「売上高は10分の1に…」瀕死のお土産業界で奮闘する3社の共通点
プレジデントオンライン / 2020年10月3日 11時15分
■「売り上げが昨対で10分の1になったお土産店もある」
Go To トラベルキャンペーンや自粛疲れの反動で、観光地には少しずつ観光客が戻り始めている。しかし、本格的な人出の回復はまだまだ先のようだ。
ホテルや旅館をはじめ、レジャー施設や交通機関の打撃は計り知れない。その中でも、特に厳しいのが全国各地の銘菓や特産品などの「お土産品」だ。観光客が動かなければ、お土産品も動かない。夏の帰省も控えられてしまったので、お土産品を取り扱う企業や店舗は大きな打撃を受けている。
「売り上げが昨対で10分の1になった店もザラにありますよ」
長野県内のお土産店に商品を卸す会社の社長は表情を曇らせる。
「3月に売り上げがピタリと止まった。おかげで4月の花見の観光客はほとんどゼロ。6月に若干戻ってきたけど、7月と8月で再び客足が鈍くなって、動きはさらに悪くなった」
コロナ禍で観光客が動かないだけではなく、消費意欲の減退もお土産品の売り上げに大きな影響を与えている。
お土産品に打開策はないのか。
銘菓や特産品を取り扱っている企業のホームページを調べてみたが、ほとんどがコロナ禍の自粛の文言が掲載されているだけで、特別な動きを見せているところはなかった。
複数の企業に問い合わせをしてみたものの、取材を断られたり、取材の申し込みメールの返信すらこなかったり、取り付く島もないような状況だった。
しかし、その中でも、必死になって頑張っている企業もあった。
■「かもめの玉子」と一緒に名産品をネット販売
岩手県の銘菓「かもめの玉子」を製造販売する「さいとう製菓」では、コロナ禍になってからネット販売に力を注いだ。4月には自社の通販サイトで「コロナに負けるな送料無料キャンペーン」を実施。その情報が口コミで広まり、通常の3倍以上の注文を受けることになった。
ネット通販の販売力を生かして、8月中旬には「ふるさと さいとう便」を開始した。自社商品のかもめの玉子の他、大船渡市の名産品のお酢や缶詰を7種7個詰め合わせたセット商品を、地元に帰省できないお客様に向けて販売した。
「自分たちの企業だけではなく、地域の他の企業を一緒になって盛り上げていきたい」
そう話すのは広報担当の佐藤徳政さん。大船渡の観光客を増やすことにつながればと思い、観光パンフレットをネット通販で配送する商品に同封することにした。すでに送ったパンフレットの数は500部を超える。
「民間企業でできることには限界があります。それでも、地元企業と一緒に地域を盛り上げていくことは続けていきたいです」(佐藤さん)。
さいとう製菓の直営店も厳しい状況が続いている。しかし、観光客、帰省客を除けば、地域のお客様が利用する路面店では、昨対に近い数字まで売り上げを盛り返してきているという。地元愛の強い企業は、やはり地元の人たちに愛されているようだ。
■「アマビエになりたかった」ロールケーキを発売
もうひとつ、コロナ禍の行き詰った雰囲気を打開しようとしている企業がある。
山口県の銘菓「月でひろった卵」を販売する「あさひ製菓」(柳井市)。今年のハロウィンは家の中で楽しむ人が増えるのではないかと見込んで、ユニークなハロウィン専用のケーキを作った。その名も「アマビエになりたかった……本マグロール」だ。
もともとは立体型のマグロの形をしたケーキ。釣り好きのお父さんへの誕生日プレゼントとして、「自宅でもマグロの解体ショーができる」というキャッチフレーズで、あさひ製菓のオンラインショップでも人気商品のひとつになっていた。その商品を疫病退散の妖怪「アマビエ」に仮装し、限定商品として売り出すことにしたのだ。
「今年のハロウィンはアマビエに仮装する人が多いはず。家の中で楽しめる本マグロールをアマビエに仮装させて、暗い雰囲気を吹き飛ばしてもらおうと思ったんです」(統括本部長・浜岡賢次さん)。
マグロの中身はイチゴのロールケーキとジュレでできているため、切った時の見た目は赤身のトロそのもの。アマビエの派手な鱗と髪の毛は生クリームで装飾した。一般的なバースデーケーキよりも手間は3倍以上かかっており、もちろん味は保証付きだ。社内で行われた試食会では、スタッフから笑い声が絶えなかったという。
■「お客様も明るいことを探している」
発売と同時に評判となり、9月下旬には第二弾として、本マグロールがサンタに仮装した“クリマスマスバージョン”が発売されることになった。マグロが白いひげを生やし、その上にいる小さなきこりの人形がマグロを切断しようとしているという、なかなかシュールなケーキだ。
「暗くなってもしょうがないですからね。お客様も楽しくて明るいことを探していると思うので、こういうケーキが世の中に1個ぐらいあってもいいんじゃないでしょうか」
浜岡さんの声は明るい。
■「めんべい」にお絵かきできるキットを販売
コロナ禍になって、逆に販促企画に力が入る企業もある。
福岡のお土産品などを取り扱っている総合食品メーカーの「山口油屋福太郎」(福岡市)。コロナ禍でユニークな企画を積極的に展開して、お客様の注目を集めている。
「3月と4月は大きな打撃を受けました。でも、社内では『なんとかしよう!』という雰囲気が高まって、今まで以上にスタッフが販促企画に率先して取り組むようになりました」(企画室広報担当。平尾リサさん)
5月には本社駐車場を活用して、ドライブスルーによる明太子や新鮮野菜の販売イベントを開催。地域のお客様が駆けつけて即完売となった。直営店・オンラインストアでは自宅で明太子のアレンジが体験できる「手作り明太子キット」や、明太子風味のせんべい「めんべい」に絵が描ける「めんべいお絵かきキット」を販売して、おうち時間を過ごす商品企画でお客様を楽しませた。
■総菜や冷凍食品の配送も始めた
8月にはエリアと期間を限定して、社内のスタッフがお総菜や冷凍食品を配送する「おうちご飯をお届けします」もスタート。こちらも地域のお客様からコンスタントに注文が入り、好評だという。
しかし、売り上げが厳しい中、新しい企画を打ち出すのは精神的にも大変なはず。なぜ、山口油屋福太郎は動きを止めないのか。
「コロナ下で世の中が大変な状況だからこそ、『お客様のためにやれることは何でもやろう』という気持ちが社員の間で強くなったんだと思います」
9月の4連休には直営店や卸先でも、売り上げ回復の兆しが見え始めているという。平尾さんいわく、まだまだ新商品や新企画が登場するので、楽しみにしていてほしいとのことだ。
■勢いのある企業に共通する「サービス精神」の強さ
お土産業界が意気消沈としている中、取材した3社からは勢いが感じられた。世の中の風潮に合わせて、自分たちも一緒になって暗く落ち込んでいる雰囲気は微塵も感じられなかった。
今回、ここで紹介した企業の取り組みは、売上全体から見れば小さなものかもしれない。何もしていない企業から見れば「そんなことやって何の意味があるのか」と、斜に構えて見ているところもあるはずだ。
しかし、企業が「なんとかしよう!」と思って動き出した取り組みは、確実にお客様の気持ちを明るくさせている。これらの販促企画が直接売り上げに結びつかなくても、この情報に触れたお客様は、「あのお土産品をまた買おう」と思うはずだし、地域のために頑張っている企業の姿は、地域の人の心を揺さぶり、応援消費につながっていくに違いない。
お土産品というのは、相手に喜んでもらおうという思いから購入する商品である。どんなに世間が暗い雰囲気になろうとも、「相手を喜ばせたい」というお客様の気持ちは変わらない。そして、そういう思いを大切にしたいというのが、お土産品を取り扱う企業の強い思いでもある。
コロナ禍の厳しい中で、必死になって頑張る企業と、立ち止まって何もしなくなる企業の違いは、「お客様に喜んでもらいたい」という企業の姿勢の表れなのかもしれない。
今回紹介した3社のように、商売の本質でもある“サービス精神”を強く持つ企業が、アフターコロナの世界でも生き残っていけるのではないだろうか。
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有限会社いろは代表取締役
大企業、中小企業問わず、販促戦略立案、新規事業、起業アドバイスを行う経営コンサルタント。大学卒業後、雑誌編集者を経て観光牧場の企画広報に携わる。現在は雑誌や新聞に連載を持つ傍ら、全国の商工会議所や企業等でセミナー活動を行い、「タケウチ商売繁盛研究会」の主宰として、多くの経営者や起業家に対して低料金の会員制コンサルティング事業を積極的に行っている。著書に『売り上げがドカンとあがるキャッチコピーの作り方』(日本経済新聞社)、『御社のホームページがダメな理由』(中経出版)ほか多数。
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(有限会社いろは代表取締役 竹内 謙礼)
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