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「コロナ死者が少ない日本は民度が高い」といった麻生太郎氏に日本人は怒るべきだ

プレジデントオンライン / 2020年8月29日 9時15分

閣議に臨む安倍晋三首相(左)と麻生太郎副総理兼財務相=2020年8月4日、首相官邸 - 写真=時事通信フォト

日本は「民度」が高いから新型コロナの死者が少ない、他国は民度が低いから死者が多い。国会で麻生太郎財務相がこう発言し、物議をかもした。生物学者で早稲田大学名誉教授の池田清彦氏は「政治家の言う民度の高い国民とは、自分たちの言うことをおとなしく聞く国民を指している。それでいいのか」という——。

※本稿は、池田清彦『自粛バカ』(宝島社)の一部を再編集したものです。

■麻生財務相「おたくとうちの国とは国民の民度のレベルが違う」発言

日本のコロナの死亡者数がアメリカやヨーロッパより少ないことについて、財務大臣の麻生太郎がこんなバカなことを言っていた。

「『コロナの死者数が多い国から何か特別な治療薬でもあるのか』とよく電話がかかってきたが、『おたくとうちの国とは国民の民度のレベルが違う』って言ってやるとみんな絶句して黙る」

マスコミで取り上げられたのはこの6月4日の参院財政金融委員会の発言だが、毎日新聞によると、実は2カ月前(4月6日)の参院決算委員会でも「アメリカやら何やらに比べりゃ、はるかに日本の自粛のほうが効果ありますからね。アメリカ人に対して『俺たちは民度が高いからだ』と言ったら笑っていましたけれど」と述べていたという。

麻生太郎は、政府の言うことを聞かないやつばかりの国は民度が低い、お前らの国は国民がちっとも言うこと聞かないじゃないか、だから感染が拡大するんだと言いたいわけだ。

■自分たち(政府)の言うことをおとなしく聞く国民ということ?

しかし、政府の言うことを聞かないというのは、自分の頭で判断して行動しているわけだから、それは自立性が高いということで、むしろ民度が高いのだ。

ところが、麻生に限らず、政治家の言う民度の高い国民とは、自分たちの言うことをおとなしく聞く国民を指している。つまり、コントロールが利く国民=国民の民度が高い、ということだ。学校で先生の言うことをよく聞く優等生は民度が高く、反抗ばかりしている不良は民度が低いと言いたいわけだ。

しかし、反抗したり学校をサボったりする生徒は民度が低いのか。反抗的な生徒は自分で判断して学校をサボり、教師の言うことを聞かないわけだから、自分の頭で考えている分だけ民度は高いと思う。

たとえば、遊牧民のマサイ族は、自国も国境もなく、そういうなかで勝手に生きている。自分たちの力だけで全部やり、自立して生きている。民度が低いなんて言われたらマサイ族は怒るよな。民度が高いに決まっている。

■本当に日本人の民度は高いと言えるのか?

一方、現代人、とくに日本人は、自分の頭で考えることができず、自分の力だけでは生きていけない。正確に言えば、本当は自分の力で生きていけるかもしれないが、自分で生きていけないようなところに追い込まれていったのだ。

昔の人は、自分で井戸を掘って、野菜をつくり、ニワトリを飼って、それでなんとか生きていけた。当然、地震や豪雨とかの自然災害が起きたら困るけれど、村人や近隣の人が総出で新しい井戸を掘り、それでうまく掘れたら「やった!」とみんなで喜ぶ。

そうやって地域が協力して生きていた。こうした生活では村八分がいちばん怖く、村八分にされると自分の家の屋根の藁も葺けなくなってしまう。生き死にに関係した。現在は村八分にされても金さえあればまったく困らない。そのほうが面倒な人間関係がなくてありがたいという人もたくさんいる、自己家畜化から脱するために日本の村落共同体の伝統は、共同体が自立するためには、個々人が一人で自活するのは大変だから、少数のグループをつくって困ったときは相互扶助しようというものだった。

そういう伝統が戦後しばらくは日本にもあった。私の家も小学生ぐらいまでは貧乏で、うちだけじゃなく周りもみんな貧乏だから、夕飯時に「あ、醤油がない」となったら隣から醤油を借りる。「すみません、醤油切れちゃったんでちょっと貸してくれませんか」と醤油の瓶ごと借りてくると、チョチョチョンってかけて「すみません、ありがとうございます」って返してくる。

池田清彦『自粛バカ』(宝島社)
池田清彦『自粛バカ』(宝島社)

電話は地主さんの家にしかなく、誰かからかかってくると、「池田さん、電話だよ」なんて呼びに来てくれて、こっちは「すみません」と飛んでいく。地域社会では何かあったらここへ電話して呼び出してくれという扶助システムがあり、地主さんもそういう電話の取り次ぎが半分義務みたいになっており、それで何も問題がなかった。

相互扶助が嫌だという人もいるけれど、そういうシステムにしなければ生活できなかったんだよ。現在でも若い世代で限界集落に移り住み、物々交換のような相互扶助生活を送っている人たちがいる。

それは権力にとって恐ろしいことなので、なるべくなんらかの大義名分によって国民の自立を阻止しようとする。たとえば、政府がやっている地域再生制度というのは特産物の開発や観光促進などで、結局は拝金主義なんだ。お金を呼び込むためにやっている。

そんなやり方では家畜から抜け出せない。現金がなくても生きていけるから自立であって、だからこそ革命的なんだよ。

■「お金を稼ぐこと=自立」脱自己家畜化できぬ日本人は絶望的に民度低い

自己家畜化を脱するためには自分たちの力で生活していけるシステムを小さな集団でつくるのがいちばんいいのだけれど、多くの人はお金を稼ぐことが自立だと思っている。それでは自己家畜化から脱することはできない。そういう意味では、もう絶望的に民度が低い。

けれども、政治家側に立てばこんなにコントロールしやすい国もほかにない。法律で決めたわけではないのに、みんな政府の言うことに唯々諾々と従い、(コロナ)自粛期間中は大半の人が出歩かなかった。私自身は歳だから出歩かなかったけれど、様々な事情で出かけなければならない人もいる。しかし、出歩くのがよくないという風が吹いてきた途端に、みんなでバッシングするのだから、本当に情けない国だと思うよ。

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池田 清彦(いけだ・きよひこ)
早稲田大学名誉教授
早稲田大学名誉教授。1947年、東京都生まれ。東京教育大学理学部生物学科卒。東京都立大学大学院理学研究科博士課程単位取得満期退学。専門は、理論生物学と構造主義生物学。フジテレビ系「ホンマでっか!?TV」への出演など、メディアでも活躍。ビートたけしとは同じ小・中学校の出身。

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(早稲田大学名誉教授 池田 清彦)

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