外資系エリートこそ陥りやすい「ストレスを認めない病」の怖さ
プレジデントオンライン / 2020年9月7日 9時15分
※本稿は、武神健之『外資系エリート1万人をみてきた産業医が教える メンタルが強い人の習慣』(PHP研究所)の一部を再編集したものです。
■ストレスを感じた時、どんな症状が出るか
人生も仕事も、思うようにはいかないものです。ときには想定外のストレスがかかり、どうにも対応が難しいということもあるでしょう。そんなときにはストレスを「重症化」させないことも大切です。そこで今回は、ストレスを重症化させないためにみなさんに知っておいてほしいことを紹介しておきます。
まずなんといっても大切なのは、自分のストレス症状をよく知っておくことです。
人は、自らにかかる負荷が自分の許容限度を超えていっぱいいっぱいになる、つまり「ストレス」を感じると、その反応が、心や身体、行動に症状として現れます。
このうち、本人にとって一番わかりやすいのは身体症状(不眠、食欲低下、頭痛やめまい、動悸や冷や汗など)で、わかりにくいのが精神症状(やる気が出ない、億劫、不安、イライラ、憂鬱など)。また、他人にわかりやすいのは行動に出る症状(お酒やタバコの増加、遅刻や早退、会話の減少など)です。
■「心の症状」が見逃される3つの理由
ストレスによる心の症状は、気づかれず、見逃されやすく、対処されにくいのが実情です。その理由は3つあります。
1つ目の理由として、「心の症状は、目に見えない」ということが挙げられます。他人の心の症状に気づくことは、目に見えないがゆえに難しいものです。また、自分の心の症状も、目に見えないため、気づきにくいと言えるでしょう。
自分の心の症状は、さらに2つ目以降の理由も加わり、より気づきにくいとされています。
2つ目の理由は、心の症状は、いきなり始まるわけではないということです。
例えば、ある朝、突然イライラが始まるわけではないですし、ある日突然、集中力がなくなるわけでもありません。
こうした症状は徐々に現れるため、本人は自覚しにくいのです。
多くの場合、心の症状に理解のあるカウンセラーや医師との問診の中で、「具体的にこんなことありませんか?」と聞かれ、気づかされるケースが多いです。しかし、その点に気づいたからといって、すぐに治療開始とはならずに、以下の3つ目の理由に続くことも多いのが実情です。
その3つ目の理由は、自分の心の症状そのものを認めたがらない、または、その原因を精神的なストレスによる心の症状(反応)だと認めたがらないという点が挙げられます。
これはエリートや有名企業の社員ほど強い傾向にあります。
だからこそ、家族や友人に心の症状を指摘してもらうか、もしくは産業医などに、実際に起こっている心の症状は「ストレスに由来する可能性もある」と指摘してもらうことが、とても大切なのです。
■肉体的な不調とストレスの見分け方
ストレス反応としての身体症状は分かりやすいです。しかし、全ての身体症状が必ずしもストレスによるものとは言いきれません。こうした症状は、ストレスのせいでなくても、肉体的な不調のせいで起こることも多々あります。
例えば20代の人に度重なる頭痛や腹痛が出れば、ストレス反応である可能性は高いと言えるでしょう。しかし、50代、60代の人が度重なる「頭痛」「腹痛」などの症状を自覚した時は、まずは病院に行って身体の病気がないか検査を受けるべきです。
年相応に見合った検査をして、それでも異常が見つからなければ、ストレスが原因と言えるかもしれません。
■まわりから見て「分かりやすい変化」がある
最後に、行動に出る症状ですが、職場でも家庭でも、まわりから見ていて、これは一番分かりやすい変化です。
例えば、以下のような症状が一般的です。
1.衝動買い
2.お酒やタバコの量が増える
3.過食や拒食
4.登校や出社拒否
5.ひきこもり
特に職場では、遅刻、早退、欠勤が増えたりします。集中力が低下してミスを多発したり、仕事の結果を出すのに時間がかかるため、時間外労働や休日出勤が増えたりします。また、ほうれんそう(報告、連絡、相談)が減ったり、職場での仲間との会話が少なくなったりすることもあります。
もしあなたが同僚のそのような変化に気づいた場合は、「ちょっといいですか? いつもと違いますが、どうかしましたか?」と声をかけてあげてください。
■原因不明の「眠れない」が週の半分以上あったら要注意
ストレスによる症状で難しいのが、「まだ、医者にかからなくてもいい症状なのか」「どの程度の症状があったら医者に行くべきなのか」の判断になります。実際、私の産業医面談で不調症状を訴える人のなかには、自分の症状が医者に行くべき症状なのかを聞きたくて来られる方が多くいらっしゃいます。
ここでは、大まかな判断基準になりますが、どの程度の症状のときに医者に行くことをお勧めしているか、お話したいと思います。
睡眠
毎日爆睡できるなら、問題はありません。また、たまに寝付けなかったり、夜中に目が覚める、あるいは早朝に目覚めるときがあっても、その原因が、「翌日の会議」や「苦手な人との打ち合わせ」「難しいプロジェクト」などとわかっているときは、喜ばしい状態ではありませんが、セーフです。
上記のような原因がなくなっても、または原因がわからないのに、満足のいく睡眠がとれず、翌日のパフォーマンスに影響が出ているのならば、医者に行くことを考えるべき段階です。
このような満足のいかない睡眠が週の半分以上あったり、合計しても4時間も眠れないことが2週間以上続く場合は、必ず医者に行ってください。
■「会社で就業中に涙」は医者に行くべき段階
朝の電車
朝、気分がのらなくても、通勤するためにいつもの電車に乗ることができるのであれば、問題ありません。
一方、駅にいるのに通勤電車をあえて遅らせてしまう、途中下車して何本かやり過ごしたりして出社時刻が遅くなってしまう、ただし遅刻まではしないという場合は、注意喚起の症状といえます。そろそろお医者さんの受診かカウンセリングを受けるべきか考慮すべき段階です。一方、実際に遅刻するようになり、またそれを上司や同僚に指摘されるのは、医療受診すべきレベルといえます。
会社での涙
メンタルヘルス不調の症状として比較的多いのが、「わけもなく涙が出てしまう」というものです。涙が出るのが、帰宅後や会社以外の場合、それは喜ばしくはないけれど、ある意味普通のことです。
ただ、会社で就業中に涙が出そうになり、席を外して気分転換すれば堪えられる、トイレまでは我慢できる、あるいは上司にいろいろ言われて泣いてしまったというケースは医療受診を考慮すべき段階といえます。
また、職場の自分の席で泣いてしまう、涙がこぼれてしまう、それを同僚に気づかれる場合、主治医と休職について相談するべきだと考えます。
■「いないはずの上司がいる気がする」は受診サイン
帰宅後
疲れのために一旦少し寝てしまうのは、誰にでもあることです。しかし、寝すぎてしまい、起きたら真夜中で、そこから食事をとったり、お風呂に入ったりと、生活リズムが崩れてしまうのは危険信号です。
また、ご家族と暮らす人の場合、ルーチンの家事ができなくなるようであれば、危険信号ですので、医療受診すべきでしょう。
予期症状がある
上司に叱られた日や仕事でいっぱいいっぱいな時に眠りづらかったり、気分が落ち込むのは、嬉しくないけれど普通のことです。誰でも、原因となるようなことが起こって、そのあとに症状が出るものなのです。
また、起こっていないけれども、起こる可能性が高い嫌なことがある時も、症状が出てしまうのも普通のことです。例えば、嫌な上司とのミーティングの前の日は眠りにくい、緊張度の高い仕事のある時は動悸がするなどです。
一方、原因が起こっていないにもかかわらず、症状が出てしまう場合、それはお医者さんに行くべきなのかもしれません。たとえば、苦手な上司が今日は休暇でいないとわかっているのに、上司が後ろに立っている気がして振り返ってしまうなどの症状がある時、それは医療受診のサインとも言えます。
■「自分のストレス症状」を知ることが重症化防止には大切
ストレスによる症状は人それぞれ異なりますが、一度出た症状は次も出る可能性が高く、自分自身に出てくる症状はたいてい決まっています。ですから、自らのストレス症状について知っておくことで、その症状が出たなら、いま自分にはストレスがかかっている、対処が必要だという自覚を持てるようになれます。そこでしっかりと早めにストレスに対処ができれば、重症化しないで済むことも少なくありません。
とはいえ、自分の状態を自分がいちばんよくわかっていない、ということも少なくありません。相談した相手や、かかりつけの医者に、「原因は精神的なことじゃない?」と言われたら、端から否定したりせず「そういうこともあるのかな」と思える余裕を持ち、立ち止まって考えることも、重症化を避けるための重要なポイントと言えます。
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医師
医学博士、日本医師会認定産業医。一般社団法人日本ストレスチェック協会代表理事。ドイツ銀行グループ、BNPパリバ、ムーディーズ、ソシエテジェネラル、アウディジャパン、BMWジャパン、テンプル大学日本校、アプラス、アドビージャパン、Wework Japanといった大手外資系企業を中心に、年間1000件以上の健康相談やストレス・メンタルヘルス相談を実施。働く人の「こころとからだ」の健康管理を手伝う。2014年6月には、一般社団法人日本ストレスチェック協会を設立し、「不安とストレスに上手に対処するための技術」、「落ち込まないための手法」などを説いている。著書に、『職場のストレスが消える コミュニケーションの教科書』や『不安やストレスに悩まされない人が身につけている7つの習慣』などがある。公式サイト
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(医師 武神 健之)
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