「原因は小田和正と麻婆茄子」仲良し夫婦を引き裂くコロナ禍の火種
プレジデントオンライン / 2020年9月12日 9時15分
■コロナ禍でオフコースの名曲を聴いていたら主人在宅ストレス症候群に
私はコロナ禍の5月、あるクリニックで聞き慣れない“病名”の診断を受けた。担当の女性医師はこう言った。
「おそらく夫源(ふげん)病ですね」
夫源病は、正式な医学的病名ではない。夫の言動が強いストレスとなり、妻の心身にめまい、動悸、頭痛、不眠など不定愁訴を引き起こす症状で、「主人在宅ストレス症候群」と呼ばれることもある。定年後に1日中、自宅にいるようになった夫の影響で「夫源病」となる女性が多いと言われる。要は、私は自律神経に不調をきたしたということだ。
思い当たることは確かにあった。私は、主に教育・子育て・介護アドバイザーとして以前からずっと在宅ワークをしていた。日中は家でひとり自由きままに暮らしていたが、このコロナ禍で夫もリモートワーカーになった。狭いリビングのテーブルの対角線上に置かれたパソコンの前で熟年夫婦はずっと同じ空気を吸うことになったのだ。
緊急事態宣言にも慣れだした5月初旬の頃からだろうか。私の血圧の値はこれまでほぼ問題なかったが、突然、急上昇し、上が200を超えることもあった。それにともない、めまい、動悸、頭痛に悩まされるようになった。その原因を、突き詰めるとこうである。
「オフコースのせい」
自宅で夫が選ぶBGMは、小田和正さんがボーカルを務めるバンド「オフコース」の楽曲だった。私もオフコースは好きだ。「さよなら」や「Yes-No」などの大ヒット曲の美しいメロディは、いつも私の心をやさしく癒やしてくれた。今年デビュー50周年を迎えた、そのオフコースが夫源病の原因かもしれないと、医師は言うのだった。
「きっと今まではご自分で自由にBGMも決めていましたよね? どんな曲を流すか、いつ止めるか。全部、自分の裁量でできたかもしれませんが、今は、在宅勤務となった旦那さんがそれと同じことをやっている。もし、そうなら、心身のリズムが狂ってもおかしくありません。自分のペースでできないってことは、想像以上にストレスが大きいんですよ」
■コロナ禍の在宅勤務&自粛ムードでイライラ・モヤモヤ
意外な診断内容に驚くと同時に、疑問が湧き上がった。大好きなオフコースなのに、なぜ、と。医師は解決方法をこう教えてくれた。
「夫婦間の仲がいいとか悪いとかの問題じゃないんです。近い関係だからこそ、パーソナルスペースは必要。他に部屋があるなら、どちらかが別の部屋に移動したほうがいいかもしれませんね」
同じ空間でBGMを聴くことだけでなく、突然、「夫と2人」の時間が急増したことで、目に見えない小さなモヤモヤ・イライラが積み重なったというわけだ。
図らずも、当時、私はある精神科医を取材し、コロナ鬱に関する著作の構成を手がけていた(『1日誰とも話さなくても大丈夫 精神科医がやっている猫みたいに楽に生きる5つのステップ』双葉社)。その私が自律神経失調症になるなんて「ミイラ取りがミイラになった」ようなものだが、その後は、お互いの仕事中は私が部屋を移動することにしたため、今はどうにか小康状態を保っている。
このコロナ禍は多くの企業や人に深刻なダメージを与えているが、夫婦関係もまたそうで、わが家のように微妙な空気になっているケースも多い。夫婦が一緒にいる時間が増加したことで、仲良しだったはずの夫婦の価値観のズレが浮き彫りになるのだ。
以下に、3つの事例を紹介しよう。
■夫の「また茄子買う?」発言で四半世紀の夫婦のタワーは崩壊
都内在住の会社員・A子さん(50歳)の場合はこうだ。
緊急事態宣言を受け、A子さんの出社は週2回で週3回がリモート勤務。一方、夫のB男さん(52歳)は全日リモートワーカーとなったそうだ。
そこで、B男さんは妻のいない2日間の夕食作りを請け負った。結婚生活25年で、ただの一度も食事作りをしたことがなかったB男さんは一念発起。市販の中華合わせ調味料の力を借りて「回鍋肉」と「麻婆茄子」が作れるようになる。
A子さんによれば、米も研がず、皿一枚洗わずという夫のお殿様ぶりは相変わらずだそうだが、それでも帰宅後におかずが用意されているということにA子さんは感動し、夫へ感謝の気持ちを伝えることは忘れなかったという。
そんな生活が3週間。食卓に3回目の麻婆茄子が登場した次の日のことだ。夫婦は1週間分の食料を調達しにスーパーに出向く。A子さんは茄子を手に取り、買い物かごに入れた。その時、事件は起こった。
「また、茄子、買うの?」
B男さんが怪訝そうに言ったのだ。また麻婆茄子を夫に作らせようとして買い物カゴに入れたわけじゃない。5個200円と比較的安かったのと、使い回しができる食材だから買おうとしただけだ。A子さんは夫の発言に「さも、主夫をやってます!」といった意味あいが含まれているように感じられ、心の中で「大した回数、料理をしたわけでもないのに」と毒を吐き、つい反論してしまった。
「だって1週間分(の買い物)だよ? 『また茄子?』ってどういうこと? そんなふうに言うなら、もう作らなくていいよ……」
売り言葉に買い言葉だろうか、夫は「俺、結構、やってるじゃん? そう言うなら、もうやらない!」とその場で宣言したという。
■「たかが茄子」で仲良し夫婦の関係は簡単に壊れる
A子さんは、「アンタが『2種類しか作れない』って言ったんじゃん! しかも、今晩作れとは言ってない!」と怒りたかったけど、周りに人がいたのでグッと言葉をのみ込んだのだそうだ。
「夫は、これだけ(週2日)でも、ものすごく(家事を)やっている気になっているんだよね。この人は(食事作りや買い出しといった生活全般のことを)何も分かっていないってことが分かったよ」
A子さんは電話口でそう私に話した後、夫婦の関係に亀裂が走った瞬間をこう表現した。
「四半世紀の間、夫婦で積み立ててきたはずのタワーがもろくも崩れた瞬間だったわ」
たかが茄子、されど茄子。この2人の関係が修復されるかどうかは誰にもわからない。その日以来、A子さんはスーパーで茄子に見向きもしなくなったそうだ。
■持病持ちの妻に理解を示さない、コロナ禍で会食三昧の夫
神奈川県在住のC美さんのケースはどうだろうか。
会社員のC美さんは48歳。同じ年の夫との結婚生活は20年超になる。彼女には持病があり、コロナウイルスに感染すると命の関わるおそれもあると、神経を尖らせている。
これに加え、緊急事態宣言解除のあたりから、夫婦関係に暗雲が立ち込めているらしい。原因は夫が、以前のように、夜の会食をする生活に戻ったから。
C美さんは夫にこう告げたという。
「私が基礎疾患を持っていることを知っているよね? なんで、そんな外食ばっかするの?」
ところが、夫は「気を付けて食事をしているから大丈夫」と言うばかり。ついには、「かかったって軽症じゃん?」と言い出したので、C美さんはたまらずこう言ったという。
「あなたはかかっても軽症かもしれないけど、私は違うの!」
すると、夫がこう返したのだそうだ。
「俺だって、会食に行きたくて行ってるわけではない!」
C美さんは筆者にこう訴える。
「夫と私のコロナに対する認識がまるで違うんです。私は駅でも人とすれ違う時には息を止めるほどなのに、夫はコロナを軽くみてる。正しく恐れてほしいのに、そうしてくれないもどかしさがあって、価値観の差は決定的です」
私の体を100%気遣ってくれない。あくまで自分勝手になるならば、私も勝手に生きる、と決意し、C美さんは今、密かに離婚の準備に入っている。
■「おまえのイビキがうるさい!」「そっちこそうるさい!」
さらに専業主婦のD恵さん(51歳)の話をしておこう。彼女はコロナ禍になってから、寝る部屋を変え、夫とは別に眠るようにしたという。
なんでも、夫から「おまえのイビキがうるさい!」と言われたことに端を発するらしい。
「そう言われた瞬間、張りつめていた糸が切れたっていう感じ」とD恵さん。
「コロナの前から夫のイビキもうるさいのよ。でも、私はずっと我慢してた。それなのに、夫は私が眠っていようがお構いなしに、深夜に帰宅するなり電気を点けるなんてことは当たり前。寝室のテレビも自分の好き勝手に見る。そのくせ、私が就寝前に本を読もうとすると『俺、寝るから電気消して。読むなら、リビングに行って』と。
そんなこんなが思い出されて、私はいろんなことを我慢してきたんだなと気付かされたの。
もういっか、子供も育ち上がった今、私は何の努力をしているんだろう? 夫に合わせて我慢する必要があるのかな? ってね」
それで、とりあえず寝室を別にすることにしたそうだ。
「夫婦は部屋を同じにするべしというのは、自分の勝手な思い込みだったんだよね。今はすごく快適。熟睡できるし。夫は(寝室を別にして)ビックリしてたけどね」とD恵さんは笑顔で語る。
「今まで、夫に文句があっても言えなかったのは、言ったときに『なんで?』と言われ、『やめてほしい』という気持ちが分かってもらえなかった時の、自分の気持ちを考えると、それすらもめんどうになるから言葉をのみ込んできた気がするの。でも、もうやめる。夫のことは嫌いではないから、今後は我慢しないで、思ったことは伝えようって決めたよ!」
■「卒婚」に肯定的なのは40~64歳の男性5~6割、女性7~8割
世の中には、定年後に「卒婚」を希望する夫婦が増えている。明治安田生命が40~64歳に聞いた調査では、卒婚(離婚はしないが、配偶者に必要以上に干渉せずに自分のライフスタイルを楽しむ夫婦関係を営むこと)に肯定的な割合は、男性5~6割、女性7~8割だった。
このコロナで家庭内卒婚を選択する夫婦が急増している、と私は確信している。
先述の医師ではないが、夫婦の距離が近くなり過ぎて、それがつらいなら、一つ屋根の下であっても適度な夫婦ディスタンスをとることは正解かもしれない。共に築き上げた「夫婦のタワー」がもろくも崩れるなど、本当に一瞬で簡単なことなのだから。
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エッセイスト、教育・子育てアドバイザー、受験カウンセラー、介護アドバイザー
執筆、講演活動を軸に悩める母たちを応援している。著作としては「偏差値30からの中学受験シリーズ」(学研)、「ノープロブレム 答えのない子育て」(学研)、「主婦が仕事を探すということ」(東洋経済新報社 共著)などがある。最新刊は「鳥居りんこの親の介護は知らなきゃバカ見ることだらけ」(ダイヤモンド社)。ブログは「湘南オバちゃんクラブ」「Facebook 鳥居りんこ」。
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(エッセイスト、教育・子育てアドバイザー、受験カウンセラー、介護アドバイザー 鳥居 りんこ)
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