産業医が教える、心が揺らぎやすい人の自己肯定感を高める「正しい頑張り方」6つ
プレジデントオンライン / 2020年9月6日 11時15分
※本稿は井上智介『職場での「自己肯定感」がグーンと上がる大全』(大和出版)の一部を再編集したものです。
■「頑張り屋さん」はメンタル不調に陥りやすい
うつ病の患者さんに、「頑張ってね」という励ましの言葉をかけるのがNGであることは、一般的にもかなり広く知られるようになってきました。
ただ、その理由まできっちり理解できている人は、まだまだ少ないように感じます。せっかくなので解説させていただくと、そういった言葉をかけられた患者さんは、「頑張ってこれなのに、まだ足りないんだ」「頑張りたいけどもう無理だよ」と感じてしまいます。そして、さらに気分が落ち込み、ますます自分に自信が持てなくなるのです。
また、うつ病に限らず、敏感に周囲の空気を読んでしまう性格の人にも、「頑張って」は禁句です。その理由は、その言葉を「相手の期待に応えないと!」「相手は、自分が頑張れば喜んでくれる!」というふうにとらえてしまうからです。
そして、自分の頑張りで相手が喜んでくれると考え、時間や体力などを大幅に削ってまで頑張ってしまい、自分でブレーキをかけることが極端に苦手な傾向があります。
このように、メンタルヘルスの不調に陥りやすい人は、「頑張り屋さん」であることが多いと言えます。
■「頑張る=全力でやりきる」と思い込んでいる人の危うさ
医師として、自分のためにもう少し手を抜いたり、肩の力を抜いたりするようアドバイスをしても、体調などは無視して、
「私がやらないと、みんなに迷惑がかかってしまうので」
「周りも大変なので、他人にはお願いできなくて」
と、断られることもよくあります。
頑張ること自体はダメなことではありませんし、余裕がある時なら、全力で頑張るのは素晴らしいことです。
しかし、心と体のバランスが保てなくなるまで頑張る必要は、全くありません。
そして、そんな頑張り屋さんと話をしていて痛感するのが、その人にとっての「頑張る」が1種類しかないことです。
つまり、「頑張る=全力でやりきる」だけだと思い込んでいる人がたくさんいるのです。当然、それだけで突き進んでしまうと、よほど上手に自分のストレスを扱っていかない限り、すぐにエネルギーが枯渇してしまいます。
■自己暗示の力を軽視してはいけない
そこで私がお伝えしているのが、「6種類の頑張る」を普段から持ちましょう、ということです。
1つしか「頑張る」の選択肢がないと、どんな時でも、その1種類が頭から離れず、自分で自分に暗示をかけることになってしまいます。
大げさに思われるかもしれませんが、様々な研究においても、自己暗示は良くも悪くも効果があることが証明されています。
トップアスリートの中にも、ここ一番という時に「私はここまでやってきた、絶対に勝てる」「必ず得点を決められる」などのように自分に暗示をかけ、その場で最高のイメージを作り上げ、結果を出す人がいますよね。
実は私たちも、これと同様のことを行っています。
日常的に自分に向けてつぶやいた言葉は、知らぬうちに自己暗示となります。時にはそれが悪い方向に働き、あなたの行動を制限してがんじがらめにしてしまうことも。
仕事に限らず、生きていくうえで、どうしても頑張らなければいけない場面や時期は訪れます。
上司から頼まれごとを引き受ける時などに、毎回のように「全力で頑張ります」と声に出したり、「一生懸命頑張ろう」と考えてしまうと、それが暗示となり、自分自身をコントロールしてしまうのです。
そして、全力を尽くすような「頑張る」一択しかないと、どんな時でも「全力で行動する」ことが当たり前になり、いつかあなたのエネルギーは切れてしまうでしょう。
■「6種類の頑張る」を使い分ける
それを防ぐためにも、たくさんの「頑張る」バリエーションを持っておく必要があるのです。
そして、普段からどの「頑張る」を使うか意識しておき、その都度口に出していきましょう。これが、いい意味での「小さな自己暗示」になっていきます。
そのバリエーションとして、次の6つのような「頑張る」があります。
② ちょっと頑張ってみるか
③ できる範囲で頑張ってみるか
④ ボチボチ頑張ってみるか
⑤ 余裕があれば、頑張ってみるか
⑥ 誰かが頑張るでしょう
いくつか補足するなら、②の「ちょっと頑張ってみるか」は、「とりあえずやってみようか」くらいのイメージです。
③の「できる範囲で頑張ってみるか」は、壁にぶつかるまでやってみようかな、ということ。やり始めてつまずいたら、そこが自分ひとりで抱えるのをやめるラインと決めておいて、あとは誰かに聞いたりSOSを出せばいいという考えです。
④の「ボチボチ頑張ってみるか」は、つらそうなことは後回し気味に放置して、何とか期限に間に合いそうなところでボチボチと始めるイメージ。放置することに罪悪感を抱く必要はありません。
というのも、詳しくは省略しますが、これは心理学で言う「締め切り効果」を期待しているのです。ギリギリになればなるほど、やる気や集中力が出て、大変なことも短い時間でサッと終わらせることができてしまう、なんてこと、ありますよね。
そして、⑥などはもう他力本願です。でも、そんな「頑張る」も、あなたにとって必要になる時がきっと訪れます。
■「すでに十分頑張っている」ことを忘れてはいけない
あなたがこれから頑張ろうと思っていることには、どの「頑張ろう」が当てはまりますか?
そこを自分で意識しないと、また無意識のうちに、今まで通りエネルギーがなくなるまで突っ走ることになってしまいますので、これを機会に考えてみましょう。
そして、どの「頑張る」かが決まった時は、小声で構わないので、ぜひ自分に言い聞かせてあげてください。この自分への声かけが、本当に必要な時のブレーキになってくれるはずです。
最後になりましたが、決して忘れてはいけないこととして、
「私はもうすでに、十分すぎるくらい頑張っている」
これを心に刻みつけてくださいね。
あなた自身が一番、自分の頑張りに気づけてないものなのですから。
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産業医・精神科医
島根大学医学部を卒業後、様々な病院で内科・外科・救急科・皮膚科など、多岐の分野にわたるプライマリケアを学び、2年間の臨床研修を修了。その後は、産業医・精神科医・健診医の3つの役割を中心に活動している。産業医として毎月約30社を訪問。精神科医・健診医としての経験も活かし、健康障害や労災を未然に防ぐべく活動している。また、精神科医として大阪府内のクリニックにも勤務
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(産業医・精神科医 井上 智介 写真=iStock.com)
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