不妊治療ですれ違うアラフォー夫を"その気"にさせた妻の言葉
プレジデントオンライン / 2020年9月4日 15時15分
※本稿は、犬山紙子『すべての夫婦には問題があり、すべての問題には解決策がある』(扶桑社)の一部を再編集したものです。
■生理が来ると「今月もあなたは不合格でした」と言われたみたいだった
お話を聞いたのは共働きのケンさん(37)、リノさん(35)ご夫妻。10年前に結婚し、不妊治療を開始するも途中で挫折。その後、お互いが遊びきった後に不妊治療を再開した結果、子どもを授かり、現在は2歳のお子さんがいるそうです。不妊治療は身近になったとはいえ、どんな苦労が伴うのか知らない人も多いはず。ふたりはどのように不妊治療を受けるに至ったのでしょう?
【リノ】結婚するとき、直接「子どもほしいね」と話したことはなかったんですが、「結婚したら子どもがいるのが当たり前」という共通認識はうっすらあったと思います。でも、結婚して3年間子どもができなかったので「一度病院で検査してみようか」という話を私からしました。そこから病院を探して、検査して、夫に精子の検査もしてもらって……。
夫に精子の検査をしてもらうことすら妻にとってハードルが高いとも聞いたことがあります。
【リノ】病院の説明会に行ったとき「夫には内緒で来てる」という人もいましたね。そして治療が始まったのですが、頑張れば頑張ったぶんだけ「これだけやってるんだからゴールが来ないとおかしい」と自分を追い込むような考えになっていって……。病院に行くのは私だし、排卵日に合わせて「この日とこの日、しようよ」と夫に言わなきゃいけないのもつらかった。LINEで言ってみたり面白おかしく言ってみたり、手を替え品を替え夫に伝えてるのに、夫は「今日はちょっと疲れたから」なんて言う始末。でも、この頃はそんな不満を夫にはぶつけていませんでした。そうやって毎月頑張ってるのに、結局生理が来ちゃうと「今月もあなたは不合格でした」って言われたみたいですごく落ち込んで……。
あぁ、とても孤独だ。不妊治療は心身ともに負担があるのに、孤独が重なるとすごくつらいんですね。リノさんの言うとおり、頑張りがそのまま結果に反映されるわけでもないことだから余計に。
■「離婚も視野」思いを綴った長文メッセージ
【リノ】最初に「不妊治療をやろう」と話し合ったときに彼も「そうだね」と言ってくれたので、夫も私と同じ方向を向いて、同じ熱量で考えてくれていると思っていたんです。だからこそ「なんでそんなにやる気ないの!?」って不満が日々溜まっていくばかりで。私も仕事が忙しいなか時間をやりくりして病院に通っていたので、「なんで私だけがこんなにつらい思いをしなくちゃいけないのか」と思ったり……結局、治療開始から1年で不満が爆発しちゃいました。
そりゃあ爆発します。なによりも孤独はつらいものです。
【リノ】そこで、思いを綴った長文メッセージを夫に送ったんです。「なんで子づくりに協力してくれないの? 大好きだけどこんなにつらいなら一緒にいたくない、離婚も視野に入れている」といった内容でした。
【ケン】不妊治療がそこまで大変で、妻がそこまで思い詰め、不満を感じながら治療を続けていたことを僕は一切わかってなかったんです。「なんか今日怒ってるな」くらいにしか感じてなかったというか……。「すぐに結果が出なくても、そのうちなんとかなるでしょ」くらいに楽観的に考えていたので、妻との“ズレ”は相当大きかったと思います」
そう、やっぱり夫婦間の問題の根源は「伝わってない」がとても大きい。でも、伝える側が努力しても、聞く側が焦りを感じず聞こうとしない限り伝わらないことも多々ある。こういう状況を「ヒステリーだ」とひと言で片付ける人もいますが、それは思考停止。そこからふたりは不妊治療から一旦フェードアウトしたそうで……。
■知識としてPMSを知ることで、妻を理解できるように
【リノ】不満を爆発させた後、不妊治療からフェードアウトして怒涛の遊び期に入りました。毎晩飲んでましたね。土日だったら昼から3〜4軒くらいハシゴして、毎月10万円以上は飲み代に使っていたと思います。
【ケン】僕はもとから趣味だった卓球にさらにのめりこみました。
【リノ】そんな生活を3年続けてたんです。貯金を食いつぶしながら(笑)。
そのときのおふたりの関係性はどうだったんでしょう?
【リノ】とても良好でしたよ。お互い好き放題って感じで。その時期、私は自炊もほぼしてませんでした。
【ケン】でも、僕はリノの不満爆発を受けて考え方は変わっていきました。不妊治療のためだけじゃなく夫婦として、相手のことを知ろうとしなきゃいけないし、勉強もしなきゃいけない。たとえば何も知らないと、妻がイライラしている状態にコチラもイラっとして正面からぶつかってしまう。でも「PMS(月経前症候群)でイライラすることがあるんだな」などと知識として知っておけば妻のイライラの理由がわかるし、避けることもできる。自分が理解できないばっかりに、妻とケンカになっちゃうというのは悪いなと思っています。
【リノ】彼が理解してくれるので、逆に私も言うようになりました。イライラしてたら「生理前です、ごめん!」とか。そう言うと、「そうだと思った」とわかってくれるので。
私もPMSでイライラしちゃうタイプですが、強い言葉を言っちゃった後に罪悪感でさらにイライラが増すという負のスパイラルがあります。やはり人を救うのは知識と思考だなあ。
■「もう子供はいらないかな」と思い始めた矢先に夫から…
【リノ】遊び期を経て30代になったとき、私は逆に「もう子供はいらないかな」とも思ってたんです。今が楽しいし、またあんなにつらい思いをして不妊治療をするのも大変だなと。でもそんなときに、夫から「そろそろもう一回してみる?」って言われたんですよ。驚きました。そのときは一度目の不妊治療を踏まえて「子供のために私がすべてを犠牲にするのは嫌だ。仕事を辞めるのは嫌だし、お酒も飲みに行くだろうし、負担は半分ずつじゃないと嫌だ」と夫に提案しました。すると夫は「もちろんだよ」と。そこからもう一度不妊専門の病院に通いだして……。
【ケン】前回は“不満爆発メール”で不妊治療が終わってしまったので、今度は自分から歩み寄らないと進まないなと思ったんです。
夫婦で子どもを欲しいと思う時期のズレができるのはしょうがない。おふたりの場合はリノさんが先に子供が欲しいという熱量が高くなり、その後遊び期を経てケンさんがリノさんの気持ちを知り、熱量が高くなったという流れでした。でも、時期のズレがあったとしてもまずはお互い議題について知識を持つというのが大事なんだってことですね。仕事だと当たり前のことなんですが、プライベートだとこれができない人が多い。仕事だと効率命なのに、プライベートのコミュニケーションの効率や長い目で見てラクになる方法は考えられない。
■「絶対にやり遂げてやる」という夫の熱意
最初の治療ではリノさんが孤独になってしまったけれど、2度目の不妊治療はどうだったんだろう。
【リノ】夫のやる気がすごかったです(笑)。前は私が「どう誘おうか」と悩んでたんですけど、今回は夫の「絶対にやり遂げてやる」という圧倒的な意思を感じました。部活感があったのでムードや色気はなかったですけど(笑)、「ここだ!」っていう日にしっかりと。
排卵日にセックスをするのって、お互いの熱量が同じじゃないと片方ばかりが毎回誘う羽目になったりでキツいんですよね。そして、最初の2回はタイミングのみで、その後は排卵誘発剤を使い始めて3回目でついにめでたく妊娠に至ったそう。
■前回は「ひとりで頑張ってる感」がつらかった
【ケン】家に帰るとノンアルコールビールと普通のビールが置いてあって、ノンアルのほうが空いてたんですよ。「酒好きの妻がどうした!?」と。妻はもう寝てたんですけど、ゴミ箱に妊娠検査薬が捨ててあるのを発見して、見たら陽性にピッと線が入ってて。
【リノ】翌日自分から言おうと思っていたんですが(笑)。でも、一度目の治療とは打って変わって、夫が自発的にいろいろ調べてくれるようになっていたので妊娠中も心強かったです。たとえばつわりが来たときも、私が情緒不安定になったときも、知識として夫が私の状況を理解してくれていたのですごく助かりました。前回は「ひとりで頑張ってる感」がつらかったので……。一時期は「もう子供はいいや」って思ってたけど、こんなに向き合ってくれるんだってわかると育児もふたりで楽しくできるだろうなという感覚がありました。
不妊治療も大変ですが、産んでからもまた大変。だからこそ、こうして妊娠期間からふたりで頑張ることってその後の子育ての具体的なイメージにも繋がるし、ひいては夫婦円満に繋がる大事な時期なんですよね。
【リノ】私は「こうなったらどうしよう」と先を考えすぎて悩むタイプなんですが、そんな“もしも話”を全部聞いてくれたのが嬉しかったです。
相手の話を聞くって大事だけど、正直面倒臭いなと感じることもあるのも事実。ケンさんが疲れてるときも当然あったはずなのに、ちゃんと全部聞いてくれたなんて、すごいなぁ……。
【ケン】「絶対に話を聞く」ということは意識してましたね。妻は口に出して話せばラクになるんだろうなということはわかっていたので。話したいだけの不安もあるんだろうなと。
■不妊治療は夫婦間に熱量のズレがあると本当につらい
ケンさんの場合、リノさんの不満爆発を経て不妊治療への当事者意識がガラリと変わったというケースでした。でも、そうならない人も多くいるわけで。当事者意識のない人に、どうやったらうまく当事者意識を持ってもらえるんだろう。
【リノ】一度目の不妊治療がそうでしたが、夫婦間に熱量のズレがあると本当につらいんです。結局どちらもつらくなる。だからこそ、最初の段階でのお互いの意識のすり合わせを大切にすべきだと思います。女性のほうが年齢とか卵子の老化とかいろいろ悩んでしまうと思うんですけど、ナーバスな問題を一番最初にきっちり夫と話し合っておくことをオススメしたいですね。
■相手を嫌な気持ちにさせる言葉は“無知”によるもの
今、おふたり不妊治療を経て思うことはなんでしょうか?
【リノ】夫婦といえどやっぱり他人同士なんだなと思うようになりました。最初の不妊治療のときは「お互いのことが好きなんだから、きっと相手も私と同じ方向に同じ熱量で向いているのが当然」だと思っていたんですけど、今思えば、好きとか嫌いとかじゃなくて距離を詰めるためには言葉で説明しなければ分かり合えないよなって。不妊治療している時期にそう思えたから、今は円満に子育てできていると思います。子育てに関しては夫にイライラするというより、社会にイライラしてますね。私が飲みに行くと「夫が子供の面倒見てくれてるんだ、いい夫だね」って言われるんですよ。残業してても「仕事をこんな遅くまでできるなんていい旦那だね」って。そんなことにいつも怒ってますね(笑)。
そういうことって男性だったら絶対言われないわけで……。言ってる本人に悪気はないけど、言うと嫌な気持ちにさせてしまう言葉は大体無知によるものだったりするんですよね。無知だからこそ、世間のバイアスそのままに発言してしまうという。そのほか、言われて嫌だったことは?
【リノ】不妊治療中、「子どもができないのはあなたが酒を飲んでるせいじゃない?」と言われるのもムカつきました。そのころ酒量は抑えていましたし……。語弊があるかもしれませんが、当たり前に子どもができた人たちっていうのは「できて当たり前」だと思ってるから悪気なくそういう発言が出てくるんだろうなって。私たちの場合は病院で検査しても子どもができない原因がわからなかったんです。精子や卵管に何も原因がなかったのに子どもができなかったことがとても苦しかったのに、「いっぱいヤレばできるよ」とか「ヤッた後に逆立ちしたらできるよ」って言われることもあって……。「もう逆立ちしたわ!」って返してやりましたけどね(笑)。とにかく、世間はまだまだ不妊を軽く見ているのかなと。
■打ち明け話はアドバイスせずに普通に受け取るだけでいい
どう考えても自分より知識のある人に、根拠のないクソバイスをしてしまう人たちがとにかく多すぎ。クソバイスすると気持ちいいですから。クソバイスしたいなら、お金払ってほしいものです。
【ケン】僕も「(妻のお腹を)温めりゃいいんだよ」とか言われたなぁ。
【リノ】「靴下を履いたほうがいい」とかよくわからないアドバイスもされましたね。あと、子どもができなくて悩んでるのに「産むなら絶対女の子がいいよ」とか言ってくる人。誰かが「私、不妊治療してるんです」って告白したとしても、その人は別にアドバイスが欲しいわけではないし、同情されたいわけでもないと思うんですよ。
これ! これです。不妊治療だけじゃなくてほぼすべてのことに繋がると思うのですが、誰かが打ち明けた話には「アドバイスせずに普通に受け取る」でいいんだと思うんですよ。打ち明けた先に、普段と変わらない日々があればいい。不妊治療って何も悪いことじゃないのに周りに言いにくいのは「どうせなんか変な反応されるorイヤなこと言われる」っていう世の中の空気のせいですから。話を聞く姿勢でいる、それくらいでいいんだと思うのでした。
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コラムニスト
1981年生まれ。11年、“美女にもかかわらず負けている恋愛エピソード”を収集した著書『負け美女〜ルックスが仇になる〜』(マガジンハウス)でデビュー。その後も『高学歴男子はなぜモテないのか』(扶桑社新書)、『言ってはいけないクソバイス』(ポプラ社)など計14冊の著書を上梓。近年は執筆業のみならずTVコメンテーターとしても活躍。『スッキリ』(日本テレビ系)、『ワイド!スクランブル』(テレビ朝日系)、『報道ランナー』(関西テレビ)にて日替わりコメンテーターとして出演中。
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(コラムニスト 犬山 紙子)
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