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コロナ休校が生んだ「落ちこぼれ世代」の責任は、だれがどう取るのか

プレジデントオンライン / 2020年9月9日 9時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/takasuu

今春の全国一斉休校では、多くの学校が教科書に沿ったプリントでの家庭学習を指示した。しかし千葉県教育委員会の調査によると、9割近くの子供は学習が定着しておらず、再学習の必要があるという。教育評論家の石田勝紀さんは「これから休校による落ちこぼれ世代が大量発生するおそれがある。この責任をだれがどう取るのか」という——。

■子供の勉強は家庭にお任せ、文科省「丸投げ」のツケ

新型コロナウイルスの感染拡大により全国一斉休校が始まったのは3月2日のことだった。当初は春休み終了までの措置ということだったが、4月7日に緊急事態宣言が発出されたことにより、全国の学校の休校が延長された。緊急事態宣言解除の5月25日以降も学校は分散登校や休校延長により、完全に平常授業に戻ったとはいえない状況だった。

その間、学校によってはオンライン授業を取り入れることもあったが、双方向型授業の導入校はごく一部にとどまった。動画を急ごしらえで作り上げた自治体もあったが、多くはプリントなど課題を出すことで家庭学習を促進する対応をとってきた。

文部科学省は4月21日に各都道府県の教育委員会に向けて、「全国の学校で児童生徒に教科書に基づく家庭学習を課すよう求める通知」を出したが、その背景には遅れた学習内容を少しでも進めることにより、2020年度内にカリキュラムを消化しようという意図があっただろう。

これに先んじて、4月10日に文科省は「休校中の児童生徒が家庭学習を通じて学力を身につけたと確認できる場合、学校再開後に同じ内容を授業などで行わなくてもよい」とする特例の通知を出していることからも、「年度内のカリキュラム消化」を強く意識していることがわかる。

■「それで済むなら、そもそも学校はいらない」

しかし、各家庭の親は、そのような学校側の「丸投げ」の対応で子供の学力が十分に身に付くとは到底考えなかった。

筆者が主宰する子供を持つ母親向けのサークル「Mama Café」において、家庭における子供たちの状況をヒアリングした際にも、それは確認できた。母親たちは、「オンラインや課題プリントだけで学力の定着ができるはずがない、それで済むなら、そもそも学校はいらない」と一様に学校側の無責任ともいえる対応に憤慨していた。

■千葉の公立小中学校調査「9割近くの児童・生徒が再学習の必要あり」

では、実際、休校中の子供たちの学力はどうだったのか。2020年7月25日のNHKの「首都圏ニュース」は次のように報じていた。

「千葉県教育委員会が県内の公立の小中学校に臨時休校に伴う家庭学習について調査したところ、『学力が定着しなかった』とした学校が全体の8割を超えたことがわかり、教育委員会は再度休校にせざるをえなくなった場合に備えオンライン授業の態勢作りを図る方針です」

動揺している少年がテーブルに座り、山積みの本の中で宿題をしている。開いたノートにはヘルプ!の文字が書かれている。
写真=iStock.com/vejaa
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/vejaa

千葉県では休校期間中、ほぼ全ての学校で教科書に沿ったプリントを課題として出していたようである。さらに「授業で再度、学習し直す内容がある」と答えた学校は小学6年生、中学3年生で87%、それ以外の学年でも86%に上り、家庭学習の効果は十分でなかったと考えている学校が多いことがわかったという。

■「空白」期間は子供の学力の致命傷「落ちこぼれ」量産の責任は誰が

9割近くの児童・生徒が再学習の必要がある——そんな事実を学校現場はどう受け止めているのだろうか。数カ月の休校期間中に行われたプリント演習で子供に学力をつけられなかったとなれば、その期間の学習については実質的に空白期間となる。

「空白」は子供の学力にとって致命傷となる。高校受験や大学受験での悪影響が懸念される。夏休みの短縮化などで再学習の機会を設けようとする動きもあるが、数カ月分の空白を埋めるのは大変だろう。

単元内容をきちんと子供たちに身につけさせるという実質主義ではなく、「年度内のカリキュラム消化ありき」を暗黙の前提とした文科省の「履修主義の弊害」のしわ寄せは結局、子供に向かう。今後、新型コロナによる2度目の休校となった場合、再び同じプリント学習に戻り、「空白」がさらに増えないとも限らない。

それは最悪の場合、休校によってつくられた人為的な「落ちこぼれ」を大量に生み出してしまうことになる。

■勉強の遅れを文科省や学校がカバーするための3つの方法

休校期間中に「学習定着がなされていなかった」のは千葉県に限ったことではないだろう。他の都道府県においても同様の実態であることは想像に難くない。

このような結果となることは保護者や教員たちも薄々感じていたことだが、問題はこれからどのようにそれをカバーしていくのかということだ。

オンライン授業で算数を学ぶ、6~7歳の男児
写真=iStock.com/pinstock
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/pinstock

その対策として、文科省はオンライン体制を急ぐことを発表している。上記の千葉県教育委員会の発表においても言及されている。筆者もオンライン化は重要なキーワードになると考えてはいるが、現実問題として、端末・通信環境・運用研修とそれに伴う時間と予算を考えると、短期での実現は極めて難しいのではないだろうか。

来年3月末で、2020年度の学年を終了させること(年度の延長をしない)が決定している以上、可能な対策は限定されている。現状から読み取ることができる対策としては次の3つが考えられるだろう。

1)現在の学習内容の取捨選択または繰り延べを行う

文部科学省は8月18日に各都道府県の教育委員会に対して、「最終学年(小6、中3、高3)以外の児童生徒に次年度以降を見通した教育課程の編成を認める」ことを正式に可能とする告示をしている。

しかし、そうなると他の学年を含むカリキュラムを全体的に組み直す必要が出てくる。また、学年間での引き継ぎで指導内容に漏れがないようにすることや、児童生徒の学習状況を適切に共有する作業もあり、教員の負担は計り知れないものがある。

しかも今後、休校がないことを前提に組み立てると予想されるため、再度の休校時には、さらなる改変をせざるをえず、さらなる混乱を招くのは必至だろう。

2)オンライン化を早急に実現する

教育現場におけるオンライン化は必須である。しかし、オンライン授業の体制を短期でどこまで本格的に整備できるかについては未知数であると言わざるを得ない。

現場の教員たちは、日々の授業準備や学級活動、生徒指導で多くの時間が占められているため、さらなる負担を求めることは物理的に難しい。

また、教育委員会がグランドデザインとしてどのような効果的仕組みを構築できるのかどうかもわからない。そもそも、オンライン授業といっても、動画配信することを意味するのか、それとも双方向型授業とするのかについても明確ではない。個人的には、高校生なら授業の動画配信とチューターとの定期的な面談で何とかなっても、小中学生の多くは双方向型でなければ難しいと考えている。

前述した通り、オンライン化は端末・通信環境・(教員の)運用研修の3つが成立しなければ機能しない。筆者は、オンラインは3年後をめどに完成させることが現実的だと考える。

付け焼き刃的なオンライン授業を提供したところで、成果は限定的となり、「オンライン化しましたが学力は定着しませんでした」と後々発表されることになれば後の祭りである。

名古屋市のように民間のオンライン授業を使用することも考えられるが、文部科学省が恒久的に民間の授業に委託する意思決定をするとは考えられない。それこそ「公教育とは何か?」が問われることは間違いないからである。

■オンラインを使った動画によるモデル授業例を教員が共有せよ

3)授業の密度を高める

筆者はこれまで数多くの教育現場に立ち会い、授業視察、研修を行ってきたが、残念ながら、非効率的と思える授業を展開しているケースが少なくなかった。

子供たちが教員の話を聞いていないにもかかわらず時間が浪費されているシーンを何度も目にしてきた。例えば、児童・生徒に手を挙げさせて当てて答えさせるという時間(手を挙げない子は何も頭を働かせていない)、板書をノートに書かせる時間(そのまま書きとるだけで頭を働かせていない)、宿題の答え合わせやテストの解説(思いのほか、時間がかかる)……。

そのような授業に効果があるのかを検証し、改めて効果的・効率的授業を組み立て直すことで、2020年3月までの残された時限数の授業を密度高く行うことは可能であろう。単純に単元を削減するという発想ではなく、これまで行ってきた授業の組み立て方を変えるという方法をとってみるのである。

その場合、教員それぞれの「教え方」に依存するのではなく、効率的授業のモデルケースやガイドラインを教育委員会などが作成するといいのではないか。オンラインを使って動画による授業例を教員が共有し、少しでも教員が安心して授業ができるように配慮していく必要があるだろう。

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石田 勝紀(いしだ・かつのり)
教育評論家 都留文科大学特任教授
1968年横浜生まれ。20歳で起業し、学習塾を創業。3500人以上の生徒に直接指導。講演会やセミナーを含め、5万人以上を指導。「心の状態を高め」「生活習慣を整え」「考えさせる」の3つを柱に、学力上昇のみならず、社会に出ても活用できるスキルとマインドを習得させてきた。現在は特に、「日本から 勉強が嫌いな子を1人残らずなくしたい」と、Mama Cafe、執筆、講演を精力的に行う。国際経営学修士(MBA)、教育学修士(東京大学)。著書に『はじめての子ども手帳』『子どもを叱り続ける人が知らない「5つの原則」』『子どもの自己肯定感が高まる魔法のことば』ほか多数。講演、執筆相談はこちらから。公式サイト/公式ブログ/Facebook

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(教育評論家 都留文科大学特任教授 石田 勝紀)

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