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中途採用頼みの職場を「若手が育つ企業」に変えるたったひとつの方法

プレジデントオンライン / 2020年11月1日 9時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/tumsasedgars

成長企業は「即戦力」になる中途の採用活動に力を入れることが多い。しかし、その結果、人手不足は解消するどころか、むしろ深刻化してしまうことがある。なぜなのか。人材コンサルタントの工藤正彦氏は「マニュアルがなく、業務が属人化していることが多い。『東京ばな奈』などの土産菓子をつくるグレープストーンでの改善事例を紹介したい」という――。

※本稿は、工藤正彦『小さな会社の“人と組織を育てる”業務マニュアルのつくり方』(日本実業出版社)の一部を再編集したものです。

■属人化した仕事の知恵を「企業風土」にするために

「東京ばな奈」などヒット商品を生み出し、急成長した株式会社グレープストーン。企業の成長スピードに社員の育成が追いつけなくなった結果、「即戦力」として中途の採用活動に力を入れ始めました。しかし、「即戦力」で雇った中途採用の人材は、助っ人外国人のようなもので、ミッションを終えたらすぐに転職してしまうことも多く、なかなか「企業風土」が醸成されないという課題を抱えていました。

——「企業の風土づくり」として、マニュアル作成という方法が挙がったきっかけを教えてください。

新卒を採用せずに中途採用の人材のみで業務を行っていると、これまでの経験や能力によってどうしても仕事の仕方にも差が出るので、いつの間にか業務が属人化してしまいがちです。なので、当時は職歴や経歴が異なると、社内で使われる用語すら統一されていない状態でした。

社内用語の統一は、一見そこまで重要に思えないかもしれませんが、こういった小さなことから、組織間、個人間のコミュニケーションにギャップが生まれていく。それがクレームにつながり、結果としてお客様に迷惑がかかる――「このままだと会社が崩壊してしまう!」と危機感を覚えたことがきっかけです。

■最初は若手教育プログラムの一環として

——「マニュアルを作ろう」という発想は、武田さんの前職経験が影響していると聞きました。

前職では大手チェーンストアの管理部門にいました。そこでは、あらゆるものがマニュアル化されており、社員やパートはマニュアルを読み込むだけで、一定のレベルを担保することができていたのです。その経験から、属人的要素を標準化し、企業風土を統一するにはマニュアルが効果的だということはわかっていました。

当時の私が人事部採用担当として若手の研修教育プログラムを作成していたこともあり、その一環として社内の「業務マニュアルの作成」に着手したのです。

■一番忙しい部署から導入を始めたわけ

——社内に一定のルールや価値判断の物差しの導入が必要だと感じたのですね。マニュアルを作成するにあたって、まず着手したことを教えてください。

マニュアル作成を始めるにあたって「はじめは最も課題が山積なところから」と決めていました。マニュアル作成は、本来の業務にプラスアルファされる業務です。忙しい部署ほど、「そんな忙しいときに、効果が約束されないことに時間を割く余裕はない」と難色を示すのが当たり前です。しかし、その多忙な部署で「マニュアルによる課題解決」を達成できれば「マニュアル作成→課題解決」のサイクルが、全社的に定着していくのではないかと想定しました。

そこで、当時一番忙しかったディスプレイ部の悩みの解消を目指して、課題を洗い出すところから始めていきました。

ビジネスミーティング
写真=iStock.com/boggy22
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/boggy22

——「ディスプレイ部」というのは意外でした。業務マニュアルというと、人事部や総務部などのイメージがあります。

当社の場合、ディスプレイ部というのは、完成した商品をショップ店頭に並べる際に必要な什器、ポスターなどを制作する部署です。つまり、販売に直接かかわる部分かつ、社内の川下を担う部署です。

お土産屋ショップは、限定品や季節による商品の入れ替わりがとても激しいです。決まった納期のなかで、企画や生産の段階で時間を取られてしまうと、店頭準備を担っているディスプレイ部が、最終調整のしわ寄せをすべて請け負うことになります。そうなると、従業員の「労働時間」で補うしかなく、長時間残業や深夜労働など不健全な勤務態勢が続くという悪循環に陥っていました。

■最初はまったく共感を得られなかったが……

——それだけ忙しいと、ディスプレイ部の社員は「マニュアル作成」に難色を示しそうですが……。

もちろん、最初はまったく共感を得られませんでした。ディスプレイ部の上長からも「この忙しいのにマニュアルなんて作っていられるか。いまは人材教育に時間をかけていられない」と、きっぱりと拒絶されました。ディスプレイ部としては今までのやり方を否定されている気分にもなるわけですから、あまりいい気分はしませんよね。

■「愚痴を吐露できる関係性」作りがいちばん重要

ですから、「ディスプレイ部が無理なく働いていくにはどうしたらいいのか」を最大限に配慮して、マニュアル作成を進めていきました。すると、業務工程についての課題を洗い出していくなかで、社員はぽつりぽつりと意見が出してくれるようになりました。中にはほとんど愚痴に近い意見もありましたが、「愚痴を吐露できる関係性」を作っていく過程こそが、このマニュアル作成で最も重要だと考えていました。

工藤正彦『小さな会社の“人と組織を育てる”業務マニュアルのつくり方』(日本実業出版社)
工藤正彦『小さな会社の“人と組織を育てる”業務マニュアルのつくり方』(日本実業出版社)

なぜなら、愚痴を吐き出すことで、「自分は仕事中、何をストレスに感じているのか」「そのストレスはどうすれば改善されるのか」と、課題について向き合う時間を持つきっかけになるからです。

また、社員からしてみれば、どんな意見が出ても人事側が肯定的に受け入れることで、「みんなで組織作りに参加している」という実感を持つことができたのだと思います。

——社内の課題にあらためて向き合うことができたのですね。

いざマニュアル作りを始めてみると、同じ仕事をしているはずが手順や使用しているフォーマットなど、細かいところでも個々人によって異なることが発覚し、標準化・共有化にはかなり時間がかかりました。しかし、その過程で新しい知識が身につき、非効率な業務が見直されるなど、目に見えて状況が改善していきました。ディスプレイ部の社員が「マニュアルを作ってよかった」と素直に喜んでいた様子は、今でも鮮明に覚えています。

■よい「我流」の技こそ社内共有すべし

——忙しい職場の課題を実際にマニュアルで解決できたわけですね。

私の経験を踏まえると、「忙しい」「時間がない」と、目の前の現状に埋没し、変革を起こすことにちゅうちょしている組織ほど、マニュアルの効果を体験できるかもしれません。

社員の自主性を重んじるからこそ、「細かいところまでは管理しない」「各人にまかせる」としている企業は、中小企業にこそ多いですよね。そういった風土は自由で柔軟に働きやすい反面、「我流」「自分なりの仕事の価値観」に陥りやすく、結果として硬直した、旧態依然とした組織になってしまいがちです。

「我流は時代遅れだから見直せ!」ということではありません。技術やテクニックを磨いてきた腕のいい職人さんからは見習うべき点がたくさんあります。その「我流」の技術やノウハウを共有し、標準化できれば、その価値はより素晴らしいものになります。組織における「我流」の価値を再認識するためにもマニュアル作りは有効といえるでしょう。

■課題を発見し解決するサイクルの継続が大事

——今後の課題をお願いします

当たり前のことですが、「マニュアルを作って満足して終わり」では意味がありません。確実に取り入れて、企業の利益や社員の働きやすさに還元していかなければなりません。マニュアルを活用することで、新たに課題が発見され、それをどう解決していくかという課題解決能力や改善プロセスが磨かれていきます。

つまり、マニュアルを使って「業務の標準化→実践→課題の再発見→改善・解決」というサイクルを続けることが最も大切です。そのサイクルができていない部分はまだまだたくさんあるので、それが今後の課題ですね。

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工藤 正彦(くどう・まさひこ)
人材育成コンサルタント
1951年北海道生まれ。明治大学卒業後、日本リクルートセンター(現リクルート)を経て、マニュアル作成・活用の専門会社であるクオーレを設立。様々な業種業界のマニュアル導入コンサルティング業務に携わる。著書に『成功したければマニュアルどおりにやりなさい。』(実務教育出版)、『実戦 業務マニュアルの作り方・活かし方』(明日香出版社)など。

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(人材育成コンサルタント 工藤 正彦)

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