「いつも食器洗いでコップを割る妻」を怒らずに済ませる方法
プレジデントオンライン / 2020年10月11日 11時15分
※本稿は、西脇俊二『繊細な人が快適に暮らすための習慣』(KADOKAWA)を再編集したものです。
■相手がイライラしているのを「自分のせいだ」と思わない
イライラした相手に接するときは、自分のことを考えるのではなく、相手のことを想像しましょう。「自分がまた何かやらかしたのだろうか」と思うのではなく、「この人、何かストレスを抱えているんだろうな」と考えます。自分ではなく、相手の側の原因を考えるのは、自責グセのある人に特に効果的です。
「彼女は忙しい時期になると、いつも当たり散らすなあ」
「彼はライバルの○○さんが最近好調だから、ピリピリしているのだ」
など、相手の状況から推理するのも良い方法です。
ただし、想像はしても思いやりは無用です。「気の毒だな」「なのに私、フォローできなくて……」などと思い始めたら、自責スイッチが入ってしまいます。
「この人の側の事情なのだ」→「だから私が悪いのではない」
という思考回路を育てることに専念しましょう。
とはいえ、激しく怒る人に対しては、そんな余裕も吹き飛びがちです。叱られる・怒られる・強い感情をぶつけられる経験は、人の感情に敏感な方々ならもっとも苦手とするところです。強い言葉にショックを受け、自分の落ち度を心の中で100倍くらいに拡大し、パニックになりがちです。
■「感情モード」から「分析モード」に切り替える
そんなときは、「AIになったつもり」が効きます。「AIなら、この人物を解析してどんなデータを出すだろうか?」と考えましょう。もちろん、イメージは自己流で構いません。
「この人は怒りで声帯が振動しています」
「血管が浮き出ています」
「心拍数は160に達しているでしょう」
など、目の前の「自然現象」を機械的にスキャンし、淡々と心中でアナウンスしていきましょう。映像や音声を、心電図モニターやオーディオ機器の音量メーターのように計測するイメージも面白そうです。
これは、「感情モード」から「分析モード」に転換を図るワザです。
人は何かを分析するとき、感情をオフにします。たとえば「猫」でも、「かわいいな?」と思いながら眺めるのと、「この猫は雑種・オス・しっぽはまっすぐ」と観察しながら眺めるのでは、心持ちがまるで違いますね。
動揺したときこそ感情を抑え、分析をして、波に飲まれるのを防ぎましょう。
■がっかりするのは、他人に期待していたから
「自分が悪い」のではなく「相手の事情」だと考える認知の変容と並行して行ってほしい練習が、もうひとつあります。「他人に期待しないこと」です。これは、「どうせ他人なんて……」とシニカルに心を閉じるべし、という意味ではありません。認識をフラットにして、過度に傷つかない、ストレスを感じない心を育てよう、ということです。
裏を返せば、傷つきやすい現在の心は、他者のふるまいを高く予測するクセがある、ということです。人の言動に傷ついてしまうのは、「もっといい言動を予測していたから」にほかなりません。
感じの悪い店員さんにあたって不愉快な思いをするのは、感じよく接客されると思っていたから。
ガサツに振る舞う同僚にウンザリするのは、細やかに振る舞ってくれたらいいなと思っているから。
気を使っているのに全然通じなくてガッカリするのは、「お気遣いありがとう!」と言われることを思い描いていたから。
これらの「期待の上振れ」を修正すればいいのです。
■「期待の上振れ」は意識するだけで改善していく
「期待しない」は、「認知の変容」と表裏をなす関係です。先ほど提案した認知の変容では、悪い出来事が起こった原因を「相手の中」に探しました。対して今回は、傷つく原因を「自分の中」に見ます。
出来事は自分の都合などお構いなしに、自分の外側で起こるので、私たちがコントロールするのは困難です。他人の思考や行動となると、さらに完全にコントロール外です。
こうしたコントロールできないことに関しては、「この人の虫の居所が悪かったんだからしょうがない」と、相手の領域に投げたほうが、合理的かつラクです。
一方、「傷つく」のは自分の内側の現象であり、自分で変えられる領域です。期待をやめれば、それだけ傷つく危険は減らせます。
では、期待するのをやめるにはどうすればいいのでしょうか。逆説的な言い方ですが、「やめよう」と頑張る必要はありません。やめようとすると、たいていは「やめられない自分」が目につきます。すると、「私はダメだ」という考えにはまり込んでしまいます。
ですから、頑張るのではなく「気づく」だけで十分です。人のふるまいに「ガッカリ」「ひどい!」と感じたら、そのつど「あ、また期待していた」と思うだけ。変えようと思わずに、淡々と認識しましょう。
ズレを意識していれば、自然とズレを修正する力が働きます。
■患者にも自分のスキルにも過度の期待は寄せない
「人に期待しない」という言葉に、後ろ向きなイメージを抱く人は多いでしょう。しかし、実際の効果はその正反対です。期待しない習慣が根付いてくると、前向きなメンタルが備わります。
私は仕事をするとき、この習慣を役立てています。たとえば私が相対してきた自閉症の子供たちは「予想外そのもの」ですから、期待などしていたら身が持ちません。
また、癌など身体の病気も診ますが、経過に一喜一憂していたら、やはりメンタルが消耗します。だから、自分のスキルにも患者さんにも、過度な期待は寄せません。
つい先日も、指導どおりの食事を摂っていれば良くなるはずの患者さんのデータが、なぜか悪くなっていたことがありました。
■期待を捨てると「対策」を考えられる
原因は、患者さんが「前回のデータがよかったからお祝いに」と、禁止している食べ物を食べてしまったからでした。こんなときも、「だから前回ダメって言ったのに!」などとは言いません。その代わり、こんな風に考えます。
「食事療法は、本人任せでは限界がある」
「管理できるシステムを考えたほうがよさそうだ」
「毎日、食事の写真を撮ってもらってやりとりしようかな?」
そう、期待を捨てれば「これからの対策」に目が向くのです。これは家族やパートナーなど、近しい相手に対しても同じです。大切な人であればこそ、勝手な願いを押し付けないことが重要です。
子育て中の方は、子供が「思い通りにならない」のは当たり前、と捉えましょう。子供の性格や能力をそのまま、ありのまま受け止めれば、対策を考えられます。
恥ずかしがりな子は恥ずかしがりなまま、ガサツな子はガサツなまま、その特性を「変えよう」とするのではなく、「どうすれば課題となっていることが解決できるだろう」と対策を練るのです。
■食器洗いでコップを割ってしまう家族をどうするか
期待していると、期待通りにいかない相手に「変わってくれたら」と願ってしまいます。でも相手は変わりませんから、裏切られた期待はイライラや失望に変わります。
しかし、期待を手放し、相手を変えようとするのをやめれば、「どうしたらいいだろう?」と対策を講じられるのです。
私の友人は、「妻がコップを割る問題」の対策を考え中です。友人の奥さんは食器洗いのアクションがやたらと激しく、洗いカゴにガチャンと音を立てて置くと言います。高価なアンティークのグラスでも手加減ナシ。そのため友人宅では、欠けるコップや割れるコップが続出しています。
この被害を減らすにはどうするか。簡単なのは、友人本人が毎回洗うことでしょう。割っていいコップだけを使う、食洗機を買う、なども考えられます。ちょっと発想を膨らませて、「割れないコップを使う」のも面白そうです。プラスチックでは味気ないので、デザインも機能も兼ね備えた素材があれば理想的。
そんな素材がないなら、いっそ開発してしまうのもいいかもしれません。その分野の知識や技術のある人を紹介してもらって、ビジネスを立ち上げてしまっても……?
ここまでくると、もはやアイデア創出ゲームです。課題が楽しく思えてきます。
「そんな置き方ダメだよ!」と奥さんにガミガミ言うより、ずっとハッピーでしょう。発想も柔軟になるので、思考の活性化にも一役買うかもしれません。
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精神科医
弘前大学医学部卒業。2009年よりハタイクリニック院長。2008年より金沢大学 薬学部 非常勤講師、2010年よりEuropean University Viadrina非常勤講師も務める。自身もアスペルガーであり、その苦労を乗り越えた経験を生かした著作も多い。テレビ出演のほか、ドラマ『僕の歩く道』『相棒』『グッド・ドクター』、映画『ATARU』等の医療監修でも活躍。
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(精神科医 西脇 俊二)
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