、秘密基地感が満載です。きっと一緒に夢を見たくなりますよ。
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インターステラテクノロジズ 社外取締役
日本創生投資代表取締役CEO。中小企業Takahiro Inagawaに対する事業再生・事業承継に関するバイアウト投資を行っている。近著に『営業はいらない』など著書多数。
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インターステラテクノロジズ ファウンダー
実業家。元ライブドア代表取締役CEO、SNSmedia&consultingファウンダー。近著に『ゼロからはじめる力 空想を現実化する僕らの方法』など著書多数。
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インターステラテクノロジズ 代表取締役
2013年東京工業大学大学院機械物理工学専攻修了。ニコンへの就職が決まっていたが、堀江貴文氏が、説得に訪れ、内定を辞退して、同社に入社した。
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(インターステラテクノロジズ 社外取締役 三戸 政和、インターステラテクノロジズ ファウンダー 堀江 貴文、インターステラテクノロジズ 代表取締役 稲川 貴大 構成=村上 敬 撮影=的野弘路)
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