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「次の首相」を自民党内の力関係だけで決めてしまって本当にいいのか

プレジデントオンライン / 2020年8月31日 17時15分

記者会見を終え、引き揚げる安倍晋三首相(左)。右は菅義偉官房長官=2020年8月28日午後、首相官邸 - 写真=時事通信フォト

■9月半ばには国会で新しい首相が正式に選出される

自民党総裁の安倍晋三首相(65)が8月28日夕方、首相官邸の記者会見で持病の潰瘍性大腸炎の悪化を理由に辞任することを表明した。自民党は9月15日までに後任の総裁を選出する。

自民党の党則で定められた総裁公選規程によると、総裁選挙は国会議員による投票(395票)と、全国の党員などによる党員投票(394票)の合計788票で争われる。

しかし、今回のような任期途中の辞任など緊急の場合には、党員投票を省くことができる。その場合は党大会に代わる両院議員総会で、国会議員と都道府県連の各代表3人が投票を行い、過半数を得た候補が総裁となる。具体的には1人1票を持つ国会議員票の394票と、47都道府県連の141票(3票×47)の計535票で決まる。

選出方法は二階俊博幹事長に一任され、9月1日の党総務会で正式決定する。いまは党員投票が省略されるかどうかが焦点になっている。いずれにしろ、9月半ばには国会で新しい首相が正式に選出される。

この次期首相の選出において、一般の国民は蚊帳の外に置かれている。「次期首相(内閣総理大臣)=自民党総裁」となることから、あくまでも自民党の党内事情で決まってしまうのだ。

■自分たちを当選させてくれる人物を「選挙の顔」に選びたい

後任の自民党総裁には、党政調会長の岸田文雄氏(63)や官房長官の菅義偉氏(71)が出馬の意向を固め、党元幹事長の石破茂氏(63)も強い意欲を示していると報じられている。

それではどんな力学で総裁が決まるのか。それは次の「選挙の顔」としてふさわしいかどうかだ。いまの衆院議員の任期は来年10月で切れる。それまでには解散・総選挙が実施される。自分たちを当選させてくれる人物を「選挙の顔」として、できるだけ自分の選挙戦を有利に展開したい。大半の議員はそう考えている。「安倍1強」において、自民党の国会議員が安倍首相にすり寄っていたのも、そうすることが当選につながるからだ。

つまり総裁をだれに決めるかは、国会議員の「党利党略」に左右されるのである。国民のことを考えて選ばれるわけではないのだ。これが現実である。

■「暫定政権」として急場をしのぐには菅氏が最有力

そういう意味で、菅氏が次の総裁、つまり日本の首相に選ばれる可能性は高いと思う。昨年4月に新元号を発表した際の「令和おじさん」として知名度を高めているし、2012年12月の第2次安倍内閣発足以来、安倍政権の屋台骨を担ってきたことから、その実績と安定感は評価されている。

自民党の党則では、後任の総裁は安倍首相の残りの任期を務めることになる。つまり来年9月には再び総裁選が実施される。安倍首相の路線を踏襲する「暫定政権」として急場をしのぐには、安倍政権で経験を積んだ菅氏は最適なのだ。

ただし、沙鴎一歩はそんな形で日本の首相が決められることが私たち国民にとっていいことだとは決して思わない。国民のために心血を注いで頑張りぬく政治家に首相になってほしい。しかし、いまの政界にはそんな政治家がほとんどいない。そこが大きな問題なのだ。

■読売社説は次々と賛美の言葉を贈って安倍首相を擁護する

安倍首相の退陣表明があった翌29日付で、新聞各紙は大きな1本社説で退陣を取り上げている。

読売新聞の社説の見出しは「首相退陣表明 危機対処へ政治空白を避けよ」。書き出しは「国難とも言える感染症の危機に直面している現在、政治の安定を揺るがせてはならない。政権を担う自民党は、早急に新たなリーダーを選び、混乱を回避する必要がある」だ。

この後が読売社説らしい。安倍首相に対し、次々と賛美の言葉を贈って安倍政権を擁護しているからだ。

「首相は今月24日、連続の在職日数が佐藤栄作氏を抜いて歴代最長となったばかりだ。通算の在職日数も、憲政史上最長である。2012年末の第2次内閣発足後の政権運営は、7年8カ月に及ぶ」
「長期政権の最大の功績は、不安定だった政治を立て直したことである」
「経済再生を最優先に掲げ、大胆な金融緩和や積極的な財政出動によって、景気を回復軌道に乗せた」
「緊迫する安全保障環境の中で、日米同盟を基軸として政策を見直したことも評価されよう」
「集団的自衛権の限定的な行使を容認し、安保関連法を成立させた」
「各国首脳と良好な関係を築き、国際社会で存在感を示した」

連続の在職日数や通算の在職日数が長ければ良いというのはおかしい。裏を返せば、自民党内に適任者がいなかったことになるし、政権を奪えない野党のだらしなさも指摘できる。要は日本の政治がどん詰まり状態になっているのだ。この状態を打開しない限り、日本の将来はない。

■「首相周辺の官僚」の政策責任を問うのは転倒していないか

安倍政権を擁護することが多い読売社説も、コロナ対応のまずさについてはきちんと言及している。「アベノマスク」「GoToキャンペーン」の問題を取りあげ、さらに長期政権ゆえの問題点も指摘している。

「安定して長期政権を担ってきたという自負が、気持ちの緩みにつながった面も否めまい」

読売社説は権力を批判する目を失ってはいない。これでこそ新聞の社説である。ただ、気になったのは次の書き方である。

「官邸主導の政治は、迅速な政策決定を可能にする一方で、首相に近い官僚の意向が反映されやすい。国民の不安の声が、首相に届いていなかったのではないか」

沙鴎一歩は批判を受けた政策に対する責任が「首相周辺の官僚にある」というニュアンスには賛成できない。国の政策における最高責任者は、安倍首相だからである。

読売社説は総裁選に関し、「感染症の抑止に社会全体で取り組むには、政治に対する国民の信頼が不可欠だ。総裁選を通じて、危機を克服するための政策論争を深めてもらいたい。総裁候補は、コロナ後を見据えた社会や経済の青写真を示すべきである」とも書くが、これには賛成である。

■「日本の民主主義を立て直す一歩」とまで書く朝日社説

次に朝日新聞の社説。読売社説とはたびたび主張が対立しており、特に安倍政権を鋭く批判することで知られる。その朝日社説の書き出しはこうである。

「首相在任7年8カ月、『安倍1強』と言われた長期政権の突然の幕切れである。この間、深く傷つけられた日本の民主主義を立て直す一歩としなければならない」

手厳しさに驚かされる。書き出しぐらい、安倍首相に対し「ご苦労さまでした」と労をねぎらってもいいのではないかと思う。見出しも「最長政権 突然の幕へ 『安倍政治』の弊害 清算の時」と酷評そのものである。少々怖くもなる。

朝日社説はこれまで批判し続けてきた「おごり」と「緩み」を取り上げる。

「退陣の直接の理由は、わずか1年で政権投げ出しと批判された第1次政権の時と同じ持病である。しかし、長期政権のおごりや緩みから、政治的にも、政策的にも行き詰まり、民心が離れつつあったのも事実である」

「民心が離れつつあった」と断定するが、その前に持病を持ち出すのはアンフェアではないだろうか。

■「敵に塩を送る」といった心の広さがあってもいいはずだ

この後、朝日社説は安倍政権の不祥事を次々と挙げる。

「先の通常国会では、『桜を見る会』の私物化が厳しく追及された。公文書改ざんを強いられて自ら命を絶った近畿財務局職員の手記が明らかになったことで、森友問題も再燃した」
「河井克行前法相と妻の案里参院議員による大規模な買収事件が摘発され、選挙戦に異例のてこ入れをした政権の責任も問われている。検察官の独立性・中立性を脅かすと指摘された検察庁法改正案は、世論の強い反対で廃案に追い込まれた」

すべて事実ではあるとは思うが、朝日社説に「敵に塩を送る」といった心の広さはないのだろうか。

朝日社説は安倍政権のコロナ対応のまずさも忘れない。

「それに加え、コロナ禍への対応である。首相が旗を振っても広がらないPCR検査、世論と乖離したアベノマスクの配布、感染が再燃するなかでの『Go To トラベル』の見切り発車……。多くの国民の目に、政権の対応は後手後手、迷走と映った」

この朝日社説を書いた論説委員は、社会・経済との両立の難しい感染症対策の在り方をどこまで理解しているのだろうか。

■来年9月には党員を巻き込んだ総裁選がまた行われる

最後に朝日社説は自民党に忠告する。

「懸念されるのは、安倍1強が長く続く中、自民党内で闊達な論議がすっかり失われたことだ。首相と石破茂元幹事長の一騎打ちとなった一昨年の自民党総裁選では、大半の派閥が勝ち馬である首相に雪崩をうった」
「最大派閥出身の首相の影響力に遠慮して、安倍政権の功罪がしっかり検証されず、政策論争そっちのけで、数合わせに走るようなことがあってはならない。国民の信頼を取り戻せるか、自民党にとってまさに正念場である」

「失われた闊達な論議」「国民の信頼」。いずれも政治の世界に欠かせない重要な事項である。沙鴎一歩も今回の総裁選は「自民党にとって正念場」だと思う。

仮に党員投票が省かれて菅氏が次期首相になったとしても、来年9月には党員を巻き込んだ通常の総裁選が行われるはずだ。その総裁選で選ばれる人物は、安倍政権を超える新たな路線を、私たち国民の前に示してもらいたいと思う。

(ジャーナリスト 沙鴎 一歩)

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