橋下徹「首相辞任を3時間でも早く報じようとするマスコミの非効率」
プレジデントオンライン / 2020年9月2日 11時15分
(略)
■記者たちよ、「お疲れ様でした」くらい言えねえのか!
安倍首相、7年8カ月という長期にわたって首相という重責を務められ、本当にお疲れ様でした。今後は、体調の回復に努めてください。
辞任会見場の記者の安倍さんに対する質問が酷かった。記者たちは、あんな質問をして恥ずかしいと思わないのかね。
(略)
僕は記者会見の生中継を、フジテレビ系「Live News it!」という番組にコメンテーターとして出演しながら見ていた。
政策についての賛否や、政権の態度振る舞いへの批判は様々あるだろうが、それでも7年8カ月の間、安倍さんは首相という重責を担ってきたわけだ。
まずは、「長い間、お疲れ様でした」という一言があって当然だろ!
(略)
質問内容も、「今、それをここで聞くか?」というものが多かった。
まあ記者として一応聞かざるを得ないという事情もあるのだろうが、「後継として意中の人は?」なんてことを聞いて、安倍さんが「後継は○○にする」なんて答えてくれると思ってるのかね。
安倍さんが答えないであろうことを、あの手この手を尽くして答えさせようとする知恵も執念もない質問。答えてくれないことを分かっていながら、とりあえず聞いてみるだけの質問。
僕なら「そんなこと言えるわけねえだろ! よく考えろ! バーカ」くらい言っていただろうけど、安倍さんはこんな質問にも丁寧に答えていた。
また「今日はプロンプター(演台の横に置いてある原稿を読むための装置)を利用していないが、それはなぜなのか?」という質問。
こんな質問とその答えが、辞任会見の今に要るか!!
それでも安倍さんは「自ら原稿を最後の最後まで推敲していてプロンプター用に準備するのが間に合わなかった」と丁寧に答えていた。
繰り返し言うが、メディアの質が政治の質を決める。メディアは、政治に対して批判や文句を言う前に、まずはメディア自ら自分たちの質を確認する必要があると思う。
これはメディアに出演している僕も当然含まれる。
ほんと安倍さんは、あの記者たちの質問に最後まで丁寧に答えていた。その真摯さはテレビ画面を通じてこちらに伝わってきた。
(略)
■批判はいいが、やったことの評価も必要
もちろん、メディアが政治を批判するのは当然だ。でもそこには「何の目的で批判するのか」というところをきっちりと確定する必要がある。
(略)
目の前の事象についてどう対応していいかわからない場合は、論理的に一段さかのぼって、その目的や理由から導き出す。
政治批判についても、どのような批判が適切なのかは、論理的に一段さかのぼって政治を批判する目的や理由をまず確定すべきだ。そしてその目的や理由に沿う批判はどのようなものかを考えるのだ。
このような思考がないと、批判すること自体が目的となって、それは感情むき出しの単なる罵詈雑言になってしまう。
では、政治を批判するのはどのような目的・理由なのか。それは当たり前のことだが、政治をよくすることが目的だ。
だから政治をよくすることに資する批判をしなければならない。政治をよくすることにつながらない批判は、単なる悪口と同じだ。
この点をきちんと認識していない、学者やコメンテーターが多すぎると思う。
(略)
■コメンテーターが勉強していないだけ
話を元に戻して、政治をよくするための批判について。
この観点からすると、安倍さんの辞任記者会見における記者の質問は、どれだけ政治をよくするために貢献したんだろう?
後でも述べるけど、辞任に至る裏話を確認したりしても、別に政治はよくならない。単に政治好きの野次馬の好奇心を満たすだけ。田崎史郎氏などが関心を持つような裏話を国民が知ったところで、政治がよくなるものではない。
他方、7年8カ月も政権を運営していたら、安倍さんはいろんなことを実行しているのは間違いない。こちらの方の検証の方が、今後の政治をよくすることにつながるのは確かだろう。
ところが会見翌日の29日の朝刊各紙では年表形式で安倍さんの実績が列挙されていたけど、これも実際にやってきたことのうちのほんの少しだけ。
これでは次の政治をよくするための検証としては不十分だ。
最悪なのは「何もやっていない、何もできていない」「レガシー(遺産)がない」というコメント・意見。これはコメンテーターや学者なんかが政治家を評するときによくやるコメントなんだよね。
このコメントは一番楽。だってその政治家が何をやったかを学者やコメンテーター側がきちんと勉強する必要がないからね。
「安倍政権は長期政権だったのに何もやっていない。何もできていない」
こんな批判で、次の政治はよくなるのか?
政治家が何もやっていないというコメントを学者やコメンテーターたちがするなら、それはその政治家が何もやっていないのではなくて、学者やコメンテーターたちが何も勉強していないだけだ。
僕もこの批判をよく受けたね。今もコメンテーターをやっている大谷昭宏氏なんかにね。彼のコメントは、何も勉強していなくてもとりあえず恰好だけはつけられるという、KING OF コメンテーターのコメントだ。
(略)
ダメなものはダメ、批判すべきところは批判すべきだが、これは良いことだというところはきっちりと評価すべきだ。後の政治をよくするために。
■テレビ・新聞の議論はおかしい! 今、本当に論じなければいけないこと
――辞任をいつ決めたのか? 誰に真っ先に話したのか? NHKがすっぱ抜いたことは凄い! ポスト安倍は誰だ?
そんなことをあーだこーだ今論じるのは、政治をよくするためには必要ないだろ!
「政治をよくするために」という視点からすると、辞任記者会見の記者の質問や、現在の新聞やテレビのコメントで解せないことが多い。
(略)
「NHKが2時台に一番早くすっぱ抜いた」。これにどれほどの価値がある?
どうせその日の夕方5時からの安倍さんの会見で辞任の話は知れ渡ることだ。それを3時間ほど早く伝えたNHKの報道にどのような価値があるのか。
報道の世界では、このNHKの報道はたいそう価値があるようだが、一部政治好きの人を除いて、世間一般においては3時間早く報じたどうかなどたいした意味はない。少なくても、後の政治をよくする価値はない。
(略)
(ここまでリード文を除き約2500字、メールマガジン全文は約9700字です)
※本稿は、公式メールマガジン《橋下徹の「問題解決の授業」》vol.214(9月1日配信)の本論を一部抜粋し、加筆修正したものです。もっと読みたい方はメールマガジンで! 今号は《【安倍首相辞任】これが政治をよくするためのメディアの役割だ!》特集です。
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元大阪市長・元大阪府知事
1969年東京都生まれ。大阪府立北野高校、早稲田大学政治経済学部卒業。弁護士。2008年から大阪府知事、大阪市長として府市政の改革に尽力。15年12月、政界引退。
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(元大阪市長・元大阪府知事 橋下 徹)
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