外出自粛で中国メイク「チャイボーグ」に憧れる若者が増えている
プレジデントオンライン / 2020年9月30日 15時15分
■10代は自粛期間中にチャレンジメイク
新型コロナウイルスの感染拡大は、さまざまな業界に影響を及ぼしている。その1つがコスメ業界だ。インバウンドが止まって訪日客の爆買いがなくなっただけではない。外出自粛の影響で、メイクの機会そのものが減っているのだ。
サイバーエージェント次世代研究所が行ったファッション・美容・居住環境についての意識調査によると、自粛期間中に「最低限のメイクに抑える」と回答した女性は23.2%に達した。また、「コロナでメイク需要が減る」と回答した女性は19.3%だった。
自粛期間でも、オンライン会議や近所への買い物などで人目に触れる機会はある。しかし、スクリーン越しやマスク越しなら多少は手を抜いてもバレはしない。メイク需要が落ちているのも納得だ。
ただ、細かく見ると、年代によって自粛期間中のメイクに温度差があることがわかる。「メイク需要が減る」という回答の割合が最も高かったのは20代で、22.2%。同じ若年層でも15~19歳は15.2%と、逆に最も低かった。
また、自粛期間中、「普段しないメイクをしたい」と回答したのは20代が4.3%だったのに対して、15~19歳は13.4%だった。全年代の2.8%に比べるとどちらも高かったが、10代のほうがメイクにより強い関心を抱いている。
同じ若年層でも、10代と20代で自粛期間中のメイクの意識が異なるのはなぜなのか。サイバーエージェント次世代研究所研究員の松野みどり氏は「義務か、楽しみかの差」と分析する。
「20代のメイク需要が減っているのは、その多くが社会人だから。マナーとしてのメイクを毎日強いられているため、職場に行かなくていい状況ならメイクを休みたいというのが本音でしょう。一方、10代の多くは学生で、学校ではメイクが禁止されていたり、派手なメイクは浮いたりする。普段は我慢しているので、学校に行かなくていい状況ならむしろ積極的に楽しみたいと考える人が他の年代より多いのでしょう」
■クラスでもカーストの高い女子が派手メイクを発信
普段しないメイクに挑戦したい女性は、15~19歳でも1割強にすぎない。高校生なら1クラスに2~3人だ。しかし、その2~3人の発信力を甘く見てはいけない。
「普段しないメイクを楽しみたいと考えているのは、おそらくクラスでもカーストの高い女子たちです。彼女たちをマネて、今後、チャレンジメイクを楽しむ女の子が増えていく可能性があります」
では、自粛期間中に10代の女の子たちが楽しんだチャレンジメイクには、どのようなものがあるのか。実際に流行したものを、松野氏に紹介してもらおう。
「今年の5~6月に流行ったのが『涙メイク』です。これは2019年夏ごろから人気が高まっていた中国メイクの手法の一つで、中国のコスメブランド『ZEESEA』のマスカラを使用します。このマスカラにはラメが入っていて、まつげに塗るとキラキラ光ります。それが泣いたときにまつげが涙で濡れて光る様子に似ていることから、涙メイクと呼ばれています」
「手法自体は自粛前からありました。ただ、学校にしていくには派手すぎて、街で涙メイクをしている子はあまり見かけませんでした。一方、家でするなら、先生に小言を言われたり知らない人にじろじろ見られる心配はありません。そこで自粛期間中に涙メイクをした姿をセルフィーで撮って、SNSにアップする若い女性が続出しました」
■ぶりっ子に憧れて「地雷メイク」へ
ネーミングに強烈なインパクトがあるのは、「地雷メイク」だ。地雷メイクは、「地雷女」と呼ばれる女性をマネたメイクのこと。そもそもオジサンには、地雷女の存在自体が謎に包まれているが……。
「見た目は可愛いけれど、つき合ってみたらメンヘラ体質で彼氏を振り回す女性を地雷女と呼びます。地雷女は色白で、見た目はか弱い印象を与えます。また、よく泣くので目元は赤い。地雷メイクはその特徴を再現するもので、白いファンデーションを塗り、目のまわりに赤いアイシャドウを引きます」
なぜ地雷女と揶揄されるような女性のメイクをマネるのか。根底にあるのは、ぶりっ子への憧れだという。
「地雷女には、ぶりっ子の側面もあります。じつはぶりっ子の可愛らしさに憧れる女性は少なくありませんが、普段は批判されるのが怖くて、ぶりっ子メイクがなかなかできません。しかし、地雷女というモチーフを使えば堂々とできる。つまり、『本気じゃなくて、ネタだよ』とカムフラージュするために地雷女を利用しているのです」
地雷メイクの流行はぶりっ子への憧れが屈折した形で現れた形だが、スターへの憧れがストレートに表れたメイクも自粛期間中に流行った。「雲メイク」だ。
「頬や鼻に白いアイライナーで雲を描くメイクで、お茶目な印象を与えます。オリジナルは不明ですが、アリアナ・グランデが雲メイクした写真をインスタにアップしたことで、世界で爆発的に広がりました。最近は、実際にメイクをしなくても写真を撮れば雲メイクに加工してくれる雲メイクフィルターも登場。アプリがつくられることからも雲メイクの人気ぶりがうかがえます」
■強く美しい女性を演出する中国メイク
いまご紹介したチャレンジメイクは、非日常のものとして10代を中心にSNS上で楽しまれた。しかし今後、SNSの枠を超えてリアルでも広がりそうなメイクもある。涙メイクに象徴される中国メイクだ。
「中国の美人インフルエンサーは、サイボーグ級に美しいという意味で“チャイボーグ”と呼ばれます。チャイボーグたちがしているのが中国メイクです。特徴は、強い女のイメージ。日本のメイクは控えめでナチュラル。また、韓国メイクはピンクがメインカラーで、かわいらしさを演出するのにぴったりでした。それに対して、中国メイクは、はっきりとした色使いをします。たとえば韓国メイクだとアイラインは茶色で自然に見せていましたが、中国メイクは黒いアイライナーで、太くくっきりと書きます。リップも真っ赤で、かなり派手です」
日本で中国メイクに注目が集まり始めたのは、2019年夏ごろから。「鹿の間の穂乃香」など複数の美容系YouTuberが取り上げて、じわじわと浸透してきた。中国メイクの広がりに伴い、中国のコスメブランドも売れている。涙マスカラの「ZEESEA」は、海外コスメを豊富に取り扱う通販サイト「Qoo10」でも人気ブランドになっている。
「韓国コスメが好きな女の子たちは、韓国に旅行してお土産でコスメを買ってくるコト消費も楽しんでいました。しかし、コロナで旅行に行けなくなり、通販サイトに流れた。そこで中国コスメに出合い、挑戦してみようと考えた子が増えたのではないか」
■アジア全域に“チャイボーグ”が溢れる日
中国に経済で抜かれても、ファッションではまだまだという見方は古い。
「『ZEESEA』の本社があるのは中国の杭州。アリババの本社もあり、中国では富裕層の街として知られています。もともとのその層をターゲットとしていたのか、パッケージは洗練されていておしゃれです。また、男性に比べて女性の消費活動は政治な立場に影響を受けづらい。中国だからと先入観を持たず、素直にチャイボーグに憧れて購買していると考えられます」
「中国メイクがこれから爆発的に広がるかどうかは、まだわかりません。ただ、『ナチュラル』『可愛い』しかなかった最近のメイクに、『強い女』という新しい選択肢が加わったことはたしか。いままでのメイクに物足りなさを感じていた子たちが、SNS上だけでなくリアルでも中国メイクを楽しむようになるのは時間の問題でしょう」
かつて韓国メイクやタイメイクがアジア全域を席巻したように、すでにアジアのコスメ市場はつながっている。日本を含めアジアのいたるところでチャイボーグ風の美女が見られる日は、そう遠くないのかもしれない。
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サイバーエージェント次世代研究所 研究員
1991年、大阪生まれ。総合電機メーカーのデザイン部でプロダクト・UIデザイナーを経験し、2016年サイバーエージェントに入社。同年6月よりインターネット広告事業本部にてクリエイティブプランナーを務め、女性商材やEコマース商材を中心に業界最大手企業様の獲得施策の課題解決施策を提案、実行。2019年5月より現職。
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(サイバーエージェント次世代研究所 研究員 松野 みどり 聞き手・構成=村上 敬)
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