コロナで露呈した"IT弱者・日本"が生き残るためのたった1つの方法
プレジデントオンライン / 2020年10月4日 11時15分
■コロナショックで生き残れる企業、生き残れない企業
新型コロナウイルスの発生によって、わが国経済は依然としてかなり厳しい状況にある。特に、世界的なパンデミックの発生によって、今の社会に何が必要で、何が必要でないかが明確になった。例えば、飲食、宿泊、観光、プロスポーツ興行、テーマパークなど無意識のうちに“人の外出”が前提となってきた産業への影響は深刻だ。
反対に、世界が感染を克服するために不可欠なワクチン開発を支える医薬品や医療、マスクなどの医療資材、物流、ITなどの重要性が飛躍的に高まっている。在来産業からITなど先端分野への生産要素のシフトが加速化し、業界および企業間の優勝劣敗がかつてないほど鮮明だ。今後、そうした変化はさらに勢いづくだろう。
コロナショックによって、わが国はIT後進国であることがはっきりした。わが国企業はその教訓を生かして“デジタルトランスフォーメーション(DX)”や、多くの消費者が欲しいと思う新しいモノやサービスの創造に取り組まなければならない。それを愚直に進めることが、変化への適応力と企業の生き残りを左右する。
■苦境を迎える百貨店と、重要性高まる総合スーパー
コロナによる打撃が深刻な業種の典型例が、レストランや居酒屋だ。一般社団法人日本フードサービス協会の発表によると、8月のファミリーレストランの売上高は前年同月比75.1%、居酒屋は同42.3%だ。帝国データバンクによると新型コロナ関連の倒産件数では外食関連が最多だ。
外食産業では、居酒屋の苦境と対照的に、ファストフードが健闘している。それが意味することは、多くの人が人との接触を避けつつ、効率的かつ快適に過ごすことをより重視し始めたことだ。接触を最小限に抑え、いかに満足感を高めるかは、当面の企業の生き残りを左右する基準の1つといえる。
飲食以外の業界でも、業態ごとに需要の減少と、高まりの差が明確だ。小売業界では、接客や専門知識を強みとしてきた百貨店が厳しい状況に陥った。インバウンド需要の消滅が百貨店業界に与えた影響は大きい。
それに対して、食品を中心に品物を豊富に取り扱う総合スーパーの重要性が見直された。各小売事業者は接触機会の削減、配送サービスの強化に取り組み、消費者の支持をより多く取り付けようとしている。
アパレル分野では、ビジネススーツの需要が急減しているのに対して、テレワークや巣ごもりへの対応から部屋着や機能性衣類へのニーズが拡大している。コロナショックを境に就業体制をテレワーク中心に切り替えてオフィスを解約する企業が増え、不動産需要にも変化が出ている。
外出しなければ、おしゃれの必要性は低下する。そのため、世界的に見ても高級ブランド品への逆風も強い。その影響は大きく、フランスの高級ブランド大手LVMH モエ・ヘネシー・ルイ・ヴィトンは米ティファニーの買収を撤回した。
当初、LVMHは宝飾品事業の強化のためにティファニーを手に入れたかった。しかし、同社はコロナショックがティファニーに破壊的な影響をもたらしたと判断し、買収を撤回せざるを得なくなった。
■DXの威力「接触を避けつつ、人々の満足を」
一方で、コロナショックによって経済のデジタル化を支えるIT関連の技術やサービス、物流、医療や新薬開発の重要性が一段と高まり、世界全体で需要構造の組み換えがよりスピーディーかつ大規模に進んでいる。健康志向の高まりから、自転車への需要が高まっているのもその1つだ。
特に、DXの威力は大きい。DXの役割の1つに、移動のコスト節約がある。例えば、コロナウイルスの感染が拡大する中で、世界中でテレワークが当たり前になり、人々は通勤から解放された。わが国では、本社機能を地方に移す企業が出始めた。それによって企業はオフィスの賃料などのコストを抑えつつ、自然環境豊かな場所でのより良い就労を実現できる。
コロナショックによって地方に向かう人や企業が増えていることは重要な変化だ。そうした取り組みを支える要素としてアマゾンなどのECやクラウドコンピューティング事業の重要性が高まった。このように、DXは、接触を避けつつ、人々の満足感を高めるために欠かせない。
また、DXはより効率的な時間の使い方を可能にする。動画の視聴やフィットネス、自己研鑽(けんさん)のための教育サービスなどをオンラインで提供する企業の成長期待が高まっているのは、テレワークなどによって浮き出た時間を有意義に過ごしたい人が増えたからだ。
DXの推進には、物流機能の強化が欠かせない。わたしたちは、ITプラットフォーム上でモノやサービスを購入し、決済(支払い)を行うことができる。問題は、自分がモノやサービスを消費したい場所まで、品物を届けてもらう必要があることだ。その点において、IT先端技術の活用と物流システムの強化はDXと不可分の関係にある。
コロナ禍の中で、街から人の姿が減る中でも宅配業者の車が多く行き来し、配達員の忙しく駆け回る姿が印象に残った。それもIT技術の活用に物流の強化が不可欠であることを示している。「ウーバーイーツ」などのフードデリバリー需要の増大にも同じことが言える。IT先端技術を用いて物流で優位性を発揮する企業は、今後の競争をより有利に進めることができるだろう。
■IT弱者・日本に残された選択肢
以上のように考えると、コロナショックによってわが国経済がDXという世界経済の構造変化にうまく対応できていないことが明らかになった。わが国はIT後進国というよりも、ITに弱いというべきだ。
株価はそうした見方が多いことを示している。3月末から9月末まで、GAFAMをはじめIT先端企業が多い米ナスダック総合指数は49%上昇した。同期間、わが国のTOPIXの上昇率は22%程度だ。その差は、アマゾンやグーグル、ZoomなどDXの推進役として期待される企業がわが国に見当たらないことだ。
わが国企業は、DXへの取り組みを強化し、変化に対応しなければならない。DXが進むにつれて、リアルな世界で行われていた経済活動はデジタル空間に吸い込まれていく。
映画業界では映画館からネット上のストリーミングを一段と重視し始めた。外食産業では巣ごもり需要を取り込むためにフードデリバリー事業を強化する事業者が増えている。製造の現場ではAI(人工知能)やロボットを用いた生産、設備の保守点検などが加速している。
その結果、自動車や機械など、労働集約型の産業を起点にして成長を実現してきたわが国経済では、在来分野で過剰人員が発生し雇用環境が不安定化する恐れがある。世界的に見ても、そうした懸念を抱く消費者が多い。
米国やわが国では中古車の販売が増えている。それは、接触を避けた移動手段を、できるだけ支出を抑えて確保する必要性が高まったからだ。世界的な貯蓄率の上昇にも消費者の不安が表れている。
■経営者のアニマルスピリットが問われている
今後、冬場の感染拡大懸念などを考えると、居酒屋やレストランなどの需要は一段と落ち込む恐れがある。それだけではない。ワクチンが開発されたとしても、世界全体の需要構造がコロナ前に戻ることはないだろう。
わが国企業は積極的にDXへの取り組みを進めて消費者の満足感を高めなければならない。さらには、企業は従来にはない新しいモノやサービスなど“ヒット商品”の創造を目指して、イノベーション発揮に取り組まなければならない。
経営者がそうしたアニマルスピリットを組織全体に与え、高めることができるか否かが企業の変化への対応力と生き残りを左右するだろう。
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法政大学大学院 教授
1953年神奈川県生まれ。一橋大学商学部卒業後、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。ロンドン大学経営学部大学院卒業後、メリル・リンチ社ニューヨーク本社出向。みずほ総研主席研究員、信州大学経済学部教授などを経て、2017年4月から現職。
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(法政大学大学院 教授 真壁 昭夫)
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