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孫正義も投資戦略を急転換「この空前の株式バブルはいつまで続くのか」

プレジデントオンライン / 2020年9月15日 18時15分

オンラインで決算説明会に臨むソフトバンクグループの孫正義会長兼社長=2020年8月11日 - 写真=時事通信フォト

■孫正義の投資戦略に異変あり

8月に孫正義氏率いるソフトバンクグループ(SBG)が、米国の大手IT先端企業の株式のデリバティブ(金融派生商品)を数千億円規模で購入したと報じられた。報道によると、SBGはコールオプション(株式を買う権利)を購入することで、米アマゾンをはじめ大手ITプラットフォーマーなどの株価上昇から利得を上げようとしたとみられる。

これまでSBGは、基本的にアリババなど非上場の株式への投資を行ってきた。その投資戦略を今回は変更したことになる。コロナショックが発生するまで、孫氏は世界各国の「ユニコーン企業〔創業10年以内の企業価値評価額が10億ドル(1060億円程度)以上の未上場ベンチャー企業〕」に投資した。しかし、2020年の年初以降、コロナショックの影響によって投資先の業績が悪化し、SBGは大幅な赤字に陥った。

SBGは回復が鈍い未上場株から、株価が大きく上場している大手ITプラットフォーマーへの投資を増やすことによって収益を挽回したい。ただし、その戦略が想定された成果を上げるか否かは読みづらい。

世界経済の基礎的条件(ファンダメンタルズ)と比較すると、米国のIT先端企業を中心に株価は高すぎる。“高値恐怖感”を強める主要投資家が多い中、SBGがリスクを的確に把握し、管理できるかが問われる。

■コロナ禍で米国の株式市場に現れた“ロビンフッダー”

2020年3月期、SBGの最終損益は9616億円の赤字だった。背景には、コロナショックの発生によって、同社が投資してきたユニコーン企業をはじめとする新興企業の業績悪化がある。孫氏はその状況を「ユニコーンがコロナの谷に落ちている」と形容した。その後、SBGは収益と財務の立て直しに取り組み、保有資産の売却などを進めた。

SBGにとって、ユニコーン企業ではなく、すでにビジネスモデルが確立されている中核的なIT先端企業の株価が大きく上昇したのは想定外だっただろう。3月中旬以降、米FRBなど主要国の中央銀行が積極的に金融緩和を進めたことが、世界的な株価反発を支えた。

特に、相対的に成長期待の高い米GAFAM(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン、マイクロソフト)やテスラなど、IT先端企業が多く上場する米国のナスダック市場に資金が流入した。

それに加えて、3月末、米国では失業保険の特別給付(週当たり、平均370ドルに600ドルを上乗せ)が開始された。失業者の68%が就業時を上回る所得を得た。感染拡大によってギャンブルに興じることができなくなった人々は、手数料無料のネット証券会社ロビンフッドのアプリを用いて、株式市場に参入した。彼らを“ロビンフッダー”という。

その結果、米国の株式市場では、個人投資家の存在感が機関投資家を凌駕するほどになった。ロビンフッドは個人の取引データを、アルゴリズム取引などを行う投資ファンドに提供し、「上がるから買う、買うから上がる」という根拠なき熱狂が市場に浸透した。

対照的に、事業体制と財務基盤が相対的に弱いユニコーン企業の業績回復には時間がかかっている。SBGは投資戦略を修正し、株価上昇が見込みづらい新興企業から、株価が大きく上昇している米国の大手ITプラットフォーマーの株式購入に動いた。

8月にSBGは上場株に投資する新会社を設立して上場株式や金融派生商品への投資に本格的に参入し、米国株のオプション取引などを増やした。

■ソフトバンクの投資戦略から見えたある種の焦り

米国のナスダック総合指数やGAFAMなど時価総額の大きい、大手IT先端企業など100社で構成されるナスダック100指数をみると、3月23日に株価は底をつけ5月には年初の水準を上回った。その背景には、ロビンフッダーと呼ばれる個人投資家がナスダック100指数に連動する上場投資信託(ETF)を購入したこともあり、同指数は大きく上昇し最強インデックスとも呼ばれている。

8月に入ってから上場株への投資を強化する戦略は、ある意味では後追いとみられ戦略変更の時期としてはややタイミングが遅いとの見方もある。SBGは保有してきたユニコーン企業ではなく、大手IT先端企業の株価が勢い良く上昇する状況に直面し、今後の投資事業の運営にある種の焦りを感じているのではないかと懸念するアナリストもいるようだ。

それに加えて、SBGのオプション投資戦略のリスクは軽視できない。SBGは米国のナスダック市場などに上場する株式を買う権利=コールオプションを買い持ち(ロング)にしている。オプション取引では少額の手元資金で、より大きな金額を取引できるという「レバレッジ(てこの原理)」が働く。

SBGは40億ドル(4200億円)程度の手元資金を用いてコールオプションを購入した。その取引を現物株に換算すると300億ドル(3兆1800億円)以上と報じられている。

当然のことながら、株価が上昇すればコールオプションのロングポジションから含み益が出る。反対に、株価が下落すれば損失を抱え、損益が大きく変動しやすい。一時、SBGのコールオプション購入からは40億ドルの含み益が出たようだ。

しかし、9月2日にナスダック総合指数は最高値を更新した後、3日から8日まで10%程度下落した。テスラがS&P500に採用されなかったことへの失望から大きく株価が下げるなど投資家の高値警戒感は強い。売りが出始めると、“売るから下がる、下がるから売る”という連鎖反応が起き、相場は荒れやすい。そうした状況下、レバレッジをかけて巨額の投資を行うリスクは想定以上に高まる恐れがある。

■「株価は上昇する」という強い思い込み

9月14日にはSBGが傘下の英半導体設計アームの全株式を米半導体大手エヌビディアに売却することを合意した。それは、IT先端技術を生み出して世界経済の“デジタルトランスフォーメーション(DX)”をけん引する事業会社としての競争力向上を目指すよりも、投資事業に集中するというSBGの意思表明の表れと解釈できる。

今後の展開を考えた時、中核的なIT先端企業の株式に投資するSBGの戦略が想定された成果を上げるかは、不透明な部分もある。

米国を中心に株価は割高との見方もある。コロナショックの影響から世界的に個人消費は低迷し、雇用環境は厳しい。4~6月期の主要国のGDP成長率は中国以外大幅なマイナスだ。

また、米中の対立は先鋭化しており、中国の半導体調達やグローバルなサプライチェーンの混乱などは世界経済を下押しする。世界経済の回復に不可欠なワクチン開発に関しても、英アストラゼネカが試験中断を発表するなど不確定な部分も少なくない。

それでも株価が高値圏で推移しているということは、個人投資家を中心に投資家の「株価は上昇する」という思い込みが強いとも考えられる。コロナショックによって世界的に金利が低下した結果、投資家は相応の利得を手にするために成長期待の高いGAFAM株などに資金を振り向けた。それが追随の買いを呼び、株価が上がるという思い込みが広がった。

そうした状況が永久に続くとは考えにくい。米SEC(証券取引委員会)がロビンフッドの情報開示体制を調査していると伝わると株価は下がった。“おっかなびっくり”の姿勢で株式に資金を投じている投資家も多い。

■カネ余りと思い込みに支えられた相場の末路

また、特定少数の投資家のポジションが大きくなると、相場展開が歪むことも想定される。SBGは巨額の資金を投じてコールオプションを購入したことによって、株価の上昇を勢いづかせた。

ナスダック総合指数を見ると、5月から7月まで各月7%前後上昇したのに対して、8月の上昇率は10%に達している。特定のポジションが積み上がると、相場全体が一方向に大きく振れやすくなるのだ。

仮に、類似のポジションを持つ投資家が損失の発生に耐えられなくなって損切をする場合、かなりの勢いで追随売りが発生する恐れがある。

資産価格の上昇が未来永劫続くことはありえない。特に、現在のようなカネ余りと思い込みに支えられた相場は、どこかで調整を余儀なくされる可能性は高い。

8月以降に上場株式などへの投資戦略を強化するSBGの取り組みが、今後、同社に大きな利益をもたらすか否かは予測が難しい部分が多い。先行きを注視する必要がありそうだ。

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真壁 昭夫(まかべ・あきお)
法政大学大学院 教授
1953年神奈川県生まれ。一橋大学商学部卒業後、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。ロンドン大学経営学部大学院卒業後、メリル・リンチ社ニューヨーク本社出向。みずほ総研主席研究員、信州大学経済学部教授などを経て、2017年4月から現職。

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(法政大学大学院 教授 真壁 昭夫)

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