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「東京に優秀な人材が集まる」というのは"幻想"だった

プレジデントオンライン / 2020年10月12日 11時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/aluxum

2014年の創業時からほぼ全員リモートワークという企業がある。宮崎県西都市に本社のある株式会社キャスターでは、業務委託を含む約700人がリモートで働いている。取締役COOの石倉秀明氏は「日本の働き方が旧態依然のまま変わらないのは『4つの幻想』に支配されているからだ」と指摘する──。(第2回/全3回)

※本稿は、石倉秀明『会社には行かない 6年やってわかった普通の人こそ評価されるリモートワークという働き方』(CCCメディアハウス)の一部を再編集したものです。

■リモートワークを続けてわかった“幻想”

2014年の創業から6年にわたって、「700人全員がほぼリモートワーク」「居住地は全国バラバラ」「給与は地域による格差なし」という会社、キャスターを運営してきて、強く感じていることがあります。

働き方全般に言えることですが、「みんなが何となく当たり前だと思い込んでいること」が世間一般に浸透し、あたかも定説のように語られています。ただ、その中には「幻想」というべきものが多くある──ということです。

■幻想①「優秀な人は東京に集まっている」

これは、明らかな幻想です。事実として、キャスターの部門責任者以上の顔ぶれを見ていると、東京在住ではない人のほうが多数派です。

キャスターはほぼ全員リモートワークなので、採用時に居住地を考慮することは一切ありません。そのため、自然と社員の居住地は日本の47都道府県における居住人口比と同じような割合になっていくのですが、「東京の人」が優秀だと感じたことは一度もありません。

東京に優秀な人が多そうに思うのは、単純に人口が多いため、確率論的にそう見えるだけなのではないでしょうか。フラットに採用し、実力で勝負してみた結果、そのことが明らかになってきました。

日本のトップ1%にあたるような超優秀な人は、中央官庁や大企業の本社が集積する東京で働いているのかもしれません。しかし残りの99%、働いている人のほとんどを占める層に関して言えば、東京でもそれ以外でも、何ら変わらないと思っています。

ちなみに、キャスターでは居住地と仕事内容も関係ありません。そもそも仕事を依頼するときに、メンバーがどこに住んでいるかは一切考慮していません。例外的に、海外在住の場合に時差を考慮する程度です。

■幻想②「対面でないと信頼関係が作れない」

これを信じている人は、非常に多いのではないかと思います。少なくとも一度は物理的に顔を合わせて話をしないと、信頼関係を作れないのではないか、と。

結論から言うと、対面でなくとも信頼関係は作れます。

そもそも信頼するかどうかは、相手ではなく、「こちら側の問題」です。まずは自分が「相手を信頼する」と決めること。リモートワークでのやりとりでは、それが欠かせないと思います。

キャスターの場合は、初めての顧客と新しいプロジェクトを始めるときにも、基本的には会いません。そのかわり、最初の1週間はとにかくコミュニケーションを増やすようにしています。

人間は、単純接触を繰り返しているうちに相手に親近感が持てるようになるもの。アメリカの心理学者ロバート・ザイアンスが提唱した「単純接触効果(*)でも知られていますね。

*ロバート・ザイアンスが1968年に発表した論文で提唱した心理法則で、好感度は接触回数に比例して高まるとする。「ザイアンスの法則」とも呼ばれる。

実際に会う、会わないではなく、プロジェクト開始後の接触回数のほうが業務への影響度が大きいと実感しています。

リモートワークが当たり前になるこれからの世の中では、一度も会ったことがない人を仲間に引き入れるという場面も増えていくはずです。そこで問われるようになるのは、「会わずに人を信頼する力」です。

■幻想③「会わないとクリエイティブな仕事ができない」

何気ない雑談から新しいアイデアが生まれるのは、よくあることです。社員同士の偶発的な会話が生まれやすいように設計されたオフィスも、増えてきています。

では、対面して会っていないと、雑談はできないのでしょうか。キャスターの結論としては、「場所の問題ではない」です。

オンライン会議でもチャットのやりとりでも、雑談をする手段はいくらでも確保できます。「会わないとクリエイティブな仕事ができない」というのは、単純に、会うこと以外の方法に慣れていないだけではないかと思います。

キャスターの場合は、チャットを使って雨あられと雑談が繰り広げられています。オンラインゲームをしているような感覚で、チャットで次々と誰かに話しかけられることもあります。

イメージしていただきたいのは、オフィス空間によくある6人程度の島。みんなが席に着いているときには、業務関連の報告をしたり相談をしたり、他愛のない雑談をしたりと、いろいろな会話が繰り広げられていますよね。これを、リモートでもやっているだけです。

リモートワークになると業務の話しかしない人もいますが、それでは確かにクリエイティブなアイデアが生まれにくくなるかもしれません。

大切なのは、オフィスで繰り広げられていた会話をそのままオンライン上に持ち込むことです。

■幻想④「リモートワークは優秀な人のもの」

これも、多くの人が抱いている幻想なのではないかと思います。リモートワークで仕事を回していけるのは、特別なスキルを持っている人や、素晴らしい職務経歴を有している人だけだと考えていないでしょうか。

私は、リモートワークにおいては「相手を安心させられること」が最大の価値になると考えています。

安心感が得られるというのは、「その人に任せれば、やるべきことをちゃんとやってくれる」と信頼できること。約束を守り、役割を当たり前に果たしてくれることが大切なのです。その意味では、リモートワークにおいては「優秀」の定義も変わります。

ポラロイド写真
写真=iStock.com/bowie15
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/bowie15

よく「成果」という言葉を使いますが、ここには2種類の意味がありますよね。

誰しもの記憶に残るような大きな結果も成果だし、当たり前のことが当たり前に動いているということも重要な成果です。そしてよくよく考えてみると、世の中のほとんどの仕事は、後者でできていることがわかります。

「当たり前のことが、きちんとできる」

リモートワークでは、その事実が再評価されるのです。だから、リモートワークは決して特別な人のものではありません。

■評価はとことん明快に

キャスターの中で活躍している人、評価されている人も、当たり前のことがきちんとできているメンバーです。

その成果は軽視され、職務経歴書にも書き表しにくいものでした。

実際に前職までの職務経歴はバラバラで、一般的にはあまり市場価値が高くないとされるようなプロフィールの方もたくさんいます。そんな人たちが、キャスターでは中心戦力として活躍し続けています。

■キャスターで働く人の「お金の実態」

「評価」の話をしたところで、リモートワークを実践するキャスターのお金事情についても簡単に触れておきましょう。

キャスターでは、居住地はもちろん、年齢によっても給料が変わることはありません。仮にまったく同じ役割で、まったく同じ仕事量をこなしているとすれば、東京に住んでいても沖縄に住んでいても給料は同じです。

この話をすると驚く人も多いのですが……そもそも、住んでいる場所や働く場所、年齢が違うだけで、給料が変わるほうがおかしくはないでしょうか。最低賃金の金額が都道府県別に異なるように、今の日本では一般的に、東京と地方では給与水準が違います。しかしそれは、物価水準などの影響を受けているだけであって、「人材の質」の問題ではないはずです。

こうした現実も、リモートワークが当たり前になり、住んでいるエリアではなく、能力や成果に応じて給与が決まる仕組みが当たり前になれば、変わるかもしれません。

■地方でも東京水準の給与を実現

キャスターで働く人の実例を挙げてみると……。

石倉秀明『会社には行かない──6年やってわかった普通の人こそ評価されるリモートワークという働き方』CCCメディアハウス
石倉秀明『会社には行かない 6年やってわかった普通の人こそ評価されるリモートワークという働き方』CCCメディアハウス

たとえば、東北地方や九州地方在住で、年収約500万円を超えている社員も多数います。事業部長等の管理職に就いている社員(全社で10人以上います)は、住んでいるエリアに関係なく、東京のスタートアップ企業の管理職並みの報酬になっています。

それ以外にも、週3勤務だけれど高い成果を出して年収600万円強という社員も存在します。ほかのメンバーも原則、東京の給与水準をベースに、住んでいるエリアに関係なく、役割とその成果に合わせて給与を設定しています。

自分の働ける場所で働いて成果を出す。社員はみんな、それをごく当たり前にしているだけですが、この働き方によって、自由に使える時間が、出社して働くよりもはるかに増えています。

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石倉 秀明(いしくら・ひであき)
株式会社キャスター取締役COO
1982年生まれ。群馬県出身。株式会社リクルートHRマーケティング、株式会社リブセンス事業責任者、株式会社ディー・エヌ・エー(DeNA)EC事業本部営業責任者、新規事業・採用責任者を経て、現職。キャスターは、700人以上のメンバーがほぼ全員リモートワークで働く、日本では断トツNO.1、世界的にもほぼ最大級の会社。2019年7月より「bosyu」の新規事業責任者も兼任し、個人が誰でも自分の「しごと」を作り出し、自由に働ける社会を作ることにも挑戦している。著書には『コミュ力なんていらない──人間関係がラクになる空気を読まない仕事術』(マガジンハウス)、『会社には行かない──6年やってわかった普通の人こそ評価されるリモートワークという働き方』(CCCメディアハウス)がある。

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(株式会社キャスター取締役COO 石倉 秀明)

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