飛びつくと危険! 一見便利な「オンライン&電話診療」の意外な落とし穴

プレジデントオンライン / 2020年9月17日 17時15分

認定NPOささえあい医療人権センターCOML理事長の山口育子さん(写真=本人提供)

厚生労働省のまとめによると、5月に病院を受診した人は、前年の同じ時期に比べて約2割も減少していました。特に小児科は46.1%減、耳鼻咽喉科は41.7%減と、大幅に減っています。しかし、過剰な受診控えをすれば、病気の発覚が遅れたり、持病を悪化させたりということにもなりかねません。認定NPOささえあい医療人権センターCOML(コムル)の理事長、山口育子さんに、Withコロナ時代に賢い患者になるためのコツを聞きました。

■コロナ後、患者からの相談が大幅に増加

COMLは電話相談を日常的な活動の柱にしています。医療者ではない相談スタッフがお聞きするので、診断や答えを出すことはできませんが、相談者の気持ちに寄り添い、じっくり話を聞いて、問題整理のお手伝いや解決のためのアドバイス、情報提供を心がけています。

これまでCOMLでは、約6万3000件の相談を受けてきました。通常は1件の相談は平均40分くらいなのですが、緊急事態宣言が出てからは1時間以上や2時間半に及ぶものが増えました。みなさん不安が大きいのだと思います。

■「病院受診が怖い」という不安

新型コロナウイルスの感染拡大が始まって以降、COMLで受けた相談の内容では、「家族が入院しているが面会できない。どんなケアを受けているのか心配」「高齢の親が入院しているが、会えないことで認知症が進むのではないか」といった、会えないことに対する不安が特に目立ちました。

次に多かったのは受診控えでした。ただ新型コロナウイルスを恐れて「病院に行ったらうつるんじゃないか」「病院から感染者が出たので近寄りたくない」といった声が多く聞かれました。本当は受診が必要な症状にもかかわらず、受診を控えたために症状が悪化してしまったのではないかとみられるケースもありました。

ただ、新型コロナへの感染が不安だといっても、マスクをして黙って待合室に座っているだけで感染することは考えにくい。また、医療機関も、患者や医療者への感染を予防するために、ものすごく気をつかっています。もし感染者が出ても、ゾーニングして汚染区域と清潔区域を分けて運用するなどしますし、感染対策は徹底しています。

私が受ける電話相談でも、あまりにも受診控えしている人には、病院でも手洗いやマスクの着用などを徹底し、待合室でもほかの人と離れて座るなどの対策をしながら受診するよう勧めます。それでも不安な場合は、医療機関に電話して、どんな感染対策をしているか直接確認してみることをすすめています。

■コロナで規制が大幅に緩和

実はコロナ禍の特例措置として、病院に行かなくても自宅にいながらにして、パソコンやスマートフォンを使って診察を受けることができる「オンライン診療」「電話診療」の規制が大幅に緩和されました。一度も行ったことがない医療機関で、初診であってもオンライン診療や電話診療を受けることが可能になり、処方も受けられるようになりました。また、オンラインや電話での診療をもとに出た処方箋を薬局に送ってもらい、薬局から自宅に薬を配送してもらうこともできるようになりました。

「外出自粛を」「できるだけ対面ではなくオンラインに」と言われていますから、「オンライン診療や電話診療ができるようになった」と聞くと、とても良いことのようにとらえて飛びつきたくなるかもしれません。

しかし、私はオンライン診療の拙速な対象拡大には不安を覚えています。

良い診療のカギは、患者から医師などの医療者に、どれだけ必要な情報を伝えられるか。ところが現状、オンラインから得られる情報というのはかなり限られています。部屋の照明によっても顔色が違って見えてしまうでしょう。触診や胸の音を聞いてもらうこともできない、血液検査もできないわけです。患者のにおいをかぐことも大事と言う医師もいます。医師は、患者が診察室に入ってきた時の歩き方や所作なども含め、五感をフルに働かせて診察するものなのです。

また、例えば皮膚科を想像してみてください。肌の赤みや腫れの具合、質感、乾燥の度合いや熱を持っているかどうか、など、パソコンやスマホのカメラや画面越しに、どれだけ伝わるでしょうか。耳鼻咽喉科だと、喉の奥の方や耳の奥の方まで診察しないと正しい診察はできません。

■コロナ前から一部解禁されていたオンライン診療

実はコロナ禍の前、2年ほど前から一部のケースにおいて保険診療におけるオンライン診療は解禁されていました。この時には、初診は対面で診察を受ける、服薬指導は薬剤師から直接受ける、オンライン診療を行う医師は厚生労働省が定める研修を受けなくてはならない、などのルールがありました。しかしコロナ禍の特別措置で、これらのルールが急遽大幅に緩和されたのです。

オンライン診療や電話診療は、すべての医療機関が対応しているわけではなく、導入するかしないかはそれぞれの医療機関の判断に任されています。医療機関側も、患者から必要な情報が得られないままでは診察できませんから、大々的に推進しているところはそれほど多くはなく、実施しているところも、再診で病状が安定している患者のみを対象にしたりしているようです。

■活用はこんな場合に限定を

オンラインや電話での受診は、特にこうしたコロナ禍のような状況だと、上手に活用すればよい仕組みではあると思います。しかし、利用はできるだけ限定的にした方がよいでしょう。一部の疾患を除き、初めて症状が出た場合や、検査が必要なものは向きません。正しく診断されず、不適切な薬を処方されて悔やむのは患者です。

もし私がオンラインや電話で診断を受けるのならば、以前もかかったことがあり、自分の普段の健康状態をよく知る医師を選びます。また、慢性疾患で経過が長期間落ち着いている場合に、再診で薬を処方してもらう時に限定するとよいでしょう。花粉症やアレルギー性鼻炎などで通院していて、抗アレルギー剤を処方してもらう場合や、禁煙外来で補助薬を出してもらう場合などが考えられます。信頼できる医者やかかりつけ医に「自分の病状はオンライン診療や電話診療でも大丈夫か」と、聞いてみるといいと思います。

高血圧や糖尿病などで服薬治療をしている人は、オンラインや電話診療が可能か、主治医に相談してみるとよいでしょう。「血圧がこのレベルで、こんな症状がなければオンラインや電話でいいです」など、症状の変化の目安を教えてもらっておくと安心です。

オンラインや電話診療を受ける場合は、自分の体調や症状についてできるだけ詳しく医師に伝えるようにします。「次は採血検査しましょう」などと受診をすすめられたら、きちんと病院に行くようにしてください。

■コロナはオンラインや電話で診断できない

発熱や頭痛、咳など風邪のような症状が出た場合、オンラインや電話で診察を受けたいと思う人がいるかもしれませんが、こうした症状の場合はオンラインや電話診療は決して得策とは言えません。新型コロナの可能性があるからです。

■まずは電話で「相談」を

ところが先日、今年4~6月のオンライン診療や電話診療の内訳が公表されたのですが、上位3位までが風邪やコロナの症状である発熱、上気道炎、気管支炎でした。例えばこのうち発熱への対応については、薬を出して自宅で様子を見るよう診断したケースも多くありました。本当は新型コロナの可能性があるのに、オンラインや電話でこうした診断を受け、検査を受けないまま安心してしまった患者さんがいるかもしれません。でも、電話やオンラインでは、コロナかどうかの診断はできません。

厚生労働省は9月4日に、冬の新型コロナウイルスとインフルエンザ同時流行に備えて、発熱などの症状がある患者が受診する際の手続きを変更すると発表しました。まずはかかりつけ医や身近な医療機関に電話で相談し、検査や診療ができる医療機関を紹介してもらうことになっています。発熱などの症状がある場合は、こうした仕組みをうまく使い、対面で診察や検査を受けるようにしてください。

■Withコロナ時代の今こそ「賢い患者」を目指す

インターネットは、特にコロナ禍で行動が制限される中では、上手に利用すればとても便利です。だからといって、なんでもすぐに飛びついてしまうのは危険です。ネットを見ると、コロナ禍でのオンライン診療の規制緩和に便乗し、「コロナ太りに最適」などとして、ほかの病気の治療薬をダイエット目的に処方する医師が増えているようです。

特に医療では、医師と患者の双方が、お互いが持つ情報を丁寧に共有することが必要です。信頼性の低い情報やサービスに飛びついたりすることがないよう、気を付けてほしいと思います。

私が理事長を務めるCOMLでは「賢い患者になりましょう」を合言葉にしてきました。「賢い患者」というのは、単に知識をたくさん詰め込んだ患者という意味ではありません。自立した高い意識を持った患者というイメージで、「医師や看護師などの医療者の説明を理解する努力をする」「自分はどんな医療を受けたいかを考え、それを言葉にして伝える」「自分にできる努力をして、医療者とコミュニケーションを取りながら協働する」などと表現しています。患者と医療者にとって重要なのは、コミュニケーションなのです。

コロナ禍は、多くの人にとって、医療機関との付き合い方について、考える機会になったと思います。ウイルス感染への不安はぬぐえませんが、みなさんもぜひ「賢い患者」になっていただきたいと願っています。

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山口 育子(やまぐち・いくこ)
認定NPOささえあい医療人権センターCOML理事長
1965年生まれ。90年に卵巣がんを発症し、約1年半治療を受ける。91年にCOML創始者辻本好子氏と出会い、COMLスタッフに。2011年から理事長を務める。著書に『賢い患者』。

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(認定NPOささえあい医療人権センターCOML理事長 山口 育子 構成=井上 梢)

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