20年ぶりに厚生年金保険料が大幅アップ「稼ぐ人ほど損をする」は本当か

プレジデントオンライン / 2020年10月8日 11時15分

※写真はイメージです(写真=iStock.com/miya227)

最近、手取りが減ったような……と思っている人はいませんか? 一部の人については、2020年9月から厚生年金の保険料がアップしました。保険料を決めるベースとなる「標準報酬月額」が約20年ぶりに引き上げられたためです。引き上げは損なのか、得なのか。詳細や影響についてチェックしておきましょう。

■月収63万5000円以上では保険料がアップ

2020年9月から、一部の人の厚生年金の保険料が引き上げられました。保険料が引き上げられたのは、標準報酬(月収)が63万5000円以上ある高所得の人で、それ以外の人の保険料は変わりません。

厚生年金の保険料は、「標準報酬月額」によって計算されます。

4~6月に会社から受け取った報酬(基本給、残業手当や通勤手当、住宅手当などを含む)を合計し、それを3で割った金額を、「報酬月額」と言います。

この報酬月額がそのまま保険料の計算に使われるわけではなく、「標準月額39万5000円~42万5000円では27等級・標準報酬月額41万円」など、「等級」と「標準報酬月額」が決まります。

こうして求めた標準報酬月額が、その年の9月~翌8月の分まで適用され、厚生年金と健康保険の保険料が計算される仕組みです。

厚生年金を決める標準報酬月額は、2020年8月分まで34等級が最高でしたが、9月分から、35等級が新設されました。報酬月額60万5000円以上の人は一律34等級・標準報酬月額62万円だったのが、標準報酬63万5000円以上では35等級・標準報酬月額65万円にアップしたのです。

■保険料引き上げは全体の数%?

標準報酬月額の上限は、全被保険者の平均標準報酬月額の2倍になるように決められています。ここ数年、年度末の平均給与の2倍が上限(64万円)を上回る状態が続いており、9月から政令で改正されることになったというわけです。標準報酬月額が引き上げられるのは、約20年ぶりのことです。

2017年度末時点で約4400万人いる厚生年金加入者のうち、約290万人(約6.8%)が上限の62万円に達しており、その多くが新しい上限に変わると見込まれています。ちなみに、標準報酬月額の平均は、2017年3月末では31万8656円、2019年3月末では32万2404円です。

また標準報酬月額の分布は、図表1のようになっています。

標準報酬月額別被保険者数(平成29年度末現在)

■月額約2700円アップ。将来の年金も増える

では、実際に保険料はどの程度上がったのでしょうか。

保険料は標準報酬月額の18.3%で、本人と会社が折半で負担しています。これまでの最高(標準報酬月額62万円)は11万3460円でしたが、新設された標準報酬月額65万円では11万8950円となりました。1カ月当たり5490円、本人負担はその半分の2745円アップとなっています。年間では約3万3000円の負担増です。

気になるのは年金額への影響です。

あくまで目安ですが、51歳~60歳など、保険料が増えた期間が10年間の場合、年金は年額で2万円弱増える見込みです。保険料が増えた期間が20年なら、同4万円弱の増額です。

10年間で保険料を約33万円多く払うことになりますから、単純計算では、16年半受け取ればモトがとれる、ということになります。

ちなみに、35歳女性の平均余命は53年、40歳女性は48年、45歳女性は43年、50歳女性は38年です(令和元年簡易生命表より)。あくまで平均ですが、35歳女性では65歳から88歳まで23年間、年金を受け取ることが想定され、保険料が増えるのも悪い話ではありません。さらに公的年金は死亡するまで受け取れる終身型ですから、長生きするほど、受取総額は多くなります。得をするかどうかに目がいきがちですが、公的年金は保険ですから、増えた年金額を受け取れるということは、老後生活の安心につながります。

また公的年金には、障害を負った場合の障害年金、死亡後に遺族に給付される遺族年金があります。

いずれも納めた保険料が年金額を決めるベースになりますから、標準報酬月額が高いと、障害年金、遺族年金とも多くなります。

■保険料にも年金にも上限がある

1つ、知っておいてほしいのは、稼げば稼ぐほど年金が増えるわけではなく、上限がある、ということです。

前述のとおり、標準報酬月額は65万円が上限であり、それを超えると、いくら収入が多くても標準報酬月額や年金保険料は増えません。したがって、年収1000万円の人も、年収2000万円の人も、年金保険料も同じ、年金の額も同じ、ということです。

一般的な収入の人でも、公的年金だけでは老後資金は足りないと考えられますが、高収入でリッチな暮らしが身についている人、老後も生活水準を保ちたい人では、一層、「年金では全然足りない」ということが起こりがちです。収入が多い人は多いなりに、老後資金を準備するのが望ましい、というわけです。

■健康保険の保険料は変わらない

標準報酬月額は、公的年金だけでなく、健康保険の保険料を計算にも使われます。

ただし、厚生年金に使われる標準報酬月額が35等級までなのに対し、健康保険では50等級まであり、62万円を超える人(65万円以上の人)にも従来相応の保険料がかかっています(今回、保険料の引き上げはありません)。

健康保険の保険料は、40歳未満の人では標準報酬月額の9.87%(東京都協会けんぽ)、40歳以上では介護保険の保険料が加わるため、同11.66%となります。例えば標準報酬月額が30万円の人は40歳未満なら2万9610円(自己負担は半額の1万4805円)、40歳以上では3万4980円(同1万7490円)です。標準報酬月額が65万円の人は40歳未満なら6万4155円(自己負担は半額の3万2077円)、40歳以上では7万5790円(同3万7895円)となります。

給付については医療機関の窓口で支払う自己負担分は一律3割負担ですが、傷病手当金や出産手当金については、標準報酬月額によって給付額が変わってきます。

傷病手当金とは、病気やケガで一定期間働けない場合、4日目から最大1年半、給付されるものです。支給額は標準報酬月額÷30日×3分の2です(給料は支払われている場合は、給料との差額を給付)。

出産手当金とは、産休を取得し、産休中の給料が減額になったり、ゼロになったりした場合に、健康保険から支給されるものです。産休中の給料がゼロの場合で、標準報酬月額÷30日×3分の2の額が、原則98日分、支給されます。産休中に給料が減額された場合の支給額は、標準報酬月額÷30日×3分の2から給料の日額を引いた額(支給日数は98日分)となります。

つまり、保険料を多く払うことで給付も手厚くなる、というわけです。給付を受ける機会がなければ負担が増えるのみですが、「保険」という性質上、この点は仕方ありません。

■たくさん稼いで年金を増やす

厚生年金の保険料は標準報酬月額の18.3%、健康保険の保険料は同9.87%(東京都協会けんぽ。介護保険料を含めると11.66%)と、負担は小さくありません。しかしその半分は会社負担ですから、保障を半額で買っているとも言えます。また社会保険料負担が増えると、年末調整で受ける社会保険料控除も増え、所得税や住民税の負担は軽減されます。

前述のとおり、年金や給付金が増えるメリットもあり、とくに男性より長生きの傾向がある女性は、終身で受け取れる公的年金額を多くしておくほど、安心感が高まります。負担が増えるのはいやだと思いがちですが、たくさん稼いで、たくさん保険料を払って、年金を増やす。そういった前向きな姿勢が大切だと思います。

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井戸 美枝(いど・みえ)
ファイナンシャルプランナー
経済エッセイスト。関西大学卒業。厚生労働省社会保障審議会企業年金、個人年金部会委員。『大図解 届け出だけでもらえるお金』など著書多数。

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(ファイナンシャルプランナー 井戸 美枝 写真=iStock.com)

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