プロ家庭教師が「オンライン授業では2台のカメラが必須」と断言するワケ
プレジデントオンライン / 2020年9月11日 11時15分
■「オンライン家庭教師」という選択肢が現れた
新型コロナウイルスは、子どもたちの学習環境を大きく変えた。今年、教育界で最も注目されたものといえば、オンラインによる授業だ。私も緊急事態宣言中はオンラインで授業を行っていた。その後も2割程度は、オンラインとしている。
今は学校も塾も多くが対面授業に戻っているが、オンライン授業の良さを知り、そのまま継続をする家庭も少なくない。特に最近は、感染の不安がなく、自宅で気軽に学習指導をしてもらえるオンライン家庭教師が注目を集めている。
オンライン授業のメリットは、子どもの時間に合わせて行えることだ。今の時代、中学受験をするとなると、それを専門に教える大手進学塾に通うのが一般的。しかし、塾に通うと拘束時間が長く、子どもの自由が利かなくなる。そんな状態を良しとせず、「中学受験をしない選択」をしてきた家庭もあるだろう。
また、習い事など子どもの好きなことをやらせたいと思っている家庭にとっても塾との両立は難しい。難関校を狙うのであれば、ある時期はやりたいことを我慢して、受験勉強に集中した方がいいだろう。だが、そうではなく、小学生時代は子どものやりたいことをとことんやらせ、「中学受験は無理のない範囲で」と考える家庭もある。そういう家庭にとってオンライン家庭教師は、子どもの予定に合わせることができるので使い勝手がいい。
■大手塾が混乱した「オンライン授業」
一方で、これまで大手進学塾に通わせていたけれど、コロナを機にオンライン家庭教師に切り替えた家庭も出てきている。4~5月の緊急事態宣言発令中、大手進学塾をはじめとするすべての塾が対面での授業ができなくなり、オンライン授業に切り替わった。しかし、これまでオンライン授業をやったことがない塾が大半で、現場はかなり混乱した。
ようやく動画配信による授業が始まったと思ったら、その中身はいまひとつ。急きょ作成した授業は、学力別にクラスが細分化されている普段とは異なり、統一された授業で、上位クラスにとっては物足りない、下位クラスにとってはフォロー不足の内容になった。100人規模で授業をしていた塾もある。
■子どもが「授業を受ける様子」を見てしまった親たち
これまで大手進学塾は保護者に授業体験をさせないところが多かった。「うちの塾に入れたければ、私たちに任せておけ」とばかりに強気な姿勢を見せていた。ところが、オンライン授業を見てみると、たいしたことはない。教科によってはたった10分で説明を終えてしまうこともあった。また、解説ばかりで退屈に感じた親も多かったようだ。実際、子どももつまらなそうに見ていたという。「こんな授業に高額な授業料を払っていたかと思うと、頭に来ます」という声も聞いた。
オンライン授業を受けているわが子を見て、授業の中身をまったく理解できていないことに気づく親。「この説明では、理解は無理!」「こんなつまらない授業を受ける意味はない」と塾に不信感を抱き、1対1で丁寧に教えてくれる家庭教師の方がいいのではないかと家庭教師を選ぶ家庭が出てきたのだ。
こう聞くと、うちも家庭教師に切り替えようかと考える親もいるだろう。だが、ひとくちに家庭教師といっても、教師の質はピンキリ。しかも、オンラインに精通した家庭教師となると数は少ない。
では、良いオンライン家庭教師の見極め方はあるのだろうか?
■小学生が集中できる時間はとても短い
まず大前提として、中学受験の勉強を教えられる学力は不可欠だ。そういう点では、中学受験を経験したことがある大学生でもできなくはない。でも、子ども一人一人に合わせて説明の仕方を変えることは難しいだろう。そして、高校受験や大学受験の指導と大きく違うところは、相手がまだ精神的に幼い小学生であることだ。
あまり勉強に乗り気ではない子どものモチベーションをどのように上げていくか、集中力が続かない子どもをどう楽しませるかといった、子どもの気持ちを持っていくスキルは実はとても大事な要素だ。それを大学生ができるかというと、ちょっと難しいと思う。良い家庭教師とは、勉強の指導力はもちろんのこと、子どものタイプに応じた接し方ができる人間力も問われる。
オンライン授業にZoomがよく使われている。Zoomにはホワイトボード機能があり、対面授業で黒板に書いて説明をするのと同じように、ホワイトボード機能を活用することができる。
しかし、私は小学生の指導にこのホワイトボード機能は向かないと感じている。同じ教えるにしても高校生や大学生であれば、説明だけでも授業は成立する。だが、小学生は人の表情がまったく見えない中で学習することは難しい。また、一方的な授業ではついて来られない。
オンラインであっても、小学生の子どもに勉強を教えるときは、相手がすぐそばにいることを感じられることが大事だ。子どもは人の気配がないところで勉強ができない。そのため、私はホワイトボード機能を極力使わないようにしている。
■子どもの「手元」を見るカメラを設置した
長年、中学受験の指導をしてきて感じることは、中学受験を目指す小学生の指導をするときは、単元そのものを教えることよりも、つまずきに気づいてあげることが大事だということだ。だから、私は対面授業の際に必ず子どもの手元を注視する。そこからいろいろなことが見えてくるからだ。オンライン授業でもそれは必ず気をつけている。
私のオンライン授業では、PCのカメラに加えて、子どもの手元を映す「書画カメラ」を設置してもらっている。
例えば算数の問題を解くときに、何から書き始めるかをチェックする。公式に数字だけを当てはめていないか、ちゃんと理解をした上で解いているのか、自信を持って書いているのか、やや迷いがあるのか、そうしたことを子どもの鉛筆の動きから感じ取る。ちょっと怪しいなと思ったときは、「なぜこの式なの?」「どうしてそう思ったの?」と質問してみる。そういうときは、大抵うまく説明ができない。きちんと理解できていない証拠だ。
また、字の乱れや筆圧の薄さは子どもの心を映し出す。字が雑になっているのは焦り、筆圧が弱いのは自信のなさの表れだ。実は問題が解けたかどうかよりも、こうしたメンタルに気づけるかどうかが重要なのだ。
だから、ホワイトボード機能だけを使って、授業をした気分になっている家庭教師はおすすめできない。
■良い家庭教師は子どもの「表情」を見ている
もう一つ大事なのは、子どもの表情だ。1対1のオンライン授業は、子どもの逃げ場がない。そのため勉強に集中できると思い込んでいる親がいるが、それは大間違いだ。小学生の子どもの集中力なんて、30分持つかどうか。聞いているように見えて、まったく聞いていないなんてこともある。
そこで私は「今の問題の解き方、もう1回説明してみて」と、ときどきあえて子どもに説明させる。また、対面授業での休憩の代わりに、画面越しでストレッチをして、リフレッシュする時間を設けている。
ただ、そんなやり方をしなくても、子どもの集中力を維持することはできる。授業がおもしろければいいのだ。対面授業が下手な教師は、いくらPCをうまく扱えたところで、結局のところ授業が下手。ここでいう“下手”とは、子どもの表情を無視して、見事な説明・解説をしてしまう教師を指す。自分は完璧に教えたつもりかもしれないが、目の前の相手が理解できていなければ意味がない。
■「興味のきっかけを与える」のが大事な役割
良い教師は、テキストの問題を教えるだけでなく、テキストの問題を利用して、子どもたちを楽しませながら、必要な知識を頭脳に定着させることができる。特に理科は、教師がどれだけ知識の引き出しを持っているかが問われる。高額の授業料を払う親からすれば、「おしゃべりばかりして」と思うかもしれないが、教科への興味のきっかけを与えてあげるのが、家庭教師の大事な役割だと感じている。
私たちのこれまでの生活、価値観を大きく変えた新型コロナウイルス。おそらく、中学受験においてもこれまでの常識を変えるだろう。中学受験をするなら大手進学塾といった王道コースや、学校選びは偏差値重視といった価値観はなくなっていくのではないかと思う。そうなったときに、わが子はどんな塾が合うか、どんな教師に教えてもらうと伸びそうか、どんな学校に行くと楽しく過ごせそうかといった親の“見極め力”が重要になるだろう。わが子が中心の中学受験。それが本来のあるべき姿だと思う。
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プロ家庭教師集団「名門指導会」代表/中学受験情報局 主任相談員
日本初の「塾ソムリエ」として、活躍中。40年以上中学・高校受験指導一筋に行う。コーチングの手法を取り入れ、親を巻き込んで子供が心底やる気になる付加価値の高い指導に定評がある。
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(プロ家庭教師集団「名門指導会」代表/中学受験情報局 主任相談員 西村 則康 構成=石渡真由美)
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