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「食べ残すのが当たり前」そんな"廃棄前提おじさん"に習近平が怒っている

プレジデントオンライン / 2020年8月25日 15時15分

筆者が参加した杭州市でのホームパーティー。この後も多くの料理が振る舞われた - 写真=筆者撮影

■「旅館の料理が多すぎる」投稿が議論になったが…

8月中旬、ツイッター上で「廃棄前提おじさん」というワードがトレンド入りしたことを記憶している人もいるだろう。ある男性が温泉旅館で出された料理について「多すぎて食べきれない(廃棄前提としか思えないし、実際にかなりの廃棄が出ているはず)」とつぶやき、それをきっかけに賛否両論が巻き起こったのだ。

偶然だが、ほぼ同時期、中国でも食品廃棄問題がホットトピックになった。習近平国家主席は2013年の主席就任時から倹約の方針を打ち出していたが、このたび改めて「光盤(皿を空にする)運動」を呼び掛けたのだ。中国には、多めの料理で相手をもてなすという伝統的な文化や習慣があるが、「食べ残しがあまりに多すぎる」ことに業を煮やし、大号令を掛けた。

これにより、人数分よりも1品少なく注文したり、レストランで半分の量を提供したりすることを推奨するという、かつてない動きが起きている。また、中国で人気のTikTokなどの動画アプリでは大食いの動画が大流行していたが、政府は大食いの投稿を禁止すると発表した。米中の貿易摩擦が激しくなるなか、政府は国内の食料不足を懸念しているのだ。

だが、こうした食料廃棄の問題と少し話がそれるかもしれないが、私が見たところ、ここ数年、中国人の食生活は驚くべき勢いで変化していると感じる。中国人について、ある程度知識のある人ならば、「中国人は(漢方の考え方から)冷たい飲み物を飲まないものだ」「中国人は(何でも火を通して食べるので)生野菜は食べないものだ」と思っているかもしれないが、近年、大都市の人々は冷たい飲み物を飲むようになってきているし、生野菜も食べるようになってきている。

■「冷たいジュースも飲むの?」と聞いてみると

むろん、食べ物は個人の嗜好によるところが大きく、一概にはいえないが、それにしても、「過去の常識」にとらわれて中国を見ていると、あまりの変化のスピードに驚かされることが増えてきている。

2019年夏、上海で友人とランチを取っていたときだった。中華料理とともに、友人が甘いトロピカルジュースを注文したことがあった(日本では、中華料理のランチを食べる際、一般的に中国茶か水を一緒に飲むことが多いと思うが、中国のレストランではお茶は料金が高いので、甘いジュース類を注文する人もけっこう多い)。そのとき友人が店員に「氷多めでお願いね」と付け加えたのを見て驚いたのだ。

これ以前にも、ジューススタンドやタピオカ専門店などのメニュー表には「甘さ」や「氷の量」などの項目があり「控えめ」「多め」など自由に選べるようになっていたのは知っていたのだが、それは若者の間にカフェ文化が浸透してきているから、だと思っていた。

しかし、トロピカルジュースを注文したのは40代の女性で、特にトレンドに敏感という人ではなかったからだ。思わず、その友人に「冷たいジュースも飲むの?」と聞いてみたところ、「だって、冷たいほうがおいしいじゃない?」と返されたのだ。

■旅行ブームで海外の文化がどんどん入っている

その女性とはデリバリーの話題にもなった。中国がデリバリー大国となっているのは、多くの読者が知っていると思うが、デリバリーで料理を注文する際、彼女は健康のため、必ず生野菜のサラダも一緒に注文しているという。彼女だけでなく、一緒にランチを取る同僚も同じだそうで、「同僚とどのドレッシングがいちばんおいしいか、いろいろ試しているんですよ」と話していた。私はこれまで、中国人は食に対しては比較的「保守的」ではないか、と勝手に思い込んでいただけに、このエピソードを聞いて、自分の認識を改めた。

そのほかにも、「寿司や刺身を食べるときには、冷えた冷酒(日本酒)を合わせるのがいちばんおいしい」とか、「ランチはお気に入りのパン屋さんのバゲットと、自宅から持参した有機野菜のサラダ」などという声も聞いたことがあり、「一体どこの誰の話?」とびっくりさせられたのだ。

このように、特に都市部の人々の食生活が急激に変わってきた背景には、海外旅行で得た経験や、中国国内に持ち込まれた多様な料理の影響など、経済的な躍進からくる面が大きい。2014年ごろから、中国人の海外旅行は爆発的に増え、中国人は海外で、それまで食べたことのなかったさまざまな料理を食べる機会が増えた。その中で自分の口に合う料理を覚え、国内でそれが食べられるレストランに行ったり、自分でも作ってみたりするうちに、「中華料理以外の料理のおいしさ」にも目覚めるようになった。

■洋食店が増え、注文する量も限られてきた

日本、特に東京は世界中のおいしい料理が食べられるグルメな都市だ、というのはよく聞く話だが、ここ数年は上海などでも珍しいジャンルの料理店をよく見かけるようになった。同じく昨夏、20代の若者に「おいしいお店に連れていって」と頼んだところ、こじんまりとした、おしゃれなギリシャ料理店に案内してくれた。

何を注文したのかはもう覚えていないが、その若者は以前、ギリシャを一人旅したことがあり、そのときにおいしかったという、ギリシャの代表的な料理を3品ほど注文してくれた。2人での食事なので、3品あれば十分だった。

私は中国で、さまざまな中国人と一緒に食事をする機会があるが、改めて思い返してみると、ここ数年は、中華料理以外のジャンルの店に行く機会が圧倒的に増えたということに気づいた。私が日本から出かけているので、相手が気を遣って「上海料理と四川料理のどちらがいいか?」と聞いてくれることはあるが、私が何もいわなければ「イタリアンのおいしい店を見つけたが、そこはどうだろう?」などと聞いてくる。2人で洋食ならば自然と注文する量は限られる。

中華料理ならば、洋食のようなコースメニューになっていないし、単品でも量は多めになりがちだが、それでも習主席が指摘しているような、「食べきれないほどの料理」を注文したり、されたりした記憶はない。3人ならば人数分より1品多い4品が妥当なところだが、場合によっては5品くらい注文する。

■20人の宴会で40人前の料理が出ることも

だが、大人数での会食や宴会となると、少し状況が変わってくる。家族の誕生日や春節などのとき、中国では親戚も含めて10人以上で食事をすることが多いが、円卓を囲む料理なら、10人で11品ということはない。レストランによってコースメニューは変わるが、10人で15品か、あるいはもっと注文することもザラにある。品数が多すぎて、円卓に皿がのりきらず、半分食べた料理の皿の上に、別の皿を重ねてのせることもあるほどだ。

杭州市のレストランの様子。多いときは、まだ残っている皿の上に新たな料理がのった皿が置かれることも
写真=筆者撮影
杭州市のレストランの様子。多いときは、まだ残っている皿の上に新たな料理がのった皿が置かれることも - 写真=筆者撮影

2年くらい前に杭州の富裕層のホームパーティーに招待されたときは、20人くらいだったが、40人前くらいの料理が2つのテーブルに並べられていた。足りなければお客さまに申し訳ないという気持ちとメンツの両方があり、多めになってしまう。現在でも、宴会の場合は、地域に関わらず、このような習慣は色濃く残っている。

だが、ここ数年、私が体験してきたように、都市部に住む人々の少人数での食事ならば、食べきれないほどの料理を注文するという昔ながらの習慣は少しずつなくなり、合理的、かつ西洋化してきている。

■メンツ重視のスタイルはもう「カッコよくない」?

2013年から続く習主席の号令の効果が出ている、ということもあるだろうが、同時に、前述したように、中国人自身が海外でさまざまな見聞を広めた結果、食べきれないほどの大皿料理をテーブルに並べて「それ、どうだ」と自己満足するようなメンツ重視のスタイルを「カッコよくない」と思い始めているからだ。

しかし、もちろん、前述したように、すべての人が変わったわけではない。「量が多いことはいいことだ」「注文する料理が少なかったら、ケチだと思われるし、恥ずかしい」という意識も根強い。だからこそ、政府は「光盤(皿を空にする)運動」に取り組み、食べ物を粗末にすることを助長するような大食い動画を規制するまでになったのだが、大都市に住む一部の人々の間では、すでにここで紹介してきたような小さな変化が起こっている。

日本での「廃棄前提おじさん」のトピックを見て、思わず、「食べ残すのが当たり前」の中国で今、本当に起きている変化の兆しを思い出した。

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中島 恵(なかじま・けい)
フリージャーナリスト
山梨県生まれ。主に中国、東アジアの社会事情、経済事情などを雑誌・ネット等に執筆。著書は『なぜ中国人は財布を持たないのか』(日経プレミアシリーズ)、『爆買い後、彼らはどこに向かうのか』(プレジデント社)、『なぜ中国人は日本のトイレの虜になるのか』(中央公論新社)、『中国人は見ている。』『日本の「中国人」社会』(ともに、日経プレミアシリーズ)など多数。

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(フリージャーナリスト 中島 恵)

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