「行列がないなら要らない」タピオカ屋を見捨てた若者たちのホンネ
プレジデントオンライン / 2020年9月29日 15時15分
■ついに終焉を迎えたタピオカブーム
2018年ごろからブームが続いていたタピオカ店が、相次いで閉店している。目立つところでは、5月に「COMEBUYTEA表参道店」、6月に「comma tea恵比寿店」が閉店。浅草のタピオカ専門店「8ドシー」も、6月に「台湾菠蘿油(タイワンボーヨーロー)」という日本初のボーヨーロー(香港発祥のパン)専門店へとリニューアルした。
「タピオカ専門店が閉店しているのは、都内だけではありません」
こう指摘するのは、サイバーエージェント次世代研究所研究員の松野みどり氏だ。
「SNS上ではコロナの自粛期間中に地方でも多くのタピオカ店が閉店していることを確認できます。私たちはタピオカ店の閉店は全国的な現象だと捉えています」
コロナの影響を受けたのは、もちろんタピオカ店だけではない。緊急事態宣言解除後も営業時間の制限などの自粛要請は続き、飲食業界全体がダメージを受けている。タピオカ店の閉店が相次いでいるのも、飲食業界全体の苦戦を考えればあたりまえに思える。
しかし、松野氏は「同じ飲食業界でもチャネルによって影響の受け方が違う。もう少し細かく見ないといけない」と指摘する。
具体的にデータを見ていこう。サイバーエージェント次世代研究所では、実店舗での購入頻度が新型コロナウイルス感染拡大前と比べて自粛期間中にどのように変化したのかを調査した。
15~19歳で購入頻度が「減った」という回答がもっとも多かったチャネルは「ショッピングモール」の62.0%で、「増えた」の5.7%を大きく上回っている。他の実店舗チャネルも軒並み「減った」が「増えた」の回答率を上回っており、買い物の頻度が全体的に減っていることがわかる。
その中で唯一、「増えた」の回答率が「減った」を上回ったのが「飲食店でのテイクアウト」だ。15~19歳では、「増えた」が27.3%で、「減った」が24.8%。わずかだが、自粛期間中にテイクアウトする機会が増えたと答えた人のほうが多い。この傾向は20代、さらに全世代でも同様で、自粛期間中にテイクアウトニーズが高まったことが読み取れる。
「タピオカティーは、テイクアウトに向くドリンクです。席に座ってゆっくり楽しめる専門店もありますが、テイクアウトを前提としたスタンド形式の店舗も少なくありません。テイクアウトであれば、一般の飲食店と違ってコロナ禍は追い風になりえます。にもかわらず、実態としては逆に閉店が相次いでいるのです」
■タピオカの価値は行列にあった
テイクアウトのニーズが高まっているのに、なぜタピオカ店が潰れているのか。松野氏は次のように分析する。
「タピオカが若年層を中心に支持されたのは、学校帰りに友達と一緒に行列に並び、『今日はあのメニューにしよう』『トッピングは何がいいか』とおしゃべりしながら待つ時間が楽しかったからです。タピオカ店に並ぶことは、若年層にとってコミュニケーションの儀式の1つ。つまり、モノそのものより、友達と一緒に過ごすコトが魅力でした」
「若年層を中心としたタピオカブームに対して、『物珍しいだけで、べつにおいしくない』『あんなに店を出してどうするのか』と冷ややかな見方をする大人たちもいました。ただ、すぐに終わると言われ続けたわりに、駆逐されずに息の長いブームになっていた。モノとしての新鮮さがなくなっても売れ続けたのは、友達と一緒に時間を過ごす体験に若年層が価値を感じていたからです」
今回のコロナで閉店が続出したのも、タピオカがコト消費であることが大きい。
「コロナの自粛で学校が休校になったり授業がオンライン化して、友達と会う機会が減りました。会えても3密回避で、一緒に店に並んでおしゃべりすることは難しい。そうなると、タピオカの最大の魅力である体験価値は減じてしまいます。一方、コロナ禍でテイクアウトのニーズが高まっても、タピオカの価値はそもそもテイクアウトできることではないので、追い風になりにくい。マイナスの影響が強く出て、閉店につながったと考えられます」
■ポストタピオカはデザートドリンク
コロナ禍でタピオカブームはひと段落した。では、タピオカを楽しんでいた層はこれからどこに向かうのか。松野氏が注目しているのは、デザートドリンクだ。そもそもタピオカティーはデザートドリンクの一種だが、いまはそれ以外のものにも関心が広がっているという。
「タピオカがヒットした理由は行列に並ぶ体験価値ですが、若年層にウケた理由は他にもあります。1つは、小腹を満たせること。若年層は代謝が良くて、おなかが空きやすい。かといって、がっつり食べるのは抵抗があるというときにタピオカはぴったりでした。もう1つ、片手で持てることも忘れてはいけません。片手ならスマホやPCを操作するときに邪魔にならず、“ながら”で楽しめます。同じ片手でも、スナック菓子と違って手が汚れにくいことも人気の理由でしょう」
「この2つの特徴は、他のデザートドリンクにも共通しています。体験価値は弱くなったものの、若年層にとって気軽に小腹を満たせる魅力は依然として大きい。タピオカに飽きたという人たちが、いま他のデザートドリンクに関心を移しつつある印象です」
ただ、コロナ禍においては、デザートドリンク専門店もタピオカ店同様に並びにくい。いま主戦場となっているのは、コンビニだ。
「以前からスイーツ専門店とコンビニのコラボはありましたが、最近はデザートドリンク専門店とコンビニのコラボが流行しています。今年6月には、バナナ専門店『sonnaバナナ』がセブン-イレブン限定で『sonnaバナナミルク』を販売しました。さらに8月には、レモネード専門店『レモニカ』が、森永乳業とコラボしたチルドカップのピンクレモネードを全国のコンビニで販売しています」
■コンビニで体験価値をどうつくるか
デザートドリンク専門店とコンビニのコラボが増えた理由は何か。背景には、やはりコロナがある。
「バナナ専門店『sonnaバナナ』は、20分で賞味期限が切れるというフレッシュさが売りの人気店。ただ、店舗は広尾と八丁堀にしかありません。本来なら積極的に出店したいところですが、コロナ禍ではおそらくそれも容易ではないのでしょう。一方、自粛期間中の利用機会を調べた前述の調査で、『飲食店のテイクアウト』に次いで『増えた』の回答率が高かったのは、『コンビニ』でした(15~19歳は20.5%)。コロナで遠出はしなくなったものの、身近なチャネルとしてコンビニは注目されています。デザートドリンク専門店がコンビニとコラボするのもうなずけます」
コンビニも、デザートドリンクのニーズの高まりは感じているようだ。専門店とのコラボだけでなく、オリジナル商品の開発にも積極的だ。先駆けは、昨年5月からファミマが限定販売した「杏仁豆腐は飲み物です。」。また今年6月には、ローソンMACHI caféに「チーズティー」が加わり、コンビニのクオリティを超えていると話題になった。
はたして、コンビニで楽しめるデザートドリンクは、このままタピオカの後釜として定着するのか。松野氏は「体験価値をどうやってつくるのかがカギ」と分析する。
「ローソンのチーズティーは、自分でアイスティーにチーズミルクを上から注いで完成させます。自分で機械を操作する体験は案外面白い。店で友達と一緒に並ぶという体験価値の代わりに、コンビニでどのような体験をさせるのか。そこで若年層を惹きつけることができれば大ヒットにつながるかもしれませんね」
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サイバーエージェント次世代研究所 研究員
1991年、大阪生まれ。総合電機メーカーのデザイン部でプロダクト・UIデザイナーを経験し、2016年サイバーエージェントに入社。同年6月よりインターネット広告事業本部にてクリエイティブプランナーを務め、女性商材やEコマース商材を中心に業界最大手企業様の獲得施策の課題解決施策を提案、実行。2019年5月より現職。
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(サイバーエージェント次世代研究所 研究員 松野 みどり 聞き手・構成=村上 敬)
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