「桜オレオ、抹茶ポッキー…」世界中の日本好きがハマる"お菓子ボックス"の中身
プレジデントオンライン / 2020年10月8日 15時15分
■アメリカ人大学生の最近の楽しみは…
コロナ禍のアメリカで今、「日本のお菓子ボックス」が話題になっている。そこには世界に広まる日本のお菓子の可能性だけでなく、ミレニアル&Z世代の新たなビジネスや消費のスタイルが浮かび上がってくる。
この夏はニューヨークの若者にとっては散々な夏だった。高校も大学も3月から始まったが、リモート授業が延々と続き、感染が怖いから息抜きに外に出るのもままならない。毎年5月にあるはずの卒業式もなかった。
筆者が出演しているJFNラジオのコーナー「NYフューチャーラボ ミレニアルZ世代研究所」もズーム収録だ。ゲストのアメリカ人大学生に毎回「何か変わったことあった?」と聞いても、楽しいことなどそうそうあるわけがない。ところが大学を卒業したばかりのメアリーが、開口一番ニコニコしながら言った。
「新しくボックス・サブスク始めました」
■うまい棒、じゃがビー、アポロも!
ボックス・サブスクリプションといえば、ここ数年アメリカで最も話題になっている新たな消費スタイルの一つだ。毎月一定の購読料を払うと、コスメやペット用品などが、おしゃれなデザインの箱に入って届く。服や歯ブラシなど、今やありとあらゆるジャンルに広がっている。
外出制限が課され、自宅待機生活に入ってからは、eコマースの一つとしてボックス・サブスクも好調で、アメリカ人の5人に1人が何らかのボックスを購入したという数字もある。
メアリーが始めたサブスクは「TokyoTreat」が展開する日本のお菓子だ。うまい棒やふ菓子、キャベツ太郎といった駄菓子から、カラムーチョ、じゃがビー、キャラメルコーンといったスナック、ポッキーやきのこの山、アポロといったチョコ菓子まで。世界中で販売されているオレオの「桜シフォンケーキ味」といった日本限定商品もラインナップされている。
人気のプレミアムボックスは月に31ドル50セント(日本円で3200円程度)。オレンジ色のボックスに17種類のお菓子とドリンクが一本入って日本から直接届く。日本好きなメアリーにとっては、自宅待機のつまらない日常を楽しくしてくれる、月に一度の大切なスペシャル・デリバリーだ。
実はこうした日本のお菓子のサブスクは今大きな注目を集めている。
■コロナ禍で料理系のサブスクが人気に
パンデミック発生後、最初に注目されたボックスは食材とレシピがセットになったミールキットだ。ミレニアル世代でラジオのメンバー、テツはこれがなければ生きていけないとまで言っていたが、レストランに行けなくなった一人暮らしの学生や会社員にとって命綱と言ってもいいだろう。
食事がなんとかなれば、次はスナックだ。特に若者は食事以上にスナックが好きな世代であり、リモートワークの増加で自宅でのスナック需要も増えた。アメリカのネットメディアでは人気のスナック・ボックス・サブスクの特集記事が載り始め、その中で必ず登場するのが日本菓子のサービスだ。
前出したTokyoTreatの他にも「Japan Crate」「Japan Candy Box」「Sunakku」などざっと検索しただけでも10種類、ほとんどがスーパーやコンビニで売っているお菓子だが、中には「Bokku」という日本の地方の珍しいお菓子が届くサブスクもある。
一体どんな会社で、どんな人がやっているのだろう? 早速TokyoTreatにコンタクトを試みた。返事は英語で返ってきたが、実は社員はほとんど全員東京を拠点にしていて、CEOは日本人の女性だった。
■お土産のお菓子を買う観光客がヒントに
TokyoTreatのCEO近本あゆみさんは、元々リクルートのeコマース部門で働いていたが、その頃から、これからのeコマースは国内市場だけを見ていたら頭打ちだと思っていたという。その後、世界に向けたeコマースを目指し起業、何を売ろうかと考えた時にヒントになったのが、その頃から急激に増え始めたインバウンドの観光客だった。
空港などのショップで彼らが必ず手にとってお土産として持ち帰るのがお菓子だったからだ。外国人のビジネスパートナーから、海外での日本のお菓子人気について聞かされていたのも理由だ。さらに当時、前述したボックス・サブスクがトレンドの最先端だったことに目をつけ、2015年3月「TokyoTreat」をローンチ。当初は1日1個の売り上げだったのが、今では世界140カ国に発送するまでになった。
東京タワーが見えるオフィスに数十人の社員を抱えその半分は外国人、売り上げの具体的な数字は教えてもらえなかったが、無料メルマガ会員を入れた数は100万人。10月のハロウィーンをテーマにしたボックスは、前月の30%増の売り上げだったという。確かにアメリカではハロウィーン前にキャンディやチョコレートの売り上げが急上昇するが、それを差し引いても毎月順調に売り上げを伸ばしているようだ。
アニメテーマのお菓子も多く、16~35歳の若い世代が購入者だ。「サイト上には日本のお菓子を通じて世界の若者のコミュニティが生まれている」と近本さんの目が輝く。
■ローカルお菓子を中心に扱う「Bokksu」
そしてもう1社、「Bokksu」は箱の中身も生い立ちもTokyoTreatとは対照的だ。日本語のボックスをそのままローマ字で綴ったネーミングのBokksuを経営するのは、ニューヨーク生まれのアメリカ人ダニー・テイングさんだ。
スタンフォード大学卒業後グーグルに入社したが、1年で辞めて日本語を学ぶために来日、早稲田大学に4年間在籍後に楽天に入社し、日本全国を回るチャンスを得た。そこで知ったのが各地方に根をおろした質の高いお菓子や職人たちの存在だった。
その後アメリカに戻ってからも日本のお菓子が忘れられないダニーさんは、2016年Bokksuを立ち上げたのだ。
TokyoTreatより後発のBokksuにとって全国の中小メーカーや職人によるお菓子は差別化の武器となった。最大の人気商品は、長野のメーカーが作ったイチゴにホワイトチョコレートを染み込ませた「ホワイトストロベリー」。こうした大量生産でないお菓子にこだわるからBokksuの値段は他より高く、年齢層も25~44歳の大人が中心だ。ニッチとはいえ現在は世界70カ国に2万人の購入者がいる。
ダニーさんは日本の地方のお菓子メーカーと世界の消費者をつなぐことで、中小企業をサポートしていきたいと胸を張る。
一見対照的に見える2つのボックス・サブスクだが、お菓子を通じて世界の人をつなげ豊かな未来を創っていきたいという思いが共通して感じられる。
■アメリカにはない「季節感」が魅力
そもそも、なぜアメリカで日本のお菓子が注目されているのだろうか?
アニメをはじめとしたポップカルチャー、寿司やラーメンなどの日本食の人気はやがてスナックにも波及し、「NYで大ブレイク中「たい焼き」の大進化をご存じか?」(1月30日)でもその様子を紹介した。特にスナック菓子に関してはアニメに登場する率が高いため、ポッキーやハイチュウなどその影響で知られるようになったものも少なくない。
前出のメアリーは「日本のスナックはとにかくおいしい、特にアメリカにはない繊細で微妙な味わいがあります。例えばプリッツの野菜コンソメの味」。なるほど、アメリカ人が日本の料理のおいしさを例える時によく使うUMAMI(ウマミ)が、スナックにも反映されているというわけだ。
また、甘いお菓子もアメリカのようにハッキリと強烈な甘さとは違うという。
しかし味だけではない。TokyoTreat、Bokksuのオーナーは日本のお菓子にしかない魅力の一つに「季節感」を挙げる。Bokksuのダニーさんはこう語る。
「日本には旬という言葉があるが、英語にはそういう意味の単語さえない。春にはいちご、桜などのフレーバーのスナックが出回る日本とは対照的に、アメリカのお菓子、例えばスニッカーズは50年間全く変わらない味です」
確かにイギリスが元祖のお菓子キットカットも、日本ではこれほどのバラエティがあるのに、頑固にオリジナルの味を守り続けている。
■最も人気のフレーバーは「桜」風味
TokyoTreatの近本さんも同じ意見だ。
「今はハロウィーン限定スナックがたくさん出ているが、2週間しか売らないものも多い。季節ごとにフレーバーが変わるため、継続的に買っていきたいと思える商品が多いのも特徴」
TokyoTreatで今最も人気があるのは桜風味で、新たなフレーバーとしてこれまでトップの人気だった抹茶に取って代わる勢いだという。
こうした季節感に加え、パッケージの美しさや機能性もアメリカのスナックは足元にも及ばないといい、「素晴らしい日本のエンジニアリングです」(ダニーさん)。さらに「日本のお菓子に入っているような吸湿剤はアメリカでは使われていません。フレッシュさを長く保つ技術にも優れているのです」と説明した。
■食には保守的なアメリカ人に起きた異変
アメリカ人の味覚はもともととても保守的だったが、それを変えたのがミレニアル世代だ。彼らが台頭した2010年代から、アメリカ人の食文化は急速に変貌した。食事はただ食べるだけでなく、新たな体験、「コト消費」の一つとなったのだ。インスタには「フード・ポルノ」と呼ばれる料理やスイーツの写真が溢れ、YouTubeはあらゆるレシピや、珍しい食べ物を紹介するビデオでいっぱいになった。
そんなユーチューバーが新たなアイテムとして日本のスナックを発見したのである。パッケージがカラフルでキュートなだけでなく、アメリカ人の常識や想像を超える味や食感は、彼らにとって全く新しいエキサイティングな体験だった。
ボックス・サブスクはまさにこの体験が詰まった箱なのだ。TokyoTreatは毎月厳選したスナックに夏休みやハロウィーンなどの季節感を添え、箱を開けると楽しさが弾けるような演出だ。
Bokksuは、お菓子の箱と一緒に、特別に編集されたマガジンを毎回同封している。日本の伝統文化やお菓子メーカーのインタビュー記事などが載っており、食べながらページをめくることで、顧客はまるで日本を旅したかのように、その空気も味わうことができる。
コロナ禍で実際に旅行することが難しくなったからこそ、こうしたサービスに大きなチャンスがあるのみならず、日本の魅力を伝えてくれる観光大使のような役割さえも担う、価値あるビジネスだと言えるだろう。
しかし実は、こうしたサービスが人気となった大きな理由がもう一つある。それは日本のお菓子がアメリカのスーパーやコンビニでほとんど手に入らないという現状だ。
■「ポッキー」でさえ苦労した参入の難しさ
日本では当たり前に売っているお菓子は、アメリカではかなりのレア商品だ。デリやスーパーで時々見かけるのはハイチュウ、ポッキーくらい。なぜ、日本のお菓子はあまり売っていないのだろうか?
アメリカに進出した日系企業の営業代行を行うニューヨークの現地会社グローバル・セールスフォースによれば、アメリカのスーパーのお菓子の陳列棚は、スニッカーズやフリトレーといった伝統的なブランドの商品で占められているため日本企業の参入が非常に難しい。
導入するのにも莫大な費用が発生し、決まったとしても消費者の目線が行くいい場所をもらえずに販売が落ちる商品も少なくない。
またアメリカで販売する場合、グローバル人材の確保とアメリカの食品基準に合わせる必要があるため、中小企業が多い日本のお菓子メーカーには障壁になっている。
そんな中、江崎グリコは、ポッキーを量販店の最大手ウォルマートのお菓子売り場に送り込むという快挙を成し遂げていて、次の動きが非常に楽しみだ。
そのグリコに参入の難しさについて聞くと、「知名度を活かして、アジア系消費者を中心にアジアのお菓子の中で高いプレゼンスを確保することができましたが、アメリカは日本と比較にならないくらいの圧倒的な多様性があることが市場参入を難しくさせる」という答えだった。
■ターゲットを絞る売り方が功を奏した
アメリカで売る難しさはそのダイバーシティにあった。人種、年齢、地域性など、その嗜好は多様で、全員が一様に気に入る商品を売るのは難しい。だからこそニッチなターゲットに届くボックス・サブスクの出番なのだろう。
Bokksuのダニーさんによればアメリカの購入者の8割以上が白人で、すでにアジア人の枠を超えている。彼らはただ売るだけでなく、日本のお菓子や文化のファンコミュニティを作って、消費者の声を丁寧にすくい上げ、扱う商品に反映させながらニーズを広げている。
アメリカという多様性の大海原では、こうしたきめ細かい“人対人”のマーケティングを通じてニーズやテイストをすくい上げることが、未来の市場を創造することにつながる。これから日本商品が海外進出する上での戦略の一つとして大いに注目したい。
※本稿は、JFNのラジオ番組「On The Planet」内のコーナー「NY Future Lab ミレニアル・Z世代研究所」の内容を再構成したものです。
取材協力:New York Marketing Business Action
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ジャーナリスト、ミレニアル・Z世代評論家
早稲田大学政治経済学部卒業後、1991年からニューヨーク在住。ラジオ・テレビディレクター、ライターとして米国の社会・文化を日本に伝える一方、イベントなどを通して日本のポップカルチャーを米国に伝える活動を行う。長い米国生活で培った人脈や米国社会に関する豊富な知識と深い知見を生かし、ミレニアル世代、移民、人種、音楽などをテーマに、政治や社会情勢を読み解きトレンドの背景とその先を見せる、一歩踏み込んだ情報をラジオ・ネット・紙媒体などを通じて発信している。オフィシャルブログ
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(ジャーナリスト、ミレニアル・Z世代評論家 シェリー めぐみ、NY Future Lab ミレニアル・Z世代研究所)
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