世界の信頼を失った韓国・文在寅の「対中接近」という最悪シナリオ

プレジデントオンライン / 2020年8月31日 18時15分

2020年8月15日、日本の植民地支配からの解放を記念する「光復節」の式典に出席し、万歳三唱をする韓国の文在寅大統領 - 写真=AFP/時事通信フォト

■国際社会で孤立する中国に歩み寄る韓国

現在、中国と欧米諸国などとの関係悪化が顕著になっており、国際社会において中国が孤立する構図が鮮明化している。米国のトランプ政権は今年11月の大統領選挙を控えて、中国の「国家資本主義体制」に対する制裁強化に動く。欧州各国や日豪、さらにはベトナムやインドなどは、中国の人権や香港の問題、領土紛争、南シナ海への中国の強引な進出に警戒感を強めている。

中国は経済成長の限界に加えて、新型コロナウイルスが社会心理を悪化させており、習近平国家主席の求心力はやや低下している。国際社会において、同氏はさらなる孤立を避けたいと考えているはずだ。

そのために、共産党政権はカンボジアやラオスなど、比較的安定した親中政権のあるアジア外交に注力し始めている。中でも重視しているのが韓国だ。米国の同盟国である韓国を自陣に取り込むことができれば、経済面に加え安全保障面でも中国が対米で相応の有意なポジションを持つことができる。

韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領は米中両国と等しい距離感覚で対応し、自らに都合よい状況を作り出せると考えているようだ。その姿勢には不安な部分もある。韓国が真剣に対中関係の修復に進むとなれば、米国はその姿勢を問題視し厳しい態度をとるだろう。

今後、韓国の文大統領がどのようなスタンスで米国・中国との関係を続けるのかが注目される。

■中国が“世界の工場”としての地位を確立するまで

中国共産党政権は、党の主導によって経済成長を高め、“党に従えば豊かになれる”という価値観を国民に与えた。その期待(共産党政権の求心力)を保つために、共産党指導部は米国をはじめ世界の先端分野の知的財産や技術の吸収に注力し、国際社会での影響力を強めた。米国としては中国の台頭を阻止し、世界の覇権国(リーダー)としての地位を守るために、中国の台頭を阻止する必要がある。結果、米中の対立が激化している。

まず、そうした状況に至る背景を確認したい。

1989年6月4日の「天安門事件」を目にした世界の経済の専門家は、「これで中国は民主化の道を歩み、いわゆる“普通の国”を目指す」と確信した。しかし、その後の中国は期待をことごとく裏切った。1990年代、共産党政権は国内市場の開放を段階的に進め、海外企業を誘致して技術移転を進めた。中国は“世界の工場”としての地位を確立し、輸出によって高成長を遂げた。

リーマンショック後、共産党政権は4兆元(当時の邦貨換算額で57兆円程度)の経済対策を実施し、公共事業など投資によって景気を支えつつ、ITを中心に成長期待の高い産業を育成し、経済成長を維持しようとした。補助金政策などを用いて先端分野の競争力向上を目指す「中国製造2025」はその象徴だ。

■米中対立の先鋭化と深まる「分断」

そうして、中国は民主化という意味での普通の国ではなく、党の指揮による社会と経済の運営体制=国家資本主義体制を強化し、人々が党に従う環境を整備した。

米国の保守派は、オバマ前政権が中国との協調を重視して民主化を促そうとしたのが間違いだったと批判している。7月以降、ポンペオ国務長官などの対中強硬派は、共産党政権が米国の知的財産などを手に入れ、覇権強化を目指していると危機感をあらわにした。

その後、米国はファーウェイなど中国のIT5社と政府機関の取引や、TikTokなどのアプリを排除し、ファーウェイへの半導体供給網も事実上遮断した。香港や新疆(しんきょう)ウイグル自治区などでの人権問題に関して、主要先進国は米国と歩調を合わせ中国への懸念を表明した。

その状況下、共産党政権は、米国に対抗し求心力を維持しなければならない。米中対立は先鋭化し、米中の「デカップリング(分断)」が深まっている。

■中国と明確に距離を取り始めたEU

漢民族の繁栄が世界を支えるという“中華思想”を重視する習近平国家主席をはじめ共産党指導部は、国際社会でのさらなる孤立を防がなければならない。国際世論が対中批判を強めた場合、国内外における共産党政権の求心力は低下するだろう。

例えば、新型コロナウイルスの発生をめぐって、オーストラリアが主張する中国への独立調査に賛同する国は多い。そうした国際世論が勢いづけば、中国の立場は一段と厳しくなるだろう。

共産党政権は、米国などの圧力には対抗する一方で、親中国家を増やして国際社会での発言力を保とうとしている。欧州各国は米国との連携を強化している。共産党政権はアジア外交に注力し、目下のところ韓国との関係修復を重視している。

理由の1つは、韓国が中国に対して明確に懸念を示していないからだ。韓国は米国に安全保障を依存する一方で、経済面では中国との関係を重視している。それが示唆することは、米中対立の中で、文大統領がどちらつかずの等距離の立場を維持することが可能と考えていることだ。

就任して以来、文氏は複数回にわたって習主席の訪韓を要請した。これまで、中国は韓国の要請に応じなかった。新型コロナウイルスの感染が発生し、米中対立がこれほどに先鋭化する以前、欧州各国などはそれなりに対中関係を重視する一方、米国のトランプ政権への懸念も示していた。その状況下、中国にとって韓国との関係修復の重要性はさほど高くなかっただろう。

しかし現在、中国を取り巻く国際世論は急速に変化している。南シナ海での領有問題をめぐって、アセアン各国は足並みをそろえつつある。EUは中国による域内企業の買収阻止案を取りまとめるなど、中国と明確に距離をとり始めた。

その状況下、中国は米国のTHAAD(高高度ミサイル防衛システム)配備以降に冷え込んだ韓国を自陣に引き込み、孤立を食い止めたい。そうした思惑が、8月22日の楊潔篪(ヤン・ジエチー)共産党政治局員の訪韓につながった。

■文在寅が国際社会の信頼を勝ち取るには

不動産価格の高騰や南北宥和(ゆうわ)の難航など、文政権の政策運営には手詰まり感が高まっている。その中で同氏は対中関係を修復し、「米中対立にうまく対応し、国際社会における韓国の重要性が一段と高まった」と自画自賛し、世論の後押しにつなげたいだろう。しかし、対中関係の修復が国際社会における韓国の地位向上につながるとは思わない。むしろ逆だろう。

国際社会で信頼を得るためには、長期の視点で、何が是で、何が非かを明確にしなければならない。現実的に考えれば、安全保障を依存している以上、韓国は米国との関係を優先しなければならない。反対に、文政権が目先の経済的な利得を狙って中国に近づくことは、国際社会における韓国のクレジットを低下させるだろう。

7月末のWTO会合において米国の代表は韓国が批判したわが国の輸出管理手続きの厳格化に関して、「その問題は日本に決定権がある」と述べた。1つの見方として、それは韓国の対中接近を念頭に置いた発言だった可能性がある。米国は韓国に対して自由資本主義陣営の一員として国際社会への責任を全うする覚悟があるか、踏み絵を迫ったといってもよい。

■対中接近する韓国を待ち受ける最悪シナリオ

人工知能などのソフトウエア開発において、中国の競争力は高い。しかし、中国は最先端の半導体製造能力を有していない。そのために、ファーウェイは傘下のハイシリコンが設計した高性能ICチップの生産を台湾のTSMCや韓国サムスン電子に委託した。

台湾も韓国も日米欧の半導体製造装置を用いて最先端の半導体を生産する。韓国が経済面で中国に近づくことは、自由資本主義陣営の経済成長を支える要素が間接的に中国にわたり、国家資本主義体制の強化を支えることになるだろう。

それは米国にとって無視できない問題だ。先行きは読みづらいが、もし、本当に文政権が中国の経済圏入りを目指す場合、1つのシナリオとして、安全保障上の懸念を理由に米国が韓国への半導体製造装置の輸出手続きなどを見直す可能性は排除しきれない。

もしそうなれば、同盟国は米国の意向に従わざるを得ず、国際社会の中で韓国はかなり厳しい状況を迎える恐れがある。

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真壁 昭夫(まかべ・あきお)
法政大学大学院 教授
1953年神奈川県生まれ。一橋大学商学部卒業後、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。ロンドン大学経営学部大学院卒業後、メリル・リンチ社ニューヨーク本社出向。みずほ総研主席研究員、信州大学経済学部教授などを経て、2017年4月から現職。

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(法政大学大学院 教授 真壁 昭夫)

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