「男の薄毛」最新医学で解決できること、できないこと

プレジデントオンライン / 2020年10月19日 9時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Bobby Coutu

■男性ホルモンの変化で毛髪が“早期退職”

秋は抜け毛の季節。夏の紫外線で皮膚にダメージを受けると、顔にしわができやすくなり、頭皮の抜け毛も起きやすくなる。通常、成人男性の抜け毛は1日に約100本程度だが、この時期は倍以上抜ける人もいるという。

薄毛に悩む男性の約8割は「男性型脱毛症(AGA)」といわれ、全国に1200万人以上と推定されている。AGAは主に男性ホルモンの影響を受けて発症するが、中には他の病気が潜んでいる可能性も。

日本皮膚科学会「男性型および女性型脱毛症診療ガイドライン2017年版」の作成に携わり、脱毛研究・治療の第一人者として知られる米元皮膚科医院の齊藤典充医師はこう話す。

「数日続いて抜けたくらいで大騒ぎする必要はありません。しかし明らかに薄くなってきたと感じたら、本当にAGAなのか診断を受けましょう。円形脱毛症や粃糠(ひこう)性脱毛のように、見た目は似ていても治療薬が異なるものもありますし、甲状腺など内臓の病気が潜んでいる可能性もあります」

シャンプーや整髪剤が頭皮に合わず、皮がむけているのをフケだと思い込み、合わないものを使い続けた結果、頭皮が傷んで毛が抜けることもあるとか。

■AGAと診断されたらどのような治療法があるのか

それでは医師にAGAと診断されたらどのような治療法があるのか。延べ50万人のAGA治療実績があるDクリニック東京院長の小林一広医師に治療薬を聞いた。

「国内で発毛効果が承認されている唯一の薬が、ミノキシジル。商品名『スカルプD メディカルミノキ5』(外用発毛剤)などとして親しまれています」

実は医学的に、髪の毛がどれくらい伸びたら「発毛した」と認定するかという明らかな定義はない。そのためミノキシジルに発毛が認められたといっても、患者が求める“フサフサなイメージ”とはほど遠いケースもある。

「私は、ミノキシジルの外用剤より、内服薬であるフィナステリドデュタステリドのほうが発毛効果が高いと感じています。ミノキシジルの外用剤、内服薬のフィナステリドやデュタステリドなどを単剤ではなく、その人に合わせて組み合わせて使うと、約8割の人に何らかの反応がみられます」(小林医師)

■服薬の有無によって「5年後」に大きな差がつく

フィナステリドはもともと前立腺肥大の治療薬として認可され、日本では2005年にAGA治療薬として発売された。日本で行われた治験ではフィナステリドを毎日12カ月間服用した群で脱毛量の減少が明らかであった。

「“現状をキープする薬”と考えるといい」と齊藤医師は言う。

「すごく薄くなった人が元に戻るわけではありませんが、服薬した場合としないのとでは5年後に大きな差がつきます。抜け毛の進行が止まるというのも、十分な薬の効果です」

ここでなぜ薄毛になるのか、というメカニズムを考えてみよう。髪の毛は成長期(4~6年)→退行期(2~3週間)→休止期・脱毛(3カ月)を経て再び成長期に戻るというサイクルを繰り返す。休止期になると毛根の深さが浅くなり、新しい髪の毛に押し出されるようにして髪の毛は抜け落ちていく。

男性型脱毛症のシンプルチェック表

「通常なら『4~6年の成長期』がAGAによって短くなると、毛髪が十分に成長する時間的な余裕がなくなり、毛根も太く深くならないうちに休止期に入り、抜け落ちてしまいます。例えるなら、“定年退職”ではなく“早期退職”。リストラで職を追われるようなものですね。成長が不十分で萎縮した毛根から新たに生えてくる毛は、さらに細く柔らかく短い軟毛に。毛根はみるみる萎縮し、軟毛化が進む悪循環に陥ります」(小林医師)

進行すると、休止期から成長期に移行しない、あるいは新しい毛を生やさなくなる毛根が増え、結果的に軟毛の本数さえも減ってしまうという。

■約1年で“自己ベスト”改善から維持へ転換も

AGAの原因は、加齢に伴って男性ホルモンが変化することが一因とされる。男性は思春期を迎えると声変わりをし、ヒゲや陰毛が生え、射精できるようになる。こうした“男らしさ”を誘導するのが、男性ホルモンのテストステロンだ。

「男性ホルモンにはいくつかの種類がありますが、最も分泌量が多いのがテストステロンで男性ホルモンの90%を占めます。年を取るとこのテストステロンが、5αリダクターゼという酵素によって、ジヒドロテストステロン(DHT)というより強い作用を持つ男性ホルモンに“変身”します。テストステロンが男らしくあるためのレギュラーガソリンのようなものだとしたら、DHTはハイオクのようなもの。テストステロンの何倍ものパワーがあるDHTが髪の毛に作用すると、発毛の司令塔を萎縮させて発育を邪魔することがわかっています」(同)

「男性ホルモンが多い=薄毛になる」とよく聞くが、イコールではない。だが男性ホルモンという材料が多ければ、それだけDHTに変身する可能性が高いため、当たらずと雖(いえど)も遠からず。

内服薬のフィナステリドやデュタステリドはホルモンの変身に関わる酵素(5αリダクターゼ)の働きをブロックすることでAGAの進行を抑制する仕組みだ。一方でミノキシジルは頭皮の血流を改善して毛髪を作る毛母細胞自体を活性化し、発毛を促進するといわれている。

■コストは2種類合わせて1カ月分が1万5000円程度

コストは、ミノキシジルとフィナステリドを併用する場合、市場価格は2種類合わせて1カ月分が1万5000円程度。そこに診察料を加えると倍近くになることもあるかもしれない。

薬の服用からどのくらいの期間で効果があるのかが気になるところだが、服用から1年前後で“自己ベスト”がみえてくるのが一般的だ。そこからは維持療法になることが多いという。

「目指すゴールは人によって違う」と小林医師は話す。

「患者さんが何を求めているのか。そこに医学としてどこまで寄り添って願いを成就できるのか。できることと、できないことを説明して納得してもらってから治療に入るようにしています。その結果、『改善』ではなく『維持』が治療目的になることもありますね。例えば今の時点で髪の量が少ないと感じても、10年後で同じくらいの量なら許せたりするでしょう。それなら増やすことにこだわるより、今の髪を守るという方法もありますね」

服用をやめれば徐々に元に戻る。しかし現状維持であれば毎日飲んでいた薬を1日おきにするなど様子をみながら調整していくことが可能だ。

最後に、薄毛で病院に行くことは決して恥ずかしいことではないと私は伝えたい。“嘆く”より、改善しようと行動するほうが、心身に、そして髪の健康にもよい影響を与えるはずだ。

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笹井 恵里子(ささい・えりこ)
ジャーナリスト
1978年生まれ。「サンデー毎日」記者を経て、2018年よりフリーランスに。著書に『週刊文春 老けない最強食』(文藝春秋)、『救急車が来なくなる日 医療崩壊と再生への道』(NHK出版新書)など。

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(ジャーナリスト 笹井 恵里子 写真=PIXTA)

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