陰山英男「問題を解けずに悩む子には、すぐに答えを教えなさい」
プレジデントオンライン / 2020年9月10日 9時15分
■小学校の学習で大事なのはたった3つ「算数、漢字、小6社会」
いつもより短い夏休みが終わり、2学期が始まった。小学校では、休校措置による遅れを取り戻そうと、授業時間や宿題を増やして、今まで以上に詰め込んだカリキュラムを実施している。このような中、家庭でも「わが子が勉強にしっかりついていけるよう、サポートしないといけない」とプレッシャーに感じている親は多いだろう。
だが、「すべてを完璧にやろうとしなくて大丈夫。いま重要なのは、学習内容のなかで大事なものをきちんと精査して、効率的に学習していくことです」と言うのは、「陰山メソッド」で知られる陰山英男さんだ。
陰山メソッドとは、「早寝早起き朝ごはん」を大切にして生活リズムを整えたうえで、音読や計算、漢字など基礎学習を徹底的に反復する学習方法のこと。この学習方法を広島市の公立小学校で実施したところ、学力があがり、卒業生の2割が難関国立大学、医学部に進学し、注目を集めた。陰山メソッドを取り入れた全国各地の小学校でも、児童の学力や知能指数が上がるなど、優れた成果を発揮している。
陰山さんはこうした実績の中から、小学校時代に押さえておかないといけないのは、主に「算数」「漢字」「6年生の社会科」だと言い切る。
「算数は積み重ねの教科なので、中学、高校とつまずかないために、習熟が必要な科目です。漢字もできないと教科書が読めないので、やはり大事です。6年生の社会科で学ぶ歴史や公民の内容は、わかっている前提で中学校の授業が始まるのでしっかり覚えておく必要があります。でも、これだけで大丈夫。大事なのは、こういった絞り込んだ内容については徹底的に反復学習をして、考える前に手が動くくらいに習熟することです」
■勉強とは集中力を高めるためにやるもの
親は家庭学習であれもれもと欲張らずに、算数・漢字・6年生の社会科を中心に、わが子がきちんと理解しているか確認し、できていないところがあれば繰り返し学習させる。
ただし、この学習のさせ方にもポイントがある。親は、子供が長く机に向かっていると安心しがちだが、「ダラダラと長く勉強させてはダメ」と陰山さんは言う。
「中高時代を思い出していただきたいのですが、成績トップの人って勉強時間があまり長くなかったのではないでしょうか? 成績優秀でスポーツもがんばっているようなタイプです。なぜ、彼らの勉強時間が短いかといえば、速いからです。なぜ速いかといえば、集中しているから。頭の良さとは集中力の高さと回転の速さで、極論をいえば、勉強するのは集中するためのトレーニングにほかなりません。だから、家庭学習は短時間集中でパッと終わらせて、あとは自由に遊んでいい時間というようにメリハリをつけることが大事なんです」
時間は一概には言えないが、宿題のプリント1枚をいつもダラダラと30分かけてやっているなら、集中して20分で終わらせるように働きかけてみる。必ず目標時間を設けて、15分、10分、5分と徐々に短くできるようにしていくといいという。
「速さは、集中のバロメーター。早く終わったら、褒めてあげましょう。間違っても、『早く終わったなら、このプリントもやりなさい』などと課題を増やしてはダメですよ」(陰山さん)
■基礎問題で十分。応用、発展問題はやらせない
やらせる教材についても、注意が必要だ。
「教科書や学校で与えられたドリルなど、基礎的な内容のもので十分です。学校や塾では、基礎問題ができたら、応用問題、発展問題と難易度をどんどんあげていきます。これは、落ちこぼれを大量に生み出す教育方法です。なぜなら、この教育方法だと子供はいずれ必ず『できない』という壁にぶつかります。そして、自信を失ってしまう。このような教育をしているから、日本の子供の自己肯定感は低いのです」(陰山さん)
ドリルを選ぶ際は、基本問題の演習ができて、ページ数が少ない薄めのものにしよう。薄めがいい理由は、内容が絞り込まれていることと、すぐに終わるので繰り返し学習がしやすいという点にある。迷う人は、陰山さんが学年・強化ごとにやるべき単元を絞り込んだ「陰山メソッド たったこれだけプリント」シリーズ(小学館)がオススメだ。
発売中の『プレジデントFamily2020秋号』では、「これだけで大丈夫! 学年別 陰山式・厳選ドリル」で1~6年生までの算数問題を紹介している。子供の学年の問題をやらせてみて、わかっていなければ前の学年に戻るなど、“積み重ねの教科”である算数のつまずきポイントを確認するためにもご活用いただきたい。
■同じ問題を繰り返しやって、答えを暗記させよう
しかし、薄くて繰り返し学習がしやすいと言われても、同じ問題を何度も解いて意味があるのかと疑問に思う方もいるかもしれない。さまざまな問題にトライしてこそ、実力がついていくのではないだろうかと。
だが、陰山さんは「同じ問題を繰り返しやって、答えを暗記するくらいでいい」と断言する。
「九九は暗記ですが、暗記することで割り算ができるようになり、分数、小数の計算もできるようになります。教師の中にも『暗記はいけない、考えさせたほうがいい』という人がいますが、暗記と思考はコインの裏表の関係。覚えられないと思考できないし、思考できないと覚えられません。答えを暗記するくらい基礎問題を習熟すると、応用力は自然とついていくのです」(陰山さん)
だから、子供が問題を解けずに悩んでいたら、すぐに答えを教えてしまうと陰山さん。
「ダラダラと解かせていると、『できない』という意識が定着してしまいます。答えを教えて、また同じ問題を解かせると、次は解けるようになります。そうやって『できる』を積み重ねていくと、自信がついて、自分から勉強するようになっていきます。低学年のうちは暗記力が高いので、暗記する学習をどんどんさせましょう」
■“安心しっこ競争”をしよう
新型コロナウイルス感染症の影響で、学校現場が振り回される状況はしばらく続きそうだ。このような時こそ、「親はどっしり構えていてほしい」と陰山さんは言う。
「親が不安に思っていると、子供は親の2倍不安になります。そんな状態では勉強が手につかなくなってしまいます。逆に親が大丈夫だとおおらかにかまえていれば、子供も安心して勉強に集中できるでしょう。だから、お母さんお父さんには、“安心しっこ競争”をしてほしい。一番安心できた人が勝ちという競争です。安心できた人から、お子さんは優秀になるので、ぜひ、やってみてください」
(プレジデントFamily編集部 森下 和海)
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