「私たちは異常ではない」韓国で急増する結婚しない女性たちの訴え
プレジデントオンライン / 2020年9月28日 9時15分
■非恋愛、非SEX、非婚、非出産の「4B運動」
韓国統計庁が8月26日に発表した出生率統計によると、2018年の韓国の出生率は0.92人となり、歴代最低記録を更新した。
特に20~30代の出生率が大きく減っており、韓国の若者が置かれた社会・経済状況を如実に表している。
現在、20代女性を中心に起きている「非恋愛、非SEX、非婚、非出産」の「4B運動(「B」とは「非」を韓国語で発音した際の音、ピまたはビを示す)」もその一端を表すものだ。最近ではそこに「非消費、非婚者が非婚者を支えること」の2Bと「脱コルセット、脱オタク、脱アイドル、脱宗教」の4T(「T」とは「脱」を韓国語で発音した際の音、タルを示す)を加えた、「6B4T」にまで発展したとされる。
韓国の若者の非婚傾向の外部要因としては、伝統的家族観と産業構造の変化、女性の教育水準の向上などが原因であることが知られている。
全国の満20歳から44歳の未婚男女2380人を対象にした韓国保健社会研究院の調査資料、「2015年全国出産力と家族保健・福祉実態調査」に基づいた、非婚の外部要因についての研究では、対象者の約80%が「非自発的」非婚に属していた。うち最も多かったのが「機会喪失型」で、その次が「結婚費用負担型」であった。さらに細かく言えば、男性では「結婚費用負担型」が多く、女性では「不利益負担型」が多いことが分かった(「成人男女の非婚類型に影響を及ぼす要因:社会人口学的特徴および家族価値観要因を中心に」カン・ユジン、2017)。
■「女性抑圧へのバックラッシュ」×「若者の貧困」
これは現在の韓国における家族制度が「結婚と仕事によって生じる負担を、男性側以上に女性側へ強く与えている」結果として、得られる不利益も男性側より、女性側で大きくなっている状況を意味する。
男性の多くが経済的要因によって非婚にならざるを得ない状況に対し、女性は外部要因にかかわらず、自ら非婚を選んでいることを示唆しているのだ。
整理すれば、そもそも生じていた「女性抑圧へのバックラッシュ」に「若者の貧困」が重なり、女性を中心としてさらに加速した、と言えるのかもしれない。
もちろん男性の非婚者も増えているが、韓国統計庁によると2015年の30~40代の女性非婚(未婚)者は138万4047人。2005年は66万3513人であり、10年間で倍近くに増加している。
韓国における非婚は90年代から2000年代にかけての女性解放運動、戸籍制度廃止による家族のあり方の見直しなどと密接に関連してきたが、とりわけ2015年からはインターネット上でのフェミニズム論争を機に、その性格がイデオロギー化、先鋭化してきたといえる。
フェミニストによるサイト「メガリア」の台頭から堕胎罪廃止運動、「MeToo」運動などの勃発、一方で江南駅での女性殺人事件(2016年)や「N番部屋事件」(2020年)に代表される女性嫌悪の高まりもそこに拍車をかけた。
■「非婚女性の保護壁」になるグループ
フェミニズムと結婚に関する論争は日本のインターネット上でもよく見られる光景であるが、日本と異なるのは、韓国では非婚主義を自ら標榜する女性がグループ単位で公的に活動しているという点だ。
そこで筆者は実際に非婚主義者の生の声を聞くため、2019年4月にソウルで結成された「emif」に接触を試みた。
団体名称は「be the Elite without Marriage, I am going Forward」の頭文字からなり、意訳すると「結婚をしなくても私はより良く、前向きな人生を歩む」といったところである。団体はカン・ハンビョル氏(33歳)を中心とし、他の活動を通じて出会い意気投合した他4人の女性が共同代表を務めている。現在の会員数は80人前後、活動会員は550人ほどだという。活動はワークショップや討論会、スポーツなどのレクリエーションによる交流を主体としている。
「emifは2019年2月、非婚女性の保護壁になるものが必要であると考えたディレクターが集まり、その青写真を描いたところから始まりました。それまでは非婚という生き方が可視化されておらず、特に女性がそれを選択することに対する、社会の批判的な視線を強く感じました。そこで、非婚とは決して珍しいことではなく、自分が自分らしく、自分自身に対し最も集中できる生の一形態であることを提唱し、同じ志を持つ友人達としっかりとした支持基盤を造りたい友人たちとしっかりとした支持基盤をつくりたいと考えました」(emif広報)
■結婚をしないと「異常な女」と言われてしまう
会員集めは、それぞれの友人に声をかけていくことから始めた。
「共同代表らがそれぞれの親しい友人に、われわれが夢見る団体はどんなものであるかというビジョンを説明し、一緒に作り上げていかないかとプレゼンをしました。1期の会員はそれに賛同してくれた人々で、半年後の2期の募集時には1期会員の知人と、紹介者なしでも入れる2つの窓口を設置しました」
同団体は、非婚の意思を持つ女性たちが連帯する意義について次のように話す。
「今の韓国では、結婚をしない女性は『異常な女』であるという烙印を押される場合もあります。そればかりでなく、韓国は出生率低下の原因は非婚女性たちにあるという認識が強いです。このような状況下で、非婚を選択する女性たちは『私だけがおかしな人間なのではないか』と自分を疑い、疲弊することになります。そこで、自分と同じような人間がそばにいる事実を知れば、否定的な考えに陥るのを避けることができるでしょう。同じ意思を持つ仲間と連帯することで一緒にどんなことをできるか、また試せるかという肯定的な価値観を持てるようになるのです」
■「ウェットティッシュで夫の大便を拭いて片付ける」
彼女たちが非婚を選んだ背景には、多くの韓国の既婚女性がおかれている境遇がある。
「韓国では結婚をしたら、女性が家庭で生じる労働の全てを担います。少し前に、とある女性の動画配信者が自身の結婚生活について『ウェットティッシュで夫の大便と、床の汚れを拭いて片付ける』と告白しました。配偶者に献身的に尽くすことができる人であれば、結婚を考慮してみても良いと考えます。全般的な家事労働はもちろん、家事を1人で負担し配偶者の意見を無条件に受け入れ、配偶者の家族の面倒までを見て、配偶者の目標のために自身の夢を放棄できる人。そんな人であれば誰でも結婚をしたいのではないでしょうか?」
このような回答からは、非婚運動は韓国の結婚観が長年女性に強いてきた負担へのバックラッシュであるという見方もできる。
その点についてemifは、非婚は単なる男性主義への反発ではなく、より良い生き方の選択肢の一つであると主張する。婚姻制度そのものが人生を非効率なものにしており、「限定的な人間のエネルギーを効率的に使える方法は、やはり非婚」であるという視点に立脚しているのだという。
■「非婚=パートナーも子供もいない」とは限らない
「emifを運営していると、本当に多くの不思議な経験をします。女性どうし身を寄せ合い、以前は関心のなかった経済力を培うための協力もします。考えを共有する場でも不便さを感じることなく、忌憚のない対話をできます。このすべてがお互いに支え合い、成長する機会をもたらしてくれます。そればかりでなく、何の心配も不安もなく体と心を休ませることができるし、冗談ひとつとっても、女性にとって受け入れられる言葉で楽しむことができます。この心地よさをすでに知ってしまったがゆえに、あえて結婚という選択をしなくなるのです」
ここで、混同されがちなのが非婚がイデオロギーであるのか、単に状態を示すのかといった点だ。
つまり、パートナーとなりうる男性と出会った場合は活動状態に影響を及ぼすのかということだ。また、「非婚主義団体はレズビアンの集団なのですか」という質問も多いという。
そうした「誤解」に対してはこのように説明する。
「非婚とは、パートナーや子の有無に関わらず、婚姻制度という枠組みの中で相手に隷属・依存したり、人生を他者に委ねるのではなく、いち個人として堂々と人生を歩むといったライフスタイルの一つとして理解していただければと思います」
■「旧来の婚姻制度から生じる義務」から逃れる
パートナーとの関係は「あえて表現するならば『同棲』」であるとする。パートナーの有無にかかわらず、旧来の婚姻制度から生じる有形・無形の義務を負うことのない生き方を目指し続けるということだ。
そして究極的には、非婚主義が一つの生き方として市民権を得ることを目標としており、いずれは非婚主義者だけの街を作りたいと話す。実際に非婚主義女性が身を寄せ合って暮らすシェアハウスも登場しはじめている。
問題は日本も同様、そうしたライフスタイルに対する社会保障が存在しない点である。政府としては出生率が1を切った以上、非婚主義者を優遇する道理がないことは理解できる。だが、今の状況からは90年代に少子化を克服したフランスのように育児システム網の充実と、婚外子への偏見をなくすなど婚姻制度への抜本的な見直しが迫られているのかもしれない。
非婚団体の台頭は、それを示唆するものといえるだろう。
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ライター、編集者
東京都生まれ。東京・小平市の朝鮮大学校を卒業後、米国系の大学院を修了。朝鮮青年同盟中央委員退任後に日本のメディアで活動を始める。2010年、北朝鮮の携帯電話画面を世界初報道、扶桑社『週刊SPA!』で担当した特集が金正男氏に読まれ「面白いね」とコメントされる。朝鮮半島と日本間の政治や民族問題に疲れ、その狭間にある人間模様と心の動きに主眼を置く。韓国心理学会正会員、米国心理学修士。著書に『実録・北の三叉路』(双葉社)。
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(ライター、編集者 安宿 緑)
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