天才ジャック・マーと、起業のためにスキルを身につける日本の残念大学生の違い

プレジデントオンライン / 2020年10月1日 9時15分

元英語教師という異色の経歴を持つアリババグループ創業者のジャック・マー氏。 - AP/アフロ=写真

■ジャック・マーは人間力の天才だ

最近、学生や若い世代と話していると、起業することに関心があるということをよく聞く。そして、時代を反映してか、ITや人工知能に興味を持っているという人が多い。

そんな彼らは、「やっぱり、プログラミングを勉強していなければダメですかね」としばしば言う。「言語は何をやればいいんですかね」などと質問してくることもある。

「いやあ、プログラミングの知識やスキルがあるに越したことはないけど、別に要らないんじゃないかあ」と答えると、「えっ、そうなんですか」と驚く。

ビジネスで成功するために、何かをきちんと勉強したり、スキルを身に付けたりしなくてはダメだと思うのは立派なことだけれども、それが行きすぎると弊害が大きいし、むしろ障害になることもあると思う。

実際には、起業したり、ビジネスで成功したりするうえで、ある特定の知識やスキルが絶対に必要だということはない。むしろ求められるのは全く別の能力だ。

中国発で、世界中でビジネスを展開する「アリババ」の創業者であるジャック・マーは、ITのスキルが卓越しているわけではない。実際、一行もプログラムを書いたことはないと自分自身で認めている。それでも、世界有数のIT企業を創始し、富豪になることができた。

■ジャック・マーの成功への物語

ジャック・マーの成功への物語は、現代のビジネス環境で成功するのに必要なのは具体的な知識やスキルではないことを示している。むしろ、何が世の中で求められているかを察知する「直観力」と、その実現のためにタイミングよく迅速に動く「実行力」こそが大切である。

浙江省杭州市出身のジャック・マーは、学校の成績は決してよくなかった。大学入試も複数回失敗した。就職活動においても全くぱっとせず、ケンタッキーフライドチキンに就職しようとしたときに、応募した24人のうち唯一採用されなかったという逸話がある。

しかし、ジャック・マーには、時代が求めるものを察知するすぐれた感性があった。地元の都市を訪れる外国からの旅行者のガイドをしながら英語を身に付けた。インターネットに出合ったとき、「ビール」を検索して中国産の銘柄の情報がほとんどないことに気づいた。中国一般の情報も乏しかった。そこに巨大な機会があることを、ジャック・マーは見逃さなかった。

その後の発展は、中国の急成長のプロセスと相まって現代のレジェンドである。人とのつながりも、重要な意味を持った。設立されたばかりのアリババに投資した孫正義との出会いもそうであろう。孫正義はジャック・マーの語り口からあふれる熱意に心を動かされて、投資を決めたとされている。

結局、ジャック・マーの天才は、その総合的な人間力にこそある。プログラムなど、一行も書けなくていい。ただ、時代を読む直観力とそれに基づいて動く実行力があればいい。ジャック・マーは大きくなったアリババを率いるうえで稲盛和夫の哲学に注目したが、それも独特の直観に基づくものだろう。

ITや人工知能のビジネスをやるために、自分でプログラムが書ける必要はない。そのようなこだわりが邪魔になることもある。ジャック・マーのゆったりとした人間力の中に、成功への大きなヒントが隠されているのだ。

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茂木 健一郎(もぎ・けんいちろう)
脳科学者
1962年生まれ。東京大学理学部、法学部卒業後、同大学院理学系研究科修了。『脳と仮想』(新潮社)で第4回小林秀雄賞受賞。『幸せとは、気づくことである』(プレジデント社)など著書多数。

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(脳科学者 茂木 健一郎)

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