企業再建のプロが「どんな人数のウェブ会議でも意識するのは2人だけ」と話すワケ
プレジデントオンライン / 2020年9月11日 9時15分
※本稿は、小早川鳳明『秒速で人が動く時間活用術』(PHP研究所)を元に、新たに書き下ろしたものです。
■声の抑揚や身体の動きを使って伝えられない
これまで社内で行っていた会議とは違い、テレワークにおいてZOOMなどで画面を通して会議をしても、スムーズに部下に納得してもらえない、また一方で自分自身も話の内容が頭のなかでまとまらないと感じる経験はないでしょうか。
以前なら、声のトーンや表情、その場の空気の雰囲気など、五感を使って、会議で説明することができました。時には自身の態度で、上司に了解を得たり、部下のモチベーションを喚起することができていました。いわゆる、接触型コミュケーションで約7割を占めるといわれるノンバーバルコミュニケーションが使えていたのです。
しかし、テレワークが浸透し、画面越しの会議を行うことによって相手に対して声の抑揚や身体の動きを使って伝えることが難しくなり、これまでよりも自分の主張を相手に伝えにくくなりました。
■「客観的な数字」なら短時間で相手の心に刺さる
声や表情を使って表現することが制限されるテレワーク環境で、これまでよりも重要な役割を担うのが、数字を用いた資料です。上述の通り、リモート会議において口頭で長々と話しても相手の納得感を醸成できるわけがありません。そこで重要なのが、短時間で相手の心に刺さる説明を、客観的な数字を含めて説明する方法です。
私自身、企業再建のプロとして会社の再建を担った際に、遠隔地にいる社員にも伝わるようにリモート会議で活用してきた方法です。
経営状態が悪化した会社において、再建をするには、もちろん従業員の皆さんの協力が必要なわけですが、協力を得るためには、「これまでのやり方のどこに問題があったのか」「どこを集中的に改善していかなければならないのか」、皆が納得できるように具体的な数値データを用いて説明する必要があります。
その際に、単に社内の売上データやコストデータを示すのではなく、今後何をすべきかを明らかになるように工夫をして、データをグラフやビジュアルで表現することが必要です。テレワークでは、一目見ただけで納得感のある数字をグラフにして示すことが求められるのです。
■部下の危機感を煽るデータの見せ方
テクニック1:単にグラフを並べるのではなく危機感を煽るデータ(差分)をつきつける
テレワーク環境によって、「部下の動きが悪くなった、部下にはもっと頑張って仕事をしてもらいたい」と感じている人が使いたい方法です。
私は、企業買収後に再建プランを検討する際に、従業員を奮い立たせるために用いていました。このテクニックのポイントは、単に事実を伝えるためにデータを並べるのではなく、危機感を感じてもらえるデータの見せ方を選ぶことにあります。
ここではあえて、実際の企業の決算数値を用いて解説します。
テクニック1では、餃子の王将を展開する王将フードサービスの決算データを材料として用い、エリア別1店舗当たり売上高をみてみます。通常であれば、単に各エリアごとの1店舗当たり売上高を棒グラフで並べます(図表1 右図)。
しかし、これを見せられた各エリアの担当者のうち、危機感を感じる担当者はあまりいないと思われます。どのエリアの店舗が健闘しているのか、また健闘していないのかがよくわかりません。みんな健闘しているようにも見え、この右図のグラフを見せられても、だれも危機感を感じることはできないでしょう。
一方、全国平均の1店舗当たり売上高の平均値を算出し、その平均値を上回っているのか下回っているのかを補足し差分を示す(図表1 左図)ことで、北海道・東北地方と、中国四国地方は1店舗当たりの売上高が、平均を下回っていることが一目でわかるようになり、これらの担当者に危機感を与えることができます。危機感を感じたら、奮い立って今よりも仕事をもっと頑張ってもらうことができるでしょう。
ポイントは、単に数値データをきれいに表現するためにグラフを用いて説明をするのではないという点です。相手に何らかのアクションをしてもらうことを期待してデータを使って説明するのであれば“危機感を煽るために、データをグラフ化する”ということを意識し「基準値(ここでは平均値)を下回っているから動いてほしい」と伝えることが重要なのです。
■「過去と現在」の比較から改善を促す
テクニック2:“環境要因”と言い訳できないよう過去と現在(時間差)で比較する
上述の例のとおりエリア別に1店舗当たりの売上高を示し、一店舗あたり売上高が低い担当者に改善活動を促しても、「そもそも、地域特性や与えられた環境が異なるから比較にならない」と反論をする担当者もいるかもしれません。このように地域格差が大きく、担当者間同士での比較が難しいようであれば、過去と比べて、悪化しているのか伸びているのかを示すデータを見せます。
ここでは、カレーハウスCOCO壱番屋を展開する、壱番屋の各国の店舗数値を見てみましょう。各国ごとに事情が異なるため、1店舗当たり売上高の水準が大きく異なることは当然なのですが、過去から現在にかけてその数値がどのように変化をしてきたかを比較することで、各エリアが成長してきたのか否かを把握し、成長が芳しくないエリアの責任者に危機感を与え改善に向けて動かすことができるようになります。
ここでは、米国が大きく伸びているにも関わらず、韓国と中国が落ち込んでおり、何らかの対策を打たなければならないと伝えることができます(図表2)。
■リモート会議では「2人の部下」だけ意識する
テクニック3:説得する相手の顔を2人だけ思い浮かべる
リモート会議だと、相手が理解しているかどうかわかりにくく、全員がわかるようにとくどくど説明してしまいがちですが、もちろんこれは逆効果です。
参加者が多いからといって、全ての参加者を意識して説明をする必要はありません。2人のみを意識して説明をするのが効果的です。
例えば、「最も影響力が大きい部下」と「最も理解が遅い部下」の二人のみ意識するのも一つのやり方です。「最も影響力が大きい部下」を説得できれば、他に理解ができていなかったり反対している部下に対して、勝手に働きかけてくれるようになります。
また、当然、最も理解が遅い部下が理解できるよう作られたデータ資料(図表3)であれば、シンプルで見やすく他の人にとってもわかりやすいものになることでしょう。
私は、会社全体の改善の過程において新人により効率的に営業してもらいたいときに、新人のメンバーでもわかるように、単に顧客ごとに担当者がかけている時間と顧客別利益額の2軸で顧客別にデータを一覧化し、図表3のように散布図で表現しました。
「かけている時間」「顧客別利益額」「散布図」という新人でもわかる指標を用いたのです。
テレワークで指示が部下に伝わりにくくなった、なかなかチームのメンバーに動いてもらえなくなったと感じたら、具体的に数字の見せ方、伝え方を工夫してみてください。メンバーのやる気を喚起することができるはずです。
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企業再建プロフェッショナル
Pioedge代表。慶應義塾大学経済学部卒業、コロラド大学留学。外資系コンサルティング会社を経て、現在は国内・海外企業の経営改革・再建や、企業買収業務に従事。企業価値向上の専門家。日本を代表するグローバルメーカー、全国小売チェーン、高級アパレルブランドなどの海外M&Aや事業戦略策定時のプロジェクトマネジメントに従事。従業員数万人規模の企業の再建や、海外企業の経営に携わる。「日経xTECH」にて、『「コンサル的スキル」の磨き方』を連載中。著書に、『日本人が知らないプロリーダー論』(PHP研究所)がある。
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(企業再建プロフェッショナル 小早川 鳳明)
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