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年に数回しか使わない「多目的ホール」が地方に増える根本原因

プレジデントオンライン / 2020年9月24日 15時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/piovesempre

地方自治体は中心地の活性化を目的に「多目的ホール」を建てたがる。しかしそうした施設の多くは有効活用されていない。まちづくりの専門家である木下斉氏は「万人受けしそうな施設を造っても人は集められない。むしろ限られたマーケットに特化すべき。たとえば急成長しているサウナ市場であれば、地方の強みを生かせる」という——。

■税金のムダ遣いが起こる構造的な問題点

全国各地の自治体が、中心部を活性化するために多目的ホールなどを擁する施設を開発したものの、年間数回しか使われないという笑えない話はいまだに存在します。「ホールの活性化が必要」というような本末転倒な状況になり、さらに税金を投入し続けるケースも多いです。

とくにこの数年間は、交流拠点施設(MICE施設)と呼ばれる音楽ホールと国際会議場などが複合化した多目的施設を全国各地で競って開発していました。全世界から人が集まって学会が開催されたり、音楽イベントが開催されたりするはずだったものの、その多くは現実として夢物語のような計画を下回る利用しかなく、維持費がかさんで倒れるというパターンでした。さらに今では、新型コロナウイルスの感染拡大により、利用どころではなく、無用の長物となる地域も存在しています。

税金で造られた多目的施設の根本的な問題は、公益に資するために議会などで議論し、多くの人にとって利用可能性がある施設を開発しようとする構造にあります。そのため、一部の人しかしないマイナースポーツのような競技の専門施設や、特定の会議を行うための会議場、専門の音楽分野に特化した音楽施設を造るのは、税金で開発することになじみません。

結果、多目的というところに落ち着いてしまいます。しかし、あらゆるものに対応することは、それぞれに最適化されるわけではなく、帯に短し襷(たすき)に長しという状況になる。

さらに、全国の自治体が似たような施設を造ってしまうため、その施設を利用しようと広域から人が集まることもありません。それが、地元の人たちだけでたいして利用もしない多目的施設を支えるという、誰も得しない状況を生むのです。

■地方は「針の穴」のようなマーケットに最適化せよ

どこにでもある多目的施設には、競争力もありません。地方に関していえば、弱みしかない。なぜなら、巨大で利便性の高い立地にある施設の方が優位になり、地方に行けば行くほど都心より小さく不便な場所にある施設となるからです。

本来は人の少ない地方ほど、その地域だから可能になるような施設造りに取り組む必要があります。万人受けよりも、限られたマーケットに特化し、そこで評価される。しかもその地域だからこそできる作戦をとるべきなのです。そのような針の穴のようなマーケットに最適化し、競争優位を築く方法を私は「ピンホールマーケティング」と呼んでいます。

そのような視点にもとづき、都心より地方だからこそ強みが生きる分野として今急速に伸びているのが「サウナ」市場です。

■なぜ、サウナが地方活性化に効果的なのか

一般社団法人日本サウナ・温冷浴総合研究所の「日本のサウナ実態調査2020」によると、日本には月1回以上サウナ浴をする“ミドルサウナー”は推計651万2000人、月に4回以上サウナ浴をする“ヘビーサウナー”は推計342万人で、年1回以上の“ライトサウナー”は約2761万人と推計されています。

ここ数年、「サ道」といったドラマ、さらにビジネスパーソンをターゲットにしたサウナ関連書籍が次々と出されています。その影響もあって、おじさんたちが熱さに耐えるような従来型のサウナから、自律神経を整えるリフレッシュツールとしてのサウナへと変貌を遂げてきました。特に若い世代や経営者層が、そのようなメンタルヘルスを意識したものに注目しています。

彼らは「サ活」といって日常的にみんなでサウナに入り、そこで出会った友人たちを「サウナフレンド=サフレ」と呼んで交流します。さらに地方にあるサウナに入るために旅をする「サ旅」というものまで登場しています。

サウナを日常的に楽しむという「ピンホール」の層に絞り込むと、実は地方が都心よりも優位な理由がいくつも出てくるのです。すでに都心から地方へのサウナを軸にした人の流れができつつあり、地域活性化の大きな要素となってきています。

■「サウナ・水風呂・外気浴」という3つの構成要素

サウナと地域活性化が結びつく大きな理由は、地方の農林、水資源、風景といった要素が、魅力的なサウナを形成する上で優位に働くからです。

たとえば、サウナをまちづくりに活かす先進地の1つである北海道は、白樺などの植生(しょくせい)があるため、サウナ大国・フィンランドと同様にサウナ室の木材を地元から調達できます。

さらに、サウナ後に入る水風呂のクオリティを左右する水質も、豊かな水資源を持つ地方にとっては大きな強みになります。天然の透明度の高い水に頭まで入れるというのが評判の施設が各地に存在している。水風呂代わりに透明度の高い水質の川、湖などの自然環境を使うというアウトドア型の魅力を作り出せるのも地方だからこそです。

「海が見える、湖が見える、山が見える」といったような魅力的な景観も、サウナに入った後にくつろぐ外気浴の時間にとって、大いなる魅力になります。不動産価格も高くビルがひしめく都市環境にはない開放的な環境が、リラックスする時間を与えてくれるのです。

ただし、単に木々があり、水がきれいで、自然豊かというだけでは地方にとって稼ぎになりません。サウナユーザーに向けて、それらの自然環境を「サウナ・水風呂・外気浴」という3つの構成要素として活用することで稼ぎが生まれてくるのです。

■十勝で始まった「サウナ連携」のビジネスモデル

実は地域プロジェクトで大切なのは、個別施設が単独で努力するだけではなく、エリアで適切な連携をして集積としての価値に変えていくことです。個別の努力はすぐに追いつかれてしまいますが、複数の施設が協力し面的な魅力に変えることができれば、それはかんたんにほかの地域に追い抜かれることはありません。

北海道十勝エリアでは、5つのサウナ施設が連携し「サウナパスポート」という連携事業をスタートしています。これは、1枚2500円のサウナパスポートを購入すると3つのサウナ施設を利用でき、さらにスタンプを集めると抽選に参加できるという仕掛けです。

これら5つの施設では、いずれも本場フィンランド式「ロウリュ」を楽しめます。ロウリュとは、ストーブ上のサウナストーンに水をかけ蒸気を発生させることや、蒸気そのもののことをいいます。

また、サウナパスポートは一定の要求水準をクリアした施設オーナーたちが連携しているので、単に販促というだけでなく、より高い水準の施設を目指して切磋琢磨するモデルでもあります。

■数百億円の大型施設より数百万円のサウナを

十勝のサウナパスポートに加盟しているホテルの1つ、北海道ホテルは大浴場のサウナを本格的なフィンランド式のものにリニューアル、さらにサウナ付き客室「ととのえ」を作るなどして、全国のサウナーの間で話題のホテルとなっています。

ここ最近もサウナ付き客室は予約でほぼ満杯。魅力的なサウナが人を集めることを証明しています。今後このような施設連携は、十勝だけでなく、北海道内の大雪山系などにも進んでいくそうです。

施設ごとの魅力を高めつつ、さらにエリア全体の魅力へと成長させていくことができれば、連泊需要とともに、日中のアクティビティや地元の飲食店などへの送客も期待できます。

観光客をただ集めるのではなく、都心にはない地方の魅力を強みにし、針の穴のようなマーケットへの適合をテコにすることが求められているのです。

夢物語のような計画でターゲットもよく見えない数百億円もの税金がかかる多目的施設よりも、数百万円の民間投資でもスタートできるサウナ市場に向けた事業のほうが今すぐにでき、投資回収も早い、成長分野への投資であると思います。

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木下 斉(きのした・ひとし)
まちビジネス事業家
1982年生まれ。高校在学中の2000年に全国商店街合同出資会社の社長に就任。05年早稲田大学政治経済学部卒業後、一橋大学大学院商学研究科修士課程へ進学。07年より全国各地でまち会社へ投資、経営を行う。09年全国のまち会社による事業連携・政策立案組織である一般社団法人エリア・イノベーション・アライアンスを設立、代表理事就任。著書に『地元がヤバい…と思ったら読む 凡人のための地域再生入門』『福岡市が地方最強の都市になった理由』『地方創生大全』『稼ぐまちが地方を変える』など著書多数。有料noteコンテンツ「狂犬の本音」も絶賛更新中。

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(まちビジネス事業家 木下 斉)

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