管理職になりたくない女性の意識を変える3つのステップ
プレジデントオンライン / 2020年9月15日 17時15分
■家庭重視バイアスとは
社会や職場で、女性に対するさまざまなバックアップが既に行われているにもかかわらず、日本の女性は管理職になることに消極的です。その大きな障壁となっているのが、アンコンシャス・バイアスと呼ばれる概念です。
先の記事でも触れた通り、アンコンシャス・バイアスとは、自分では気づかないものの見方・考え方の歪み・固定観念のこと。誰にでもある脳の働きです。これを排除することで、職場の多様性を損なわずにイノベーションを起こせるのではないかと、多くの企業が注目しています。私たちは、その中でも性別に関するアンコンシャス・バイアスが、女性の活躍を阻むものとして特段の関心を持ってきました。「女性はサポート的な役割が向いている」と、「女性は仕事ではなく家庭を重視すべき」の2つがその代表です。
たとえば、私たちが接したある50代女性は、そのバイアスに束縛された典型といえます。「女性だから仕事と家庭を両立しなければいけない、と思って仕事を頑張りながら家事も自分で抱え込んでしまい、もう疲れ切ってしまいました」と話してくれました。世代的な傾向もありますが、何より本人の「家庭重視」バイアスとその女性の上司の「家庭重視」バイアスとが相互に作用し合い、深刻な状況に陥っていました。
■「男性的なリーダーシップが固定化」する問題
女性が管理職になるのを敬遠しがちなのは、家庭重視のバイアスのためだけではありません。
変化してきているとは言っても、今の管理職のリーダー像が「ついてこい」と言わんばかりの男性的なリーダーシップで固定化されていることも大きな理由でしょう。管理職はまだまだ男性のほうがずっと多い。そのせいで、「ついてこい」タイプに見える女性が数少ない女性管理職になっていたり、あるいは意に沿わぬままそれを演じていたりする。それを見た若い世代の女性が「私には、ああはなれないな……」と敬遠する。これでは、性別についてのアンコンシャス・バイアスは逆に強化され、固定化されたイメージのリーダーが再生産されてしまいます。
すでに以前の記事でも述べましたが、一般社員がアンコンシャス・バイアスを克服するためにも、以下の3つのステップを踏みます。
2)「気づく」ステップ:自分と周囲にどんなバイアスがあるかに気づく
3)「コントロールする」ステップ:どうすれば自分の中にあるバイアスをコントロールしていけるかを学ぶ
■「若いから」「女性だから」とうバイアスが邪魔をする
ここまでは管理職と変わりませんが、部下を持たない若手・中堅の一般社員には、また違ったアプローチが必要です。留意点として、学ぶ目的の1つに主体的なキャリア形成を置くこと。仕事か家庭かの2択で家庭を選び、キャリアをあきらめる……という思考に陥っている女性に対して、自分の中のアンコンシャス・バイアスに気づいてコントロールしていけば、両立はできるし主体的なキャリア形成も可能、ということを伝えていきます。
両立という点では、産休後の復帰はすでに普通の事になっていますが、昇進やキャリア・アップについてはまだ二の足を踏む方が多いのも事実です。若いうちに自分なりのキャリアを具体的に思い描けていたら、もっと前倒しでキャリアを積めるはずですし、そういう機会は20代でも自分から取りにいけます。でも、自分は若いからとか、女性だからというバイアスゆえに上司に話せない人もいます。それでチャンスを得ることができないとしたら、大変もったいないことです。
■チームワーク向上のためのバイアスのコントロール
もう一つの目的は「チームでより良い成果をあげるため」です。仕事の内容にもよりますが、大多数の職場では、管理職やチームリーダーのもと、みんなで協働してプロジェクトを進めていくと思います。チームワークを良くして生産性を高めるためにも、自分や他のメンバーに対する自分の中のバイアスをコントロールできるようにすることが大事になります。
例えば、チームに新しく入った方がいたとして、ありがちなのは、新人はできないと決めつけて雑用しか渡さないということです。これが続くと、その方のモチベーションを下げ、アウトプットを出すのが遅くなる……といったケース。でも、その方には、もしかしたら学生時代や他社で身に付けたスキルや知識があるかもしれません。どういうことがやりたいのか、何が得意なのかを話す機会を設け、それを活かすことでチーム全体のパフォーマンスが上がるということもあるでしょう。その時には今の業務に直接結びつかないように見えても、何気ないところでフォローしあえることが出てきたりもします。
こうした取り組みによる成果は、いくつもあります。ライトなものからいえば、オフィスの席替え。人の脳は自分と物理的に距離が近い人を好む傾向があって、席替えやレイアウト変更を行う際に、管理職が何となく自分の話しかけやすいメンバーやリーダークラスを近くに置いたりすることがあります。でも、それではお互いに入ってくる情報が偏るので、バイアスが生じやすくなります。そこでフリーアドレスを採用したり、定期的に席替えをしたりして多様な情報を入れ、バイアスを働きにくくする、といった具合です。オンラインのコミュニケーションでも、最近話してないなという人にちゃんとつないで「最近どう?」と話しかけてみる。リモートワークで雑談の時間が減っていますから、チームで雑談の時間を作り、何気ない会話をフラットにしてみるのも良いかもしれません。
■今は、家族にまつわるバイアスに対処するチャンス
家族にまつわるアンコンシャス・バイアスについても触れておきましょう。既婚女性については、一番身近な夫の協力がないとなかなか前に進めないことがありますが、前述のように、女性自身にもバイアスはあります。「家庭のことは自分がやらなくては」「夫はできないに違いない」と無意識のうちに自分が背負ってしまう方は少なくありません。
コロナ禍では、家族重視、家族との時間を大切にしたいという人が増え、家庭のバイアスに対処していくにはポジティブなタイミングだと感じています。夫婦が昼間に一緒にいればいろんなことを自然とシェアできるようになりますし、お互いに相手の働きぶりも見えるので、キャリア形成について話し合う機会が持てるかもしれません。
自然な形で社員側の意識が変わっていき、会社側もそれに対処していく、という動きがより多く生まれてくることを願っています。
そのためにも、引き続き多くの方々に対して無意識バイアス(アンコンシャス・バイアス)をコントロールしていただけるようなアプローチをもっと広めていければと考えています。もちろん、個人だけで対応するのが難しいテーマではあるので、会社を挙げて仕組み化していくことが求められます。アンコンシャス・バイアスは学術的には完全に消えることはないとされているものですから、継続的な取り組みが必須。本気でやるとなると、かなりの長期戦になりますし、それをきちんと応援していきたいと思います。
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チェンジウェーブ 取締役副社長
早稲田大学第一文学部卒業後、リクルートへ新卒入社。人材領域の営業・商品企画・パートナー渉外、営業企画の企画統括責任者。その後、個人事業主を経てチェンジウェーブへ参画。組織変革プロジェクト、ダイバーシティ推進、無意識バイアスラーニングツールプロジェクトリード、各種講演、執筆など。
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(チェンジウェーブ 取締役副社長 藤原 智子 構成=西川修一 写真=iStock.com)
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