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「毎日通院するお爺さんが今日は病院にいないワケ」英国人が驚いた日本のジョーク

プレジデントオンライン / 2020年10月10日 11時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/gyro

秋田県は日本で初めて人口の半数以上が50歳を超えた「超高齢社会」だ。ロンドンの経済学者はその事実に驚き、世界で9つの「極限経済」のひとつに取り上げている。俊英を驚かせた秋田の現状とは――。(第2回/全3回)

※本稿は、リチャード・デイヴィス『エクストリーム・エコノミー 大変革の時代に生きる経済、死ぬ経済』(ハーパーコリンズ・ジャパン)の一部を再編集したものです。

■個人にとっては足りないが、国にとっては過大な日本の年金

日本の年金は平均で月額14万5000円ほど(厚生労働省年金局「平成年厚生年金保険・国民年金事業の概況」調べ)だが、現役時代に払い込んだ額がベースになっているため、平均を大きく下回る高齢者──とくに女性──も多い。

国際水準に照らせば手厚いが、日本の生活コストの高さを考えれば、そうとも言えなくなる。しかも、日本の年金受給者の半数以上が、ほかに現金収入の手段をもっていない。行政の福祉に頼っている年金受給者の人数はこの10年で2倍に増え、ある調査によると、年金受給者のうち1000万人に近い人が貧しい暮らしをしているという。

多くの人が充分な個人貯蓄をもっておらず、日本の高齢者の17パーセントが、ライフサイクル仮説の言う「資産のこぶ」を使い果たし、新たに貯金をする余裕もない。厳しい気候にもかかわらず、秋田の年金受給者のうち、一部の人は、現金収入のなにがしかの足しにと、育てた野菜を売っていると高杉が教えてくれた。

問題は、日本の年金は個人にとって足りないのと同時に、国にとっては過大なことにある。秋田の高齢者が節約を心がけ、野菜を育てて「リタイア期」を乗り越えようとしているのと同時に、日本全体の長寿が、政府の財政を厳しく圧迫している。社会保障費と医療費が日本の税収に占める割合は、1975年には22パーセントだったが、2017年には介護費用や年金負担が重くのしかかり、55パーセントに上昇した。2020年代の前半には60パーセントに到達する見込みだ。

■「年長者を尊重する」という考えが相容れなくなっている

別の見方をすると、教育、交通、インフラ、防衛、環境、芸術など日本の他の公共サービスは、1975年には税収の80パーセント近くが充てられていたのに、高齢者関連の支出が増加したためにいまでは税収の40パーセントしか残っていないということになる。予算の観点では、高齢化が日本をのみ込もうとしている。

これは日本に限らず、韓国、イタリアなど、日本のあとを追って超高齢化の道を進んでいるすべての国々が直面する普遍的な問題だ。個人での準備が間に合わず、年金の上乗せを希望する高齢者世代にとって、自分たちの老いはたしかにショッキングな出来事だ。一方、若者世代はそのための費用を払わなければならず、世代間の緊張が高まっている。

日本は、世代間の連帯がどうなるかを観察できる興味深い場所だ。というのも、ふつうなら日本人の多くが無意識にもっている「年長者を尊重する」という考えが、高齢化問題では相容れない場面が出てくるからだ。伝統的な文化では長老が大切にされる。「親孝行」や年長者への敬意、先祖伝来の品を大切に護るというような、古代からの規範も残っており、そのなかでは親に感謝し、高齢者の世話をすることに大きな比重が置かれる。年長者への敬意がたんなる礼儀ではなく、大昔から歴史と哲学に密に織り込まれてきた国なのだ。

■病院の待合室はおしゃべりに来る高齢者でいっぱい

秋田のような超高齢化の進む地域では、高齢者に敬意を示す機会は多数ある。地元の大学で会った学生グループとは、老いることへの考え方について話し合った。彼らのなかには、祖父母と同居していたり、大学に毎日通うかたわら、祖父母の介護に時間を割いていたりする者がかなりいることを知った。路線バスには座りたい高齢者に席を譲る「シルバーシート」があり、秋田の高齢者はバス代100円で県内のどの停留所までも乗っていける「コインバス」の制度を利用できる。

だが、年齢層のあいだには軋轢も生まれはじめている。不平の一部は、高齢者は通行の邪魔だなどという些細なものだが、一方でシリアスなものもある。

「病院の待合室はただおしゃべりのために来る高齢者でいっぱいだ。それにかかるコストのことなんて考えていない」とある学生は言う。これはあまりにもよくある指摘で、ジョークにまでなっているそうだ(質問:あのおじいさん、なぜきょうは病院にいないんだろう? 答え:病気になったので家で寝ています)。

学生たちは、世代間の軋轢を示す「世代間格差」という漢字を私に教えてくれた。秋田の若者は、高齢者にはコストがかかり、その勘定が自分に回ってくることに気づいている。

■賦課方式の年金は世代間の約束のうえに成り立っている

ほかにも高齢にまつわる日本語を教えてもらった。かなり古いものや、高齢者への敬意からはかけ離れたもの、ユーモア漂うものもあった。高齢者特有の体臭やふるまいを意味する「Kareishuu(加齢臭)」「ojinkusai(おじんくさい)」、元気のない様子を指す「shobukure(しょぼくれ)」。

女性もやり玉にあがる。厚かましい中高年女性の「obatarian(オバタリアン)」は、デパートのセール会場では人を押しのけて突進し、帰りの乗り物では「シルバーシート」を奪い取って座るのだそうだ。深刻なことばに「kaigo jigoku(介護地獄)」がある。家族による介護がときに数十年の長さに及び、その重荷の多くは女性が担っている。

優先席
写真=iStock.com/Tatomm
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Tatomm

特定の年齢層にまつわるこうした用語の多くはふた昔以上まえに生まれ、普及したもので、世代間の結束を、社会の高齢化が揺るがしている徴候のひとつとも言える。別の徴候として、年金制度の仕組みもあげられる。日本の年金制度は1942年に施行され、ほとんどの国と同様に賦課方式を採用している。個人が将来の自分のために金を貯めておくのではなく、いま現役で働いている世代が供出した金をただちにいまの高齢者に支払う仕組みだ。

賦課方式の年金は世代間の約束のうえに成り立っている。若い就業者がいま年金料を負担するのは、将来、自分がリタイアしたときに同程度の手厚さで支給が受けられるとの期待があってのことだ。

■世代間格差のために年金制度が行き詰まりを見せはじめている

しかし、日本でよく議論になる世代間格差のために、この年金制度が行き詰まりを見せはじめている。40~50代の人たちもすでに上の世代ほどは手厚くない状況に置かれていて、私が会った若年就業者たちは、自分がリタイアしたときに予定どおりの恩恵が得られるのか疑いつつ、毎月決まった額を支払っていた。

疑いの気持ちが生じるのも無理はない。先進国の大部分は、支給額のカットや支給年齢の引きあげなどで年金の財源負担を減らそうと計画している。ヨーロッパが最も早く動き、イタリア、スペイン、ドイツは年金の支給額を減らした。チェコ共和国とデンマークはいまの若者世代が将来、年金を受給しはじめる年齢をそれぞれ70歳と72歳に引きあげている。

自分たちが年金を受け取る2050年ごろには、いまよりもっと事態は悪化しているだろうと思っている若年就業者に、今後30年かそれ以上、国は資金を供出しつづけてもらわなければならない。とても年金政策への信頼を充分に醸成できるとは考えにくい。

■若者世代は高齢世代よりも自国についてのポジティブな感情が低い

リチャード・デイヴィス『エクストリーム・エコノミー 大変革の時代に生きる経済、死ぬ経済』(ハーパーコリンズ・ジャパン)
リチャード・デイヴィス『エクストリーム・エコノミー 大変革の時代に生きる経済、死ぬ経済』(ハーパーコリンズ・ジャパン)

日本の公的な統計によると、国民の3分の2が、いまの年金制度が自分のリタイア後の生活をカバーしてくれるとは信頼していないという結果が出ている。不安の度合いは若い人ほど強い。いまのところ、イギリスやアメリカで年金のことを真剣に考えている学生は少ないが、私の出会った秋田大学の学生はつねにうっすらと不安を感じていた。20歳の佐々木佳音も「年金のことはいつも頭にあります」と言っていた。

深刻なリスクは、多くの人が年金制度からの離脱を選択することだ。日本では、会社員の年金保険料は給料から天引きされるが、自営業者は自分で直接支払う。1990年の納付率は85パーセント以上あったが、2017年には60パーセント台に低下しており、若者世代に限れば、50パーセントを下回る。

社会貢献や世代間の調和などの設問をつうじて社会の連帯意識を追跡している長期的な政府の調査によると、若者世代は高齢世代よりも自国についてのポジティブな感情が低いことが判明している。国民の義務と集団の利益が国にとって重要な理念であることを考えると、これは心配される傾向だ。

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リチャード・デイヴィス 経済学者
ロンドン・スクール・オブ・エコノミクスのフェロー、英国財務省経済諮問委員会の顧問、エコノミスト誌の編集者などを歴任。

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(経済学者 リチャード・デイヴィス)

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