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中国から突然届く「ナゾの種子」を、なぜ中国政府は野放しにしているのか

プレジデントオンライン / 2020年8月21日 18時15分

東京都渋谷区内に届いた白い袋と、入っていた種のようなもの(写真提供=農林水産省)

■北海道から沖縄県まで全国各地で届け出が続々と

この連載では各紙の社説を読み比べている。いつものように社説を読んでいると、8月14日付の産経新聞の社説(主張)の書き出しのが目にとまった。

「中国が発送元とみられる正体不明の種子が入った郵便物が、日本各地に届いている」

中国嫌いの産経社説がまた中国を酷評しているのか。そう思って見出しを見ると、「正体不明の種子 国は実態把握と解明急げ」とある。気になって読み進むと、「病害虫が付着しているかもしれない。心当たりのない種子が届いた場合は、庭や植木鉢に植えたり捨てたりせず、最寄りの農林水産省植物防疫所に相談してほしい」と読者に呼びかけている。

農水省によると、「ナゾの種が自宅に届いた」と北海道から沖縄県まで全国各地の植物防疫所に計約700件も、不安の声や相談、苦情が出されている。

■一体だれが、どんな意図で送りつけているのか

産経社説は「植物防疫官の検査を受けないまま、怪しげな種子の国内侵入を許してしまっている現状を放置するわけにもいかない」と書いたうえで、新聞社の社説らしく政府にもこう求めていた。

「政府が実態把握と種子の分析を急がねばならぬのは当然だ」
「中国など関係国への照会のほか、税関や地方自治体と情報共有に努め、国民への注意喚起を徹底してもらいたい」

頼んでもいないのに種子が届くというのはうす気味悪い。政府には徹底的に調査してもらいたい。このまま数が増えれば、犯罪といっても差し支えないだろう。一体だれが、どんな意図で送りつけているのだろうか。

この正体不明の種子は、日本だけではなく海外でも「中国郵政」(郵政や金融の業務を扱う中国の国有企業)との送り状が貼られた郵便物が相次いで届けられている。アメリカの農務省は、種子が国内に存在しない外来種である恐れや付着した害虫や病原体が蔓延するリスクを懸念し、「栽培しないでください」と強く呼び掛けている。

■送付の目的は「ブラッシング詐欺」である可能性が強い

米紙ウォールストリート・ジャーナルの電子版によると、7月下旬以降、これまでにアメリカの22州と、イギリス、カナダなどで数百人に種子入りの不審な郵便物が届いている。種子はこれまでにコスモス、アサガオ、ヒマワリ、アブラナ、キャベツ、カラシ、バラ、ハスなど10種類以上が確認されている。

封筒には「宝石」「ネックレス」「指輪」などと記載され、「種子」とは書かれていない。中国で使われているバーコードも印刷されていることなどから、アメリカ政府は中国から送付されている可能性が強いとみている。

アメリカの農務省は送付の目的について、「『ブラッシング詐欺』だ。入手した証拠類から判断して間違いない」と発表している。

ブラッシング詐欺とは、通販サイトの販売主が高評価を集めるために行う架空注文のことである。犯人はまず、個人情報を入手して購入者になりすます。そのうえで販売主は犯人に架空の注文をさせ、商品に高評価を付けさせる。ただし、高評価が掲載されるには、実際に何らかの商品を購入者に送ってサイト管理者を欺く必要がある。そこで安価な種子を送るのだ。

■中国政府の言うことは疑ってかからないと相手にしていられない

これまでの報道によると、郵便パッケージは白いビニール製で、大きさはハガキぐらい。受取人の名前、郵便番号、住所、電話番号が記載されているが、送り主の名前や住所はない。送り主の欄には、中国の国有企業「中国郵政」と「広東省深圳市」とも書かれ、さらに使われていない「電話番号」も記載されている。

身に覚えのない中国の業者から突然、封筒が届き、そこからは種子の入った小さなビニール袋が出てくる。「もしかしたら毒物かもしれない」と不安になるし、「なぜ私の名前や住所が分かるの」と気持ち悪くもなる。

中国政府は「中国郵政」の文字は偽造されたもので、ほかにも誤りがあるとしている。正規のルートで中国から届いている郵便物ではないというのだが、本当だろうか。

産経社説がそうであるように、中国政府の言うことはどうしても疑ってしまう。いや、疑ってかからないと中国という国など相手にしていられない。

■役人たちがワイロほしさに深く関与しているのではないか

一党独裁の中国で個人が日本をはじめとする海外に多くの郵便物を送るにはそれなりの手続きがいる。ましてや、表書きの中身と違う種子を発送するわけだから当局の目をうまくすり抜ける必要がある。しかも植物の種子の場合、相手国の植物防疫法に抵触する恐れもあり、個人や民間業者だけではなかなかできないだろう。

仮に中国の中央政府が知らなくとも、数が多く海外のあっちこっちに送っているだけに、種子が発送された地方の政府は不審な郵便物だと気付くはずだ。中国はワイロ社会だ。ワイロを受け取った地方政府の役人が違法な行為を見て見ぬふりをして、そこから大きな犯罪が生まれることも珍しくはない。中央政府が黙認しているケースもある。

いずれにせよ、中国の中央政府や地方政府の役人たちがワイロほしさに深く関与している可能性が高いと、沙鴎一歩は考えている。

■注文した覚えもない受取人が不利益を被る可能性も否定できない

それでは産経社説に戻ろう。産経社説は後半でこう指摘している。

「植物防疫法の規定では、植物防疫官による検査を受けなければ種子などの植物は輸入できない。輸入時の検査に合格した場合、外装に合格証が押される。届け出のあった種子を入れた袋には、いずれも合格証はなかった」

沙鴎一歩は前述部分で「相手国の植物防疫法に抵触する恐れ」を指摘したが、日本の植物防疫法は未検査の植物が入った郵便物の受取人に届け出の義務を課している。注文した覚えもない受取人が不利益を被る可能性も否定できないのである。種子の入り郵便物を受け取ったら、すぐに植物防疫所に相談したほうがいい。

最後に産経社説は書く。

「種子を送り付けられた人は、通販サイトで商品を購入していなかったか。ネットショッピングは便利だが、落とし穴もある。名前や住所などの個人情報が第三者に漏れる可能性がある。クレジットカードの明細書に不審な点がないかを確認する注意も欠かせない」

不審な郵便物を受け取ったら要注意である。

社説は政治や経済、外交、防衛上の問題を取り上げて主張することが多い。だが、ときには私たちの生活に身近なこともテーマにして読者や行政、政府に訴えていくことも大切な役目だ。

その意味で「正体不明の種子」を取り上げた今回の産経社説はたいへん良かった。残念なのは、ざっと見たところ産経社説以外に「種子」を扱った社説がないことである。

なお読売新聞は8月19日付の1面コラム「編集手帳」で取り上げていたが、ぜひ社説でも書いてほしかった。

(ジャーナリスト 沙鴎 一歩)

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