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アイスの実を5年以上食べていない人に教えたい「一色化」の大成功

プレジデントオンライン / 2020年9月29日 11時15分

1986年に発売された「キャンディーボール アイスの実」(写真提供=江崎グリコ)

江崎グリコの「アイスの実」が、前年比120%増と売り上げを伸ばしている。在宅勤務中も食べられる手軽さが支持されているが、ここ数年の伸びを支えているのは、2013年に行った「カラフル」から「一色」への路線変更だ。同社が「実は中身はガラリと変わっています」というほどの大変化とは――。

■発売34年目になっても人気上昇中

今年の夏は梅雨明け後は好天が続いたが、多くの人が「巣ごもり」を余儀なくされた。新型コロナウイルスの感染が再び拡大し、各自治体の移動自粛もあり、遠出や旅行を自重したからだ。

9月に入り、政府が主導する「Go To トラベルキャンペーン」で4連休中の人出は増えたが、以前のような自由に行き来するという風潮にはなっていない。

そうした閉塞感の中、消費者が選んだのが身近な気分転換だ。例えば全国の小売店で買えるアイスクリーム(家庭用アイス)は、全体で前年比約104%(1月~8月までの累計)に伸びた。

その業界平均を大きく上回る前年同期比120%の伸びを示したブランドがある。江崎グリコの「アイスの実」だ。昔からある球状のアイスで、通常の商品は1袋12個入り。

発売して34年目のロングセラーブランドは、なぜ今回、ここまで伸びたのか。同社を取材してブランドのこだわりや、残された課題を聞いた。

■ターゲットは20~40代の働く女性

「アイスの実は、主に働く女性の方にご支持いただいています。現在のコアターゲットは20代~40代の働く女性で、実際に食べられる方もこの世代の女性が多い。そこで『仕事の合間の気分転換』や『息抜きをしてもうひと頑張り』も訴求しており、イメージキャラクターである女優の吉高由里子さんが演じるCMもこの路線で制作しています」

同ブランドを担当する、マーケティング本部・アイスクリームマーケティング部の若生(わこう)みず穂さんはこう説明する。江崎グリコに入社後は、東京で量販店の営業を行い、その後は、本社のある大阪の事業部で「カロリーコントロールアイス(現:SUNAO)」(からだにやさしい、カロリー控えめアイス)のマーケティングを担当後、現職に就いた。

マーケティング本部・アイスクリームマーケティング部の若生みず穂さん
撮影=プレジデントオンライン編集部
マーケティング本部・アイスクリームマーケティング部の若生みず穂さん - 撮影=プレジデントオンライン編集部

現在の愛用者の割合は、女性が約6割、男性が約4割だという。そんなブランドが、なぜ、コロナ禍でよりいっそう支持を高めたのか。

■在宅勤務中も「粒」ごとに食べられる

「それまで通勤していた人の多くがリモートワークとなり、喫食シーンも変わりました。以前の平日は帰宅後に食べることが多かったのが、自宅勤務となり、朝のフルーツ感覚でアイスの実を数粒食べたり、デスク作業やオンライン会議の合間に食べたりするなど、平日の日中に食べられる時間が増えたのも大きい、と考えています」(若生さん)

自宅ならオンライン通信をしなければ“上司や同僚の目”からも解放されるだろう。

ちなみに以前、アイス専門誌に「家庭内での『内食』が中心となり、自宅の冷蔵庫内・冷凍スペースを冷凍食品とアイスが奪い合わないのか」を聞いたら、こう答えた。

「かつてはその一面もありましたが、冷食の備蓄も一段落した感があります。今年4月のアイスの売り上げは天候不順で伸びませんでしたが、5月以降は盛り返しました」

■「カラフル」から「一色」路線で大成功

現在のアイスの実は、アソート(いろんな味の詰め合わせ)ではなく、単品の味を深める。そう変えたのは2013年からだという。

「アイスの実」(写真提供=江崎グリコ)

「1986年、『Candy Ball』という名前で誕生しました。当時は『味の付いた氷』といったシャーベットアイスで、長年、4種類の味が入っていた構成でしたが、7年前に1袋=1つの味に変えました。消費者調査では『好きな味とそうでない味がある』という指摘もあり、指名買いされるほどのファンづくりをめざして、単一フレーバーの味を高めていったのです」(若生さん)

これ以降、売り上げも伸びたそうだ。複数の味を「選んで楽しむ」から、「好きな1つの味を楽しむ」のは、家族構成が変わった時代にも合ったのだろう。全世帯に占める単身世帯(1人暮らし)の割合は2010年に3割を超え、家族と同居していても生活スタイルがバラバラという世帯も多い。「誰かのため」に買うよりも「自分で楽しむ」という個食化に変わった。

そうした消費者意識と向き合い、単一の味を深めることにも力を注ぐ。

「同じシリーズでも、季節の嗜好に合わせて果物を変えたり、果汁の割合を変えたりしています。例えば8月31日にリニューアル発売された秋の『アイスの実 濃いぶどう』の果汁は80%で濃厚に仕上げていますが、さっぱりした味わいが好まれる夏は旬の巨峰を用いて果汁は55%でした」

主力料品の「濃いぶどう」は、季節によって果汁の割合を変えている
撮影=プレジデントオンライン編集部
主力商品の「濃いぶどう」は、季節によって果汁の割合を変えている - 撮影=プレジデントオンライン編集部

実際に商品を買って試食してみた。商品パッケージには「完熟ぶどう使用・果汁80%」という表示とともに「今だけのねっとり仕立て」という文字も躍っていた。生のフルーツは場合によって味の当たりはずれがあるが、アイスの実であれば同じ味が1年中楽しめる。「"本物のフルーツを超えたフルーツ"を目指しています」と同社は力を込める。

■他ブランドに比べて自由度がきく強み

アイスの「実」なので、果実を深めるのは分かるが、現在は期間限定で「白いカフェオレ」、過去には大手コンビニ限定で「濃厚キャラメルマキアート」味も出した。9月1日からは野菜味も一部コンビニでの数量限定で登場した。

果実以外の味を広げるのは、社内の他ブランドの持ち味を侵すことにならないのか。

現在、江崎グリコの冷菓部門には5つの人気ブランド=「パピコ」「ジャイアントコーン」「アイスの実」「牧場しぼり」「パナップ」があるからだ。

「そこは一定の住み分けをしながら広げており、目的として『こんなに味が進化しているのを消費者に伝えたい』ねらいもあります。アイスの実は、ユーザーの方の特徴として『新しい情報を収集したり新商品を試したりすることが好き』という方が多い傾向もあることから、ジェラートの枠組みの中で、違う味の訴求もしやすいのです」

前述した野菜味とは、高級料亭「京都吉兆」とのコラボレーションで、「アイスの実〈国産野菜シリーズ〉」として「国産とうもろこし」「国産かぼちゃ」「国産紫いも」の3種類がある。京都吉兆の徳岡邦夫総料理長が監修した。老舗料亭の名をつける以上、理想の味に高めるために試行錯誤を繰り返した上で、市場に送り出したという。売れゆきは上々のようだ。一緒に取材した担当編集(20代の女性編集者)は、取材前に3種類とも食べていた。

■野菜味で「おいしさと健康」を追求したい

江崎グリコの活動を注視すると興味深い。ハメを外しているように見えて、基本を踏まえるのだ。学校の教室に例えれば、アイス業界には学級委員的メーカーもあれば、少しやんちゃなメーカーもある。グリコはやんちゃそうに見えて校則を守る生徒に思える。

「ブランドを買い続けてもらうために、遊び心も必要だと思いますが、本質的な部分は押さえます。当社は『おいしさと健康』が企業理念で、『ユニークネス』な社風もある。開発側もそのバランスをとりながら商品設計を考えます」

野菜味の先行事例となるのが、「パピべジ」だ。「パピコ」の派生商品で、第1弾は「りんご&にんじん」「キウイ&グリーン」を発売。8月24日には第2弾「トマト&オレンジ」が追加投入された。厚生労働省が規定する、成人の1日当たりの野菜摂取目標量の不足分である約62グラムが摂取できるアイスで、人気も高いという。

実は、野菜味のアイスには成功事例がない。2014年にはハーゲンダッツが「スプーンべジ」として投入したが不成功に終わった。グリコは「パピコ」「アイスの実」で野菜アイス市場の確立にも挑む。

■「何年も食べていない」「味を忘れた」そんな人に

ところで、かつて「アイスの実」を食べたことがあり、しばらく食べていない人は、どんな印象を持っているのだろうか。実は、ブランドに残された課題がこれだ。

・「アイスの実」の認知度は87%
・「シャーベット」のイメージを持つ人が87.4%
・「5年以上食べていない」「味を覚えていない」人が約3割

「今年5月にインターネットで行った2万人の消費者調査の結果がこれでした。昔から変わらない球状ですが、実は中身はガラリと変わっています。近年、さまざまな訴求を行うのも、ブランドから離れた消費者の方に振り向いていただきたい思いがあります」

翌6月には動画を作成し、ユーチューブでの消費者訴求も行った。

「吉高由里子『アイスの実を食べていない人に 何で食べていないか リアルに聞いてみた』」というタイトルの2分強の動画だ。吉高由里子さんが、アイスの実の商品開発担当・中田さんの「悩み相談」を受けて、長い間、アイスの実を食べていない人の声を一緒に視聴。その人たちの意識を変えるために、現在の商品を食べてもらい感想を聞く――という内容だ。

吉高さんと中田さんが向き合う“消費者”は、世代の違う女性3人と男性1人。広告訴求の一環だが、同社の会議室らしき場所から別の部屋に移動し、消費者と交流する。従来のメーカー目線より踏み込んだ内容で、本稿作成時の視聴回数は約170万回となった。

自虐を逆手にとった訴求方法は、関西系メーカーらしいが、これも「ユニークネス」だろう。業績好調だからできる「次の一手」として、同ブランドの今後も注目したい。

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高井 尚之(たかい・なおゆき)
経済ジャーナリスト/経営コンサルタント
1962年名古屋市生まれ。日本実業出版社の編集者、花王情報作成部・企画ライターを経て2004年から現職。「現象の裏にある本質を描く」をモットーに、「企業経営」「ビジネス現場とヒト」をテーマにした企画・執筆多数。近著に『20年続く人気カフェづくりの本』(プレジデント社)がある。

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(経済ジャーナリスト/経営コンサルタント 高井 尚之)

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