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愛される営業マンは名刺の裏に「愛読書は週刊少年ジャンプです」と書く

プレジデントオンライン / 2020年10月5日 11時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kazuma seki

職場で信頼関係を築くにはどうすればいいのか。会員数約1500社のビジネスコミュニティを主宰する小阪裕司氏は、「私生活のささいな情報を話すといい。自己開示をすることで心の距離が縮まり、仕事にいい影響をもたらす」という――。

■身の回りの出来事を話すと対話がスムーズになる

「昨日から今日にかけてあった出来事のなかで、良かったこと・新しかったことを何か見つけて、1分間で話してください」――そう言われて、今あなたの頭にはどんなことが浮かんできただろうか? 私はこの問いかけを長年にわたってセミナーなどで行い、参加した方々に語り合ってもらっているが、そこで話される内容はおよそささいなことだ。例えば、「自分は最近家庭菜園に凝っているが、昨日、新しくまいた種の芽が出た」とか「昨日までキャンプに行ってたんだけど、雨に降られなくてよかった」などのもの。話は1分、内容はその程度なのだが、例えばセミナーの冒頭でグループごとにこれを行うと、そのグループはその後のセミナー中、とてもスムーズに対話できるようになる。これは、“自己開示”の効果である。

自己開示は人と人との距離を縮める。われわれが“自己開示情報”と呼んでいるものがそこでの媒介となるが、私のよく知るお店や会社は、自己開示情報の積極的かつ継続的な発信をお客さんに対して行う。一般消費者でも、法人でもだ。狙いは、互いの距離を縮め、関係性をつくることだ。

■自己開示し合う関係性のなかには“信頼”が含まれている

それをずっと進めてきた店では、お客さんが来店すると、自分のことをどんどん話す。そんなことまで話していいのかと心配になる場合も珍しくない。店主が質問したわけでもないのにあけっぴろげに喋(しゃべ)るのは、そこに関係性があるからだ。そして、ここでの関係性のなかには、“信頼”という重要なものが含まれている。実際これらのお店のお客さんらは口々に、「この人なら他言しないだろう」「いつも話をちゃんと聴いてくれる」「頭から否定してかかることはしない人」「話すだけで救われる気がする」などと語る。そういった信頼が醸成されているのである。

とはいえ、お店とお客さんとは言ってみれば他人同士、単なる「売り買い」だけでも済む関係だ。そこでそれだけの強固な信頼が醸成されるのなら、チーム内ではどうだろう。

実業家
写真=iStock.com/metamorworks
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/metamorworks

■「お互い弱い部分もさらけ出すことができる関係性」をいかにつくるか

今日、チームマネジメントの世界で最も重要とされるものは、“心理的安全性”と言われるものだ。人事系や人材開発系・組織開発系のカンファレンスなどでは、この概念がほとんど毎回のように語られるゆえ、読者諸氏も耳にしたことがおありだろう。かのグーグルが数億円の予算を投じて行ったと言われるリサーチでも、チームの効果性を高めるための最も重要な要素と位置付けられている。ちなみにグーグルのリサーチ結果においては、心理的安全性は、「チームメンバーがリスクを取ることを安全だと感じ、お互いに対し弱い部分もさらけ出すことができる」ものだとされている。この重要性には異論がないが、問題は、その心理的安全性をいかにしてつくるかである。

ここでカギとなるのが先ほどの「自己開示」だ。お店とお客さんの場合では「信頼」と言っていたが、上司と部下の場合、その信頼は「心理的安全性」に通ずる。

お店とお客さんとの間につくられる信頼を、チームの内部に置き換えてみよう。先ほどのお客さんらの言葉を上司に対して置き換えると、「この人なら何を話しても大丈夫だ」「頭ごなしに否定されない」「ちゃんと聴いてくれる」といった信頼が考えられる。自分の発言が採用されるかどうかは問題でない。否定されずに受容されるかどうか。それは心理的安全性に通ずるものだ。

心理的安全性をつくり出す要因となるものは他にも挙げられるが、自己開示の必要性は意外に見落とされているのではないか。また、自己開示情報すなわちプライベートな情報であるがゆえに、それをビジネスの現場でどの程度出してよいものか指針がないのかもしれない。

■自己開示は表面的な小ネタで十分だ

そこでひとつの指針を示そう。自己開示には大きく分けて2種類ある。内面的自己開示と表面的自己開示だ。前者は「最近、妻とうまくいっていない」などの込み入った(時に深刻な)情報を指すが、そんなレベルまで開示することはない。

私のよく知るお店や会社は、基本的に後者の表面的自己開示を用いてお客さんと対話する。具体的には「最近こんな映画を観た」「家族でどこそこへキャンプに行った」など、ブログやインスタグラムなどで公開しても差し支えない情報だ。SNSにはこの手の自己開示情報があふれているので、SNSをよく使う方々なら手慣れたものだろう。

自己開示の際に出すべき情報は、そのような、できるだけ身の回りのことがいい。私生活のささいな情報だ。岡山県津山市のある美容院の店長は、名刺の裏面に「店長の取扱説明書」と題した自己開示情報をちりばめ、お客さんに渡している。内容は「週刊少年ジャンプを長く購読している」といった表面的自己開示の小ネタばかりだが、そこから「ジャンプのどの作品が好きなんですか」と話が広がるのだ。内面的自己開示のように重すぎず、発信者の人となりが垣間見える。それが良い自己開示である。

失敗談を披露するのもいい。笑い話になる程度の軽い失敗談だ。コツは二枚目半の線でいくことだ。普段よく自己開示しているのなら、良い話が6割、失敗談的な話が4割ぐらいの割合だとちょいうどいい。あまりに完璧に見える人は敬遠されやすいものだ。崇拝されることはあっても好かれない。すると心理的安全性に基づく良好な関係を築くのが難しい。仕事はバリバリできて一見完璧そうに見えるのに、先週飲み過ぎて、帰路横浜で降りるはずが気がついたら熱海だったとか、そういう意外な一面を見せると関係性は深まる。

■人間味を感じると人は親近感を抱く

失敗談とは少し異なるが、われわれの長年の経験のなかでは、病気やけがで入院したことを発信したときのお客さんの反応のすごさにはいつも驚かされている。東京都あきる野市のあるクリーニング店の店長は、脚立から落下して骨折、緊急入院したことをSNSに書いたところ、その晩からものすごい反響があった。もちろん心配する声が多かったが、一方でこうしたエピソードに何か人間味を感じて親近感を抱くものなのである。

こうして自己開示をすると、その人のことが分かってくる。われわれは相手の外見や仕事中の言動などから、つい人となりを推測し、決めつけてしまう。例えばいかついこわもてで、仕事も良い意味でしゃくし定規にやっていると、そういう人だとしてしまう。しかし自宅ではハムスターを何匹も愛玩し、それぞれ名前をつけて日々たわむれていると聞けば、イメージはずいぶん変わるだろう。そしてそのイメージは心理的安全性に通ずる。警戒心が解け、心理的距離が縮まり、お互いに安全な存在になっていく。そこに先ほどの信頼が掛け合わされれば、そこには良好な関係が醸成されていくのである。

■長い付き合いの相手にも自己開示は効果的

自己開示が人と人の関係性を変える現象は、心理的メカニズムの深い部分で作動している。だからこそ、単なる売り買いの関係に終始することの多いお店とお客さんとの間でも、売り手が自己開示を始めた途端に変わっていく。

2年前、福岡県柳川市のある美容院が、私のもとで今お伝えしていることを学び実践し始めた。そして自己開示を始めて1年半たち、先日いただいた報告によれば、お客さんが明らかに優しくなったという。最近はお客さんも自発的に自己開示してくれるそうで、10年来のお客さんであっても知らないことばかりだと気づかされた。「そんなことをおやりになっていたのか」と驚くことも珍しくないそうだ。こうした関係性の変化の結果、この1年半で、月に1回以上来店される上得意客数は倍増、客単価も千円アップするなど、業績面にも良い変化が生まれている。

同店にお客さんが長年通ってくれているのは、技術面・サービス面ともに満足している証しと言えるが、そんな上得意客でもこれまでお客さんから自己開示してくれるような関係性はなかったことになる。しかし自己開示を始めて間もなくそれは醸成され始め、今ではすっかり自然なこととなった。こうした実例から分かることは、付き合いが何年続いている相手だろうと、唐突に今日から始めても、自己開示には効果があるということだ。どんな相手にも、活用し始めるといいだろう。

■1分間の「最近の出来事」が心の距離を縮める

ちなみに自己開示は、何かひとつネタ的にカミングアウトすればいいというものではない。自己開示的なコミュニケーションを、日常的に継続することが肝要だ。とはいえ多くの会社組織では、プライベート情報を出さないのが当たり前になっていることだろう。業務中にそういうことを話す人は少ないし、ましてや会議の席で言及するなどもってのほかとされる。会社によっては業務中に無駄口をたたくなという空気さえある。そのことが心理的安全性の土壌づくりを妨げているかもしれない。

かといっていきなり無駄口奨励も難しいかもしれない。そこで私が推奨したいのは、本稿冒頭の投げかけ、朝礼や会議などの初めに、最近の良かった出来事、新しい出来事を1分間で手短に話す。手始めにこれを行ってみることだ。冒頭でも述べたが、1分という制約があるし、元々こういう投げかけに対して崇高な話をする人は少ない。大抵は他愛ない内容だ。しかしそれがまさに格好の自己開示の機会となる。

人と人との関係性の醸成にマニュアルや必殺技はない。ことにチームマネジメントの場合、私はよく「土壌を耕す」という言い方をするが、一発ネタや一撃で土壌を耕すことはできない。だからこそ、それが豊かに耕された関係やチームは、こういう先行きの読めない時代にも、ひときわ強い存在となるのである。

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小阪 裕司(こさか・ゆうじ)
オラクルひと・しくみ研究所 代表/博士(情報学)
山口大学人文学部卒業。1992年「オラクルひと・しくみ研究所」を設立。人の「感性」と「行動」を軸としたビジネス理論と実践手法を研究・開発し、2000年からその実践企業の会「ワクワク系マーケティング実践会」を主宰。現在全都道府県から約1500社が参加。2011年工学院大学大学院博士後期課程修了、博士(情報学)取得。著書は『価値創造の思考法』など計39冊。 公式サイト

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(オラクルひと・しくみ研究所 代表/博士(情報学) 小阪 裕司)

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