「マスクキスが急増?」韓国の若者がコロナ禍に選んだ新しい愛し方
プレジデントオンライン / 2020年10月3日 11時15分
※本稿は、キム・ヨンソプ、渡辺麻土香訳『アンコンタクト 非接触の経済学』(小学館)の一部を再編集したものです。
■220組が「マスクキス」した合同結婚式
2020年2月20日、フィリピンの都市バコロド(Bacolod)で行われた合同結婚式の写真が注目を集めた。220組が青いマスクをしたままキスするシーンは、婚姻が宣言される瞬間をとらえたものだ。結婚式の間ずっと、最も重要な瞬間さえマスクをつけたままという写真は、バコロド市広報室で撮られ、ロイターを通して世界中のメディアに広がった。
これまでにも合同結婚式の写真は数多く見てきただろうが、こんなシーンは初めて見たはずだ。人口51万人のバコロドでは、市が主催し、伝統行事として合同結婚式を毎年行ってきた。
2020年2月の合同結婚式は例年とは違っていた。全てのカップルに結婚式前の14日間の行動履歴の記録を提出してもらい、式場に入る全ての招待客にマスクを着用させ、体温チェックをし、消毒剤で手を消毒させた。結婚式の司式者と招待客もみんなマスクをつける。
これらは全て新型コロナウイルスの影響を受けたものだ。伝染病も感染も恐ろしいが、だからといって結婚式をしないわけにはいかない。人類の文化と習慣は、そう簡単に全てを変えることはできない。だが、変化は生じる。
■「触れる」から、「不安を解消する」愛し方へ
私たちは安全で平穏な時にだけ恋をするのではない。不安でつらくて苦しい状況でも恋に落ちる。苦難の中にあっても、愛によって幸せと希望を得ることがある。伝染病の恐怖は今回が初めてではない。SARS、MERSを経て新型コロナウイルスまで経験した。これからも新しい伝染病が現れる可能性は高い。経験を重ねる中で無頓着になるのではなく、アンコンタクトに対する欲求と必要が蓄積されていく。
全世界がかつてより密につながり、交流も増えた。どこで発生しようと、伝染力が高ければ一瞬にして世界中に広がり得るのだ。
社会的関係や業務のための接し方を、ウェブ会議をはじめとしたアンコンタクト方式に切り替えることについては抵抗なく受け入れることができるだろう。どんな方式であれ仕事さえうまくいけばいいのだから。反対に、男女間の愛情関係にアンコンタクトを取り入れることは非常に難しい。恋愛と結婚は、スキンシップやキスといった緊密なコンタクトと切り離すことができないからだ。
だが、それでも代案を探る人は現れるものだ。それ自体が変化である。本能的欲求や人類が培ってきた男女間の愛情表現とふれあいの文化そのものを変えるのではなく、不安を解消する方法を探ることで、それらを守ろうとしているのだ。コンタクトの欲求のためにアンコンタクトの方法を駆使するわけである。
■似た情景は約90年前にも描かれていた
マスクキスを見ていてルネ・マグリット(René Magritte)の「恋人たちⅡ」(The LoversII, 1928)を思い出した。シュルレアリズム(超現実主義)の代表的画家マグリットが描いた白いベールで顔を覆った男女がキスする姿はとても印象的だが、非現実的でもある。
ところが1928年にマグリットによって描かれたシュール(超現実的)なキスのイメージが、2020年のバコロド合同結婚式で現実的イメージになってしまった。現実のマスクキスもシュールである。私たちが知っているキスのイメージから大きく外れた姿だ。もしマグリットがあの結婚式を見たら何と言っただろうか?
「マスクキス」はMERSの時にも見られた。MERSが大流行していた2015年6月19日当時の『大邱毎日新聞』1面トップに掲載されたのは、大邱のあるバス停でマスクをつけたままキスする恋人たちの写真だ(『大邱毎日新聞』ウ・テウク記者が撮ったこの写真はあまりに印象的だったため、韓国編集記者協会が選ぶ「今年の写真賞」にて2015年最高の作品に選ばれた)。
![大邱毎日新聞一面を飾ったマスクキス](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/0/9/670/img_09d7bc01a2fe07776c0f91448e8aecb6663497.jpg)
この写真の1面掲載には、深刻なMERS禍にあっても最後は私たちが勝つ、日常を続けていこうというメッセージも含まれていたはずだ。もちろん政治的解釈もできる。
■10日間で累積患者数が75倍になった
当時は政府の対応が非難を受けていた。『大邱毎日新聞』としては、政府を支持するニュアンスで「MERSが深刻だとはいってもMERSの恐怖は過ぎ去ったから騒ぎ立てるのはよそう」というメッセージを打ち出すために、意図的にマスクキス写真を使ったと言えよう。そして実際に、恋人同士がマスクキスをする場面もかなりあったはずだ。デートやキスの回数を減らした人たちも多かっただろうし、あまり気にせず普段通りにキスやスキンシップをしていた人たちもいただろう。しかし、最初は淡々と過ごし鈍感だった人たちでさえ、時間が経つと変わっていった。
韓国初の新型コロナウイルスの陽性患者が発生した2020年1月20日から1カ月間は、まだ静かだった。2月18日までに感染が確認された患者も、たった31人だった。ところが、その次の日から1日に2倍ずつ(2月19日51人、20日104人、21日204人、22日433人)累積患者数が増えていった。
![韓国の夜の繁華街](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/6/f/670/img_6f50611bb198e3b5ae117dc365ec5b3b1385114.jpg)
2月18日と2月28日を比べると、10日間の累積患者数が75倍にもなり、韓国社会はパニックに陥った。世界最速のスピードで検査をし、行動履歴を追跡し、隔離したおかげで、その後5日間は2.5倍増と落ち着いたが、2月に広がった不安は3月まで続いた。社会的関係を一時的に中断しようという政府や自治体の勧告のほか、市民の自発的な同調もあった。
■コロナ禍で生まれたデートパターンとは
筆者はこの時期に注目した。不安だからといって、私たちの恋愛や愛情表現までを止めることはできない。人びとは確実に不安を克服する代案を見つけるはずだと考え、その方法を観察することにした。新聞もテレビもインターネットもユーチューブも、この時期に世間が最も注目するコンテンツは新型コロナウイルスに関するものだということで、それぞれに多様な観点から色々と語っていた。
その中でも興味深かったのは、韓国の通信社「News1」の記事「『マスクキス』コロナ禍での愛し方? 陽性患者の行動履歴公開も『怖い』」(2020年3月3日)だった。この記事は、新型コロナウイルス時代における恋人たちのデートパターンを、匿名コメントを使いながら彼らが直接語ったかのように掲載したものだ。
交際3カ月の彼女がいて新型コロナウイルス感染者のいない区域にある安全なモーテル〔訳者注:韓国のモーテルは、単身や同性同士での利用の他、ラブホテルとしても利用される〕探しに力を入れているという会社員男性の話から、会う回数を大きく減らし、テレビ電話やメッセンジャーを利用して日々のやりとりをする中で、相手を一層愛しく感じるようになったという大学生の話、さらには、ソウルは安全ではない気がするからと、コロナウイルス感染者情報アプリを調べて、感染者が少なく地理的にも近い南楊州の無人ホテル〔訳者注:フロントがなく常駐スタッフもいないホテル〕に行ったら、満室だったという蘆原区在住者の話などが紹介されていた。
■「コロナ モーテル」が急上昇ワード1位に
記事で紹介された匿名の人物が実在するのかは定かでない。記者の周りで聞かれた話やオンラインコミュニティに出回っている話をまとめて書いただけかもしれないが、それでも構わなかった。十分にあり得る話であり、筆者自身も周りの人から聞いていた話だったからだ。
「モーテル」を検索した時の関連検索ワードの中で、急上昇ワード1位になったのが「コロナ モーテル」だった。恋人とのスキンシップとセックスのためにモーテルに行くならば、できるだけコロナウイルス感染者の行動履歴から離れた、陽性患者が発生していない地域のモーテルに行くという人が相当数いるということだ。
新型コロナウイルス初の感染者が出てから、陽性患者が増えていき、疫学調査で得られた動線情報が発表され始めた1月末、「コロナ モーテル」に対する検索関心度が高まった。だが2月中旬になると関心は薄れ、2月13~19日までの期間は関心度がゼロに近くなる。ところがその後、大邱を中心に陽性患者が急増した2月20日からは、再び「コロナ モーテル」に対する検索関心度が高まり、2月末にはピークを迎えた。その後は少し下がってきたものの、これらのワードに対する関心は続いている。
深刻なコロナ禍でも恋人同士のセックスは諦められず、その代わりにより安全なモーテル探しに尽力したわけだ。
■大邱と近い釜山広域にも密集していた
地域別の関心度を見ると、大邱広域市でこれらのワードの最多検索回数を記録したことが分かった。これは陽性患者全体の4分の3が大邱から出たことと無関係ではない。2番目に検索回数が多かった地域は釜山広域市だった。もちろん感染者数は慶尚北道の方が多いのだが、釜山広域市は大邱、慶尚北道と近い上に、人口がより多く、より密集している。上位5地域に大邱、釜山、慶尚北道、慶尚南道が入ったのは決して偶然ではない。
![モーテルのベッド](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/3/5/670/img_3518b0be5a9e8c137f8f40585a1c2ac81072594.jpg)
危機の中でも愛は止められない。もちろん、他の地域より不安と恐怖が大きいために検索回数が増えただけであって、以前と比べてモーテルに行く需要は大幅に減っただろう。新型コロナウイルスによってモーテル業界は全国的にも打撃を受けただろうが、その中でも最も深刻なのは大邱だったと思われる。
![キム・ヨンソブ、渡辺麻土香訳『アンコンタクト 非接触の経済学』(小学館)](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/c/4/200/img_c444f5a35aa503a35b1fa303b25bd1bc384037.jpg)
「ヤノルジャ〔訳者注:韓国の宿泊予約アプリ〕」は共生支援策の一環として2020年2月末に、新型コロナウイルスによって最も影響を受けた大邱、慶尚北道と済州地域にある全ての提携先の3月の広告費全額を、ポイントで返納すると発表した。払い戻されたポイントはヤノルジャの広告及びマーケティング用に使うことができるため、実質的には1カ月分の広告費を免除したかたちになる。
伝染病は私たちに、接触に対する不安を深く植え付けた。時間が経てば新型コロナウイルスは収束するが、私たちが経験した不安と他人に対する不信が何事もなかったように消え去ることはないだろう。
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トレンド分析専門家。サムスン電子、現代自動車、LG、GS、Lotteなどの大企業や韓国政府の企画財政部、国土交通部、外交部などで2000回以上の講演、ビジネスワークショップを実施した。『ペンスの時代』、『大韓民国デジタルトレンド』など著書多数。邦訳著書は『アンコンタクト 非接触の経済学』(小学館)。
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(経営戦略コンサルタント キム・ヨンソプ)
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