ドラマ『半沢直樹』を100倍楽しめる!大和田の名言録&ヤバすぎる精神分析
プレジデントオンライン / 2020年9月25日 11時15分
■毎回この男から目が離せない!
池井戸潤の小説が原作の連続ドラマ『半沢直樹』(TBS系、日曜午後9時)。2013年に放送された前シリーズの最終回視聴率は42.2%をたたき出すお化けドラマに成長。
20年7月には、7年ぶりとなる続編シリーズがスタート。当初から高視聴率をたたき出し、回を重ねても20%超の大台をキープしている。
主人公の半沢直樹(堺雅人)は、東京中央銀行のバンカーとして、行内の不正を暴きながら「倍返しだ!」と巨悪に立ち向かう。そんな半沢の宿敵として大きな存在感を見せているのが、常務の大和田暁(香川照之)。
若き時代からエリート街道を突き進んできた大和田。前シリーズでは半沢に敗れ、土下座をしたシーンが有名だが、それ以外でも数々の名言を残している。彼の表情に加えて、そのセリフにも視聴者をゾクゾクと引き付けるものがある。
大和田は派閥意識が強く、駆け引きに優れた策略家。その能力を駆使して、東京中央銀行の常務にまで上り詰めてきた。不要なものは切り捨てる、プライドなき冷徹な男。その男の裏側に隠された本性とは。彼の名セリフをもとに彼の深層心理に迫りたい。
■「施されたら施し返す、恩返しです。」
今シーズン第1話で、敵対していた中野渡頭取(北大路欣也)から恩赦を受け、礼を言うシーンでのセリフ。大和田は、頭取の派閥に転身し、新たな地位を築こうと画策する。
これは、心理学でいう「返報性の法則」。親切をされたら親切を返したくなる、という心理状態を指します。返報性にはこのような「善意」ばかりではなく、「悪意」の場合もあります。
「悪意」は、おなじみ半沢直樹の名言「やられたらやり返す、倍返しだ」がまさに該当します。つまり「施されたら~」と「やられたら~」は表裏一体です。
「やられたらやり返す、倍返しだ」「10倍返しだ」という考え方は、人によってはよくないと捉えるでしょう。今シリーズに「施されたら施し返す」を入れてきたのは、それへのアンチテーゼかもしれません。半沢に言わせると矛盾が生じるから、大和田に言わせたのかもしれませんね。
本来、「善意の返報性の法則」は見返りを求めないで行うことに意味があります。大和田は、明らかに権謀術数的な意味で発言している点が、なんともいやらしい。しかし、実に大和田常務っぽさを表している。
もう1つの考え方もあります。「やられたらやり返す」発言をした半沢とは違いますよ、というアンチテーゼかもしれません。どちらにしても、実にいやらしいですね(笑)。
■「お・し・ま・いdeath!」
第2話では、窮地に追い込まれた半沢に大和田は「私が何とかしてあげようか?」と親切ごかしの救いの手を差し伸べるも、あっさりと断られる。そこで大和田は、親指で首切りのジェスチャーをしながらこのセリフを吐き捨てる。
これは紛れもなく「マウンティング」です。マウンティングとは、本来動物が自分の優位性を表すために相手に対して馬乗りになる行為を指しますが、転じて、人間関係においては「自分のほうが上である」とアピールすることをいいます。
このドラマには、各所に大和田のマウンティングがちりばめられています。
前シリーズで、大和田は出世コースから外れ、半沢も出向させられ、お互いマイナスからの再出発。かつ半沢には屈辱的な土下座をさせられた経験もあり、大和田は逆転しようと様々な仕掛けを考えている。だからマウントを取るようなセリフが出てくる。
「私が何とかしてあげようか?」という誘いに半沢が乗ってくれば、大和田のほうが優位になります。それを無下にされてムッとし、口を衝いて出たセリフでしょう。
首切りのジェスチャーは「私の仲間にならないのであれば抹殺しますよ」という脅しです。そのうえで、後の話では手を組む展開になるのが、このドラマの面白いところですね。
私のところによく「マウンティングされたらどうすればいい?」という相談がきます。
マウンティングする人は自己肯定感が低く、些細なことでマウントを取って喜ぶちっぽけで残念な人です。だから「ああ、残念な人なのね」と思って笑っていればいいでしょう。
同じように、大和田は自己肯定感が低い、残念な人間だといえます。
自己肯定感とは、自分の可能性を信じ、自分はできるという自信を持ち、肯定的に自己を認識することです。自己肯定感が高い人であれば、ポジティブに物事を考えることができます。
大和田はその逆で、自己肯定感が低い。意外かもしれませんが、ああ見えて、自分に自信がないタイプなのです。
自己肯定感は、他人と比較せず、過去の自分と比較することで高まっていきます。他人と比較するから劣っている部分が見えてしまうのです。他人ではなくて、過去の自分と比較するべきです。前の自分よりできるようになっているとか、給料が上がっているとか。
自分が努力した分だけ上積みされていくので、前向きに生きることができます。
■「おまえなんかと誰が手を組むか! 死んでもヤだねー!」
第4話で、半沢から共闘を持ち掛けられた大和田が、感情をむき出しにしてこう吠える。このあと一旦立ち去るも、思いとどまって引き返し、手を組むこととなる。
大和田も半沢も狡猾ですよね。感情に流される人間なら、決別したり振り回されたりした人から「やっぱり手を組もう」なんて言われても、受け入れないでしょう。それを受け入れるということは、2人とも目先の感情では動かない、冷静沈着、頭脳明晰なタイプであることがよくわかります。
このシーンは、大和田の出世欲の強さがわかりやすく表現されている。出世のためなら何でもやれるタイプなのでしょう。
一方で、大和田の言葉には「お・し・ま・いdeath!」だったり「死んでもヤだねー!」だったり、かなり子供っぽい点があります。が、これらもすべてマウンティングです。
マウンティングは、とても子供じみた行為です。マウントを取りたがる人は、些細なことでリードを取って満足感を得るので、器の小さい人。器の大きな人は、マウンティングしませんよ。仮に憎んでいる相手がいたとしても、もっと違う接し方をすると思います。
大和田は、人間の器が小さいくせに、地位や名声に対する貪欲さが人一倍ある。自分のプライドが傷つけられようとも、地位や名声のためなら敵である半沢とだって手を組むような人間です。
そもそも男性は、あまりマウンティングしないんです。しなくても実力や上下関係が男性同士のなかで歴然としているからだと思います。マウンティングは自分と同じか少し下ぐらいの人に対してするもの。圧倒的に負けていたらしないし、圧倒的に勝っていてもする必要がない。ちょっとしたプチ優越感を得るための行為がマウンティングです。
大和田が半沢に本気でマウンティングするあたり、やっぱり土下座の仕返しをしたいんでしょう。逆に、半沢が優秀で、脅威の存在だと認めていることにもなります。
■「遠慮はいらないよぉ? 岸川部長。思ってることを正直に言いなさい。」
前シーズンの最終話。取締役会で大和田の不正を告発しようとする部下の岸川(森田順平)に発した威圧的なセリフ。岸川は言葉を失うも、半沢の後押しにより不正が露呈。大和田は、この後土下座をした。
「遠慮なく言いなさい」と口では言ってるものの、その裏には「言ったらただじゃおかないからな」という意味を持たせた、恫喝、脅迫です。大和田は、部下が絶対に自分に逆らわない、圧力に弱い人だと思っている。
大和田は支配することにより人間関係を構築しています。だから恫喝的な言動が出てくるし、だからこそ裏切られやすい。
今シーズンも、部下の伊佐山(市川猿之助)に裏切られましたよね。心理学には「同属性の法則」というものがあります。わかりやすく言うと「類は友を呼ぶ」。権力志向が強い人の周りには同じ権力志向の人が集まるわけです。
だから伊佐山は、尊敬する大和田を捨て、大和田より優位だと思った三笠(古田新太)に鞍替えするわけです。
力の理論で、伊佐山は大和田と同じタイプの人間。大和田を裏切ったように見えるけれど、伊佐山の理論では筋が通っている。皮肉なのは、大和田も同じ考え方で生きてきたことなのです。
見えてきた大和田という男の本性。次回以降も要注目です。
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精神科医
作家。米・イリノイ大学への留学を経て樺沢心理学研究所を設立。YouTubeやメルマガで精神医学の情報を発信。著書に『学びを結果に変えるアウトプット大全』『精神科医が教える ストレスフリー超大全』ほか。
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(精神科医 樺沢 紫苑 構成=力武亜矢)
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