外交、経済、移民政策…アメリカ大統領選「それぞれの勝利のあと起きること」

プレジデントオンライン / 2020年10月6日 9時15分

2020年9月29日、米国オハイオ州で行われた2020年第1回大統領選挙討論会に参加するドナルド・トランプ米大統領(左)と民主党大統領候補のジョー・バイデン(右)、司会者のクリス・ウォレス(中央) - 写真=EPA/時事通信フォト

11月のアメリカ大統領選挙が迫ってきた。ドナルド・トランプ氏とジョー・バイデン氏、日本にとってはどちらが当選したほうが得なのか。徳島文理大学の八幡和郎教授は「バイデン氏のほうが安心といえる。トランプ氏の気まぐれによる被害を日本が受けてこなかったのは、安倍前首相がいてこそだった」という——。

※本稿は、八幡和郎『アメリカ大統領史 100の真実と嘘』(扶桑社新書)の一部を再編集したものです。

■両者で分かれる外交政策

トランプ大統領(共和党)が勝利し続投するのと、バイデン前副大統領(民主党)が勝利し来年1月半ばから政権につくのとでは、世界とアメリカにとってはどう違うのでしょうか。トランプは、再選だけが目的で、価値観とはあまり関係ない取引の集積でしたから、再選された場合のトランプが、なにを目標に行動するかは未知数です。

また、トランプ政権前半は、上下両院ともに共和党優位でしたが、後半は下院は民主党が多数でした。今回は両院ともに民主党が伸びそうですが、多数派になるかは不明です。

トランプ時代は党議拘束なしに投票するという伝統が廃れて、ほぼ共和・民主に分かれて投票していましたが、バイデンが大統領になったときにどうなるか見当が付きません。そうした不透明な状況ですが、両候補の発言から、政策の違いを考えてみましょう。

外交全般について、バイデンは伝統的な同盟国との協調重視を取り戻すとしています。

イランの核合意では、オバマ政権の政策を引き継ぎ、アメリカも復帰する考えを示し、ロシアとの核軍縮条約「新START」の延長を目指すでしょう。

トランプは、軍事同盟の安定性に無頓着で、同盟国に米軍駐留経費の増額を求めていますが、バイデンはNATOに好意的でしょうし、日本や韓国から撤兵すると脅すこともなくなるでしょう。ただ、アメリカ自身の軍事力増強に不熱心でしょうし、自国の財政難から同盟国の負担増強要求に戻ってくる恐れがあります。

■北朝鮮との関係はどうなるか

北朝鮮とは、トランプは金正恩との直接対話をしましたが、バイデンは下準備なしにいきなり会談することはしないでしょう。ロシアとはトランプはこれまで前回選挙での支援疑惑があって接近できませんでしたが、再選以降は自由度が増すでしょう。

中国とは、もともとバイデンは近いと言われますが、人権問題について民主党は共和党より敏感ですし、産業の覇権争いで甘いとも思えません。ただ、アメリカが独走するのでなく、同盟国と協調することを好むとみられます。

また、入国管理で中国人のビジネスマンを入れないとか、留学生や研究者を閉め出すのは、大学関係者やIT企業とのつながりが強いだけに緩和するでしょう。ただ、中国への警戒感は理由のあることですし、オバマ政権の第1期は中国に甘かったのですが、習近平の「強国路線」が正体を現してからは方向転換が始まっていたので元には戻りません。

南シナ海や尖閣について、トランプほど強硬かどうかは不明で、弱腰に乗じられないか心配です。それに限らず、日本にとっては、細部はともかく、トランプが中国の勝手にさせないという強い立場を明確にしていたことは好都合でした。

■「減税のトランプ」と「増税のバイデン」

トランプ大統領は、減税と規制緩和で株高と雇用環境を実現しましたが、新型コロナウイルスの影響で悪化しています。経済活動の再開は、トランプのほうが積極的です。トランプは、公共事業や中間層の減税など財政出動を掲げ、バイデンは富裕層や企業に増税することになると思いますが、それで事足りるか疑問です。GAFAに規制や課税を強めることは両者とも共通ですが、バイデンのほうが国際協調のもとで進める方向性をもっているので、それはヨーロッパや日本にとって歓迎すべきでしょう。

トランプはTPPに参加しませんでしたが、バイデンは条件を見直した上で復帰するかもしれません。しかし、民主党は伝統的に保護主義的な貿易政策ですから安心できません。

アトランタ近郊の、ジョージア州ノークロスにて。2016年大統領選のトランプ応援演説
写真=iStock.com/olya_steckel
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/olya_steckel

トランプは、医療保険についてのオバマケアの撤廃を試みましたが小規模の修正にとどまりました。バイデンはその維持と高齢者向けメディケアの加入年齢引き下げなど公的保険の拡充を目指していますが、負担が大きく実現性は疑問です。

トランプは、「パリ協定」からの離脱を国連に通告しましたが、バイデンは復帰するとしています。また、再生可能エネルギーへのシフトを主張していますが、経済的負担が伴い簡単ではありません。原子力については、技術開発の推進をどちらも主張しています。

■バイデン当選なら移民・国境政策は元通りに

トランプ大統領は、銃規制の強化には慎重な立場ですが、バイデンも武装の権利を定めた憲法修正第2条を尊重するとしているので、根本的な差があるわけではありません。

トランプは、強硬な移民政策を進め、国境の壁の建設や難民受け入れ制限を実施してきましたが、バイデンは緩和するでしょうし、不法移民の市民権の取得、子供のときに不法入国した人の強制送還を猶予するDACA政策を復活させるでしょう。

カリフォルニア州サンディエゴで行われたアンチ・トランプ・キャンペーン
写真=iStock.com/shakzu
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/shakzu

ただ、『歴史の定説100の嘘と誤解 世界と日本の常識に挑む』(扶桑社新書)の最終項目で論じたばかりなので繰り返しませんが、米国民主党や欧州左派政党が移民や難民に好意的なのは、移民が彼らの支持層になるという党派的な利益が理由でもあります。

また、都市の企業活動やインテリ層の生活は、安い移民労働力に支えられており、ローマの奴隷のような役割を果たさせています。そして、その犠牲になって職を失って不満を募らせているのは、ラストベルトの白人工場労働者や農民です。果たしてこれが進歩的な人の理想に照らして健全なのか私はおおいに疑問をもっていますし、その反省を健全にすることが左右に分断された先進国社会の復活につながると主張しているところです。

■今回の大統領選挙で意外に重要な点

さて、「トランプvsバイデン どちらが日本に得か?」を単刀直入に言うと、トランプがどう暴走を続けるか分かりませんから、バイデンのほうが安心とはいえます。トランプの気まぐれによる被害を日本が受けてこなかったのは安倍前首相がいてこそで、ポスト安倍は不安でいっぱいです。ただし、バイデンが短兵急に外交政策を変更すれば、中国や韓国が典型ですが、暴走する国が出る危険性もまた無視できません。

八幡和郎『アメリカ大統領史 100の真実と嘘』(扶桑社新書)
八幡和郎『アメリカ大統領史 100の真実と嘘』(扶桑社新書)

最後に大統領選挙についての余り語られないが意外に重要な点を指摘しておきます。今回の選挙では、来年の就任式時の年齢でトランプが74歳、バイデンなら78歳です。

12年前にオバマとマケインが争ったときにマケイン就任時には72歳なので、任期中に死亡する割合は十数パーセントで、その場合、明らかに無能そうな副大統領候補サラ・ペイリンが大統領になるといわれマケインをおおいに不利にしました。

今回の選挙では両候補とも2割くらいはそのリスクがあるわけで、その意味で、副大統領候補への評価がこれまでになく問われる選挙になるということでないでしょうか。

----------

八幡 和郎(やわた・かずお)
徳島文理大学教授
1951年、滋賀県生まれ。東京大学法学部卒業。通商産業省(現経済産業省)入省。フランスの国立行政学院(ENA)留学。北西アジア課長(南北朝鮮担当)、大臣官房情報管理課長、国土庁長官官房参事官などを歴任後、現在、徳島文理大学教授、国士舘大学大学院客員教授を務め、作家、評論家としてテレビなどでも活躍中。著著に『皇位継承と万世一系に謎はない』『世界と日本がわかる最強の世界史』『日本と世界がわかる最強の日本史』『韓国と日本がわかる最強の韓国史』『中国と日本がわかる最強の中国史』(いずれも扶桑社新書)ほか。

----------

(徳島文理大学教授 八幡 和郎)

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング