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「キリスト教系は5万人増、仏教系は4000万人減」この30年間に起きた宗教離れの意味

プレジデントオンライン / 2020年9月9日 9時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Fyletto

文化庁の『宗教年鑑』によると、平成の30年間でキリスト教系の信者数は5万人増えたが、仏教系は4000万人減った。一体なにが起きているのか。宗教学者の島田裕巳氏は「日本は宗教消滅に向かっている。とくに仏教系は深刻な事態に直面している」という――。

※本稿は、島田裕巳『捨てられる宗教 葬式・戒名・墓を捨てた日本人の末路』(SB新書)の一部を再編集したものです。

■平成の時代、宗教信者数は大きく減少した

世界の宗教地図は大きく変わろうとしている。とくに、世界最大の宗教組織であるカトリック教会は、根本的な危機に直面している。では、日本の宗教はどうなのだろうか。

昭和の時代においては、日本の各宗教団体は信者の数を伸ばしていった。ところが、平成の時代になると、事態は大きく変わり、信者数は相当に減少するようになった。そのことは、宗教法人を所轄している文化庁が毎年刊行している『宗教年鑑』にはっきりとした形で示されている。『宗教年鑑』には、いくつかの数字があげられているが、ここでは、「包括宗教団体別被包括宗教団体・教師・信者数」を取り上げたい。

宗教法人について詳しくないと、包括宗教団体や被包括宗教団体の意味はわからない。簡単に言ってしまえば、前者は仏教教団で言えば宗派にあたり、後者は個々の寺院のことをさす。平成の約30年のあいだにどういった変化が起こったかを見てみよう。まず、昭和63年版からの数字をあげる。

総数 1億9185万0997人
神道系 9617万7763人
仏教系 8666万8685人
キリスト教系 89万5560人
諸教 810万8989人

次に、今のところ最新の令和元年版の数字をあげる。

総数 1億3286万3027人
神道系 8009万2601人
仏教系 4724万4548人
キリスト教系 95万3461人
諸教 457万2417人

■信者数は「3割」減少している

これは、文化庁が調査した数字ではない。包括法人の側が報告してきた数を、そのまま『宗教年鑑』に載せたものである。

その点では、果たして実態を示したものなのかという疑問が生まれる。けれども、ほかに使える資料がない。信者の数を調査しようにも、国民全体を対象として実施することなど不可能である。その点で、この数字を使うしかないのだが、それでも重要な変化は見て取ることができる。

まず総数である。平成がはじまる段階では、信者数は全体で1億9000万人に達していた。日本の総人口が、1990年(平成2年)の時点で、およそ1億2361万人だから、信者数はそれを上回っている。主に、神社の氏子として数えられている人たちが、同時に寺院の檀家としても数えられているからである。これは別に不思議なことではない。私たちは、長く続いた神仏習合の時代の名残で、神道と仏教の双方にかかわっているのだ。

その総数が、令和元年版では1億3000万人にまで減少している。およそ5900万人減っている。3割の減少である。

これは驚くべき数字である。平成のあいだに、宗教の世界で大変な事態が起こったことになる。神道系だと、9600万人が8000万人に減少している。こちらは1割7分の減少である。神道系以上に減少が著しいのが仏教系である。8700万人が4700万人にまで減っている。なんと4割5分も減っている。半減に近い。

■創価学会と密接な関係を持っていた「日蓮正宗」

平成の約30年のあいだに仏教系の信者は半減した。これが事実なら、とんでもないことである。

ただ、これについては、一つ考慮しなければならないことがある。仏教系の信者急減の原因として、ある宗派の事情がかかわっているからだ。その宗派とは日蓮正宗のことである。日蓮正宗と言っても、多くの人にはピンと来ないかもしれない。

日蓮正宗は、日蓮宗の一派ということになるが、以前は日本で最大の新宗教である創価学会と密接な関係を持っていた。昭和の時代には、創価学会に入会する際に、会員は自動的に日蓮正宗に入信した。それは、日蓮正宗の特定の寺院の檀家になることを意味した。そして、入信の際には、家の仏壇に祀る曼荼羅を授与された。曼荼羅の中心には、「南無妙法蓮華経」の題目が描かれている。そのもとを書いたのは宗祖である日蓮で、檀家はその写しを授かるのである。

戦後、創価学会は相当な勢いで信者を増やした。そのため、日蓮正宗も膨大な信徒を抱えるようになった。街のなかで、「正宗用仏壇」という看板を掲げた仏具店を見かけることがある。正宗とは日蓮正宗のことで、そこで創価学会の会員は仏壇を買い求める。正宗用仏壇には、曼荼羅を掲げるためのフックが付けられており、一般の仏壇とは形式が異なっている。

ところが、1970年代になると、在家の組織である創価学会と、出家の組織である日蓮正宗の関係が悪化した。創価学会は、戦後急成長をはじめた段階では、自分たちの教えの正しさを証明するために日蓮正宗という後ろ盾を必要とした。だが、巨大教団に発展することで、それが不要になったのだ。

■日蓮正宗による「破門」で減少した1684万人

創価学会と日蓮正宗との対立が激しくなったのは1990年(平成2年)のことである。翌年には、日蓮正宗が創価学会を破門した。これで、創価学会の会員のほとんどが日蓮正宗から離れた。日蓮正宗寺院の檀家ではなくなったのだ。『宗教年鑑』昭和63年版では、日蓮正宗の信者数は1756万6501人となっていた。これが正確な数字なら、人口の1割5分に近い。それが、令和元年版では72万8600人と激減している。1684万人も減ったのだ。

創価学会の会員数は『宗教年鑑』には掲載されていないが、創価学会本部は、会員数をここのところずっと827万世帯としてきた。世帯で数えるのは、曼荼羅が世帯単位で授与されるからである。日蓮正宗から抜けた創価学会の会員は、別の宗派に入信したわけではない。したがって、仏教系の信者数のなかから、1684万人分が消えてしまった。

このことを加味して考えると、仏教系の信者の数は、平成の30年のあいだに2300万人減少したことになる。4000万人よりははるかに減少の幅は小さい。それでも2割6分の減少である。仏教系は4分の3に縮小したのだ。

■バブル時代が日本の宗教人口のピークだった

1995年には、オウム真理教による地下鉄サリン事件が起こり、宗教は恐ろしいというイメージが広がった。それは、宗教を信じる人の割合、信仰率にも影響を与えた。しかしそれが、2割5分の減少の主たる原因ではない。

島田裕巳『捨てられる宗教 葬式・戒名・墓を捨てた日本人の末路』(SB新書)
島田裕巳『捨てられる宗教 葬式・戒名・墓を捨てた日本人の末路』(SB新書)

神道系の信者も、仏教系ほどではないもののかなり減少している。日本の宗教は衰退しつつある。そのことが、平成の30年間を振り返ってみることで明らかになってくるのである。

平成の時代は1989年からはじまる。それは80年代なかばからはじまるバブル経済が頂点を極めようとしていた時期にあたる。株価や地価は上がり続けており、それに比例するかのように、宗教団体の信者数も、バブルの時代がもっとも多かった。

バブルがはじまる前の『宗教年鑑』昭和55年(1980年)版を見ると、信者数の総数は、1億7603万8611人で、昭和63年版と比べると1580万人少なかった。神道系が7986万9429人で、仏教系が8350万4031人だった。いずれも、昭和63年版の方が増えている。仏教系は300万人ほどの伸びだが、神道系は1600万人も増えている。どうやら平成のはじまりの時点が、日本の宗教人口のピークだったようなのだ。

それが、平成の約30年が過ぎるあいだに、激減という事態が起こった。しかも、その傾向は、令和の時代に入っても変わらない。依然として宗教団体の信者数は減り続けている。宗教消滅に向かっていることは確かだ。そのなかでも、とくに仏教系は深刻な事態に直面しているのである。

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島田 裕巳(しまだ・ひろみ)
宗教学者
1953年東京生まれ。東京大学文学部宗教学宗教史学専修課程卒業、東京大学大学院人文科学研究課博士課程修了。放送教育開発センター助教授、日本女子大学教授、東京大学先端科学技術研究センター特任研究員を歴任。現在は作家、宗教学者、東京女子大学非常勤講師。主な著書に、『創価学会』(新潮新書)、『日本の10大新宗教』、『葬式は、要らない』、『浄土真宗はなぜ日本でいちばん多いのか』(幻冬舎新書)などがある。とくに、『葬式は、要らない』は30万部のベストセラーになる。『プア充』(早川書房)、『0葬』(集英社)などは、タイトルがそのまま流行語になった。

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(宗教学者 島田 裕巳)

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