「体調不良で会社休むな」女性がほかの女性の「生理」に心底冷たいワケ
プレジデントオンライン / 2020年8月27日 9時15分
■日本人女性の約74%が「生理前のしんどさ」に苦しんでいる
東京大学医学部付属病院の医師・大須賀穣氏らの研究によると、日本人女性の約74%が、PMS(生理前症候群)やPMDD(月経前不快気分障害)といった月経随伴症状に苦しんでいるという(※)。
※出典:Tanaka E,Momoeda M,Osuga Y et al.Burden of menstrual symptoms in Japanese women;results from a survey-based study. journal of Medical Economics 2013;Vol 16, No 11:1255-1266
PMSやPMDDは月経随伴症状とも呼ばれ、男性だけでなく、女性でも知らない人が少なくない。一体どんな病気なのか。関東在住、20代半ばの会社員・山戸舞さん(仮名)の事例を紹介しよう。
■20代女性が生理前の心身の不調でボロボロになった事例
山戸さんは生理の2週間以上前から、以下のようなPMSやPMDDの心身の症状に悩まされ、ごく普通の日常生活を送るのにも苦しんでいる。
山戸さんは、以前、職場の女性上司からパワハラを受けた。それにより、とりわけ生理前に自分の体調や感情をコントロールすることができなくなってしまった。
そこで最初に婦人科を受診。婦人科医は、これまでの経緯を聞き、親身に相談に乗り、PMDDと診断。「生理前にこのような症状で苦しんでいる人は、あなただけではない」と言ってピルを処方し、精神的症状の改善に精神科受診を勧めた。
精神科へ行くと、やはり医師はPMDDと診断し、「基本的にPMDDはピルでは改善は見られにくい」とのことで、抗うつ薬のSSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)を処方した。
山戸さんの場合、ピルはPMDDの症状には効かなかったが、生理不順になりやすい体質だったため、生理をコントロールするために処方され、服用を続けている。漢方薬もいくつか試したが、五苓散がむくみや頭痛に効いた以外は、効果が得られなかった。
精神科で処方されたSSRIは、不安やパニックに効いたが、現在はのんでいない。山戸さんは、PMDDの原因は仕事によるストレスだと考えており、「精神薬に頼ってまで続けなくてはならない仕事なのか?」という疑問が湧き、仕事を辞めたからだ。
仕事を辞めてからほぼ1年経ち、山戸さんはかなり体調が安定した。しかし、現在でも生理前になると、過去に「そんなこと女性なら誰でも我慢している」「自己管理できないあなたがおかしい」などと言われた記憶が重くのしかかってきて、精神的に押し潰されてしまう。山戸さんが最もつらいと感じるのは、「自分のつらさを理解してもらえないとき」で、中でも「同じ女性から理解を得られないとき」だと話す。
■生理のある女性でさえ知らない「月経随伴症状」の症状
PMSとPMDDはいずれも「月経随伴症状」と呼ばれるが、その症状は異なる。
PMS(PreMenstrual Syndrome・生理前症候群)は、月経開始の3〜10日くらい前から始まる精神的・身体的症状で、月経開始とともに減退・消失する。70%ほどの女性が何らかの症状をもち、約6.5%の日本人女性が社会生活に影響がある中等症状以上との報告があり、治療対象となっている。
通常、ホルモン異常はなく、排卵を抑制するとPMSが発症しないことが確認されていることから、黄体ホルモンが誘因だといわれているが、また別の研究では、うつ状態を誘導する受容体である黄体ホルモンに対する感受性が高いために発症するという報告もある。PMSの原因はいろいろな説があり、まだ解明されていない。
一方、PMDD(PreMenstrual Dysphoric Disorder・月経前不快気分障害)は、発症はPMSと同じだが、PMSよりも精神症状が強く現れるのが特徴。日本人女性の約1.2%がPMDDという報告があり、PMS同様、治療対象となっている。
月経周期における発症時期はPMSと同じだが、焦燥感/不安感/脅迫感/自己喪失感/涙もろさなどの精神症状が強く、学業・仕事・家庭生活上、あるいは人間関係上、日常生活に支障をきたすものをいう。PMDDはPMSの重症例であり、情動関係の症状が前面に出た例ともいわれている。
■女性の生理前の苦しみに対峙した2人の男性の戸惑い
PMSやPMDDの苦しみを和らげるには周囲の理解が欠かせない。どのように対応すればいいのか。近くにPMS・PMDDと思われる女性がいた2人の男性の事例を紹介しよう。
■事例1.家庭の事例
夜23時近く。仕事から帰宅した40代会社員のAさんは、いつもより家の中が雑然としていることに気づく。専業主婦の妻は起きていたが、テレビを見ながらソファで横になり、動こうとしない。Aさんは、用意してあった夕飯を自分でテーブルに並べ、食べ始めた。
すると妻が突然、「冷蔵庫にサラダもあったでしょ? ちゃんと見てよ!」と声を荒らげる。
カチンときたAさんは、「気付かなかっただけだろ! こっちは疲れて帰ってきたのに、いつまでもダラダラしやがって!」と言ってしまい、けんかに発展……。
Aさんの妻は、いつもなら用意してあった夕飯を温めたりご飯をよそったりしてくれるが、月に数日はこんな調子だった。
■「体調不良で休むな」女性はほかの女性の生理に心底冷たい
■事例2.職場の事例
朝、50代会社員のBさんは、女性の部下たちに囲まれる。
「Xさん、また休みなんですか? 毎月月末になると1〜2日休むの、迷惑なんです! B課長から注意してください!」
「体調不良、体調不良って、きっと生理だと思うんですけど、生理がつらいのは私たちだって一緒です!」
Bさんは部下たちをなだめ、その場を収める。翌朝、Bさんは出勤したXさんに声をかけた。
「Xさん、毎月月末に休まれると困るんだ。自分の体調管理も社会人として立派な仕事だぞ!」
「すみません。来月は休まないように気をつけます……」
Xさんはうつむいたまま消え入りそうな声で言った。
■女性が女性に「みな我慢している」「体調管理できない人がいけない」
もし、家族や部下が微熱や頭痛、腹痛などの不調を訴えたら、多くの人は優しく気遣うだろう。だが、PMS・PMDDは生理に関係するため、本人も頭痛、腹痛のように気軽につらさを訴えづらい。特に男性に対しては、言いよどんでしまう女性は少なくないだろう。
また、生理があるからといって、すべての女性がPMS・PMDDを知っているわけではない。かえって生理のある女性が「女性はみんな我慢している」「体調管理できないほうがいけない」など厳しいことを言ってしまうことがあり、本人はますますつらくなってしまうのだ。
そういう意味では、性別に関係なく、このPMS・PMDDに関する症状を「知ること」「伝えること」が重要だ。
もし、Aさん、BさんがPMS・PMDDのことを知っていたら?
もし、Aさんの妻やBさんの部下のXさんがPMS・PMDDのことを伝えていたら?
Aさんはつらそうな妻を気遣い、けんかにならなかったかもしれないし、BさんもBさんの部下たちもXさんを責めるのではなく、別のアプローチを選ぶことができたかもしれない。
もちろん、PMS・PMDDの女性がつらさや苦しさを伝える努力や、しかるべき治療を受けることも必要だ。
「PMS・PMDDかもしれない」と思ったときは、症状を下記のチェックシートで確認してみてほしい。これはPMS・PMDD向けの薬を製造しているバイエル薬品が、医療機関などで配布している冊子(※)に掲載しているものだ。
※「生理前カラダの調子やココロの状態が揺らぐ方へ PMS 月経前症候群」(監修:田坂慶一)
これまで知らなかったことを知るだけでも、言動に変化が表れ、家庭や職場の人間関係が円滑になるはず。月経前に以下のような症状で、日常生活に支障がある場合は、医師に相談してほしい。
■女性も男性も必読「PMS・PMDDのチェックシート」
【PMS 月経開始前5日間について】
□乳房の痛み
□頭痛
□お腹の張り
□手足のむくみ
<精神的な症状>
□抑うつ気分
□イライラ
□混乱
□怒りっぽくなる
□不安
□引きこもり
(解説)以上の項目に、過去3カ月以上連続して月経前5日間に少なくとも1つ以上の該当する場合や、月経開始後4日以内に症状が解消し、13日目まで再発しない場合、薬物療法やアルコール使用による症状ではない場合、社会的・経済的能力に明確な障害が認められる場合は、医師への相談してみましょう。
【PMDD 月経開始前1週間について】
●不安、緊張感、どうにもならない、がけっぷちなどの感情がある
●拒絶や批判に対する感受性が高くなったり、情緒的に不安定だったり、予測できなかったりする
●いらいらしたり、怒りっぽくなる
(解説)以上、4項目のうち、少なくとも1つに当てはまる〈4つすべてに当てはまる場合は、PMDDの可能性があるので、医師に相談してみましょう〉。
▼以下は、PMDDに象徴的ではないものの、PMDDの人が生理前に現れやすい症状
●物事に対する集中力が薄れている
●いつもより疲れているし、活動性が低い
●炭水化物を偏って摂取したり、あるものを食べ続けたりする
●睡眠過多だったり、睡眠不足だったりする
●限界感、自己喪失感がある
●月経前に以下の少なくとも2つの症状のために悩まされる
( )乳房痛・張った感じ
( )頭痛
( )関節または筋肉痛
( )ふわふわした感じ
( )体重増加
(解説)当てはまる項目の合計が、5つ以上になる場合や、当てはまる項目の大部分が月経開始後3日以内で消失する場合、上記の症状があるとき日常の活動が障害される場合は医師に相談してみましょう。
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ライター・グラフィックデザイナー
愛知県出身。印刷会社や広告代理店でグラフィックデザイナー、アートディレクターなどを務め、2015年に独立。グルメ・イベント記事や、葬儀・お墓・介護など終活に関する連載の執筆のほか、パンフレットやガイドブックなどの企画編集、グラフィックデザイン、イラスト制作などを行う。主な執筆媒体は、東洋経済オンライン「子育てと介護 ダブルケアの現実」、毎日新聞出版『サンデー毎日「完璧な終活」』、産経新聞出版『終活読本ソナエ』、日経BP 日経ARIA「今から始める『親』のこと」、朝日新聞出版『AERA.』、鎌倉新書『月刊「仏事」』、高齢者住宅新聞社『エルダリープレス』、インプレス「シニアガイド」など。
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(ライター・グラフィックデザイナー 旦木 瑞穂)
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