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「夜の街だけが悪いのか」店内全員を毎日PCR検査する銀座ママの意地

プレジデントオンライン / 2020年9月8日 19時15分

撮影=長谷川智紀

新型コロナウイルスの影響で「夜の街」が苦境に立たされる中、徹底したコロナ対策を行う高級クラブが銀座にある。「クラブニュー花」の高梨凛ママは、「医師を常駐させ、ホステス、スタッフ、客全員にPCR検査できる体制を整えている。『夜の街』だけが批判されるのはおかしい」という——。

■「銀座が持っているパワーはコロナ後の今こそ必要」

緊急事態宣言解除から3カ月。政府の「新しい生活様式」は少しずつ広がっているが、依然として「夜の街」は厳しい状況にある。特に、歌舞伎町や六本木などの繁華街では、ホストクラブや風俗店で勤務するスタッフにPCR検査の陽性反応が出る事例が相次いだことから、依然客足は遠のいている。

そんな「夜の街」のひとつの銀座で、徹底的なコロナ対策をうたう店舗がある。

「こんな厳しい状況だからと銀座の火を消すわけにはいきません。これまで、銀座の街では政治家や経営者など、多くの政財界人の方が夜の交流によって飛躍的な成長を遂げている姿を見てきました。それを振り返れば、銀座が持っているパワーはコロナ後の今こそ必要です」

そう語るのは、創業54年の銀座の高級クラブ「クラブニュー花」で働く高梨凛ママだ。この老舗中の老舗に、いま最大の危機が訪れている。

「コロナで客足が遠のいたのはどのお店も共通。何よりつらいのが同業者の廃業です。なんとか食い止められないかという問題意識から今回の決定に至りました」

この店では、20時から24時までの営業時間中に医師を常駐させ、ホステス、スタッフ、店を訪れる客全員に毎日PCR検査できる体制を整えているという。

「『ここまですれば安心』を追求した結果、お店に医師を常駐させるしかない、という決断に至りました。お客さまからは万が一のことがあっても安心だね、とご好評をいただいております」

なぜ凛ママはここまで徹底的なコロナ対策を行うのか。

■売り上げは3分の1でもキャストの出勤数は減らさない

創業54年の「クラブニュー花」は東京オリンピックの年にオープンした老舗中の老舗。今年は2度目の東京オリンピックが延期になるだけでなく、店にとっても大きなイベントが中止となった。

「私は今年7月に4代目ママに就任する予定だったのですが、コロナの影響で来年まで延期に。銀座のママになってちょうど10年の節目の年でした。本来行われるはずだった就任イベントも、中止せざるをえませんでした」

店にとって十数年に一度という就任イベントは「一日で数千万円が動く」という一大イベントだ。その経済的損失は計り知れない。

「コロナ以降、売り上げは3分の1以下に落ち込みました。このような状況ですから、それは仕方ないと思っています。しかし、それでも来ていただいたお客さまには満足できるサービスを提供したい。そのため、コロナ後も、ホステスの出勤数は減らしていません」

高梨凛ママ
撮影=長谷川智紀
高梨凛ママ - 撮影=長谷川智紀

現在も店には常に17〜18人のホステスが出勤している。それに加えて7月以降、PCR検査を実施できるように医師を常駐させている。

「緊急事態宣言が解除されてからも感染は終息していません。国民全体に不安感が募る中でも、銀座で安心して遊んでいただく手段として、医師を常駐させるしかないと思ったんです」

■一人2万円の検査代と医師の日給8万円を自己負担

ほかの飲食店同様、店頭にはアルコール消毒液と自動体温計を設置している。さらにオープン前にはPCR検査を実施するため、夜間救急往診サービス「ナイトドクター」の所属医師が店を訪れる。医師の人件費や検査費用はすべて店の負担だ。

ホステスとスタッフは店を開ける前に毎日検査を受ける。採取した検体は店の近くに停めてある車へ運ばれる。車内にはPCR検査機があり、2時間後には結果が出る。また客に対しても希望があれば来店のたびに検査を実施している。

PCR検査の感度は100%ではないので、結果が陰性でも感染しているリスクはある。また、検査から次の検査までのあいだにコロナに感染しているかもしれない。検査結果が出るまでは2時間のタイムラグがあるので、コロナ陽性者の入店を完全に防ぐことはできない。それでも「日本で最高のおもてなしを提供することが銀座の矜持」と、毎日検査する体制を整えている。

「毎日、一人あたり2万円の検査コストがかかります。さらにドクターの日給が8万円。出費は大きいですが、安心して飲んでもらえるお店になるためには、これくらい徹底しなければならないと思います。ナイトドクターさんのご協力でここまでの体制を整えることができました」

リアン株式会社 北條康弘 専務取締役
撮影=長谷川智紀
リアン株式会社 北條康弘 専務取締役 - 撮影=長谷川智紀

「ナイトドクター」を運営するリアン株式会社の北條康弘専務取締役は、医師派遣に至った背景を次のように語る。

「われわれはコロナ以前から、病気にかかってから病院に向かうという今の日本社会のあり方に問題意識をもっていました。その点で、ニュー花さんの施策は事前にコロナ患者の入店を止めるという意味でわれわれが標榜している予防医療の重視とも理念が通底しており、ぜひとも協力させてほしいと医師の派遣を決めました」

■1台1500万円のエアカーテンを設置予定

さらに、クラブニュー花では今後、同社の協力を得て気流によるエアカーテンを店内テーブルに設置する予定だという。これはラスベガスのカジノなどで導入されている最新機器で、人と人との間に空気の壁を作り出すものだ。

高梨凛ママ 茨城県出身。地元の高校卒業後、福島県いわき市にあるスパリゾート・ハワイアンズでフラダンスのショーダンサー(フラガール)を務める。20歳で上京。銀座のホステスになり、2010年にママに。創業54年のクラブニュー花に移籍、現場を切り盛りする。
高梨凛ママ/茨城県出身。地元の高校卒業後、福島県いわき市にあるスパリゾート・ハワイアンズでフラダンスのショーダンサー(フラガール)を務める。20歳で上京。銀座のホステスになり、2010年にママに。創業54年のクラブニュー花に移籍、現場を切り盛りする。

「エアカーテンがあれば、対面でも飛沫が防止できます。ただ、このエアカーテンの導入はそれなりにコストがかります」

なんと、エアカーテンの設置は一台約1500万円。

「コストはかかりますが、飛沫感染を防止できる。お客さまの安心はどこまで追求しても追求しすぎることはないだろう、ということでお店に導入することを決めました。入店時の医師の検査、そしてエアカーテンと、小池都知事が警鐘を鳴らしている懸念点はすべてゼロにして安全に楽しめるお店にしたいんです」

このような徹底した行動には、感染源として「夜の街」と名指しされたことに対し対策をするというママの覚悟を感じる。

「現在、都が飲食店にアナウンスする22時までの営業時間要請は、お店の運営を考えるとかなり難しい。というのも、銀座のクラブはおおむね20〜24時が営業時間で、ピークの時間帯は22時。自粛要請に応じて感染防止協力金20万円をもらっても、銀座のクラブでは割に合いません。」

■偏見で批判の対象にされた“夜の街”の挑戦

前出の北條氏は、今後も医師を派遣し続ける予定だという。

北條康弘/リアン専務取締役。山一証券会社勤務後、国内外において数々の会社を経営。医療法人の代表理事となる。24時間365日体制の在宅医療サービスを提供し、1都3県の自宅や企業へ医師を派遣する「ナイトドクター」のサービスを提供している。
北條康弘/リアン専務取締役。山一証券会社勤務後、国内外において数々の会社を経営。医療法人の代表理事となる。24時間365日体制の在宅医療サービスを提供し、1都3県の自宅や企業へ医師を派遣する「ナイトドクター」のサービスを提供している。(撮影=長谷川智紀)

「弊社の所属ドクターは東大や順天堂大などの勤務医ですが、彼らも『ぜひ夜の街に派遣してほしい』と協力的です。コロナ禍の真っただ中でポジティブな発言は不謹慎かもしれないですが、今後はコンタクトレステック(非接触技術)を活用した“新たな日常”がウィズコロナ時代の希望の光になると私は考えています。また、しばしば批判される“3時間待ち3分診療”という日本の医療体制が感染対策の観点から不適切であることは、コロナ以降多くの方が実感されたと思います。それを解決するための、オンラインとリアルが融合した『ニューリアリティ』という概念も生まれはじめています」

コロナ以降、ビジネスシーンにおいて非接触・非対面でのコミュニケーションがスタンダードになりつつある。

そんな中、新たなテクノロジーがコロナの感染防止策としてスタンダードになるのは明らかだろう。

「ニュー花さんが導入するエアーカーテンはその典型。定期的な換気はもちろん、気流を変えるなど工夫すれば飛沫感染はほぼ防げます。そもそも、コロナ感染のほとんどが飛沫ではなく接触によるものです。その点で『夜の街』だけが批判されるのは偏見です。今後、『夜の街』への協力や、正しい医療情報を発信していくのもわれわれのミッションであると考えています」

はたして、銀座のネオンが「コロナ前」の水準にまで戻る日は来るのか。

一軒の高級クラブの徹底対策が世論を動かすその日が来るのは、あり得ないことではないように思う。

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鈴木 俊之(すずき・としゆき)
編集者・ライター
1985年生まれ。12年法政大学卒業、出版社入社。月刊誌編集部を経て15年独立。専門分野は金融、起業、IT、不動産、自動車、婚活、美容など。

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(編集者・ライター 鈴木 俊之)

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