「12月から募集、3月末で退職」これから深刻化するコロナリストラの6つの予兆
プレジデントオンライン / 2020年10月2日 9時15分
■非正規切りの次は正社員、御社に吹き荒れるコロナ解雇の嵐
コロナ禍の業績悪化による“非正規切り”に続いて、正社員の本格的なリストラが始まろうとしている。
今年7月の非正規社員は前年同月比131万人の大幅減少となった。“派遣切り”も相次ぎ、7月の派遣労働者は125万人。6月から17万人も減少し、2013年1月以降、最大の落ち込みとなった。
正社員のリストラはどうかといえば、今のところ辛うじて“抑制”されているようだ。しかし、今後はわからない。
日本のリストラの代表的手法は「希望退職募集」である。
通常の退職金に一定の割増退職金を加算し、再就職支援会社のサービスを付けて募集する手法である。上場企業の2020年9月14日時点の早期・希望退職募集は60社、1万100人(東京商工リサーチ調査)。
前年を上回るペースで推移している。大手企業ではレオパレス21の1000人、ファミリーマート800人、シチズン時計750人、ノーリツ600人となっている。
しかし、“未曾有の経済危機”と言われる割には少ない。リーマン・ショック時の2009年の希望退職募集は2万2950人だった。国の雇用調整助成金によってしのいでいる企業も多いと思われるが、支給期限の終了も迫っている。
すでに三菱自動車は11月中旬から国内の45歳以上の社員を対象に550人の希望退職を募集することが報じられている。また、東芝もシステムLSI事業の約770人の希望退職や配置転換を行うとの報道もある。
■リストラされた人たちがじわじわと転職市場に流れ始めている
正社員リストラの予兆は転職市場にも表れている。
エン・ジャパンの35歳以上のユーザー(2822人)を対象に実施した「ミドル世代の『転職理由』実態調査」(9月14日)で、「転職を考えたきっかけ・理由」を聞いている。
回答のトップは「会社の将来に不安がある」(40%)であるが、「会社都合(リストラ・事業縮小など)」が26%もいる。このうちコロナ禍以前から転職を検討していた人はわずか8%だが「コロナ禍以後から検討し始めた人」は21%もいる。リストラされた人たちがじわじわと転職市場に流れ始めている。
■「12月末に希望退職者募り、1月末募集締め切りというスケジュール」
では、正社員の本格的リストラはいつから始まるのか。
東京商工リサーチは「年末から来年にかけ(希望退職)募集に拍車がかかる」と見ている。そしてその指標となるのが今年9月の中間決算の業績との見方がある。
建設関連業の人事部長はこう語る。
「当社は4~6月期の大幅な減益となり、2021年3月期決算の見通しは減収減益を予想している。中間決算を見て来期の見通しを立てることになるが、今年度の売り上げ減はしょうがないとしても赤字は避けたいところだ。もし、今年度決算が赤字の見通しになれば、来年度も含めて2期連続の赤字は絶対に避けたい。来年度に利益を出そうとすればリストラによる固定費の削減に踏み切る必要がある。今年度内に希望退職募集を実施するとなると、準備に最低3カ月はかかる。10月以降には計画に着手しないといけない」
つまり、9月中間期の業績しだいではリストラに踏み切る公算が大きい。しかも希望退職募集など人員削減計画の発表までは3カ月かかる。仮に来年3月末で退職してもらうとすれば「年内の12月末に募集開始、来年1月末募集締め切りというスケジュールになるだろう」(人事部長)という。
■コロナ解雇に踏み切る企業の「6つの予兆」
一般的にリストラに踏み切る前にさまざまな準備作業がある。不採算部門の整理・縮小などの事業計画の見直しによる経費削減目標を策定する。その中には人員削減規模と部門ごとの削減人数も入る。さらに人事部門は各部門の削減人数と削減対象者の確定。次に部門長による全員の面談を設定し、その中には優秀な社員の慰留とリストラ対象社員の退職勧奨も含まれる。それと並行する形で希望退職募集が社内に発表される。
社員にとって、リストラは避けてもらいたいところだが、最大の関心は自分の会社が本当にリストラに踏み切るのかどうかだろう。実はその前兆がある。人事関係者に聞くと、以下のようなものだ。
②残業代の抑制
③経費の抑制(出張費・交際費の使用制限など)
④突然の役員陣の交代
⑤9月中間期決算の減収減益
⑥業界トップ企業の希望退職募集
■広告会社「部長決裁だった交際費は7月から本部長決裁に」
業績悪化の傾向を感じ取った経営陣が最初に取る行動は固定費の削減だ。人事部に関して命じられるのは①採用活動の抑制と②残業代の削減だ。
住宅関連会社の人事部長は次のように語る。
「すでに6月の段階で役員から中途採用の中止の指示があって今は止めている。4~6月期の業績が悪いことが明らかになってから、2022年度新卒のインターンシップの参加人数を縮小した。実際に22年度卒の採用は人事部内では半減するとの予測を立てている。状況しだいではもっと減る可能性もある」
広告会社はどうだろうか。人事部長は言う。
「残業代は幸いコロナ禍の在宅勤務が増えたことで減少しているが、各部門長には在宅であってもできるだけ定時に仕事を終了するように指示している。経費についてはコロナ禍によってもともと出張が制限されているが、顧客との商談など会食に使用する交際費はこれまで部長決裁だったが、7月から本部長決裁になった」
こうした一連の固定費の削減は本業の業績悪化を少しでも和らげようとする苦肉の策でもある。
④の「突然の役員陣の交代」は会社に何らかの重大な事態が発生している可能性もある。単なる業績悪化の引責辞任の交代なら定期株主総会で行うのが普通だが、過去の例では経営方針が大きく変わり、リストラを含む大規模な事業構造改革が実施される前に役員が交代の発生している。
■業界トップ企業が引くトリガー、その後、他社は雪崩を打って始める
前述したように⑤の「減収減益」はリストラのトリガーになりやすい。⑥の「業界トップ企業の希望退職募集」については業界トップ企業の動向が下位の企業にも大きく影響するという。
前出の広告会社の人事部長はこう指摘する。
「リーマン・ショック時を含めてこれまでの不況期のリストラは、業界トップクラスの企業が希望退職募集を実施すれば、同業の企業も雪崩を打って始めたという経緯がある。その意味では今は各社が業界のトップクラスの企業の動向を水面下で探っている状況だ。トップクラスの企業がコロナ禍の業績が落ち込んだときにどういう施策を打つのかモデルになる。もし、希望退職募集実施の兆候があれば、他の企業も横並びで追随しやすい。あるいは逆にこういう時期だから雇用を守って皆でがんばっていきましょうとなるのか。その場合は個々の企業の財務体質など体力も影響してくるが」
■すでに動いている! 大企業で本格的なリストラが始まるのは必至
上記の前兆を知るのに興味深い調査もある。
日本CHO協会がこの9月に人事担当役員・人事部長に「要員・人件費」に関するアンケート調査を実施している。
回答数は51件(社)であるが、「新型コロナウイルスの影響が長期化することを想定し、検討を進めている事項(複数回答)」について聞いている。
それによると「採用人数の抑制、新卒採用や中途採用の凍結等、増員抑制策を検討もしくは実施している」企業が30社と、59%を占めている。
次いで工場縮小に伴う雇用調整、経費削減、報酬減額、配置転換などの「人件費削減施策を検討もしくは実施している」が10社を超えている。そして「早期退職・希望退職等の具体的要員削減策を検討・もしくは実施している」が5社を超えている。「特に対応策を講じる予定はない」と回答したのは十数社にとどまる。
決して様子見の姿勢ではなく、企業はすでに具体的な行動に着手している。この秋から年末にかけて大企業を中心に本格的なリストラが始まるのは必至の情勢だ。
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人事ジャーナリスト
1958年、鹿児島県生まれ。明治大学卒。月刊誌、週刊誌記者などを経て、独立。経営、人事、雇用、賃金、年金問題を中心テーマとして活躍。著書に『人事部はここを見ている!』など。
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(人事ジャーナリスト 溝上 憲文)
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