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「感染防止か、経済回復か」で言い争うのはいい加減やめるべきだ

プレジデントオンライン / 2020年9月28日 18時15分

4連休の初日となった19日朝、国内線の利用客で混み合う羽田空港第2ターミナルの出発ロビー=2020年9月19日、東京都大田区 - 写真=時事通信フォト

■東京からの宿泊の旅行者は「日本全体の2割」

10月1日から東京発着が「Go To トラベル」の対象になり、9月18日から旅行商品の販売が始まった。

Go To トラベルは1人1泊2万円を上限に旅行代金の最大半額を補助する制度で、政府は7月22日から46道府県でスタートさせたが、東京都内への旅行と都内に住んでいる人の旅行については感染者の再増加から対象外としてきた。

東京からの宿泊の旅行者は昨年、日本全体の2割を占めた。東京を除外したままでは観光の支援にならない。東京発着の割引の旅行商品が販売できるようになったことで、旅行を予約する人が増えている。

■東京発着を認めた以上、きちんと実行するのが筋である

赤羽一嘉・国土交通相は9月18日の記者会見で「関係する事業者と旅行者の双方には、感染拡大を防止する取り組みの徹底が必要だ。最大限の協力をお願いしたい」と語るとともに「10月1日までに万が一、東京都の感染の状況がステージ3以上に引き上げられるなどの動きが出た場合には、東京発着の旅行の追加を延期するかどうか判断する。その場合のキャンセル料はGo To トラベルの事業費から補填したい」とも述べ、感染防止を優先する方針を示した。

沙鴎一歩はこの方針に疑問を感じる。東京発着を認めた以上、きちんと実行するのが筋である。実行したうえで問題があるというのなら専門家の判断を仰いで延期すればいいだろう。

たとえ感染者が増えたとしても重症者や死者がすぐに急増するわけではない。重症化しやすい感染者の特徴はすでに分かっているし、重症患者に対する治療方法も確立しつつある。4月7日に緊急事態宣言を出した第1波のころとは事情が大きく異なる。社会・経済をもとに戻すための努力を怠ってはならない。

■長引く感染症対策の結果、リーマン以来の業績悪化に

長引く感染症対策の結果、日本の企業はリーマン・ショック以来の業績悪化に落ち込んでいる。

たとえば失業者が急増している。厚生労働省によると、今年1月から9月中旬までに解雇や雇い止めで仕事を失った人はおよそ6万人。5月22日に1万人を超えた後、7月1日に3万人、8月31日には5万人を超えるなど失業者は増え続けている。この失業者数はハローワークが把握できたもので、実際に仕事を失った人はさらに多い。

企業の倒産も深刻だ。信用調査会社の東京商工リサーチによると、1月から8月までに休業・廃業した企業は全国で3万5000社余りと、昨年同期よりも24%も増えている。

新型コロナ対策で感染者は減るが、その分、経済に大きな打撃を与え、社会が歪んでいく。これが防疫措置の難しいところである。

■「冬」の南半球ではインフルエンザが流行しなかった

いま新型コロナ対策において一番懸念されているのが、インフルエンザとの同時流行だ。

コロナウイルスもインフルエンザウイスも人の上気道や下気道で増え、とくに気道粘膜が弱くなる冬場に流行する。どちらのウイルスに感染しても発熱、せき、倦怠感などの症状が出るので、医療機関の混乱が考えられる。

このため、Go To トラベルなど人の動きを活発にさせて社会・経済を動かすことに対し、強い危機感を示す政治家や官僚、学者もいる。しかし沙鴎一歩は社会・経済の活性化を第一に考えるべきだと主張したい。なぜなら懸念されるようなインフルエンザとの同時流行など起こり得ないからだ。

新型コロナとインフルエンザのウイルスはともに呼吸器感染症の病原体で、その感染スタイルは感染者のせきやくしゃみで飛び散るしぶきによって感染が広まる。似通った感染症はお互いに強く影響を与えることがあり、同時には流行しにくい。

WHO(世界保健機関)によると、現在冬の南半球ではインフルエンザ感染はほとんど報告されていない。一方、秋口に入った日本のインフルエンザの現状はどうか。厚生労働省によれば、全国5000カ所の医療機関からの定点観測報告が9月6日までの1週間でたったの3人にとどまっていた。これは昨年同時期に比べて1000分の1以下という極めて低い水準だ。

■毎日社説は「菅首相は経済活動の活発化に前のめり」と書くが…

もちろん油断は禁物である。高齢者や持病のある人はインフルエンザワクチンを接種し、インフルエンザと新型コロナの重複感染は防いだ方がいいだろう。

新型コロナ対策で、手洗いやマスクの着用、3密の回避が当たり前になるなど私たちの衛生意識は異常なほどに高まっている。外国人の日本への入国の制限も続けられている。その結果、新型コロナとインフルエンザの流行に歯止めが掛かっているのである。

9月20日付の毎日新聞は「新政権のコロナ対策 経済偏重にならないよう」との見出しを掲げてこう書き出す。

「新型コロナウイルス感染症対策は菅義偉政権の最優先課題だ。首相は『社会経済活動との両立を目指す』と強調している」
「大事なのはバランスをいかに取るかだ。だが、菅首相は経済活動の活発化に前のめりな姿勢を示している。かじ取りに懸念が残る」

もちろんバランス感覚は重要だが、いまの菅政権がバランスを欠いて経済活動の活発化に前のめりだとは思えない。前述した赤羽国土交通省の発言を見てもそれはよく分かるはずだ。毎日社説は新型コロナウイルスに脅えているのかもしれない。

毎日社説は「主導してきた観光需要喚起策『Go To トラベル』は、10月から東京都が対象に加わり規模が拡大される。人の移動は感染のリスクを伴う。感染が再拡大した場合は、専門家による分科会の意見に耳を傾け、ブレーキを踏む必要がある」とも指摘する。

だが、感染が拡大したからと言って重症者が急増し、感染死が増えるわけではない。毎日社説は現状に対する分析と認識が足りない。

■「かかりつけ医の不安」は取り除くべき

毎日社説はさらに指摘する。

「冬にかけては季節性インフルエンザとの同時流行が懸念される。かかりつけ医には、患者の診察に不安もあるようだ。スタッフの感染を防ぎながら、地域で検査を担う体制作りが欠かせない」

沙鴎一歩は同時流行はないと考えるが、まずはそれぞれの地域ごとで各医師会が音頭を取ってかかりつけ医の不安を取り除くことが望ましい。

「医療体制を確保する必要性は当初から指摘されてきたが、いまだに不安が残る。特に、地方で急激な感染拡大が起きれば、医療崩壊の懸念がある。都道府県を超えた支援体制を確立しておかなければならない」

かかりつけ医の不安の次は医療崩壊に対する懸念。毎日社説はどれだけ心配性なのだろうか。

最後に「厚生労働相に再び起用された田村憲久氏は、検査体制の目詰まり解消などを政府に提言してきた。感染対策の責任者として、実行力が問われる」と毎日社説は書く。

検査はPCR検査だけではなく、抗原検査や抗体検査と臨機応変に組み合わせて実施してくことが肝要だ。毎日社説はそこの主張も欠けている。

■第1波の知見を活用できたからこそ、第2波を乗り切れた

次に9月23日付の朝日新聞の社説を読んでみる。冒頭から「菅政権は、新型コロナウイルス対策と社会経済活動の両立を掲げる。実際にどう臨むのか。これまでの経験から教訓を引き出しつつ、課題を社会全体で共有すべきだ」と訴える。

感染症対策は過去の経験に学ぶことが大切だ。とくに人類にとって初めて遭遇する新型コロナのような新興感染症は、その流行の初期段階で得た経験や知見をうまく活用する必要がある。

朝日社説は書く。

「『第2波』では、緊急事態宣言は出さず、都道府県や地域単位での部分的な休業や移動自粛の要請で対応した。より早く手を打って感染を抑え込めなかったか、といった反省点がある一方、結果的には拡大に歯止めをかけつつ、4~5月ほどには社会経済活動を制約せずにすんだ。医療・防疫関係者や様々な業界の努力や工夫の成果であり、経験の蓄積が生かされてきたといえるだろう」

沙鴎一歩は今回の朝日社説の見解には賛成する。第1波で得られた知見をうまく活用できたからこそ、第2波をうまく乗り切ることができたのである。

■菅政権の掲げる感染対策と経済活動の「両立」しかない

朝日社説は指摘する。

「とはいえ、経済への負の影響は依然、深刻だ。6月は前年並み近くに戻った家計消費が、7月は再び落ち込んだ。鉱工業生産は回復基調だが、水準はかなり低い。雇用の減少幅も非正規を中心に高止まりしている」
「4~6月のGDPは前期比7.9%のマイナスだった。7~9月は上向くものの、低下幅の約半分を回復する程度にとどまる、との見方が多い。感染の波が繰り返される限り、経済も一進一退を強いられそうだ」

朝日社説が指摘するように、経済状況はかつてないほど深刻である。この大問題をどう解決してくのか。菅政権が掲げる感染対策と社会・経済の活動の両立しかない。

朝日社説は主張する。

「『第2波』の経験を踏まえて再確認すべきは、医療・防疫の強化と経済活動の回復は車の両輪であることだ。感染が広がれば経済にもブレーキがかかる。両者のバランスをとりながら、水準を高めていくしかない。均衡を失した場合には、柔軟に軌道修正することも必要だ」
「金融・財政政策の大枠は維持すべきだろう。そのうえで、事態が長引き、回復度合いにもバラツキが見えるなかで、よりメリハリの利いた対応を工夫する必要がある。特に、経済縮小のしわ寄せを受けた働き手の生活への目配りは欠かせない」

「防疫と経済活動のバランス」と「メリハリの利いた対応」。その通りなのだが、抽象的だ。朝日社説は個別具体的にそれぞれごとに対応していくことの難しさを自覚していない。残念である。

(ジャーナリスト 沙鴎 一歩)

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